非対面式にし、弁当の配布などを行うこども食堂(むすびえ提供)

 社会問題になっている子どもの孤食。「こども食堂」という名称を聞いたことがある人は少なくないだろう。子どもが1人でも行けて、低額、または無料で食事が提供される場所のことをいう。

誰が来てもいい場所

 個人や民間団体などによる自主的な取り組みで2012年ごろ発足といわれている。『認定NPO法人こども食堂支援センター・むすびえ』の調査によると'18年には2200か所を超えており、全国で4960か所('20年12月現在)。コロナ禍でも新規参加する個人や団体は増えている。

「こども食堂は困窮世帯やひとり親世帯などの子どもしか行けないという認識はまだまだ根強いですが、誰が来たっていいんです。年齢も性別も職業も収入も社会的背景も異なる人々が誰でも集える場所です」

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ三島理恵さん同法人広報・ファンドレイジング統括責任者兼プロジェクト・リーダー。2009年6月から日本ファンドレイジング協会に入職、設立スタッフ。現在、NPOなどのコンサルティングなどを行う

 そう話すのは同NPO法人の三島理恵さん。こども食堂は「子どもの貧困対策」と「地域の交流拠点づくり」この2本が活動の柱だという。

「子育ての支援、高齢者の見守り、コミュニティーや地域づくりの拠点などの機能も果たしています。地域や社会の課題を包括的に解決する潜在的な能力を秘めています」(三島さん、以下同)

 だが、このコロナ禍でこども食堂はどのように活動をしているのだろうか。休止せざるをえなかったところもあるが、それでも56%の団体が活動を継続させていた。

 こども食堂は行政主導でない民間ボランティアによる取り組みだからこそ、'20年4月の緊急事態宣言下でも活動を継続できたのだ。

「密を避けるため、ほとんどの団体で一斉での食事ではなく、弁当や食材の配布に切り替えました」

 受け取りの時間を決めたり、並ぶ間隔を広げたり。各家庭の車ごとにドライブスルー形式で物資を渡す団体もあった。活動を継続させるためありとあらゆる手を模索した。

「こうした緊急時でも開催できた背景には平時のつながりがあったからこそ。子ども食堂を運営している人々はリアルに地域の人とつながっています。報道で見る困った世帯ではなく、“あそこのあの家のあの子が”“あのお母さんが大変になる”とわかっているから活動を続けようと決意したんです。気になる家族が安心して暮らせるようにしたい、と考えるのは自然なこと」

 さらには、

「お弁当や食材を取りにくるお母さんが“疲れた”と愚痴をこぼしたり、不安や悩み、ストレスを吐き出せる息抜きの場にもなっていました」

 母親や子どもたちの精神的な駆け込み寺、大学生や外国人らの居場所などさまざまな役割を果たしている。

「特に学生や外国人の世帯は自治会とつながっていないケースも多い。地域の人たちが安心して暮らせる状態を生み出すためにもこども食堂のような場所がたくさんあることが大切」

コロナ前はぎゅうぎゅうに集まり一緒に食事をとっていた(むすびえ提供)。

 実際、多くの団体から「新型コロナウイルスの長期化により困窮家庭が増加した」という声も寄せられたという。

「これまで一緒に食事をしていたときは、どの家庭が困っているかまではわかりませんでした。弁当や食材の配布に切り替わったことで個々に対応するようになり家庭の事情が話題になりやすく、困窮する事情が把握できるようになったんです。また、行政との連携が進み、困窮家庭とのつながりができた地域もあります」

 それを通じて非常時には困窮家庭を支えるセーフティーネットとして活動する体制も整いつつあるという。

「こども食堂は『気づきの拠点』。私たちの団体の代表・湯浅誠が言う『黄色信号の家庭』ともつながる場です」

 黄色信号の家庭とは、行政のアプローチが入っていない家庭のこと。貧困や虐待、DVなどさまざまな課題を抱えていても潜在化しており周囲はわからない。現状ではそうした家庭への行政からのアプローチは十分ではない。

「1時間でも2時間でも一緒に過ごし、継続的につながっていくことが大切です。その中で気づくことがあるんです」

 しかし、課題もある。

「感染症対策をどこまでしたらいいのか。弁当配布による食中毒が起きないか不安がつきまとう。他にも、困窮世帯への個別支援の課題。さらには弁当配布用の容器や感染症対策も必要になり、以前より、経費がかかるようになったことも指摘されています」

 それでも多くの団体が年度内中の再開を目指して奔走しているという。

「ボランティアなどで関わることもできます。子育てを一段落した世代が中心的な担い手として全国で活躍しています。携わることで子どもたちは地域にいろいろな大人がいることを知り多様な経験のひとつになります」

 大人にかわいがってもらうと子どもたちの自己肯定感にもつながっていくのだという

「ただ、参加するだけで地域とのつながりが増えますし、活躍の場になると思います。ぜひとも足を運んでいただけたらうれしいです」

密を避けたイベントも(むすびえ提供)

都市化で孤立する人々をつなげる第2の実家

【埼玉県川口市・幸町陽気こども食堂】

 2018年から活動を続ける『幸町陽気こども食堂』。天理教の教会を会場に、現在は月2回の180食分の弁当配布と困窮家庭90世帯への食材配布、学習支援などに取り組む。コロナ禍になってもこども食堂の開催は休止せず、方法を変えながら続けている。

「保健所に電話したりしてどうしたら開催できるのか対策を考えました。感染対策の条件をクリアしたので続けていましたが人は集まらなかった。そこで“配ろう”と去年の3月からお弁当配布に切り替えました」

弁当配布に並ぶ利用者。間隔を保ち密を防ぐ(幸町陽気こども食堂提供)

 そう話すのは池田忠正代表。

 コロナ禍で暗い雰囲気が漂う中、少しでも子どもたちに楽しさを感じてほしいと願う。

 同こども食堂があるJR川口駅周辺は急激に人口が増加。だが、住民同士の交流が希薄なことを池田さんは憂えていた。

「宗教施設なので、気にしている人もいますが当然、勧誘はしません(笑)。ここはみんなが集まれる場所にしたいとの思いで始めました。こども食堂=貧困という考えが地域でも根強いのですが、孤独や自分勝手な振る舞いも心の貧困だということに気づいてほしい」(池田さん、以下同)

 取り残されている人はたくさんいる、という。それはこのコロナ禍で顕著に表れた。

「生活の困窮を実感しました。それに外出できないことは母親も子どももストレス。一緒にお弁当を取りに行く短時間だけでも外に出られた。1食でも作らなくていいのはありがたいとお母さんたちは言ってくれました。お父さんが失業したり、家族の体調がおかしくなったり、自殺を考えるほどに追い詰められたシングルマザーもいました

初めてウナギを食べた子もいたという(幸町陽気こども食堂提供)

 訪れる人は弁当や食材を受け取りながら苦しい胸の内を明かしたという。

「助けてくれる人がいることがわかって、やる気が出てきた、1人で苦しまなくてもいいと自殺を思いとどまった人もいました。これまで見えなかった悩みが噴き出した。こども食堂という話す場所があったことは大きいですね」

 コロナ禍であっても運営するスペースがあれば形態が変わっても持続できる手応えも感じていたという

 だが、一緒に食事がとれなくなったことで孤立が進む人がいることも懸念する。

弁当の調理はうちの妻が担当しますが、ほかのスタッフはご飯食べに来てくれたお母さんたちです。みなさん、恩返しがしたいと手伝いを申し出てくれているんです。一方的に助けるためにやっているだけではなく、助け合い、協力していく場。その姿を子どもたちに見せたい

 母親が手伝う姿を見ると、子どもたちも自然と机を拭いたり、配膳の手伝いをしたくなるという。

お手伝いを率先する子も。年代を超えて友達になれるという(幸町陽気こども食堂提供)

 目指すのは家族のような関係。

「いつでも帰ってこられるファミリーみたいなこども食堂にしたいんです。何か行き詰まったときに地域にあるこども食堂に足を運んでもらいたいです。そこがきっと居場所になるはずです」

外国人・シングルマザーを支える愛情ご飯

【東京都新宿区・新宿ニコニコ子ども食堂】

「コロナ前は誰でも食事に来れるオープン型のこども食堂を月2〜4回、生活困窮家庭のみ対象にしたクローズ型のこども食堂、秘密基地を月5回行っていました」

 そう話すのは『新宿区ニコニコ子ども食堂』代表の猪爪まさみさん。オープン型のこども食堂は会場としていた地域センターがワクチン接種会場になったため現在、中止しているという。

「クローズ型こども食堂は生活保護や児童扶養手当受給者、経済的に困難な世帯対象にお弁当を配布しています」(猪爪さん、以下同)

感染症対策に注意をしながらボランティアが弁当作り(新宿ニコニコ子ども食堂提供)

 もう一つの柱は生活困窮世帯への食材の配布。月1回、現在42世帯に配布。去年の11月からは41世帯を対象に食材を宅配。子どものお預かりや無料塾も行っている。

 困窮家庭やシングルマザーに寄り添ってきた猪爪さん。

「昨年の学校が休校になったときが、シングルマザーたちがいちばんつらかったでしょうね。先行きの不安、家族は子どもと自分だけで相談もできずに“仕事を続けられるのか”“このアパートに住んでいられるのか……”ほかの大人と話せない不安で押しつぶされそうになった時期です」

 次第に両親がそろっている家庭や、外国人世帯の困窮も目立つように。

 新宿区は人口の1割以上が外国人。コロナ前まではホテルや病院、飲食店などで裏方として働いてきた。彼ら、彼女らは日本で仕事をし、結婚、子育てをしていたのだが、コロナ禍で一変した。

「仕事ができなくなったり、大幅に減らされたことで生活が苦しくなり、食材の配送を希望する外国人世帯が増えました。シングルマザーや外国人世帯へのしわ寄せを肌で感じています」

 中でもシングルマザー世帯は日ごろからなにかと傷つくことが多く、親子で頑張って生きていると猪爪さん。

「私たちのお弁当はすべて手作り。知らないおじさんおばさんでも誰かが作ったおいしいものを食べることで、くじけそうになったときの力に変わってほしいと期待しています。1回、2回ではだめ、胃袋の中に愛が入っていくと何年かで芽生えるんです。おふくろの味ですからね」

お弁当はすべて手作り。一品一品心を込めて作る(新宿ニコニコ子ども食堂提供)

 食材の発送で心がけているのは箱詰めを『実家から届いた荷物』風にすることだ。

 実家から愛がこもった荷物が届くように、何人もの支援者の愛が込められている。

「社会は冷たい人や傷つける人ばかりじゃない。考えてくれる人がいることに荷物ひとつで気づいてもらえたらと思います。箱を開けたときに今までつらかったけど、また子育てを頑張っていこうという気持ちになれたらいいです」

食材の宅配の準備。箱を開けたときに子どもが喜ぶお菓子を置いたり(新宿ニコニコ子ども食堂提供)

 猪爪さんの活動の原動力は参加する母親たちの存在だ。

「子どもの支援はまずお母さんの支援からだと思っています。まずはお母さんの背中を支えたいと考えています」

 活動を支える人々の中には高齢者も少なくない。

「コロナが落ちついたら食事や手伝い、寄付でもいい。あなたらしい関わり方でこども食堂に参加してみてください」