BTS

 ムード歌謡グループ「純烈」のファンによるメンバー脅迫事件が先日起こったが、お隣の韓国ではアイドルファンによる暴走行為が以前より頻発。事件化することも多々あり、大きな社会問題となっている。

 その象徴ともいえるのが「サセン」の存在。韓国語の「私生活」=サセンファルがその語源となっているように、私生活を執拗に追い回すストーカー的ファンの総称で、各地でトラブルを巻き起こしているのだ。

屈強なガードマンもなんのその

「事務所前の出待ちなんてレベルではありません。アイドルの宿舎前で24時間体制で待ち伏せし、アイドルが外出すれば車を使って追跡。海外のスケジュールがあれば同じ飛行機に乗り、同じホテルに宿泊し、ひたすら追いかけては盗撮や接近を試みる。

 サセンの多くは10~20代の若い女性ファンなのですが、屈強なガードマンにも食って掛かるほど図太く、なおかつスパイ並みに情報収集能力に長けている。この厄介な存在に多くのアイドルが悩まされています

 と語るのは、韓国のアイドル文化に詳しい日本人ライター。

 アイドルの宿舎の住所や携帯電話の番号はネットを通じて内密に売買されていて、フライト情報にいたってはツイッター上で堂々と取引され、日本円にして数百円程度で入手可能。サセンを相手にしたビジネスとしては、サセンを顧客とした追っかけ専門の個人タクシーもソウル市内に存在しているという。

 そのタクシーを利用した経験があるという日本人女性(30代)によると、値段は状況次第で変わるものの、1回3時間前後のチャーターで2万円程度からが相場。車を所有していない学生や外国人のサセンが主な利用者で、日本人も少なくないという。

「数台がチームで動いていて、運転手のアジョシ(おじさん)たちはアイドルの外出情報を常に無線でやり取りしていましたね。私の場合、追っていた男性アイドルが人気女優とカフェバーで密会する現場に遭遇したことも。ショックだったものの、スクープを取ったパパラッチのような気分になりカメラを連写しました(笑)。

 私以外にも数人、盗撮しているサセンがいましたが、愛があるから追っかけているので、公にすることは基本ないですね」

BTSメンバーも「怖い」

 K-POPの世界的人気とともに、英語圏では“Sasaeng fan”で通ずるまでにサセン問題もグローバル化。ブームをけん引するトップアイドルも大きな被害を受けている。

 BTSはワールドツアーの際にはチャーター機を利用することで話題になったが、実はこれ、サセンからメンバーを守るため事務所が講じた苦肉の策。

 メンバーのVは、動画配信アプリのライブ放送を通じて「本当は普通の飛行機に乗りたいけれど、僕たちが乗るのを知って、近くの席に座る方(サセン)がいます。私的な空間なのにくつろぐことができなくて居心地が悪かった」とチャーター機を利用することになった経緯を告白。怯えるような目で「本当に怖いです」と言葉を重ね、深刻な被害を浮き彫りにした。

ナヨンへの愛を訴えるドイツ人ファン(YouTube『Josh1994』より)

 2年前に始まったTWICEのナヨンのサセン被害も心配な状況だ。ナヨンを自分の恋人だと思い込んでいるドイツ出身の男に断続的にストーキングされ、事務所は男を業務妨害罪で刑事告訴。

 しかし、男はドイツに帰国中の今もユーチューブを通じてナヨンへの変わらぬ愛を語り、先日も「もうすぐ韓国に会いに行く」と発言。危険性を感じたファンはSNSで「#ProtectNayeon」のハッシュタグを拡散し、「ナヨンを守って!」と事務所に訴えている状況だ。

「韓国では新型コロナの防疫対策として、厳しい行動規制が繰り返し発令されていますが、サセンの暴走は止むことはありません。最近も男性グループTHE BOYZの宿舎の建物内にサセンが潜入しメンバーを盗撮。不法侵入の疑いで警察に逮捕されました。事務所は声明文を出し、『アーティストやスタッフの精神的、肉体的苦痛が深刻な状況』と訴えました」(芸能専門サイトの韓国人記者)

 サセン被害が止まない中、注目されているのが今年10月21日から施行されるストーキング犯罪処罰法だ。これまで軽い処罰しか科されなかったストーカー行為への罰則が強化され、相手の意思に反して接近し付きまとうことや、住居地で待ち伏せし見張る行為のほか、通信媒体を使い連絡を取ることもストーカー行為とみなされることに。サセンへの抑制になることが期待されている。

愛憎は表裏一体

 韓国の芸能界で、サセンとはまた違った形でアイドルたちの活動を脅かすのがアンチと呼ばれる存在だ。アイドルの活動を妨害することを目的に活動をする人々の総称で、SNSの拡散力を巧みに使って組織的に動くのが特徴。ときにメンバーの脱退やグループ解体につながることもあり、芸能事務所も無視できない存在となっている。

EXOのチェン

「アンチの多くが実は元ファン。異性問題や不祥事の発覚をきっかけに、好きから嫌いに転じてしまうパターンです。ここ最近で一番、アンチ活動が激しかったのが'20年1月に授かり婚を電撃発表したEXOチェン。好青年キャラのいわゆるリアコ枠だったのでファンの衝撃は大きく、アンチに転じてしまう人が続出。

 同志が結集し、グループからの脱退を求めて座り込みデモを行ったほか、脱退要求の広告をバスや新聞に掲載するなど、大々的なアンチ活動を展開しました」(前出の韓国人記者)

 同グループのチャンヨルも、10股疑惑をきっかけにアンチが大量発生。アンチ扇動組織のひとつが募金で集まった資金で「チャンヨルOUT」と記載したアドバルーンを彼の所属事務所前に飛ばすなど、派手な要求が話題を呼んだ。

「韓国の芸能界では、ファンが自主的に応援グッズを作ったり、カンパを募って現場にケータリングサービスを手配したり、ファンが運営の一部を担うような文化があり、その声が芸能事務所にかなり尊重されてきた過去があります。気に入らないことがあれば即異議を唱えるのもその流れ。それに影響されてでしょうか、日本を含む海外のK-POPファンの間で『#〇〇脱退しろ』とカジュアルにアンチ活動をする人が増えているのが気掛かりです

 とは前出の日本人ライター。

「韓国では現在、スポーツ界や芸能界を中心に過去のいじめの告発が相次いでいて、人気アイドルも次々と騒動に巻き込まれました。疑惑を掛けられたアイドルはもれなくSNSで脱退要求が出されていましたが、事実無根だったケースも多く、二重の被害に遭ってしまったようなもの。いじめ騒動とは別件ですが、東方神起ユンホに脱退要求が一部ファンから出ているという件も気掛かりです。

 ユンホは今年2月、新型コロナの防疫規制に違反した件で立件されましたが、2人組なのに脱退要求とは何事かと(苦笑)。安易にアンチに転じる前にまず情報を精査し、自分の考えを整理すべきだと思います」

 アイドルとは本来、崇拝される対象で、あこがれの象徴。間違っても歪んだ愛の対象にしたり、ストレスの解消口にしないようにしたいものだ。

取材・文/新森実夏