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 病院に行った際、「医者と話がかみ合わない」、「医者が自分の話をわかってくれない」と感じたことはないだろうか。それは医者側の考えを私たちが理解していないからかもしれない。

 医者は何を考えているのか、最善の治療を行うために患者にどうしてほしいと思っているのか。医者の“本音”を教えてもらった。

診察にワンピースはNG

独立行政法人国立病院機構東京医療センター総合内科医の尾藤さん

「診察にふさわしい服装というものがあります」と話すのは、独立行政法人国立病院機構東京医療センター総合内科医の尾藤誠司先生だ。

「外来の診察で女性の患者さんに着てほしくないのがワンピースです。診察室ではお腹を触診したり、胸に聴診器を当てる必要があります。特にお腹の触診は直接肌に触れる必要があるため、ワンピースだと下着を露出させなくてはならず、医者の心理的負担を増やすことになります

 ベストは、お腹を簡単に露出できる上下セパレートの服だ。また、厚手のトップスなども要注意だという。

「聴診器は、薄手のトップスであれば服の上から当てることができますが、胸元にビーズなどの装飾物があるトップスや厚手の服、装飾の多いブラジャーなどは聴きづらくなってしまいます。

 診察の効率も落ちるので、できたら薄手のトップスやスポーツブラのようなシンプルな下着を着用してもらえると助かります」(尾藤先生、以下同)

診察にワンピースは厳禁(イラスト/伊藤和人)

厚化粧は診察の邪魔

 もうひとつ、診察時の女性の身だしなみで気をつけたいのが化粧だ。

「診察では、患者さんの顔色をしっかり確認する必要があるので、厚い化粧は避けたほうが適切な診断につながりやすいです」

厚化粧は診察の妨げに、自分も危険になるおそれも(イラスト/伊藤和人)

 とはいえ、病院までスッピンで行くのは抵抗がある人も多いだろう。できる限りナチュラルメイクを心がけ、色みのあるファンデーションや頬紅、アイシャドウなど、肌の色を覆い隠すような化粧は避けたい。

 また、マスカラやアイシャドウは鉄粉を含む製品もあり、MRI検査で画像に影響を与えたり、やけどを引き起こしたりすることもあるため、注意が必要だ。

付き添いの夫は威圧感に

 不安や心細さから、家族などに診察の付き添いをお願いした経験がある人もいるだろう。この付き添いの人が診察室で医者にストレスを与えるケースがあるという。

「患者さんである奥さんに旦那さんが付き添う場合、奥さんの後ろに立ったまま話を聞くのは避けてほしいです。特に医者が男性の場合、女性の診察は触診などで心理的に負担を感じやすくなります。そのときに身体の大きな男性から見下ろされれば、医者は強い威圧感を感じてしまうのです

 夫が付き添う場合は、イスを用意してもらって座ることを心がけたい。

 また、もうひとつ避けるべきなのが、付き添いが患者の状況を一方的に説明することだという。

「医者はまず、他人の解釈が入っていない患者さん本人の言葉を聞きたいと考えています。付き添いの人が病状を説明すると自分の解釈を加えてしまい、医者は病状を分析しにくくなります。基本的に、患者さんとふたりで話をしたいと考えているので、付き添いはやむをえない場合だけにしましょう」

診察は医師と二人きりがまずは望ましい(イラスト/伊藤和人)

 もし、付き添いで病状を説明する場合は、患者本人が話し終わったあとに、端的に伝えるようにしたい。

医者に共感を求めてはいけない

 病院に行く際、「もしかしたら重い病気かも……」といった大きな不安を抱えていることもある。するとつい、医者に不安な感情をぶつけて共感を求めてしまいがちだが、それは大きな間違いだという。

「患者さんのなかには『痛みが続いてつらい』といった不安な感情を医者に伝えて『大変でしたね』という共感を得たいと思っている人もいます。しかし、医者の目的はあくまで健康問題の解決。聞きたいのは『3日前から強い痛みが断続的に続いている』といった患者さんの身体に起きている事実そのものです」

「自分の気持ち」は診察の妨げに(イラスト/伊藤和人)

 限られた時間のなかで不安な気持ちばかりをぶつければ、医者は本題になかなか入れず、適切な診察の妨げになってしまう。

「患者が訴えたいことと医者が知りたいことがずれているため、診察室ではこうした行き違いが起こりやすくなります。ですから、診察室に入って医者から『どうしましたか?』と聞かれたら、つらい、怖い、心配だといった心情はいったん脇に置いておいて、まずは自分の身体に起きていることを順序よく時間を追って話すことを心がけてみてください

「治りますか?」はNGワード

 診察時に患者が悪気なく発する言葉に、医者を困らせたり、認識のずれを生んだりするNGワードが潜んでいる。

「特に気をつけたいのが『治りますか?』という質問です。医者は病気の診断・治療を行う専門家であり、自分の持っている解決手段を駆使して最善を尽くそうとしますが、すべての健康問題を解決できるわけではありません。そこで『治りますか?』、『絶対に〜〜ですか?』といった医者にすべての責任を負わせるような言葉を投げかければ、医者は言質をとられまいと、かえって不確実な答え方に逃げようとする場合もあります

医者が答えやすいように質問しよう(イラスト/伊藤和人)

 医者にどうにかしてもらうという姿勢ではなく、医者と一緒に病気という困りごとを解決していく、という姿勢が好ましいと尾藤先生。

「『〇〇に困っているので何かいい方法はありませんか』という聞き方をすれば、医者も『完全になくすのはなかなか難しいですが、こういう方法があります』というように回答しやすくなります」

 そのほかにも、治療法を選択する場面で『お任せします』と返事をするのもNGだ。

「治療法にはメリットとデメリットがあります。例えば、再発の可能性が低いけど傷痕の残る手術と、再発率が上がるけど服薬のみの治療を選ぶ場合などです。こうした判断をすべて医者に委ねるのではなく、説明を聞いて積極的に理解しようとするなど、患者側の努力も必要です」

質問ばかりじゃ伝わらない

 診察を受ける際、病気の有無、将来への不安、治療の選択肢など、医者に聞きたいことは山ほどある。しかし、一方的に医者を質問攻めにしてしまうと、本当に必要なことを知ることができなくなってしまうかもしれない。

「医者が質問に答えるためには、まず患者さんの身体に何が起きているかという事実を把握し、原因を分析する必要があります。ですから、診察の初めに起きている事実をシンプルに伝えることが先決です」

まずは事実をしっかり伝え、質問はその後に(イラスト/伊藤和人)

 聞きたいことがある場合は事実を伝えたあとがおすすめ。さらに、質問形式ではなく、「耳鳴りで人の声が聞こえず、仕事ができません。いつまで続くか心配です」というように、何に困っていて、どうなりたいのかを伝えるとより適切な返事をもらえるようになる。

「病院へ行く前に、自分は何に困っているか、何を恐れているのかを整理して簡潔にまとめておくと、不安な気持ちの解消にもつながりやすくなります」

病気のことは事前に調べすぎない

 自分が何かの病気かもと思ったら、まずインターネットでどんな病気なのかを調べる人も多いだろう。それ自体は悪いことではないが、調べすぎて頭でっかちになり、見当違いな不安に陥ったり、誤った自己判断を下したりすれば危険を伴うこともある。

調べすぎは禁物(イラスト/伊藤和人)

「最近、自分は新型コロナに感染していると思い込んで来院する人が多いですが、大抵が見当違い。インターネットには医療情報があふれていて、専門知識のない患者さんが正しい情報を見極めるのは至難の業です。

 強烈な体験や命に関わる難病なども多く掲載されていて、こうした悪い情報はインパクトが強く無視しづらいため、自分に当てはめてしまいがちです」

 また、副作用など情報の一部を切り取り、医者に処方された薬を勝手にやめたりすれば、命に関わる場合もあり危険だ。診断や治療方針を決めるのは、あくまで専門家である医者だということを認識しておこう。

「自分なりに取捨選択した情報を医者に伝えることは悪いことではありません。医者も患者さんが得た情報を共有したいと思っているからです。しかし、言い方を間違えると医者は自分が信用されていないと感じて傷ついてしまうことも。

 調べたことを話す場合は『素人なりの意見ですが』という前置きをつけ、あくまで自分の考えとして伝えるといいと思います

謝礼は渡しちゃダメ!

 ひと昔前までは、お世話になった医者に謝礼を渡す患者も少なからずいた。しかし、今の時代に謝礼を渡そうとすると、かえってマイナスの感情を持たれかねないという。

謝礼はもはやネガティブイメージ(イラスト/伊藤和人)

「患者が医者個人に謝礼を渡す行為は、純粋なお礼というより、特別に贔屓してほしいという意図を感じさせます。

 医療者は、公平・公正にサービスを行うという倫理観に基づいて行動しているため、自分勝手な患者というネガティブな印象を持たれかねません。どうしても感謝の気持ちをお金で表したい場合は、病院に寄付をして医者に報告するのが賢明だと思います」

代替医療は担当医に相談を

 私たちが病院で受けるのは主に西洋医学に基づいた医療だが、世の中にはそれ以外にも、漢方薬や鍼灸、カイロプラクティックといった代替療法が数多くある。そういったものを試したいときは担当医にどう言うべきか。

 例えば、ひざの痛みやしびれに悩まされて病院の整形外科で理学療法を受けているが、症状が思うようによくならない場合。興味を持っているカイロプラクティックを試したいと思ったら、担当医には感情を刺激しないように伝えるのがポイントだという。西洋医学の医者のなかには代替療法は科学的根拠が薄いと否定的な目で見る人も少なくないからだ。

「1つ目のポイントは、事後報告ではなく、事前に相談することです。さらに、あくまで現在の治療が主で、カイロプラクティックは試しに一度受けてみたい、結果は先生にもご報告します、といった具合に話すと、医者との関係を良好に保ったまま、代替療法の力も活用できると思います」

 医者は限られた時間と条件のなかでベストを目指している。これらの心得を参考に、医者を困らせず、最善の治療を受けて元気に長生きしたいものだ。

教えてくれたのは●尾藤誠司(びとう・せいじ)さん●独立行政法人国立病院機構東京医療センター総合内科医。著書に『医者のトリセツ』(世界文化社)などがある。

(取材・文/井上真規子)