夏休みが終わり、学校が再開となった。新型コロナウイルスの感染が急激に拡大するなか、一部では臨時休校や分散登校の措置もとられている。学校現場では、感染対策を徹底する対策がとられてはいるが、子どもを登校させることに不安を抱える親もいる。何が正解かはわからない、すべてが手探りな今、親に求められていることとは?

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親たちに求められるリスクへの「腹くくり」

 新型コロナウイルスはデルタ株へ置き換わり、未成年者への感染も急増している。通学による接触機会が増えて、校内でのクラスターや家庭への感染拡大なども起こりうる状況だ。医療機関がこれまでにないような危機的状況となっている今、親たちの不安はおさまらない。

 だが、「今こそ必要なのは、情報に惑わされない覚悟です」そう語るのは島根大学医学部教授で、医療情報の見極め方に関しての著書もある大野智さんだ。

「判断に迷って自分で決められないときや漠然と不安や恐怖に襲われているときに、あたかも問題の解決につながるような情報があると、その情報を安易に受け取ってしまう。情報の真偽を確かめることなく、その場しのぎの安心感を得ようとする傾向があるため、不安や恐怖といった不快な感情を安易に『情報』で穴埋めしないという心構えが大切」(大野さん、以下同)

 とくにコロナワクチンに関してのさまざまな情報には心揺らいでしまう。科学的裏付けのないデマであっても、例えばSNSでフォローしている知り合いや著名人が発信したものであれば、信じてしまう可能性がある。情報内容ではなく、情報発信者への信用度で、判断してしまうのだ。

「ワクチンの有効性や副反応などの『数字(割合・確率)』の受け止め方は人によって千差万別。いろいろな考えがあっていいよね、と頭でわかってはいても、不安がゆえに、自分とは異なる価値観や考えを持っている人を批判したり攻撃したりしてしまう。

 さらに、そのような批判的・攻撃的な『怒り』の感情を煽るような情報もメディアやSNSで氾濫しているので、個人の冷静な判断をさらに難しくさせている。そのような怒り、不安、恐怖といった感情を揺さぶるような情報には近づかない心構えが必要」

 新型コロナウイルスワクチンは、mRNAワクチンと呼ばれる最新型のワクチン。子どもを持つ親にとっては本当に安心して接種してよいのか不安を抱くのも無理はない。しかし不安な気持ちを持って情報源に近づくと、不安な情報をさらにキャッチしてしまうというループにはまってしまうおそれがある。

 自身も中学生、大学生と3人のお子さんがいる大野さんは親の心構えをこう考える。

「子どもの教育の機会(友人との人間関係など生活面も含む)を確保することを前提に、感染リスクとどう向き合うかがポイント。感染リスクを『ゼロ』にすることはできないから、どこまでのリスクであれば許容できるのか、腹をくくることです」

 自分の判断が他人と違っていて不安になったり悩んだりすることがあっても、それに耐えることが求められている。そこがブレると他者を非難したり攻撃したりすることにもつながりかねないし、子どもも不安定になる。

「多様な価値観のもと、子どもが安心して教育を受けることができる環境をつくってあげることが責務。『自分の望む感染対策を学校がとってくれない』『生徒に感染者が出た』などというだけで、学校にクレームを入れたりすることは厳に慎むべき。そのような行為は、教育現場に混乱を招き教員に不必要な負荷をかけ、結果的に子どもたちの教育の機会を奪うことになるのですから」

子どもへのワクチン接種で伝えたい「行動の選択」

 新型コロナウイルスワクチンの接種年齢は、今年6月に年齢が引き下げられた。2月に特例が承認された際には16歳以上が対象だったが、海外での治験結果などを踏まえ、安全性が確証されたとみなされ、今年6月から12歳以上も対象となった。

 つまり、小学6年生でも、接種日時点で満12歳であれば接種が可能となった(15歳以下が接種を受ける場合は、保護者の同意が必要となる)。ワクチン慎重派の多い日本では当初、10代の集団接種の検討をした自治体に批判が殺到した。しかし海外では、生後6か月~11歳への臨床試験も始まっている。日本でも、乳児を含む全世代でのワクチン接種が可能になる日も近いだろう。

 元『AERA』編集長でジャーナリストの浜田敬子さんはコロナワクチン接種可能年齢の娘がいる。納得して接種してもらいたいという思いから、ワクチンによる副反応、つまり熱が出たり腕が腫れるといった『見えやすいリスク』と、コロナにかかって重症化することもある『見えにくいリスク』について娘と話したうえで接種をすすめた。

「中学生になると、本人が嫌だと言ったら、その意思は尊重したほうがいいと思いました。ただその前提として、どんなメリットとデメリットがあるのか正しい情報を知ってほしい。例えば日常の行動だけでなく、海外旅行や留学など、ワクチンを打たないことで制限がかかるかもしれない。そういうことも踏まえて決めて、と言いました」(浜田さん、以下同)

 女性の場合、特に子育て中は、周りに相談できる人がいないと信憑性が怪しいネット上のワクチンに関するデマなどを信じてしまいがちだと話す。

「『日本小児科学会』や『こびナビ』など信頼できるサイトを参考にするか、迷ったらかかりつけ医や小児科医に相談してみてください」

 正しい情報を把握したうえで、コロナワクチンもインフルエンザと同様に打たないという選択肢も尊重されるべきだと思う。ただ医療現場への取材からデルタ株の脅威は待ったなし、現状では打たないリスクのほうが打つリスクを凌駕するのではないかと考えている。

「わが子のワクチン接種」親たちの本音

〈読者アンケートより〉

「会社の同僚の娘さんが高校生。コロナ陽性後に心筋炎になって入院。コロナとの関連性はわからないというのですが、ワクチンを打つことで“あのとき打っておけば”という後悔は減らせるのかと」(52歳・子ども20歳)

「知り合いの中学生のお子さんがワクチンを打ったあと、失神したと聞きました。副反応だったのか……その後、大事には至らなかったようですが、わが娘は相当ショックだったみたいで、自分は大きくなっても打ちたくないと言っています」(49歳・子ども9歳)

「わが家の場合は80代の義母がすでに接種ずみ。私は接種券が届かず、まだ打てていません。息子はもう18歳なので基本的に本人判断で、と考えていました。インターナショナルスクール出身なので、海外在住の友人も多く、実際すでに接種完了している友人が多数で、その話を中心に自分で判断して接種を決めたよう。予約も自分でしていました。もし本人が、自分は接種しないと決めたとしても私は反対しなかったと思います」(49歳・子ども18歳)

「大学生の息子は、バイトに行ったり友達と集まったりしています。行動範囲が広いため、家庭内にウイルスが持ち込まれるのが心配。子どもには接種をしてもらいたいと思っていますが、若いと副反応が強く出ると報道されているのを見て、打つのを嫌がっています。個人の意思を尊重したいのですが、ワクチン以外に防ぐ方法がなく心配です」(50歳・子ども19歳)

お話を伺った人

大野智さん 島根大学医学部附属病院臨床研究センターセンター長・教授。医師・医学博士。著書に『健康・医療情報の見極め方・向き合い方―健康・医療に関わる賢い選択のために知っておきたいコツ教えます』(大修館書店)

浜田敬子さん ジャーナリスト/前『Business Insider Japan』統括編集長、元『AERA』編集長。記者として女性の生き方や働く職場の問題、国際ニュースなどを中心に取材。『羽鳥慎一モーニングショー』や『サンデーモーニング』などのコメンテーターや、働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)

《取材/池守りぜね》