脱け毛の量は普段の3倍になったという(鈴木さん提供)

「髪の毛が毎日 ごっそり抜ける」「日に日に薄くなる髪……。いつまで抜け続けるのか、不安で仕方ないです」

 新型コロナウイルス感染症の後遺症で苦しんでいる現状を打ち明けてくれたのは、都内在住の鈴木さとみさん(39)。“髪は女の命”といわれるだけに、悩みは深刻だ。

普段の3倍くらいの量の髪が抜けた

 鈴木さんは、5月31日に38度以上の発熱があり、PCR検査を受けることに。すると、6月2日にコロナ陽性と判明。だが、病院に入院することはできず、自宅療養を余儀なくされた。

「38・5度以上の高熱が8日間も続き、さらには頭痛や倦怠感もひどかった。少しでも動くとせきが止まらず息苦しいので、とにかく動かないようにしていました。

 この期間は、市販の解熱鎮痛薬カロナールとせき止め薬を服用して過ごしていました」(鈴木さん、以下同)

 だが、それらの薬はほとんど効かず、ひたすら耐えるのみだったという。

 それでも1か月ほどたつと、頭痛や倦怠感は治まりようやくひと安心……と思いきや、新たな症状が鈴木さんを襲う──。

「7月中旬になると、今度は脱毛の症状が気になってきたんです。お風呂上がりに髪の抜け毛を集めると、手のこぶしぐらいの大きさになるほど。普段の3倍くらいの量が抜けていました」

 不安になった鈴木さんは区役所に問い合わせて病院を紹介してもらおうとしたが、

「自宅近辺の病院を紹介してもらえなかったので結局、自分で探しました。8月6日から地元にある漢方薬を処方してくれる病院を見つけて通院するようになりました。コロナ後遺症の症状だと伝えると“わからないから”とはじめは断られて……。とはいっても不安ですから、なんとかお願いして、相談させてもらっている状態です」

 現在、病院から処方される漢方薬と血流促進、免疫機能増強、脱毛などに効果があるといわれているセファランチンという薬を服用中。しかし、まだ効果は表れず、抜け毛も止まっていないという。

生活ができないほどの倦怠感

 第5波の真っただ中の今、鈴木さんのようにコロナ後遺症で悩んでいる人は数多くいる。東京都は4月、『コロナ後遺症相談窓口』を設けて、都立・公社病院で電話相談窓口を開設した。

 だが、認知度が低いのか相談件数は4月が200件、5月が304件、7月になっても281件。感染爆発には伴わない相談件数となっている。実際には、どれほどの人が後遺症に苦しんでいるのか──。延べ1500人以上もの後遺症患者を診てきた『ヒラハタクリニック』の平畑光一院長は、こう話す。

「日本の感染者数は100万人を超えています。その中で、軽い症状を含めると、およそ半数の50万人が後遺症を抱えていると考えています。症状が重い人は、その中の1割ぐらいでしょうね」

 同院の患者は年代でいうと30代、40代が最も多く、女性が男性の1・4倍ほど。

「患者さんのおよそ半数が倦怠感の症状を訴えていて、そのあとに味覚・嗅覚障害、脱毛などが続きます」(平畑院長、以下同)

 脱毛に悩む前出の鈴木さんには、平畑院長はこんなアドバイスを。

「女性はもともと亜鉛不足の人が多いんです。豚レバーやカニ缶などに多く含まれていますが、食品だけでは足りないので、サプリメントで補うのがいいでしょう」

コロナ後遺症に悩む鈴木さん、脱毛までの流れ

 一方、倦怠感の症状については“思いのほか激しいものだ”と強調する。

「“指1本動かせない”“風呂に入ったら1日、寝込むほど疲れる”。中には“トイレに行っても、紙でお尻を拭けない”ほどの倦怠感が現れた患者さんも。その方はトイレに行く際、親にお尻を拭いてもらったそうです。だるいどころのレベルではなくて、もう生活ができないんです」

 言語を絶する倦怠感から、筋痛性脳脊髄炎(きんつうせいのうせきずいえん)・慢性疲労症候群(ME/CFS)という病気に移行している人も

「この病気になってしまうと、倦怠感から逃れられなくなる。すると、気分が落ち込んで思考力が低下。本や新聞を読んでも、文字は認識できるが、意味が入ってこなくなり記憶力も低下していきます」

無症状でも、後遺症だけが重くなるケースも

 では、後遺症の症状が改善する方法はあるのか。

「まず、前提条件として、だるくなることをしない。運動はいっさいダメ。読書やテレビ観賞だって、倦怠感を招く場合もある。通勤・通学も1時間以上かかるならNG」

 そのうえで、『上咽頭擦過療法(じょういんとうさっかりょうほう)』を行う。これは、塩化亜鉛をしみ込ませた綿棒を鼻とのどの両方から直接、上咽頭にこすりつける方法で、保険適用の治療法。さまざまな後遺症の改善・緩和に効果的だといわれていて、

「週1、2回この治療を行って、経過をみていきます。大変だと思いますが、ヘタをすれば一生引きずる病気になりかねないんですから」

 感染時は無症状でも、後遺症だけが重くなるケースもあるという。コロナを風邪やインフルエンザ程度だと軽視するのは、大間違いなのだ。

平畑光一院長

 さらに、ワクチンを接種してもコロナ感染する『ブレーク・スルー感染』も増加している。感染対策も緩めてはいけない。マスク着用、手洗い、3密を避けつつ、

「私は鼻うがいをおすすめしています。感染を防ぐのに有効な手段ですし、もし感染したとしても、症状が軽くすむことが多いです」

 コロナの本当の脅威は、感染時よりも後遺症にあるとも。宿主を殺さず、生ける屍に変えてしまうのだから──。

平畑光一院長/昨年3月に「新型コロナ後遺症外来」開設以来、延べ1500人以上もの患者を診てきた。近著『新型コロナ後遺症 完全マニュアル』(宝島社刊)