『うきわ-友達以上、不倫未満-』で主演を務める門脇麦

 日本中を熱狂させた「東京オリンピックの閉会式翌日」というエアポケットのような日にスタートしてから8週間。女性視聴者たちを中心にジワジワと支持を集めてきた『うきわ -友達以上、不倫未満-』(テレビ東京系)が27日の夜、最終話を迎える。

 振り返ると今夏のドラマは不倫をテーマに扱ったものが多かった。『にぶんのいち夫婦』(テレビ東京系)、『サレタガワのブルー』(MBS・TBS系)、『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系)、そして『うきわ』の計4作。それぞれ深夜帯の放送だけあって、生々しいベッドシーンなど扇情的な描写が見られた中、『うきわ』だけはプラトニックな世界観を貫き通してきた。

 同作の中心人物は、同じ社宅に住むパート主婦の中山麻衣子(門脇麦)と二葉一(森山直太朗)。麻衣子の夫・拓也(大東駿介)は同僚の福田歩(蓮佛美沙子)と、二葉の妻・聖(西田尚美)は陶芸教室の講師・田宮悠(田中樹)と「浮気を重ねている」という共通点を持っていた。

 隣室に住む2人は、ベランダの防火扉をはさんでの会話で距離を縮め、ゴミ出しの日だけは顔を見て話せるようになり、第4話でようやく秘密の食事デートを実行。しかし、帰り道に少し手をつないだだけで終わり、関係にまったく進展はなかった。

我慢するほど背徳感が増していく

 第5話で麻衣子は勇気を出してベランダの壁を強引に乗り越え、一に気持ちを伝えようとするが未遂に終わる。第6話でも2人は隣り合わせの壁を叩き合って会話するピュアさを見せ、最終話目前の第7話でも早朝のスローランニングで会話するだけというプラトニックな関係を続行。

 さらに拓也と聖がそれぞれ不倫相手と別れたことで、この関係すら清算させたほうがいいというムードが漂いはじめる。しかも麻衣子は「自分ばかり救ってもらっていた」ことに気づき、「自分も一を救うために夫婦の応援をする」ことを決意した。

 このように不倫された者同士であり、何も悪いことをしていないのにもかかわらず、距離を取り続ける2人の姿が視聴者を引きつけている。肉体的な接触を我慢している分だけ精神的な思いは深くなっていき、むしろ他作以上に不倫の背徳感を感じている視聴者は多いのではないか。

 特筆すべきは、2人の深層心理を描いた演出。たとえば「海でおぼれている麻衣子が投げ込まれたうきわに助けられる」などの描写が何度となく挿入されている。この演出が「いかに2人が精神的に支え合い、抑制的な関係を保とうとしている」ことを感じさせ、視聴者の感情移入を加速しているのだ。

 原作漫画では夫の浮気を嘆いた麻衣子が、「うちはもう二葉さんと一緒になりたーわ」とぼやくカットがあったが、ドラマ版では見られない。こんなところにドラマ版の作り手たちの、「どこまでもプラトニックな不倫を追求している」という姿勢を感じさせられる。

結ばれたら“よくある”不倫に

 そして最終話は、どんな結末を迎えるのか。一に福岡転勤の辞令が出たことで、麻衣子との関係性は崩れるのは間違いない。

 また、麻衣子と拓也の離婚は、ほぼ確定と言っていいだろう。実際、第7話では、麻衣子がスマホで慰謝料請求の検索をしながら「1人でやってけちゃう」とつぶやくシーンがあった。そのほかでも、一に「私は元どおりには頑張れそうもないです」「夫に傷つけられても、もう傷つけてやりたいとも思えなくて」と打ち明けるシーンもあり、視聴者感情を考えても「離婚して新たな人生を踏み出す」ことが推察される。

 じゃあ麻衣子は一と結ばれるのか……といえば、こちらは疑問符がつく。ここまでプラトニックを貫いてきた2人の魅力的な関係性が、結ばれることで“よくあるもの”になってしまうからだ。たとえば、「いったん別れるが数年後に再会して結ばれる」という連ドラでよく見る形も、この作品ではチープな印象を残してしまうリスクが高い。

 いずれにしても、最後まで2人がプラトニックのまま終わる可能性は高いのではないか。このままほぼ肉体的な接触がないままラストシーンを迎えたら、「コロナ禍にフィットするソーシャルディスタンスな不倫ドラマ」として、より印象に残る作品になるかもしれない。

 さらに言えば、距離感を保ちながら、視聴者に色気を感じさせ、背徳感を抱かせたのは、作り手たちの技術によるところが大きい。とりわけ昨年、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)を手がけた風間太樹監督の演出は、視聴者の想像力をかき立てるような見応えがあった。

俳優・森山直太朗の才能が開花

 最後にこの作品を語る上で、もうひとつふれておきたいのが、“俳優・森山直太朗”について。

 門脇麦の力はすでに各所で認められてきたが、今作では森山直太朗の演技に、より称賛の声が集まっている。森山が演じる二葉一は、さえない中年男でありながら、少年のような繊細さを持ち、それでいて慈愛を感じさせるキャラクター。さらに表情や所作の1つ1つから、枯れた色気のようなものを漂わせていて、それが「部下の妻に慕われる」という説得力につながっている。

森山直太朗

 森山の俳優デビュー作は、2014年の『HERO』(フジテレビ系)。当時13年ぶりの続編で世間の注目が集まる中、いきなり重要な第1話の犯人役を演じた。主演の木村拓哉が「『ホントに演技は初めて?』と驚いた」というエピソードが才能の片鱗を感じさせる。

 そこから6年の月日が流れた昨年、『心の傷を癒すということ』(NHK)と『エール』(NHK)の2作に出演。ともにNHKらしい技量優先のキャストに混じって好演したが、いずれも主要キャストではなく、「森山にどこまで力があるのか」は未知数だった。現在45歳であり、俳優業への熱は本人にしかわからないが、今作を機にオファーが増えるのは間違いないだろう。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。