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 親が高齢になると、将来、実家をどうするかという問題が現実味を帯びてくる。

 自分が長年住んでいた思い入れのある家や、親が汗水たらしてやっと手に入れたマイホームでも、自分が住むのか、人に貸すのか、それともいっそ処分してしまうのか悩むところだろう。

 親がいなくなり、決めかねているうちに子どもである自分が税金や維持費を払い続けるということにもなりかねない。

先送りはNG「親の家問題」

「本来は親が残してくれる大切な財産であるはずの実家が、売りたくても売れず税金や維持管理費だけがかかる『負動産』になってしまうのはとても残念なこと。

 それを防ぐためにも、親が元気なうちに家をどう処分するか、家族みんなで考えておく必要があります」

相続・不動産コンサルタントを手がける藤戸康雄さん

 

 そう語るのは、自分自身も親の実家の問題に直面した経験を持つ、相続・不動産コンサルタントの藤戸康雄さんだ。

 人が長く住んでいない空き家は、給配水管が経年劣化したり、畳や壁が腐食したり、シロアリが巣食うなどして傷みが一気に進む。

 そうなると、なおさら売りに出すのも人に貸すのも難しくなるので、親の家の問題に直面したら、解決を先送りせずにできるだけ早く決断を下すべきだという。

 負動産になりやすい家とはどういう物件だろうか?

「都市部から離れた田舎や郊外の戸建ての空き家は、典型的な負動産予備軍といわれています。

 田舎や郊外は年々住んでいる世帯数が減る一方で、高齢者世帯の家が空いていくので、不動産の需要と供給のバランスが崩れてしまっています。この状況では、なかなか満足のいく値段や条件で売ったり貸したりすることは難しいでしょう」(藤戸さん、以下同)

都心の家でも安心は禁物

 戸建ての空き家だけとは限らない。建て替え問題に直面している老朽化した分譲マンションやリゾートマンションなども、今後さらに価値が下がり、費用だけがかさむ負動産になると見込まれている。

 ほとんど使う機会がない不要な別荘も、処分しようとしたところで簡単には売れず、高額な管理費や税金がかかってくる。

 また、かつて人気の高かった超高層のタワーマンションも、水害のおそれがある土地や埋め立て地に立つ物件は敬遠されて、負動産になる可能性が高い。

 場所がいいから高く売れると考えるのは間違い。住宅の需要が減っている今は、もはや都心の空き家でさえも「その気になればいつでも売れる時代」ではなくなっているのだ。

こんな親の家が負動産になりやすい!

・田舎・郊外の戸建て

「負動産」の代名詞ともいえるのが、人口の少ない田舎に立つ老朽化した戸建て

・老朽化したマンション

 修繕費用が高額なうえ、高齢化で管理費を滞納するなど組合が機能しない場合も。利用しなくても管理費は高額。売り値100万円でも買い手がつかないのはザラ

・リゾートマンション・別荘

 不便な立地から敬遠されがち。別荘地は空き家の管理メンテナンスも難しい

・タワーマンション

 水害やエレベーターの渋滞など弱点が露呈。都心という立地だけでは売れない

親が元気なうちに家族で話し合う

 相続をめぐる家族間の争いが、「売れない」「貸せない」原因をつくることもある。

親が元気なうちに実家の相続について、家族が集まって話し合いをしておくことが大事です」と藤戸さんはいう。

「相続をめぐるトラブルは、お金持ちだけに起きることではありません。相続争いの4分の3は、遺産総額が5000万円以下のケース。

 仲のいい兄弟姉妹だからといって相続争いが起こらないとは限りません。親の面倒を誰が見るか(見てきたか)などによって、それぞれの意見が衝突することもあります」

 親が元気なうちに家族会議を開いて、家をどうするかなど、遺産分割について腹を割って話し合っておけば、もめごとを回避することができる。

 預金や不動産のリストを作って、家族全員で情報を共有しておくと、実家を「売る」「貸す」などの判断もしやすくなるだろう。

まずは登記や修繕箇所の確認を

「法務局などで実家の登記簿謄本を入手して、権利関係者を確認しておきましょう。名義が自分の親であればいいですが、祖父のままになっていると相続人が増えることになるので厄介。

 親が健在であれば相続人たちとも交流があり、登記の名義変更もスムーズにいくかもしれません。早めに動くことが肝心です」

 将来、実家を売ったり貸したりしたいと考えている場合は、土地の面積を正確に知っておくことも大切だ。

 先祖代々受け継いできた土地は、隣地との境界が曖昧なこともあるので、親が生きているうちにはっきりさせておいたほうがいいだろう。

 築年数が古い家やマンションの場合は、配管や水回りなど、修繕が必要な箇所を確認しておくことも忘れずに。親にあらかじめ費用を負担してもらうという選択肢もある。

親が認知症になってからでは手遅れ

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 予想では、2025年になると65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれている。親が認知症と診断されると、親名義の不動産の売買が困難になり、不動産の処遇などを示しておく遺言書の作成ももはやできなくなる。

 しかし、元気な親に遺言書を書いてくれと言うのはさすがに気が引ける。そんな場合は、家族会議の場で親の考えや希望を聞いておこう。

近年では『家族信託』という制度で、親の財産を家族の誰かの名義にする方法もあります。

 家族信託とは、不動産や預貯金などの資産を、信頼できる家族に託して管理や処分を任せる仕組みのことです。

 遺言の場合は、親が亡くなるまで遺言書に書いたことを実現できませんが、この制度を利用すれば万が一、親が認知症になった場合でも、受託者である子どもが代わりに不動産を売却することができます」

☆負動産にしないために! 今からできる処分術
<1>親の死後、家をどうするか家族で話し合う
<2>登記や修繕箇所などをよくチェックする
<3>親が認知症になった場合を想定しておく

相続するかどうかは慎重に

 いざ親が亡くなって実家問題に直面したとき、知っておきたいのは、必ずしも相続することがいいわけではないということだ。

 所有した時点では財産であっても、相続後に「負の財産」になることもあるので、相続放棄の可能性もあわせて考えておく必要がある。

 住む予定のない親のマンションを相続してしまったが、老朽化しているため買い手も借り手も見つからない、だけど毎月の管理費や修繕積立金、固定資産税だけがかかってしまうなんて最悪だ。

「本当に相続をしたほうがいいのかどうかは、慎重に考えるべきです。とはいえ、コロナ禍でリモートワークやワーケーションが注目され、郊外の広めの戸建てなど、負動産とされていたものでも見直される例もありますから、まずはこれから相続する実家が傷まないようにメンテナンスをしておくことが大事といえるかもしれません」

相続税が8割減になる特例制度

 親が亡くなって家を相続するときに大きな問題となるのが相続税だ。実際には売れない家であっても、高額な評価額がつけられてしまえば莫大な相続税を支払わざるをえない。

 配偶者が相続する場合とは違い、子どもが相続するときには「配偶者の税額の軽減」が受けられないということもあり、相続税を安くすますことに越したことはない。

 ここで知っておきたいポイントは、親の不動産を相続する場合、「小規模宅地等の特例」という制度を利用すると、相続税評価額が最大で80%も減額できるということだ。

「例えば、賃貸暮らしをしていた子どもが実家に移り住んだ場合、一定の要件を満たせば、この特例の適用を受けることができます。

 仮に親1人子1人で、親が亡くなって1億円の実家を相続する場合は、相続するのが実家だけであれば相続税はゼロになります」

 ただし、この制度を受けるには、相続が発生してから10か月以内に申告しなければならない。

「実家を大切にしたい」「家業を大切に守っていきたい」と考えている人は、速やかに専門家に相談し、この適用を受けられるようにしよう。

DIY賃貸や住み放題サービスでリスク削減

 最近は、家を「売る」「貸す」方法が多様化しており、例えば借り主が費用を負担して自分の好きなように内装をリフォームできる「DIY賃貸」などが注目を集めている。

「誰も住まなくなった古い空き家を賃貸に出すには高額のリフォーム費用がかかりますが、DIY賃貸なら元手がない場合でも人に貸すことができます。

 借り主が初期の修繕費用などを自分で出して借りている物件なので、家賃滞納のリスクも低くなるでしょう」

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 そのほか、「月額数万円で全国住み放題」という空き家を再利用したサービスも登場している。

 最寄り駅から徒歩圏内で、間取りや広さなどに条件はあるが、空き家オーナーは使っていない家を貸し出してリノベーション費などの初期費用を負担するだけで、2〜3年で賃料収益が出るモデル設計になっているという。

 テレワークやワーケーションが推進されるなか、今後ますますニーズが高まりそうだ。

 また、売りたい人が仲介業者を通さず、自ら販売活動を行うネット上のサイトもできている。親の空き家を再利用したいと考えている人は、ぜひ活用してみたらどうか。

☆知っておきたい! 相続前後の処分術
<1>「相続しないこと」も検討する
<2>相続税の特例をうまく利用する
<3>最新の空き家利用法を活用する

都心の一軒家が負動産になることも

■都心の一軒家を相続したAさんの場合
 兄弟の意見の対立から、実家を売ることができずに時間だけが経過。空き家となった実家は日に日に老朽化していき……

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 私の実家は今でもずっと空き家のまま放置されています。1年前に亡くなった両親が遺してくれたのは、都心に立つ小さな一軒家。私には兄がいるのですが、実家の相続について話し合いが続いており、合意に至りません。

 兄は生まれ育った実家に強い愛着を持っており、「長男である自分が実家を引き継ぐのが当然。いずれは老後をこの家で過ごしたい」と主張。

 一方、弟の私は「実家は両親のものだったのだから、兄弟で分けるのが法律的に妥当。実家を売却してお金に換えるべきだ」と考えたのです。

 意見の対立の原因には、お互いの経済的な事情の違いもありました。

 兄の家庭は子どもたちがすでに独立していますが、私のほうは私立中学に通う娘と、受験を控えた小学生の息子がいて余裕がありません。私は相続した遺産を教育費に充て、家計の負担を少しでも減らしたいのです。

 兄は「年間約30万円の固定資産税は全額自分が負担するから……」と言いますが、売りたい私からしてみれば、兄が負担するのは当然のこと。

 私は「家は古くても土地はそれなりの価値があるので、売れるうちに売却してしまおう」と兄を説得していますが、親の実家にこだわる兄は納得がいかず、話し合いは決着が着かないまま1年が経過。

 古びていく実家を横目に、もっと早くから話し合っておくべきだったと後悔しています。

【注】上記は過去の事例をわかりやすく編集したものです。

 大切な親の実家。準備と心がけしだいで「負動産」にも、財産にもなるということを知っておきたい。