裏ゆたぼんちゃんねるのオープニング映像

「ハイサイまいど! 少年革命家、ゆたぼんです!」

 2019年に『琉球新報』で不登校ユーチューバーとして一躍全国にその名を轟(とどろ)かせたゆたぼんが中学生になった。不登校はそのままに。

 ネットニュースで自然と流れてくる彼の情報(どれも反響は大きい)に目を向けてみると、今もユーチューブを舞台に活動をしていることがわかる。最近はこんな感じ。 

《ゆたぼんが不登校児増加でアンチに通告「時代はオンライン」「学校行け!は完全に思考停止」》(東スポweb)

《「学校行きたくない子は行かんでええ」 不登校YouTuberゆたぼん、夏休み明けの子ども達を心配》(『J CASTニュース』)

 彼が話題になってから2年経った現在も、その時々で旬な「学校ネタ」に食いつく動画をアップしている。ことあるごとに「思考停止したらあかん! ロボットになるな!」との決め台詞を発するゆたぼんこそ、再生回数を稼ぐロボットになってはいないかと心配になる。しかしながら、そのべしゃりぶりはコメント欄に「島田紳助みたい」と書き込まれるほど、中一とは思えぬ見事な演説口調である。

 そんな彼が『ゆたぼんゲームズ』なるサブチャンネルを開設しているのをご存知だろうか。

 2019年9月から投稿をスタート。スマホゲームや『大乱闘スマッシュブラザーズ』『ポケットモンスター ピカチュウ』『マリオカート8デラックス』などのテレビゲームを“やってみた”動画が並んでいる。登録者は3000人ほどで、メインチャンネルの15万人とくらべるとだいぶひっそりとした活動だが、偶然筆者も発見したので視聴してみた。

 最初の動画から遡(さかのぼ)ってみてまず驚いたのは、ゆたぼんがメインチャンネルとは打って変わって、コントローラーを操作をしながらワー! キャー! とはしゃいでいる姿。そのトーンというか、声質が完全に“普通の子ども”なのである。

 きっと、少年革命家をやっているときよりも、こちらのほうが素なのだろう。そもそも小学生にして「喋りが紳助」と言われるほうが異質なわけで。しかし、純粋にゲームを楽しむゆたぼんからは、それ以上の切ない雰囲気が漂っていた。

対戦ゲームをひとりでプレイして

 彼が最も本数をアップしていたのは『スマブラ』こと『大乱闘スマッシュブラザーズ』の動画。任天堂の看板ゲームのひとつで、マリオやピカチュウといった人気キャラたちがソフトの垣根を越えて登場する“対戦ゲーム”である。今ではオンライン対戦もあるが、まずは友達や家族とプレイするところから始めるのが、“一般的な子ども”が本作を楽しむにあたっての第一歩であろう。

『大乱闘スマッシュブラザーズ』をプレイするゆたぼん(『ゆたぼんゲームズ』より)

──だが、ゆたぼんは初めからずっとひとりだった。プレイすること自体がはじめてなのかCPU(コンピューター)の敵を前に、

操作がわからない! あ〜どうやったらいいの〜! やばいよ〜!

 と四苦八苦している。誰か彼に「これが攻撃ボタン、これがジャンプだよ」と教えてあげる友達はいないのか。敵に倒され続けるばかりで一向に成長しないゆたぼんを見ていると、なんだか特別な情がわいてくる。誰かこの子と一緒にプレイしてあげてほしい、一緒にワイワイ楽しんであげてほしい、との謎の親心。

チャンネル名変更に漂う“哀愁”

『マリオカート』のプレイ動画でもそう。冒頭の画面から「ひとりで」「みんなで」「インターネットで」と一通りカーソルを合わせながら、結局『ひとりプレイ』を選んで、

「まぁ、俺はひとりです」

 とつぶやきカメラ目線。一瞬空いた絶妙な間に生まれる哀愁。自虐で言っているわけではなさそうだが、“ひとりマリオカート”はあまり聞いたことがない。

 そんなこんなで『ゆたぼんゲームズ』の動画を続けてみてしまったわけだが、最も悲しいのはこのチャンネルが2020年12月を境にゲームプレイ動画をアップしなくなり、2021年には『裏ゆたぼんチャンネル』と改名してしまったことだ。4月にアップされたのは『カキフライの自動販売機がヤバかった』とタイトルのついたゲームとは全く無関係のコンテンツだった。

珍しい「カキフライの自販機」を紹介するゆたぼん(『裏ゆたぼんチャンネル』より)

 この動画からラッパー口調で「ウラ! ウラ! ウラッ! 裏ゆたぼん!」とのナレーションがついたオープニング映像も実装されており、完全にリニューアルをしていることがわかる。そして、「はいっ、今日はね、東京に来ているんですけれども。こちら見てください、自動販売機!」とオープニングトークを始めたときは、もう紳助喋りで──。

 かつて「今はYouTubeやっているけど飽きたら(別の)好きなことをやる」と語っていたゆたぼんだが、あれだけカメラの前で楽しそうにしていたゲームチャンネルを“なかったこと”にしたのは再生数が稼げなかったからだろうか。それとも、ひとりでやるゲームにもう飽きてしまったのだろうか。

 義務教育の名の下に小学生たちはたまたま近所に住み、偶然同じ学区だったというだけで“クラスメイト”と括られてしまうわけだが、一緒に『スマブラ』や『マリオカート』を楽しめる友達は、そんな縛りのなかから自然とできていくものなのかもしれない。

 直近のゆたぼんはメインチャンネルで、平日の朝からゲーセンでメダルゲームをする動画(7月4日)をアップし、「貸切です! 俺たち以外誰もいない」とドヤ顔をみせていた。誰もいないのはそりゃ、みんな学校に行っているからだろう。娯楽がテレビゲームからメダルゲームへ。これを不良の階段を登る姿と重ねてしまうのは、私の地元でのみ通用するあるあるだろうか。

 ゲームチャンネルで「うわー敵が強い! もう一回!」と興奮していたあの子は、もうじき声変わりを迎える。

〈皿乃まる美・コラムニスト〉