ヒロインを演じる清原果耶

 今月、いよいよ最終回を迎える朝ドラ『おかえりモネ』。菅波とはどうなる? 未知は? コロナは描かれるのか?今後、ラストに向けてどんな展開になっていくのかーー。注目すべき点を、放送コラムニスト・高堀冬彦氏が解説する。

「俺たちの菅波」現象も

 NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(月~土曜午前8時)が佳境に入った。10月29日放送が最終回だ。

 この朝ドラを当初、「暗い」と評する向きがあったが、逆にこれほど見る側の気分をブルーにしない朝ドラは珍しいのではないか。

 悪人が1人も登場しないからだ。ヒロインを裏切ったり、騙したりする人間は出て来ない。衝突した人同士もやがて分かり合う。古典的な朝ドラとは違った。

 一方、愛すべき登場人物は多い。まずは何と言っても青年医師・菅波光太朗(坂口健太郎)である。言うまでもなくヒロインのモネこと永浦百音(清原果耶)の恋人だ。極端なまでにシャイで、恋に不器用であるため、好意を抱いていたモネとの距離をなかなか縮められなかった。

 菅波はモネと第1話(2014年)から宮城県登米市の米麻町森林組合内で一緒に働いていながら、やっと好意を示せたのはモネが上京した後の第80話(2016年)。モネを抱き寄せ、抱擁した。

 それまで視聴者側はじらされ続けた。菅波も自分をふがいなく思っており、自虐的に「小学生か」とつぶやいたこともある。2年以上、手も握れなかったのだから、その言葉もあながちオーバーではない。

 半面、シャイで不器用だからこそ、視聴者は菅波のファンになった。「俺たちの菅波」と称して応援する声がSNS上に溢れた。この現象は制作陣も予期せず、驚いたという。

 森林組合と東京の大学病院を往き来していた菅波は第85話(2017年)を最後に森林組合に常駐することになった。東京で暮らすモネとは遠距離恋愛に。現在(2019年)はモネが気仙沼市亀島に帰郷し、一方で菅波が東京勤務なので、離ればなれが続いている。

「距離が愛を冷ましてしまうのではないか」と危惧する声がSNS上で見られるが、心配は無用だろう、2人は第85話で固く結びついた。

 遠距離になる前のモネは恋の行方に不安を抱いていた。だが、菅波は忙しく、それについて話し合えなかった。やっと会えた菅波に対し、モネは「離れちゃって大丈夫なんですかと聞きたかった」と告げる。ちょっと拗ねながら。

 直後にモネは預かっていた菅波の部屋のカギを投げて返した。菅波は右脳の働きが弱く、投げられた物を捕れないのだが、それを忘れていた。

 ところが、菅波はしっかりと掴み取る。そして直後にこう約束する。

「結論から言うと、大丈夫です。今後は何を投げられても、あなたが投げる物なら、僕は全部捕ります」

 これに感激したモネは菅波に抱きついた。この時、2人は距離を超越できる存在になったと見ていい。

コロナは描かれるのか?

 今後が不透明なのはモネの2歳下の妹・未知(蒔田彩珠)だ。宮城県水産試験場の研究科に勤務する未知は東京国際海洋大学の研究室から誘われている。101話(2019年)で分かった。高温に強いワカメの種苗を発見するなど優秀だからだ。

 未知はモネに対し「公務員やりながら研究するほうが安定している」「東京、苦手だし」と大学行きを否定したものの、行きたい気持ちもあるようだ。秘かに2020年度入学のAO入試の要項をネットで調べていた。

 未知は高卒後に就職した。第33話(2015年)で父・耕治(内野聖陽)は進学を勧めたが、「私はすぐに働きたいの!」と突っぱねた。それなのに大学に心が動き始めたのはモネが帰郷したから。

 未知は自分のせいでモネが高卒後に亀島を出ていったことを知っていた。モネが東日本震災時に島にいなかったことを責めたからだ。だから、自分は島に残り、家族と一緒に暮らさなくてはならないという使命感を抱いていた。

 もっとも、姉妹は第94話(2019年)で8年半ぶりに和解。だからモネは家に帰ってきた。これによって未知は解放された。ただし、片思いを続けてきた漁師の及川亮(永瀬廉)との問題が残されている。

 耕治は2020年4月から勤務先のみやぎ銀行で本店営業部長になることが決まっている。母・亜哉子(鈴木京香)はモネと未知に向かって「本店の営業部長ってすごいのよ」と説明したが、確かに実際の銀行でも大抵は役員コースだ。

 栄転後の耕治は仙台に単身赴任する予定だが、ここにきて家業であるカキの養殖業を継ぐ可能性も出てきた。「私が継ぐ」と言い始めた未知を自由にしてあげたいからだ。

 亜哉子は耕治が反対しているものの、亡き義母・雅代(竹下景子)の跡を継ぎ、自宅で民宿を始めるはず。雅代のようになることが目標だからである。

 2020年は永浦家にとって新たなスタートになりそうだが、それは困難な日々の始まりかも知れない。誰もが知るとおり、同年1月から日本はコロナ禍に見舞われたからだ。

『おかえりモネ』の清原果耶と『おちょやんの』杉咲花が出席した、朝ドラ恒例のヒロインによるバトンタッチセレモニー

 この朝ドラの脚本を書いている安達奈緒子さんはNHK『透明なゆりかご』(2018年)などを過去に手掛けてきたが、持ち味の1つはリアルな作風。この朝ドラも現実離れしたエピソードがなかった。モネらが間もなく迎える2020年も描くとすれば、たぶんコロナ禍から逃げないだろう。

 コロナ禍も盛り込まれるとしたら、永浦家はどうなるのだろう。耕治は予定どおり単身赴任するのか。亜哉子は民宿をやれるのだろうか。もちろん医師の菅波も気になる。物語では既に2019年後半。コロナ禍突入の直前で終わったら、それも不自然だろう。その後の永浦家や菅波の苦労を想像してしまい、かえって悲しくなる気がする。

 撮影は9月3日に終わっているものの、今後の物語はトップシークレット扱い。どの朝ドラもそう。どんな結末が用意されているのか注目される。

 まだ気になることがある。モネと未知の祖父・龍己の体調だ。第91話(2019年)の突風で壊れたカキ棚を直そうとしなかった。気力、体力ともに衰えたように映る。

「残った棚だけでやるのが今の俺にはちょうど良いんだよ」(第101話の龍己)

 龍己は永浦家の背骨のような存在で、家族を精神面で支えてきた。まだ元気でいてほしい。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立