ひざ ※画像はイメージです

 日本人の5人に1人、2500万人以上を悩ませ、特に中高年の女性に多く見られる「ひざ痛」。これはひざのクッション機能が落ちることによる病気。放っておくと、歩行困難から寝たきり状態になるリスクも。でも、自宅でできるセルフケアで改善が可能! ひざを曲げたり伸ばしたりの簡単エクササイズを紹介。

 中高年になると、ひざの痛みに悩まされる人が増える。特に痛みが出やすいのが、動き始めや階段を下りるときだが、これはなぜ?

「実は、歩くときには体重の約3倍、階段の上り下りにいたっては体重の約8倍の力が、ひざにはかかっています」

 そう話すのは、100万人超の診療実績があり、数多くのひざ痛患者を救ってきた治療家の酒井慎太郎先生。

ひざの軟骨は修復されない

「もちろん、ひざにはこの負担を軽減する機能も、ちゃんと備わっています。ひざ関節を構成するのは、太ももの骨である大腿骨と、すねの骨である脛骨。この2つの骨がぶつかり合わないように、骨の端は厚い軟骨でおおわれ、骨の間には半月板という軟骨組織もはさまっているのです」(酒井先生、以下同)

 体重の何倍もの力がかかっているのに、ひざがスムーズに動くのは、これら軟骨のクッション機能のおかげ。

「ところが、こすれ合ったり衝撃を受けたりするうちに、軟骨は徐々にすり減っていきます。軟骨には栄養を運ぶ血管が通っていないため、その損傷が修復されることは、残念ながらありません」

 おまけに、すり減った軟骨組織は弱くなっているため、軽くひざをひねるなどの日常動作でも傷つく。

日々の積み重ねで炎症に

「この積み重ねによって、クッション機能が壊れて、ひざに痛みや炎症が起こるのが変形性膝関節症。動き始めや階段の下りで痛みを感じるのは、この病気の初期段階です」

 軟骨には神経も通っていないので、すり減ったり傷ついたりしても、痛みを感じることはない。では、あの痛みはどこで生じるのか。

「近年、ひざの痛みには膝蓋下脂肪体という組織が大きく関わっていることがわかってきました。これはひざのお皿の下にあり、クッションの役目を果たす脂肪組織で、神経が多く通っています」

 膝蓋下脂肪体も軟骨と同じように、衝撃を受け止めるうちに硬くなり、クッション機能が失われていく。

「すると、硬くなった脂肪体とひざのお皿で摩擦が生じ、炎症が発生。脂肪体の神経を通じて、痛みを感じると考えられています」

身体の重みがひざに集まる最悪の姿勢

 変形性膝関節症は長い時間をかけて、少しずつ悪化する病気。今、ひざ痛がない人も、軟骨がすり減っている可能性は大いにある。

最初はひざの動きに違和感を覚え、40~50代あたりから痛みが出始めるのが、変形性膝関節症の典型的なパターン。そのまま放っておくと、ひざ関節が硬くなり、曲げ伸ばしができなくなります。歩行が困難になると、寝たきりになるリスクも高まるので、痛みが出始めた段階で対処して、進行を食い止めましょう」

 そのためには、変形性膝関節症の発症や悪化の要因となる、次の2点に気をつけたい。

1点目は姿勢。背中や腰を丸めた悪い姿勢で立つと、バランスをとるためにひざが曲がります。すると、ひざの骨の一部に体重が集中。その部分の軟骨がすり減っていきます」

 2点目は運動不足。

「ひざを動かさなくなると、ひざを支える太ももの筋肉の機能が低下。筋肉のバランスも崩れるので、軟骨組織にかかる力に偏りが出て、損傷を招きやすくなります。また、関節内は潤滑油の働きをする関節液で満たされていますが、動かずにいると、この関節液の循環も悪くなります」

 ひざがすでに痛い人は、ひざをかばって姿勢が悪くなりがち。運動も難しい。「そこで、おすすめしたいのが『1分ひざトレ』。ひざの痛みは、関節内で骨がぶつかったりひっかかったりすることで発生します。1分ひざトレは、そんな狭まった関節を広げて、可動域を正常に戻すことで、痛みを改善するメソッドです」

 酒井先生のクリニックで、ひざ痛の患者さんにこの1分ひざトレを実践してもらったところ、なんと99%の人に効果が見られたという。

「ひざ痛は自分で治すことができます。痛みがやわらいだら、正しい姿勢やウォーキングなどの運動を心がけて、ひざの健康を守りましょう」

まずはひざの状態をチェック!

 自分に当てはまる項目にチェックを。チェックが5個以下なら、ひざの機能が徐々に低下中。6~11個なら、ひざの可動域がかなり狭まっている可能性あり。痛みがあるなら炎症のおそれも。12個以上なら、ひざのクッション機能が大きく低下。放置すると歩行困難になるかも!?

□荷物を同じ側の手で持ったり、肩にかけたりする
□足を組む癖がある
□ひざを曲げるような動作のときは「ポキッ」、
伸ばすときは「パキッ」という音が鳴る
□痛くはないけれど、ひざが伸びにくくなった
□階段の上り下りで、下りがつらくなった
□正座をするのがつらい、あるいはできない
□靴底の外側がすり減っている
□じっとしていてもひざが痛い
□首痛や腰痛がある
□ひざの真裏にシワができやすい
□高齢女性である
□O脚が進んだように感じる
□デスクワークでひざを曲げている時間が長い
□立ち上がるときにひざが痛い
□階段では手すりがないと怖くて歩けない
□ひざが腫れたり、熱を帯びたりすることがある

おすすめのひざトレ3選

 関節に負荷をかけずに、ひざの柔軟性を取り戻すストレッチを3つ紹介。どれか1つを1日1分実践。最低でも3週間は続けてみよう。毎日取り組むと、ひざをまっすぐ伸ばす、しっかり曲げるという動きができるようになる。

ひざ押しストレッチ

ひざ押しストレッチ

回数の目安:1日1~3回

 最初に取り組みたいストレッチ。片方の足をいすや台などにのせて、ひざをまっすぐに伸ばす。同じ側の手をひざのやや上にのせて、イタ気持ちいい範囲でゆっくりと、ひざに対して垂直に押し込む。足の力を抜き、つま先は内側に向けて30秒キープ。反対側でも行う。

入浴ひざ曲げエクササイズ

回数の目安:毎日入浴時に行う

入浴ひざ曲げエクササイズ

 関節の硬さがほぐれる入浴時にひざを曲げるストレッチを。湯船につかり温まったら、両手ですねを軽く持
ち、太ももを胸元へと近づける。かかとがお尻に近づくくらいにひざを曲げたら、つま先を交差するように足を重ね、両ひざ下を内側にひねり、30秒キープ。

ひざのテニスボールストレッチ

ひざのテニスボールストレッチ

回数の目安:1日1~3回

 関節内のスペースを広げるストレッチ。床に座り、片方の足のひざを軽く曲げて、テニスボールをひざの裏の中央に当てる。両手を組んですねに当て、ゆっくりと足を抱え込むようにひざを曲げていく。そのままあおむけに寝て、ひざを曲げた状態で30秒キープ。反対側の足でも行う。


ひざトレを教えてくれたのは……酒井慎太郎先生●さかいクリニックグループ代表。腰・肩・ひざの痛み、スポーツ障害の改善が得意で、プロスポーツ選手の治療も手がける。著書は『脊柱管狭窄症は自分で治せる! 』(学研プラス)など

酒井先生の新刊『1日1分! ひざトレ 変形性膝関節症は自宅で治せる!』(内外出版社)。12種類のひざトレのほか、ひざを守る生活術も満載 ※画像をクリックするとアマゾンの詳細ページにジャンプします

(取材・文/中西美紀)