「やっぱりブイ(浮き)の近くにいた。息継ぎのため毎日のようにそこで顔を出す姿が目撃されていたほか、ワニガメの習性を考えるとそう遠くにはいかないから。想定外だったのは、遊泳能力が高かったことと、予測よりは行動範囲が広かったこと

 茨城県つくば市の公園内の池で18日午前10時すぎ、巨大ワニガメを捕獲した体感型動物園「iZoo(イズー)」の白輪剛史園長(52)はそう言って、足かけ13日間におよんだ捕獲作戦を振り返った。

捕獲に成功した白輪園長

 捕獲できた最大の要因は、「全長60メートルの金網のフェンスで居場所を囲い込めたこと」という。

 ワニガメが水面に顔を出すとスタッフが輪になって静かに包囲をはじめた。フェンス内の障害物をひとつずつ取り除き、ワニガメが身を隠す場所をなくしていった。フェンスをせばめていく前に捕まえることができたが、捕獲は時間の問題だった。

 前回14日の探索は、早朝2時間半だけという時間的制約に縛られる中、白輪園長が単独で池に潜った。ワニガメが水面に顔を出したらすぐ池に入って捕まえにいく作戦だった。

 しかし、ワニガメは姿を見せず、タイムリミットが迫って“見切りダイブ”に。ボンベの酸素量は約1時間しかなく、「視界約5センチ」(白輪園長)という水中の濁りと、池底の石や流木などに邪魔され捕獲できなかった。

「絶対にブイの近くにいるんだよ。おそらく半径数メートル以内にいる。やっぱり姿を見せるまで待たないとダメだね」

 と反省。息継ぎ時につかまりやすいブイのある目撃ポイントから目をそらさなかった。

 白輪園長は過去3度の捕獲作戦では肉眼で姿を見ておらず、「この目で見たら捕まえる自信がある」と話していた通りになった。

 なにしろ毎度、静岡県から片道4時間以上かけて往復しているから負担は大きい。さらに捕獲作戦は人件費も交通費もすべて自腹というボランティア。本業をこなしながら楽な作業とは言いがたい。

 ワニガメの生態を知り尽くす白輪園長は、一時的に居場所を変えたとしても必ずブイ付近に戻って来ると確信していた。

 きょう18日はそれまでの教訓を生かし、スタッフ8人態勢でワニガメが顔を出すのをひたすら待った。時間的制約を設けず、潜水用の酸素ボンベも十分な量を持ち込んだ。報道陣に対しては「ワニガメが警戒してしまう可能性があるため、私たちが池に入るまでは遠巻きに撮影していただけませんか」と申し入れ、静かな環境を整えた。

 ひとつずつ可能性をつぶし、失敗は認めて軌道修正し、ワニガメ目線で考える──。

 それが“珍獣名探偵”のプロフェッショナルたるゆえんなのだろう。

ワニガメは敵じゃない

 捕獲作戦を始めたころは、ワニガメが捕食する池の魚をブイ付近に集めるため撒(ま)き餌をしたり、エサを入れた罠(わな)を仕掛けるなど試行錯誤を繰り返した。

 白輪園長は罠について「ワニガメは警戒心が強く、捕食スタイルは“待ち伏せ型”なので罠のエサを食べに行く可能性は低かった」と話し、これきり罠を仕掛けるのはやめた。

「ワニガメは陸に上がって生活することはない。動物を主食としておらず、ワニガメのほうから人間を襲ってくることはない。陸上で活動するアミメニシキヘビとは異なり、池に不用意に近づかなければ被害は避けられる」

 と話したこともある。

 ただし、あまりのんびりもできなかった。

「カメは10、11月ごろから来春まで冬眠に入ってしまう。冬眠中は居場所の特定は無理。暖かい日が続いているうちが捕獲のチャンスで、気温が10度を下回るようになると難しくなるから」(白輪園長)

 それはワニガメを怖がる人間のためだけではない。

「この池にワニガメの天敵はおらず生態系のトップに君臨する。在来種ではないため池の生態系は破壊されてしまう。ワニガメのためにも早く無傷で捕まえてちゃんと飼ってくれるところに引き渡してあげたい」(白輪園長)

 今年5月に横浜市戸塚区のアパートから逃げたペットの巨大アミメニシキヘビについて、「まだ室内にいるはず」と推理をはたらかせて屋根裏にのぼると、あっという間に捕まえてみせた“名探偵”。地元警察が捜索済みの場所だったにもかかわらず、アパート所有者に直談判し、部屋を損壊したときは自腹を切る約束までして捕獲につなげた。

“対戦相手”がワニガメに変わっても、捕獲時になるべく傷つけないよう配慮した。

 捕獲後、白輪園長に聞いた。

 こんどの敵は手ごわかったか──。

「手ごわかったからこそ時間がかかった。初日の15分で捕まえられると思っていたから。ワニガメの能力をみくびっていた。それと、ワニガメは敵じゃない。仲間だからね」

 そう言って笑った。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する。ウェブ版の『週刊女性PRIME』『fumufumu news』でも記事を担当