※写真はイメージです

 子どもたちを恐怖のどん底に突き落としてきた妖怪や亡霊たち。中でも口裂け女やトイレの花子さんの噂話は世代を超えて語り継がれている。彼女たちが廃れないのはいったいなぜだろうか。専門家に聞くと―。

 幼いころ、祖母や母が寝床で語ってくれた妖怪の話。小学校の先生が教えてくれた学校の怪談。友人らと噂し合った怖い話─。全国的なブームになり、日本中の子どもたちを恐怖のどん底に突き落とした妖怪や亡霊もいた。

発祥は岐阜県の“精神科病院から逃げた女性”

 代表的なのが『口裂け女』だ。年代や地域によって内容は異なるが、多く語られているのがマスク姿の女が「私、きれい?」と尋ねてきてマスクをはずすと、耳まで裂けた大きな口が現れて……。

口裂け女はトンネルに出るという噂もあったという(メイン写真のトンネルはイメージ)。当初はマスクをつけていなかったそう

 小学生のときに噂を聞いた愛知県の男性(53)は、

「“はい”と答えると持っている鎌で口を切り裂かれてしまいます。“ブス”というと鎌で斬殺されると聞きました」

 口裂け女は足が速く100メートルを9秒台で走る。逃れる方法はポマードと3回唱える、べっこう飴が好きでなめているすきに逃げるなどがあった。

 口裂け女の調査を続ける怪談師の吉田悠軌さんは、

「発祥は岐阜県と言われており、特徴的なのが“精神科病院から逃げた女性”という話。当初は多かったようです」

 そのほかにも愛知県、埼玉県や京都府など限られた地域で噂されており、1979年に全国的ブームが起きた。

「ブーム以前から噂はあり、口裂け女という名前もなかった時期もあるんです。精神科病院から逃げた説が'70年代半ばごろの話。その後、整形手術の失敗で口が裂けた話がスタンダードになります。いつから噂されるようになったのか、ブーム以前の話が興味深いです」(吉田さん)

通学路に口裂け女が出るという噂でパニックになり、集団下校が行われた地域もあった

 口裂け女はメディアがこぞって取り上げなければブームにはならなかっとみられる。

 その後、'80年代に収束したものの、'90年代以降になると漫画や映画などで取り上げられるなどしてたびたび小さなブームを起こしてきた。現在も安定した知名度がある。

 だが口裂け女よりも古く、長く語られているのが『トイレの花子さん』だ。

「うちの小学校はトイレの手前から3番目の個室の前で3回ノックして“花子さん、遊びましょう”って言うとノックを返す音がするって噂でした」(30代の女性)

 トイレの花子さんは終戦直後から現代まで伝わっている怪談だといわれている。学校の怪談を研究する山口県立大の吉岡一志准教授は、

「'90年代に映画やアニメ。漫画などメディアの影響でブームになりました。おかっぱ頭に赤いつりスカートの花子さんとしてキャラクター化しやすく、知名度がより高くなったのではないでしょうか。今の大学生も知っています」

 花子さん以外にも、学校のトイレを舞台にした怪談は非常に多い。学校のトイレといえば、あまり近寄りたくない、不気味な雰囲気をかもし出している印象だが……。

「従来の研究ではそういう指摘がされていました。ですが、最新設備が整い、不気味さが薄れたきれいなトイレにもおばけは出ます」

 さらにトイレは「おばけに会うための条件がつけやすい場所」でもあると吉岡准教授。

「学校の怪談というのは幽霊やお化けに会うための条件が事細かに決まっているんですね。日時や天候、場所。トイレでも奥から◯番目などと厳密に指定されるんです」

 この条件が合わないとお化けとの遭遇を回避できる。

花子さんの噂もバリエーションが多く、3回回ったり、掛け声が決まっているところも

「むしろ、本当に見た、と主張する子は友人たちから煙たがられます」

 花子さんは女の子。女子トイレにしか出ないのでは?

「実は男子トイレのほうが怪談が多いんです。理由はわかりませんけども、以前、『みんなの学校の怪談』(講談社)で話を分類したことがあります。それを見てみると男性がトイレの怪談を語っているケースが多かったんです。もしかすると花子さんは女の子の怪談ではなく、男の子の怪談なのかもしれません」

 前出の吉田さんも、

「特に男子にとって学校のトイレの個室に入ることはタブーでした。怪談というのは何らかのいわれが形を変えて噴出するものです。そうした子どもたちの思いが『トイレの怪談』として語り継がれてきたのではないでしょうか」

 口裂け女、花子さんが落ち着いたころに登場したのが『テケテケ』という亡霊だ。下半身が欠損した少女の霊が、両腕だけで移動するのが特徴。

「私が聞いたのは昔、女子高生が冬、列車にはねられ下半身と上半身が切断されてしまった。あまりの寒さに切断部分が凍結してしばらくの間、生きていて、腕だけではっていたという話」(30代の女性)

 これを聞いた人のところには3日以内に下半身のない女性の霊が現れるが、逃げても時速100キロの高速で追いかけてくるというのだ。

 '90年代にメディアを通して全国に広まったとみられるが、実はその前、'80年代の沖縄と北海道で流行していたという。テケテケは北海道で発祥につながりそうな噂が多いというが、真逆の沖縄。その理由はわかっていない。

 怖い話は学校や一部の地域で語られ、ローカル誌などで取り上げられているうちは人々はその存在を信じる。

 だが、それが全国的に取り上げられると、「うちの地域だけの話じゃないんだ? この話は嘘だ」と白けてしまう。そのため、ブームになると怖い噂も消えていく。逆にブームにならなければ、長く語られていくというのだ。

 それでもブームになった『口裂け女』や『花子さん』の噂はいつの時代も廃れることはない。

最新技術に強い妖怪やお化け

 この先、新たなブームは生まれるのだろうか。

「今は新しいものが次々に生まれる状況です。ぱっと出てきては消え、伝統として定着することがないまま現れては消えています」(吉岡准教授)

 吉田さんが注目する存在が、『窓から首ひょこひょこ女』だ。東京都の高尾、西八王子周辺に現れる正体不明な女。特徴は窓から室内をのぞいてくること。2階以上の部屋でのぞかれたとすると……。

 また吉岡准教授によると、最近ではSNSやスマートフォン、リモートツールをベースにした怖い話も子どもたちから聞かれるようになった。

「顔認証でロックがはずれない。すると後日事故にあった。LINEの画面の日付が4900年と表示されてゾッとしたといった話があります。システムの不具合だろうとは思うのですが、教えてくれた学生たちはすごく怖がっていた」

 こうした話に尾ひれがつき、新たな怪談になるという。

「妖怪やお化けなどは最新技術に強いんですよ。スマートフォンやリモートツール、顔認証、どんなに最新のものでもあっという間に乗っ取り、使いこなしてしまう。その話も今度はネットの中にアーカイブ化して残っていくかもしれませんね」(吉岡准教授)

 コロナ禍の昨今、外出時にマスクは必須だ。街中で口裂け女と出会ったとしても気づかないかもしれない……。

 もしかすると、あなたのすぐそばにも─。

お話を伺ったのは……

山口県立大学 吉岡一志准教授 ●山口県立大学国際文化学部文化創造学科。専門は教育社会学、コミュニケーション論、子ども文化論。教員らに聞き取りをするなどして学校の怪談の研究も行っている。

怪談師 吉田悠軌さん ●怪談サークル『とうもろこしの会』会長。怪談の収集やオカルト全般を研究。著書に『禁足地巡礼』(扶桑社)、『一生忘れない怖い話の語り方』(KADOKAWA)など。

アナタはどれだけ覚えている? 夏の怪談アンケート

 あなたはその噂、いつどこで聞いたの? 口裂け女、花子さん、テケテケ、そのルーツを徹底アンケート。すると意外な結果が……。
(※全国の20代~70代までの男女500人を対象に7月31日に実施・Freeasy調べ)

Q1. 口裂け女の話を聞いたことはありますか?

Q1. 口裂け女の話を聞いたことはありますか?

はい…325
いいえ…164
その他…11

口裂け女の噂が多かった12の都道府県

北海道 16
埼玉県 17
千葉県 12
東京都 48
神奈川県 26
新潟県 10
愛知県 15
岐阜県 7
京都府 9
大阪府 36
兵庫県 12
福岡県 10

あなたの聞いた口裂け女の噂話は?

・「マスクをした女性、私きれい?と聞いてくる。はいと答えると、これでも?とマスクをとると口が裂けていて、襲われる」(1980年代に東京都で噂を聞いた神奈川県の54歳の男性)

・「マスクをした女がマスクをとると口が耳まで裂けていて“私きれい?”」(1975年に千葉県で噂を聞いた東京都の61歳の男性)

・「マスクをした女が道を尋ねてきて、お礼を言うためにマスクをはずすと……」(1981年に千葉県で噂を聞いた52歳の東京都の男性)

・「夕方に現れる」(1960年代に東京都で噂を聞いた59歳の女性)

・「お岩さんのような女性がマスクをしていて、その両サイドから真っ赤な口紅をつけた唇が飛び出ている」(1980年代に噂を聞いた東京都の55歳の女性)

・「駅にマスクをした美しい女性がいて、“私きれい?”と尋ねてくる。こちらが返事をしてもしなくても、マスクをとって襲ってくる。口が裂けた原因は手術の失敗。その鉄道路線の沿線の離れたところに住んでいる」(1980年代に岐阜県で噂を聞いた67歳の男性)

・「電柱の陰に口が裂けた女がいて、私きれい?と聞いてくる。はいと答えてもいいえと答えても殺される。ポマードが嫌い」(1980年代に東京都で噂を聞いた47歳の女性)

・「トンネルに現れる」(1980年代に東京都で噂を聞いた大阪府の61歳の男性)

・「口が異常に裂けた女性が子どもを連れ去る」(1980年代に東京都で噂を聞いた神奈川県の69歳の女性)

Q2. 最初に噂を聞いた年代は?※288人回答

Q2.最初に噂を聞いた年代は?※288人回答

1960年代…9
1970年代…96
1980年代…106
1990年代…31
2000年代…15
年代不明…31

Q3.『トイレの花子さん』の話を聞いたことはありますか?

Q3.『トイレの花子さん』の話を聞いたことはありますか?

はい…236
いいえ…255
その他…9

あなたの聞いたトイレの花子さんの噂話は?

・「トイレの端を3回ノックして花子さんと言うと返事がある」(沖縄県・45歳・女性)

・「校舎の3階トイレで3回ノックして“花子さんいらっしゃいます?”とすべての扉で尋ねる行為をしていくと、3番目の扉から返事がある」(大阪府・50歳・男性)

・「夜中にある特定の場所のトイレをノックして“花子さん遊びましょ”と言う。返事があるとトイレに引きずり込まれる。返事がなかったら、無事に帰ってこられる」(千葉県・42歳・女性)

・「昔いじめられて自殺した女の子の霊がトイレに地縛霊としている」(大阪府・55歳・女性)

・「夜の学校のトイレのいちばん奥の便器の中から花子さんの手が出てきて引きずり込まれる」(沖縄県・57歳・男性)

Q4. 心霊体験をしたことはありますか?

Q4.心霊体験をしたことはありますか?

はい…43
いいえ…446
その他…11

Q5. 幽霊や妖怪の存在は信じますか?※224人回答

Q5.幽霊や妖怪の存在は信じますか?※224人回答

はい…83
いいえ…134
半信半疑…4
幽霊のみ信じる…3

Q6.『テケテケ』という妖怪の話を聞いたことはありますか?

Q6.『テケテケ』という妖怪の話を聞いたことはありますか?

はい…38
いいえ…452
その他…10

あなたの聞いたテケテケの噂話は?

・「高速道路を並走する」(北海道・50歳・男性)

・「ひじで匍匐(ほふく)前進して追いかけてくる」(大阪府・55歳・女性)

・「鉄道事故で下半身を轢断(れきだん)したお化け?が手だけを使ってすさまじい速さで追いかけてくる」(千葉県・47歳・男性)

・「室蘭のJR事故」(北海道・48歳・男性)

・「学校の4階の廊下に4時44分に現れてすごいスピードで追いかけてくる下半身がない女の子の幽霊。逃れるためしゃがむと頭の上に乗られてしまい呪われる。話を聞いた人のところに現れる」(神奈川県・37歳・女性)

怪談師の吉田さんのアンケート解説

「口裂け女はブームになった'70年代と'80年代もあまり変わらない。これは時代を混同している可能性は高い」

 と指摘。一方で'70年代前半では、

「“子どもを連れ去る、食べる”などの回答をしている人もおり、私たちが思い描く『口裂け女』になる前の初期の噂が残っている点は面白かった」

 面白いのがどの質問でも北海道在住者が多く噂を知っていると回答していた点だ。

「ほかの地域と違い古くからの怪談は少ないが、そのかわりに現代的な都市伝説が広がりやすい。さまざまな人が集まってきた新しい土地ということが関係しているのでは」