拒食症に苦しむ18歳の女性。体重は30キロに満たない

 多くの女性たちが持っているやせ願望。だが、無理なダイエットがいつの間にか摂食障害になってしまうケースも……。特に『まじめな優等生タイプ』ほどその危険度は上がるという。

「子どもが摂食障害、拒食症になると知らない人が多いことを危惧しています。大人と同じような摂食障害で身体を壊す10代の子どもたちが増えています。安易なダイエットはしてほしくない」

 そう話すのは子どもの摂食障害に詳しい作田亮一教授。

 10代、20代で発症することが多く、女性の割合が高いが年齢、性別など問わず誰でもなる可能性がある病だ。

「やせて可愛くなりたい」、それだけが原因ではない。

「まじめで頑張り屋という共通点があります。成績もよくてスポーツもできるんです。なのに自己評価が低い。満たされないものを何かで補おうとする。それがダイエットになるんです。やせると達成感が得られるためにどんどんはまる」(作田教授、以下同)

 ほかにも「学校給食を残してはいけない」と言われたことで食べられなくなってしまうケース。バレエや陸上など体重制限があるスポーツでやせすぎるケースもあるという。

「学校、友達関係、いじめ、家庭の問題もあります。幼児期の家庭内でのトラウマ、性的、心理的な虐待の場合もあります。バックグラウンドは非常に多岐にわたっています」

 芸能人やスポーツ選手にも少なくない。

「自分の体形に対する認知が歪み、やせているにもかかわらず自分は太っているとか脚が太いと思い込み、やせようとします。10代の場合、過食をして吐くことは少なく、徹底して食べないなどでやせていく特徴があります」

 最近では小学校3年くらいから症状が出てくることが報告されており、特に中学生に目立つようになってきた。

「これまでは摂食障害で当センターを受診する小中学生は年間20~30人ほどでしたが、昨年は倍。新型コロナウイルスが間接的に影響していることは間違いありません」

 外出が制限され、コロナ太りや運動不足が社会問題になり、ダイエットが注目された。

「休校中に親や友達とダイエットを始め、気がついたら病気になっていたと受診するケースが多かったんです。学校生活も部活も中途半端。環境の変化によるストレスも影響があったと考えられます。コロナ禍ですっかり変化した社会の状況に子どもたちが影響されたことは一目瞭然です」

アイドルへの憧れで無理なダイエットも

摂食障害の特徴

 さらにはユーチューブやインスタグラムなどのインフルエンサーやアイドルにも影響を受けているという。

「細くて可愛い同年代の女の子たちに影響されているのでしょう。それが子どもたちの標準になっています。その子と自分を比べてしまい、自分の体形を気にしてしまう」

 そしてやせるために徹底的に食べないことを選択する。

写真の少女は18歳。拒食症に苦しみ、体重は30キロに満たないという。生命維持にも支障をきたす状態だ

「うちを受診する中学生の女の子で1週間に数食しか食べない子もいました。水を飲むのもそのときだけ。ですが本人は病気だとは思っていない」

 では、長年続くとどのような影響が出るのだろうか。

「1つが病的な低身長。摂食障害になったことで性ホルモンが出ない。第二次性徴期が発来しないんです。身長の伸びが止まってしまいます」

 将来、重症の骨量減少、骨粗鬆症になるリスクも高まる。女子は無月経が長期間続けば不妊のリスクも高まることに。内臓機能も不調になり生命維持機能に支障をきたす。

 いちばん解決しなければならないのは心の問題だ。

「栄養療法で身体はよくなっても自己評価の低さからは抜けきれないんです。体重が減れば達成感は大きく、そのときは自分の評価が高くなる。そんな快感が忘れられず、食べられなくなってしまう」

 むちゃくちゃに食べて吐くを繰り返す過食症に移行する拒食症の当事者も少なくない。そうなると治療に抵抗して経過が長くなり、回復するのはさらに難しくなっていく。

 それ以上に深刻なのは自ら命を絶ってしまうことだ。

「摂食障害はうつ病に次いで自殺率が高い病気なんです」

 食べ物や体重のことで頭はいっぱいになり、他人に劣等感を覚え、希死念慮を強く抱く。やせることにとらわれ、食事をしなくなれば衰弱していくばかりだ。

「“慢性的な自殺”と表現する専門家もいます。摂食障害はゆっくりと自ら命を削っていくような状態なんです」

 コロナ禍で増えた10代の自殺問題もその背景に摂食障害の増加もあるのでは、と専門家らは危惧している。

「小児期の摂食障害は大人に比べて完治する可能性が高いんです。早期発見、早期治療が肝心です」

 では大人はどうやって気づけばいいのだろうか。

「最近の子どもは習い事をしているケースが多く、家族とご飯を食べる機会が少ない傾向にあり気づくのが遅れる。毎日は無理でも週何回かはお子さんと楽しく食べてほしい」

 夏休み明け、さらに患者が増えることを危惧している。

「子どもがダイエットを考えているなら正しく親の管理下でやってほしい。そして積極的に子どもに関わってください。それが予防になり、早期に発見できます。子どもたちを孤立させないことです」

13歳で発症・村上英子さん(仮名・40代)

いい子でいるプレッシャーが

「私の場合、家族、特に母親との関係が発症の原因のひとつと考えられます」

 そう明かすのは村上英子さん(仮名・40代)。中学1年生のころに拒食症を発症した。

 俗にいう「いい子」だった村上さんだが、親との関係性はどこかいびつなものだった。

「親と子で接し方が逆転した感じです。私は母親の気持ちを察して、幸せにしなきゃいけないと必死でした」

 母親は「いいお母さん」だったが、彼女自身の満たされない思いや生き方への不満、娘への嫉妬を無意識のうちに村上さんへ向けていたという。尋ねると当然、否定したというが、幼いころから母の思いを敏感に感じ取っていた。

 言葉にできないモヤモヤとした思いや苦しさを抱え、誰にも打ち明けられなかった。

 学校でも部活ではレギュラー、成績もトップ。友人関係も相手に合わせ、嫌われないように、と気が抜けなかった。

 そんなとき、所属していたバスケットボールチームのコーチの「なんだその太ももは」というデリカシーのないひと言に傷つき、やせて周囲から称賛される同級生の存在をうらやんだことで中学1年の夏、ダイエットを決意。

 食べる量を少し減らす食事がエスカレート。中学2年の夏の食事はみかんの缶詰やところてんなどだけ。それさえもすぐに食べなくなった。

発症した当時の村上さんの1日の摂取カロリーは600キロカロリー。最もやせていたときは朝起きると布団が重く動けなかった

 冬には体調も悪く、学校も休みがちに。もともとやせていたがそのころの体重はダイエット開始時の半分ほど、いつ死んでもおかしくない状態で、「ミイラみたいな見た目だった」と振り返る

 だが自分がやせているとは思わなかったという。

「やせても自分がやせているように感じない。自分は太っていると思っていたんです」

 信頼できる小児精神科医らとの出会いをきっかけに治療を始めたが今度は体重が増える恐怖との闘いだったという。拒食から過食になり、食べて嘔吐を繰り返すようになり、症状は30年近く続いた。

「今でも母親との関係が解決したわけではありませんが、治療を続け、言葉で表現できるようになってからは症状が少しなくなってきました」

 そして夫との出会い、出産も村上さんを変えた。

「初潮が始まる前に摂食障害を発症し、不妊のリスクがあったにもかかわらず、子どもを授かれたことは神様の計らいだと思っています。自分が母親になったことで気づけたことも大きいです」

 子どもが拒食症になったとき、母親や家族は必要以上に自分を責めることがあるという。そのときに自分自身の人生や家族との関係を見つめ直すことも大切なのだ。

「子に寄り添い、自分たちも変わることも大事だと思います。楽しく自分の力で生きている様子を見せること。そうしたアプローチも回復の後押しになるでしょう」

10歳で発症・木下亜由美さん(仮名・20代)

飲み会やオールが回復を後押し

「発症にはもともとの性格も大きく影響していると思います。何事も思いつめてしまい相手の言葉を真に受けてしまう。まじめな子どもでした」

 そう話すのは木下亜由美さん(仮名・20代)。摂食障害の発症のきっかけは周囲からの何げないひと言だった。

「小学5年生のとき友人から“太ってる”とか親からも“よく食べる”と言われました」

 ショックを受けた木下さん。“太っていることはよくない。やせなければ”と思い、ダイエットを始めたという。

 まず食事を減らし、カロリーコントロールを始めた。

 おにぎり1個、パン1個の食事。小学校は弁当。いつもコンビニで購入していた。中学受験を控えていた木下さんは夕飯もコンビニですませることが多く、親も食べていないことに気づいていなかった。

木下さんは元気で勉強もはかどっていたことで周囲も異変に気づくのが遅れた

「食事制限だけでなく激しい運動もしていました。おなかいっぱいにならないほうが勉強もはかどりました」

 健康の問題もなく、どんどん深みにはまっていった。

 ダイエットを始める前の身長は148センチで50キロほどだったが2年後の中学入学直後にはその半分近くまで落ちていた。だが、ダイエットをやめることができなかった。

「体重が減ることに満足していて自分が間違っているとは思わなかったですね。体重が増えるのが怖かった」

 心配した友達の「やせすぎじゃない」「それしか食べないの? 」との声も届かなかった。

 中学1年の冬、親に強制的に入院させられ治療したことで食事ができるようになった。

「親は私を太らせたいのだと思い込み、親の作るご飯が食べられませんでした」

 頭の中はいつも食べ物と体重のことばかり。木下さんを変えたのは大学で出会った同級生たちだった。

「飲みすぎてつぶれる友達がいたり、オールをしたり、大学生らしい生活をしていたんです。そのときにこだわりがほどけて、みんなと食事ができるようになった」

 それまでは食事の時間もきっちり決めて、暮らしに厳しいルールを設けていた。

「いろいろな生き方があることを知りました。やせていても太っていてもいい、勉強ができてもできなくてもいい」

 今は別の大学に入り直し、医学部の6年生だ。

 実習先で中高年の当事者と出会うこともあるという。

「大人の摂食障害も増えています。体形のことで間違った指摘をすると逆効果になる人もいます。摂食障害は死亡率も高い怖い病気です。学校や社会がもっとこの病気のことを正しく知ることは大切だと思います。やせていることがいいことだ、というような社会の風潮を変えていかなければと思います

 頑張りすぎなくてもいい。木下さんはそう願う。

早期発見のためのSOS

摂食障害は自分自身ではなかなかその症状に気づくことができない。そのため周囲の人にその兆候が見られたら本人に伝え、まずは専門家に相談を。

(1)体重に関するSOS

・明らかに体形が変わり、背中やあばら骨が浮いている
・体重が増えることを極端に怖がる
・「自分は太っている」「やせたい」という言動が多い
・1日何度も体重計に乗る

(2)食事に関するSOS

・食べる量や回数が減る
・カロリーの低い食事ばかりを食べる
・カロリー表示をとても気にする
・人との食事を避ける
・食べてないのに「お腹すいていない」「食べている」と言う
・食べだすと止まらない

(3)行動のSOS

・激しい、むちゃな運動を行う
・常に動き続ける

(4)排出行動のSOS

・食事直後にトイレに行く
・手の甲に嘔吐するときにできるたこがある
・虫歯や歯のトラブルが増えた

(5)その他のサイン

・気分の浮き沈みが激しい
・不安やイライラが増えた
・隠し事が多い
・集中力や判断力が低下する


お話を聞いたのは……小児神経学・作田亮一教授●獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター長。『10代のためのもしかして摂食障害? と思った時に読む本』(おちゃずけ著)のイラストを監修、解説。