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「家庭のモラハラといえば夫からと考えがちですが、じつは妻から夫へのモラハラも多いのです。会話をすれば夫を言い負かし、寝室どころかリビングで同じ空気を吸うこともイヤがる。子どもまで味方につけ、夫を蔑む。そんなケースがコロナ禍で増えています」

 そう話すのは、家庭問題に詳しい中里妃沙子弁護士。

夫婦げんかとは違う“湿っぽさ”

 令和3年の内閣府による「男女間における暴力に関する調査」では、女性の約4人に1人、男性の約5人に1人は、配偶者から被害を受けたことがあるという結果が出ている。この調査は身体的暴行だけでなく、心理的攻撃や経済的圧迫といった、モラハラ行為にあたる被害も含んでいる。しかも驚くべきことに、ここで妻からの被害を受けた夫の約6割はどこにも相談していないのだ。

 では残りの4割から見えてくるモラハラ被害とはどんなものだろう? モラハラ夫の典型には「妻へお金を渡さない」があげられるが、モラハラ妻にもやはりその傾向があるようだ。

「家計は妻が管理しているんです。風邪をひいたので病院代をもらおうとしたら、『もったいないから行かなくていい』と。その後、自力でなんとか回復しましたが、今後もこんな対応をされるかと思うとぞっとします」と語るのは都内在住、会社員の50代男性Aさん。

 まるで守銭奴のようなモラハラ妻。しかし、夫からせしめているお金をコツコツ貯めているわけでもないという。

「僕の医療費は出し渋るくせに、自分はネットショッピングや高いランチで散財。自分のこととなると湯水のようにお金を使うので開いた口がふさがりません」

 Aさんは年収1千万円を超えており、妻は専業主婦。Aさんに感謝することなく、「あなたが稼いだお金は私のもの」という意識が強い。

「夫の稼ぎがいい家庭でも、その給料に文句を言う妻はいます。ありがちなのは『もっと稼いできてよ』というフレーズ」(中里弁護士)

 そんなモラハラ妻の背景には、育ってきた家庭環境が影響している可能性も。妻自身が親からモラハラを受けてきて、同じような対応を夫にしてしまうパターン、逆に甘やかされてわががまに育ち、他人の気持ちがわからないパターンなどだ。

夫を追い詰める妻の心理

 度が過ぎるとそのうち文句を言うだけでは飽き足らず、怒鳴る、物を投げるなどの過激行為に発展するという。

「壁を叩いて威嚇したり、物を投げて威圧的な振る舞いは、当然“間接暴力”に当てはまります」

 もちろん相手にケガを負わせれば立派なDV案件だ。

 モラハラ妻の性格の特徴は我が強く外づらのよいタイプ。家では夫に威圧的な態度をとる反面、外では言い争うこともせず、素直な妻を演じる傾向にある。

 一方の被害に遭う夫に多いタイプは、まじめで気が優しい男性。ナイーブで争いを好まない性格がモラハラ妻の餌食になっているのだ。しかも怒り狂った妻に素直に謝っても、許してくれるどころか「その態度はなによ」となじられ、一晩中説教をされる夫もいるという。夫は鬼のような妻と向き合う気力がなくなり、帰宅恐怖症になるケースも。

「残業で遅くなる、と連絡して妻の就寝時間まで車の中で時間をつぶしたこともあります。妻にばれたら大変なので同僚に口裏を合わせてもらいました」とは前出のAさんだ。

家の中が針のむしろになってしまう夫も(※写真はイメージです)

 結婚後、妻がここまで豹変してしまう理由は何なのだろう。そこには日々のストレスや家事や育児で積もった夫への不満が関係しているようだ。

「妻は夫に、自分と同じくらいの家事分担をしてもらいたいと思っているんです。昼間は私が家事と育児をしたから、夜はあなたもするべき、といった具合。夫は『自分は外で働いてきたのだから家の仕事は妻の役目』と思っているパターンも多く、ここがうまく配分できていないと妻の不満がたまり、『あなたは何もやらない、グズで使えない男』という評価につながります」

 しかも妻たちはたいてい、家族まで味方につける。

「思春期の娘と束になって悪口を言われるのがいちばんきつい」ともらすのは娘が2人いる40代の男性。新型コロナウイルスでテレワークが進むなか、家の中が針のむしろ──。このような仕打ちが続くと、夫が精神的な病を発症してもおかしくない。

たちの悪い“無意識モラハラ”

 モラハラの定義は「嫌だと感じるかどうか」。自分は無視したり暴言を吐いたりなんてしていないし、ましてや直接拳をふるうなんて……と思っているとしたら、要注意だ。

 舌打ちをする、ドアを力いっぱい閉めるなどといったことでも、もし夫がストレスと感じているようなら立派なモラハラになってしまう。夫が我慢しているだけで、実は妻の行為に怯えながら胃を痛めている可能性は大きい。

「夫への言葉の暴力を口げんかの延長だと思っている妻は多いです。『男は強いからこのくらい平気だろう』と信じ込んでいるため、モラハラかもしれないなどとは夢にも思わない。長年連れ添った相手に今さら気遣う必要などないというのが当たり前になっているとしたら、キケンです

夫への言葉の暴力を口げんかの延長と思っている妻は多い(※画像はイメージです)

 ステイホームで一日中家にいることが多くなった昨今。ただでさえ、気配を疎ましく感じ日々のイライラが募っていてもおかしくはない。妻に当たり散らされ、怒りの矛先をつねに向けられている夫のうっぷんを甘くみないほうがいい。もしも離婚をちらつかせて夫を脅したりした途端、「じゃあ離婚だ!」と逆に啖呵を切られる可能性もゼロではない。

「夫を失うと、専業主婦の場合は一気に経済的な苦境に陥ることが多い。失ったあとに後悔するのでは遅いのです」

モラハラ妻・チェックリスト

「まさか自分が?」を「もしや自分が」と気づくきっかけになるチェックリストでセルフチェックしてみよう。当てはまる数が多いほど要注意だ。

□家庭内で自分がいちばん正しいと思っている
□夫をコントロールしたくなる
□夫に対して威圧的な態度に出てしまう
□夫の言い分に正論で返してしまう
□夫のことを無視してしまう
□妻は夫に養ってもらって「当たり前だ」と思っている
□夫に「もっと稼いでこい」と言う
□子どもを味方につけて夫を責める
□夫に対し、暴力をふるったり物を投げつけたりする

 日常的に上記のことをしている場合はモラハラ妻の気質が。夫はあなたの前で萎縮したり怯えた態度をとったりしていないだろうか。相手が特に何も気にしていないようなら「ハラスメント」にはならないが、思いやりを持つことは大切だ。

 まずは自分はモラハラをしているかも? と自覚すること。衝動にまかせてカッとなりそうなら、まずは落ち着いて深呼吸だ。

 心当たりがある場合は、明日からひそかに思い直そう。

教えてくれたのは●中里妃沙子(なかざと・ひさこ)さん●弁護士法人・丸の内ソレイユ法律事務所代表。離婚分野に特化し、“離婚スペシャリスト”として年間700件を超える離婚相談をこなす。とくに家庭内のモラルハラスメントに詳しい。https://maru-soleil.jp/

(取材/オフィス三銃士)