行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は、ワクチン接種をめぐって夫婦に決定的な溝ができ、離婚を決意した妻の事例を紹介します。

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ワクチンをきっかけに夫婦に亀裂が入ることも

 何の前触れもなく突然に始まった新型コロナウイルスとの戦い。経済的、健康的、そして心理的な束縛が私たちを苦しめてきましたが、何よりつらいのは出口が見えないこと。例えば、東京都で発令中の緊急事態宣言はこれで4回目ですが、これは何回、続くのか……そんな中、コロナ対策の決定打として期待されているのはワクチン接種。多くの国民に行き渡らせることができれば、ようやく終わりが見えてきそうです。

 しかし、統計によると(国立精神・神経医療研究センター調べ)新型コロナウイルスのワクチンを「接種したい」と答えた人は35.9%。一方で、「様子を見てから接種したい」は52.8%、「接種したくない」は11.3%と、消極的な回答が6割を超えており、ワクチン接種によるコロナ禍の終了というシナリオはそう簡単ではないようです。

 次に接種したくない理由ですが、「副反応への不安」が70%を超えています。そして「あまり効果があると思わない」が19.4%、「打ちに行く時間がない」が8.8%と続きます。接種したくない人はひとり暮らし、重度の気分の落ち込みがある、政府やコロナ政策への不信感があるなどの特徴があるようです。そして年代ですが、接種したくないと答えたのは高齢女性(65歳以上)で7.7%にとどまるのに対して、若年女性(15~39歳)で15.6%にのぼっています。

 筆者は行政書士・ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、この統計を見たとき、ハッと思い出したのは萌美さん(42歳)からの相談。夫婦がワクチンを接種するかどうかで喧嘩をすることは珍しくないのですが、萌美さんの繊細で敏感、そして神経質な性格が災いし、最終的に萌美さん夫婦は別れることになったのです。まさかワクチンをきっかけに離婚するなんて……筆者は残念な気持ちでいっぱいでしたが、一体、何があったのでしょうか?

家事を丸投げする夫はコロナ後も変わらず

「彼には幻滅しました。あれがあの人の本性なんです!」と萌美さんは怒りをぶつけます。最初から最後まで萌美さんは「わかってほしい妻」と「わかろうとしない夫」という構図に悩まされていました。

「結婚当初から彼は非協力的でした。平日はともかく週末は家にいるんだから家事をやってほしいですよ。くたくたで帰ってきたのに、昨日の洗濯物の山積みを見ると殺意が湧きます!」

 萌美さんが筆者の事務所へ初めて相談しに来たのは今年5月。結婚3年目の萌美さんは動物病院で働く動物看護師で平日休み。一方の夫(45歳)は保険会社のBtoB担当で土日休み。休みが合わずにすれ違うのは当然でした。そして共働きなのに夫は萌美さんに家事を丸投げ。

「結婚する前は優しかったんです。コロナで大変なんだから、少しは心配してくれるかと……」と萌美さんは淡い期待を抱いていたのですが、夫の態度はコロナ後も相変わらず。次第に夫婦関係は冷えていったのです。筆者は「過去に災害が起こったとき、心を入れ替えて、やり直した夫婦もいますよ」と萌美さんを励ましたのですが……別の問題も発生しているようです。

自宅にWi-Fiをつながない理由

 二人の愛の巣は住宅ローンなしの戸建て物件。所有者は萌美さんの父親ですが、両親は住んでおらず、萌美さんがひとりで暮らしていました。そこに夫が転がり込む形で同棲が始まり、今に至るそうです。

 この物件は今どき珍しくWi-Fiがつながっていないのですが、それには理由がありました。萌美さんがひとり暮らしを始めたころ、Wi-Fiをつないでいたのですが、胃痛や頭痛、めまいなどの症状や倦怠感・脱力感に悩まされ、心身ともに安定しない日々が続いたそう。「Wi-Fiのせいなんじゃないかって思うんです!」と萌美さんは振り返りますが、Wi-Fiの契約を解除したところ、瞬く間に症状が消えたので、萌美さんは確信したそうです。

 Wi-Fiなしの生活は夫と結婚しても変わりませんでした。もちろん、Wi-Fiがなければ、その分、携帯会社のデータ通信料が増え、割高なプランを利用せざるを得ません。そこで夫が「格安スマホに乗り換えたいから、Wi-Fiを引いてくれよ」と頼んでも、萌美さんは「私がどうなってもいいの!?」と突っぱねたそう。

 当時、使い放題のプランにいろいろなオプションをつけると、毎月の料金は12,000円。「確かに高いですね。旦那さんはそれで納得したんですか?」と尋ねると萌美さんは「お金より大事なことがありますよね?」と答えました。結婚から3年間、萌美さんだけでなく、夫も割高な料金に甘んじたのです。3年前に母親が亡くなり、遺産相続で6,000万円の現預金を手にした萌美さんにとっては、節約より健康のほうが大事なようです。

夫が39度の高熱を出しても薬を許可しない妻

 コロナショックにより夫婦の間で病気に対する意識の差が明らかになるケースがありますが、萌美さんの場合、コロナの前から夫の違いを感じていたそうです。

 例えば、萌美さんの口癖は「薬は身体に悪いんだから」ですが、あるとき夫が39度の熱を出したときのこと。意識が朦朧とし、息使いが荒く、立ち上がるのがやっとの夫は「病院に連れて行ってくれ」と頼んだそうですが、萌美さんは「休んでいれば治るよ」と聞き入れませんでした。「それなら薬を買ってきてくれよ」。夫はそう頼んだのですが、萌美さんは「薬を処方されそうだから病院に行かないのに、なんで買ってこなきゃいけないの!?」とあきれ顔。

 結局、夫は自然に治癒するのを待つしかなかったのですが、萌美さんがここまで薬を毛嫌いするには理由がありました。萌美さんは35歳のときに子宮内膜症が発覚し、黄体ホルモン剤による薬物療法を選択したそうです。治療は6か月にわたって続いたのですが、頭痛やほてり、そして嘔吐などの副作用に悩まされる日々。「つらくて死にそうでした」と振り返ります。当時の記憶がトラウマになり、今でも夢に出てくる夜があるそう。闘病の末、薬は病気だけでなく、身体も攻撃することがあることを知り、それ以降、あらゆる薬を飲むのをためらうようになったそう。

 筆者は「旦那さんは言うことを聞いてくれたんですか?」と尋ねると、萌美さんは首を横に振ります。夫はその日以来、頭痛薬や胃薬、解熱剤などをこっそりと購入し、隠し持ち、もしものときに飲んでいたのですが、萌美さんに隠し通せるわけがありません。「私の言うことを聞かないから、熱を出したりするのよ」と、夫のことを罰当たりだと断じます。

子どもを望み、不妊治療に取り組むが…

 そんなふうに萌美さんの口から漏れてくるのは価値観や考え方、性格が違うエピソードばかり。筆者は「この二人はどこに惹かれ合ったのだろう」と不思議に思いましたが、萌美さんいわく「よかったころ」もあったそう。二人の共通点は「動物好き」。

 夫と出会ったころ、折れ耳がかわいい猫で6歳になるスコティッシュフォールドを飼っていた萌美さんは、ペットを可愛がる夫の姿を見て好意を寄せたそう。萌美さんは小さいころから、ペットと子どもを一緒に育てるのが夢でした。たくさんの思い出を作るのを楽しみにしていましたが、いかんせん、萌美さんが結婚したのは39歳。

 夫も同じく、子どもが欲しいと思っていましたが、なかなか自然な形で授からず……「不妊治療へ切り替えたんです」と萌美さんは回顧します。1年目は3回、人工授精を試したものの結果は出ず。2年目は病院を変え、人工授精を続けたもののコウノトリがやってこず。そして3年目は体外受精に望みを託したのですが、やはり上手くいかず。

 萌美さんは「入院までしたのに何でなの!」と憤りますが、すでに85万円(1年目に15万円、2年目に18万円、そして3年目に52万円)を投げうっており、貯金が尽きるまで治療を続けることを覚悟していた矢先、巻き起こったのが新型コロナウイルスの蔓延でした。不特定多数の医療関係者、患者等と接する病院内は感染リスクが高まります。「治療を中断するしかありませんでした」と既往症がある萌美さんは唇を噛みます。

 その後、今年に入ってワクチンの接種が開始されたのですが、高齢の方、基礎疾患のある方に続き、接種の対象になったのは65歳以下でも感染リスクの高い特定の職業に従事する方(=職域接種)。保険会社に勤める夫はこの対象に含まれており、ようやく順番が回ってきました。6月中旬、勤務先から接種の案内が届いたのです。

夫にワクチンを打たないよう説得

 前述のとおり、取引先等で人と会う職種の夫は「これでひと安心だ」と喜んだのですが、萌美さんは猛反対。「何言っているの?」と前置きした上で、「このワクチンは遺伝子組み換えって聞いたわ。たいして治験をやっていないみたいだし、身体にどんな影響が出るかわからない代物なの。もし、子どもができない身体になったらどうするの!」と自分で仕入れた知識をもとに説得を続けたのです。

 夫は「いやいや、不妊になる可能性はないって聞いたぞ」と返したのですが、「どこで聞いたの?」と尋ねる萌美さんに対して「ネットのニュースだったかな!?」と曖昧な返事しかできず。「ほら言ったじゃない。それじゃ、信じられないわ!」と一蹴。そして「お願いだから、私は打たないから、あなたも打たないで!」と懇願したところ、夫は小さく頷いたそうです。しかし萌美さんはにわかに信じられず、このタイミングで再度、筆者の事務所を訪れました。

 そこで筆者は「会社に電話をしてみては?」と助言したのですが、それから2週間後。萌美さんが夫の職場に電話をし、直属の上司に取り次いでもらい、「接種はいつからですか?」と尋ねたそうです。そうすると上司はうっかり口を滑らせてしまったようで、「うちの課はみんな打ち終わりましたよ」と回答。

 つまり、夫は萌美さんに内緒でワクチンを打っていたのです。夫が接種会場である職場近くの小学校の体育館へこっそり足を運んだことが明らかに。萌美さんは「嘘つき! 子どもはたいして欲しくなかったの!?」と怒鳴ったところ、夫は「今は子どもよりコロナだろ? 優先順位を考えてくれよ」と反論してきたそう。

 そして7月中旬、萌美さんは夫の車に積まれたキャンプ道具一式を発見。「今年は営業しているキャンプ場があったから」とあっけらかんとする夫。我慢に我慢を重ねてきた萌美さんもさすがに堪忍袋の緒が切れ、「あんたの行動はおかしくない? みんなが自粛しているのに! 最近、また感染者は増えているのに。まだコロナは終わっていないのよ」とたしなめたそう。

 しかし、夫は悪びれずに「それはワクチンを打っていない場合の話だろ? 俺は違う。どこに行こうが自由だろ?」と反論。まるで夫は遊びたいからワクチンを打ったと言わんばかり。「ワクチンで症状が出なくても、ウイルスを媒介するかもしれないじゃない! テレビでもワクチンを打った人もマスクしてって言っていたわ!」と諭したのです。彼女がここまで怒るのはなぜでしょうか?

自宅隔離で夫婦の不仲が決定的に

「本当に大変だったんです!」と萌美さんはため息をつきますが、1月中旬、夫の同僚が新型コロナウイルスに感染。たまたま隣の席を使っていた夫は保健所から濃厚接触者に認定され、会社から2週間の自宅待機を命じられたのです。

 まず仕事の面で夫が今までどおりに行うことができたのはリモートの打ち合わせだけ。顧客の自宅など直接、訪ねることになっていた予定はすべて白紙に。2週間より先の日程で再度、調整せざるを得なくなり、関係先に謝るばかり。また出社しなければできない仕事はほかの同僚に頼むしかなく、引き継ぎの連絡でまた頭を下げなければなりませんでした。

 次に家庭の面ですが、勤務先や保健所から命じられた自宅待機の仕様は非感染者のときのリモートワークと比べ、明らかに厳しいものでした。「どうしても外出しなければならない場合を除き、家の中にいてほしい」と。できれば外出を控えてほしい」という自粛要請とは明らかに声色が違っていたため、夫はとても外出できない状況でした。缶詰め状態の夫に代わり、今まで夫がやっていた食材の買い出し、ATMでの現金出金、そして車のガソリン給油などは萌美さんが代わるしかなかったのです。

 しかも、家の中での会話、食事、そしてスキンシップもはばかられる状況。平日、出社する萌美さんと、在宅のままの夫。ますます接点が減っていき、お互いに相手が何を考えているのかわからず、疑心暗鬼に陥る日々を送るしかありませんでした。萌美さんは「自宅隔離されていた当時のことを思い出して! また同じ生活に戻りたいの?」と訴えかけたのですが……。

 夫は「これまで1年半もかからなかったんだから、俺は感染しない体質なんだろ」と開き直る始末。挙句の果てには右手を左右に揺らし、「煙たい」のポーズをとり、ワクチン未接種者である萌美さんを馬鹿にしたのです。結局、夫は予定どおり、キャンプへ出かけていったそうです。

「もう終わりだと思いました。コロナが落ち着いたら離婚しようと思っています」

 萌美さんは涙声で言いますが、当初はコロナウイルスの蔓延がひと段落し、感染の危険が下がったら、不妊治療を再開するつもりだったそうです。しかし、今回の件で夫の人間性に疑問符がつきました。

 もし、運よく子どもを授かっても、夫は子どもの父親としてふさわしいのか。子どものために仮面夫婦を続けるのかと考えたとき、夫との間の子どもが欲しいとは思えなくなったとのこと。さらに一緒に子どもを育てるという目標がなければ、これから夫と人生をともにしていく気になれないと言うのです。筆者は「両親の不仲でお子さんを不幸にする可能性を考えると、それも仕方がありませんね」と背中を押したのです。

 今回、萌美さん夫婦はワクチンをめぐる喧嘩により、夫婦関係にピリオドを打ちました。もともと喧嘩が多かった二人ではありますが、今回の件がなければ、今でも結婚生活を続けていたのではないか。そう思うと筆者は胸が痛みます。もし、萌美さんと同じような状況に直面した場合、どのように判断すればいいのでしょうか? ワクチン接種による夫婦喧嘩が起きたとき、離婚すべきかどうかのチェックリストを作成したので、参考にしてください。

離婚すべきかどうかのチェックリスト

■1.ワクチン接種に対する姿勢に疑問点はなかったか?

 ワクチン接種について夫婦の間で話し合い、意見を言い、結論を出すことができたのならいいですが、話が通じず、何を考えているか分からず、喧嘩してばかりだとしたら……。今後、ワクチン以外の問題に直面した場合、夫婦の関係は悪化の一途を辿るのは明白です。

■2.危機的な状況でも配偶者への信頼は変わらないか?

 危機的な状況に陥ると、建前ではなく本音が出てきて、本性が丸出しになるもの。例えば、ワクチン接種の順番の横入り、接種後の自粛無視、フェイクニュースの入手による混乱など。配偶者の醜い部分を目の当りにした場合、それでも信用できますか?

■3.次の問題が起こったとき、配偶者と行動をともにしたいか?

 ワクチンを接種したら終わりではなく、別の問題が発生する可能性があります。例えば、接種の効果がなく、変異株に感染し、症状が現れるなどです。このような問題に直面したとき、配偶者の協力を得るより、自分ひとりで対処したほうが楽だと思いませんか?

■4.限りある人生で配偶者は最良のパートナーか?

 今回のコロナウイルスで命を失った親戚や友人、同僚はいますか? いなくても亡くなった有名人のことは知っているでしょう。ワクチン接種により、自分が感染し、重症化し、死んでしまうリスクは大幅に下がったものの、他人の死を目の当りにして、「人生には限りがあること」を再認識した人も多いでしょう。今後の人生をどのように過ごしたいのかを再考したとき、隣にいるのは誰がいいでしょうか?

 ぜひこの機会に考えてみてください。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/