岸田文雄総理、立憲民主党の枝野幸男代表

 コロナ禍になって、政治と暮らしが密接につながっているのを実感した人は多いはず。政治に関心があってもなくても、誰もが無関係ではいられないのが現実……。そんな政治や選挙にまつわる謎&疑問について、政治学者がわかりやすく解説。衆院選で1票を入れる前に押さえておきたいキホン、女性目線で教えます!

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選挙編

■なぜ選挙カーで「名前を連呼」しているの?

 選挙間近になると近所を走り回る選挙カー。なぜ名前の連呼ばかり? 政治学が専門で三重大学教授の岩本美砂子さんに詳しく聞いてみた。

岩本美砂子さん

 実は、走行中の選挙カーでは、政策を訴えるなどの「選挙運動」(候補者の得票に有利となる活動)は公職選挙法違反になるのだ。ただし、名前などの「連呼行為」なら例外的に許されている……。

「停止中の選挙カーの上でなら演説も認められています。ほかにも公職選挙法にはさまざまな禁止事項があります。多くの国では、有権者への戸別訪問は選挙運動の中核ですが、日本では禁止。政策を訴える重要なアイテムである選挙ビラにも証紙が必要で、枚数制限があります。これらの規制は、資金のあるなしで候補者の選挙運動に差が出すぎないためのものですが、結果的に選挙の自由が規制されている一面もありますね」(岩本さん、以下同)

 候補者の政策や人柄をより深く伝わるためには、公職選挙法を見直すべき!

■選挙に出るにはどれぐらいお金がかかる?

国会議員選挙に出るには、衆議院・参議院ともに、選挙区では300万円、比例代表では600万円の供託金が必要です。一定の得票数(衆議院小選挙区なら有効得票数の10分の1)を満たせば供託金は返却されますが、規定に満たない場合は戻りません。日本の供託金は世界でも飛び抜けて高額で、憲法15条が保障する“立候補の自由”に違反しているという裁判も起きています」

 経済協力開発機構の加盟38か国のうち3分の2は供託金がなく、残りの国でも日本円で数万~10数万円というケースが多い。

 一方で供託金には、売名目的の無責任な立候補を防ぐ意味もあるといわれている。

「お金がない人が立候補できないのでは、格差と貧困に苦しむ人たちの声が政治の現場に反映させられなくなってしまいますね。資金の有無で立候補が制限されるのはおかしなこと。候補を選ぶのはあくまでも有権者であるべき」

■アメリカの大統領みたいに直接、首相を選んでは?

 連日メディアをにぎわせていた自民党総裁選。でも、投票権があるのは党員だけ。アメリカのように、私たち有権者が国の代表を直接選べたらいいのに……。

大統領も“直接”選んでいるわけではありません。まず州単位で2大政党の予備選挙が行われ各党の指定候補が決まります。その後、本選挙で有権者は州を代表して投票する選挙人を選び、その選挙人が最終的に大統領に投票するという間接選挙です。日本では、首相を選ぶのは国会議員ですが、その国会議員や知事、市長などは、有権者の直接選挙で選ばれています。今回の衆院選は私たちが民意を示す貴重なチャンスです

 直接選挙のメリットは、有権者と候補者の距離が近く、身近に感じられること。まずは、自分の選挙区の候補者の街頭演説を聞きにいったり、話しかけたりして、候補者の政策や考えに直接触れてみてはいかが?

■嫌いな候補者の「落選運動」、やってもOK?

「落選運動は、誹謗中傷にならなければ問題ありませんが、名誉毀損で訴えられることも。また、“○○を落選させて△△を当選させよう”などと、ほかの候補者に投票を促す行為は公職選挙法違反になる場合もあるから、気をつけましょう」

 お隣の韓国でも近年、落選運動が白熱している。過去のソウル市長選では、候補者のチェック項目をネットで公開し、ふさわしくないとされる候補に投票しないよう呼びかけた市民団体が選挙に大きな影響を与えた。日本でもSNSなどで落選運動を呼びかける団体が複数登場している。

 誹謗中傷は論外だけど、過去の言動を批判し政治家としての資格を問うことは、候補者を見極める重要なポイントにもなる。

「現職議員の過去の言動や政策について、有権者だけでなくメディアもきちんとチェックし、報じてほしいですね」

■賄賂、失言、不倫…問題議員でも出馬できるワケは?

 差別発言や賄賂など、不祥事や問題行動の多い議員でものど元過ぎれば、また候補として出馬……。こんなことがなぜ許されているの?

「立候補する自由(被選挙権)は国民の権利だからです。議員に定年制がない理由も同じ。何歳であっても本人が選挙に出たいと思うなら、その権利は保障されています」

 例外として、禁錮以上の刑に服している人や、選挙違反で禁錮以上の刑を受け執行猶予中の人、また収賄罪などの罰金刑を受けた人に一定期間、立候補できない「公民権停止期間」が設けられている。

 では、URをめぐる「口利きワイロ疑惑」を曖昧にしたまま再出馬する、甘利明元経産大臣の場合はどうなる?

「甘利氏はあっせん利得処罰法違反で刑事告発されましたが、嫌疑不十分で不起訴となり8月に時効を迎えました。推定無罪の原則のもとでは、立候補は当然、可能です」

 はたして禊はすんだのか。落選させるも当選させるも有権者の1票にかかっている!

■なんで開票してすぐに「当選確実」を出せるの?

 夜8時、投票締め切り時間が過ぎた直後、開票率が0%の段階で、テレビの選挙速報では「当選確実」が伝えられることが少なくない。これってどうして?

「報道機関では、選挙期間が始まる前から、各選挙区や比例区を対象にした情勢調査を電話やネットを通じて行っています。当日には投票所の出口で“誰に入れましたか?”と尋ねる出口調査を行います。それらの情報を入念に分析しているので開票前に当選確実を報道できるのです」

 労働組合や各種政治団体の支持など、各候補者が最低でどのくらいの票を持っているかという「基礎票」も、出口調査や情勢調査の情報に加えて分析される。

「選挙前に当落の情勢が報道されると、選挙結果に影響するともいわれています。勝ち馬に乗る効果といって地滑り的勝利をもたらすものと、負けているほうに同情票が入って、当初の予測と逆転現象が起こる場合もあります」

投票所での出口調査をはじめ、情報を入念に分析することで「当確」の速報が打たれている

■選挙に落ちたらどうなる?

 現職議員や会社を辞めて立候補した人が落選したら、その後の仕事はどうなるのか。保障などはあるのだろうか。

日本には在職立候補制度がないため、選挙に落ちたら、その人は無職になってしまいますね。アメリカでは、大統領選に下院議員が立候補して、落選しても、議員としての職を失うことはありません。しかし日本では、国会議員が都知事に立候補する場合、議員を辞めないと立候補できません。また一般企業の場合、会社の理解があれば、立候補して落選しても仕事に戻ることは可能でしょうが、そういう会社はまだまだ少ないのが現状でしょう」

 '19年の統一地方選では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)職員の水野素子氏が、「立候補休職制度」を利用して出馬し話題になった。立候補の自由が、職を失う可能性があることによって奪われるのは大きな問題。在職立候補制度や選挙休職制度を積極的に導入するべきでは?

■「選挙公約」守らなかったらどうなるの?

 ○○に断固反対します! と選挙で銘打っておきながら当選してしまえばこっちのもの、と前言を覆す。そのようなやり方が許されるのか。罰則規定などはないのだろうか。

「残念ながら公約違反に罰則規定はありません。しかし、公約を守れなかったのであれば、少なくとも説明責任はあるはずです。逆に、状況が変わったのに公約にこだわって、新しい政策が取れないとしたら、それはそれで政治家失格ということになります。どうあれ、公約違反に対して、有権者がチェックして、説明責任を果たさせることは重要ですね」

「カジノ誘致は白紙に」と訴えて当選しながら、当選後に誘致表明をした林文子横浜市長に対しては、昨年、市民によるリコール(解職請求)運動も起こった。法定署名数に届かず解職はされなかったが、林氏は今年8月の市長選で落選した。選挙後も、公約に対しての責任を問うことは、有権者の重要な役割なのだ!

政治編

■誰でも「政党」をつくっていいの?

「(仲間などが集まってつくる)任意団体であれば、誰でもすぐに政党を名乗ることができます。とはいえ、政党要件を満たさない政治団体で選挙活動をするとなると、簡単ではありません。選挙で政党として扱われるためには“政党要件”を満たさなければならず、これがないと政見放送にも出られず、政党交付金も受け取れません。供託金が高額な日本では、政党交付金が受け取れないと財政上、厳しい選挙になります」

 政党として認められるための要件とは、国会議員が5名以上いること。5名以下の場合、直近の国政選挙で2%以上の得票をしていることが必要になる。

「例えば'19年の参院選では、新しい政党の『れいわ新選組』と『NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で』(旧・NHKから国民を守る党)が比例区で当選者を出し、2%を超える得票率を得たので、政党として認められました」

 政党として認められると、小選挙区の候補者が政見放送にも出られるため、支持者もさらに広げることができる。

■「小選挙区制」と「比例代表制」、何がどう違う?

 衆議院議員は「小選挙区制」と「比例代表制」の2つの制度で選ばれる。投票所で渡される2枚の投票用紙のうち、候補者の名を書くのが小選挙区選挙で、政党名を書くのが比例代表選挙だ。

 小選挙区制は1つの選挙区で1人しか当選できないため、各政党は基本的に1人の候補しか立てない。また、政党の公認や推薦がない無所属の候補者が立候補したとしても、組織力のある政党の候補者の票を上回ることは難しいのが現実。

 さらに問題なのは、例えば当選者が300票、次点が250票、次々点が200票を集めた場合、450票の民意が“死票”になることだ。岩本さんは言う。

「小選挙区制でも、海外の例のように、政党が候補者選定の段階でクオータ制度を定めて女性候補の比率を増やせば、より多くの女性議員が生まれる可能性はあります。すると、ほかの政党も競って後へ続くでしょう。そういう流れがつくれたらいいですね」

■衆議院と参議院、国会と内閣、何がどう違うの?

 国の権力が1か所に集中しないよう、司法・立法・行政の権力を3つに分けるしくみを「三権分立」という。そのうち法律を定める「立法権」を持つのが国会だ。その法律に沿って政策を実行する「行政権」を持つのが内閣。法律に基づいて裁判を行う「司法権」を持つのが裁判所だ。

法律を定める「立法権」を持つのが国会

 立法機関である国会は、日本では衆議院、参議院の2院制。任期が4年で、内閣による解散がある衆議院に対して、解散のない参議院の任期は6年で、3年ごとに半数が選挙を行うという違いがある。

「両院は独立して審議を行いますが、その決定に違いがあった場合、衆議院の決定が優先されることがあります。任期が短い衆議院のほうが有権者の意思をより反映しているとみなされるからです」

 一方、任期が6年と衆議院に比べて長い参議院は、政策や法律づくりにじっくり取り組める利点があるといわれている。ちなみに次回の参議院選挙は来年7月ごろの予定。

■女性議員がまだまだ少ない理由って?

 現在、衆議院での女性議員の比率はわずか10・2%。'20年の「列国議会同盟」の調査によれば、世界191か国中、165位という低さだ。女性議員を増やすために世界120の国や地域では、選挙で候補者や議席の一定割合を女性に割り当てる『クオータ制』を取り入れているが、日本では制度化もされていない……。

「日本でも'18年に『政治分野における男女共同参画推進法』が成立していますが、数値目標や義務化はありません。フランスでは小選挙区の候補の女性比率が50%を割ると政党補助金から予算が引かれる規定がありますし、イギリスでは労働党が最終候補者リストを女性ばかりにする選挙区を設けて、女性候補を増やしています

 格差や貧困、差別など、女性をめぐる状況はコロナ禍でいっそう厳しくなるばかり。だからこそ女性が政治の場に立ち、社会を変革していくことが今、求められている。女性の投票率を上げていくことは、その一歩になるはずだ。

■首相、大臣、ヒラの議員って給料、いくらもらってる?

「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」によれば、国会議員の歳費(給料)は月に約130万円、年2度の期末手当を加えると年収は2000万円以上に。ちなみに首相は約240万円、年収で4000万円を超える。

 ほかにも国会議員は、公的文書の発送費や電話代、交通費のための「文書通信交通滞在費」が月100万円、立法に関する調査研究活動のための「立法事務費」が月65万円、支給されている。さらに国内のJRや航空便も無料に。

「昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国会議員の給与に当たる歳費を2割削減する改正法案が今年4月に成立し、今年10月までは減額されていました。ただ、11月からは通常どおりに戻る予定です

 国税庁の最新統計によると、民間企業で働く人の平均年収は433万円。庶民感覚からすれば国会議員の給料は十分に高い。その報酬に見合った働きをしてほしいものだ。

■総理大臣には何度でもなれる?

 同一人物が複数回、総理を務めることは意外と珍しくない。初代首相の伊藤博文は15年の間に4回総理を務めているし、吉田茂は歴代最多の5回。安倍晋三元首相は2回だが、連続在職日2822日で、自らの大叔父である佐藤栄作内閣の記録を24日更新、憲政史上最長となっているのだ。

「アメリカの大統領は1期4年の2期まで。その後は同じ人物が大統領になることはできません。また、韓国大統領は1期5年と期限が決まっています。しかし、日本の首相の任期は法律で制限されていないので、同じ人物が何度も首相になることができます。長期政権は政策にじっくりと取り組めるので“政治が安定する”とよく言われますが、長く続くことで権力が強くなり、独裁化するおそれもありますね

 安倍元首相は組閣の際、「お友達人事」といわれる身内で固め、安保関連法などの重要法案も強行採決で可決させた。今回の総選挙で、その流れは変わるのだろうか?

■「派閥」って必要? 何のためにある?

「政治家における派閥といえば、今はイコール自民党の派閥のことです。二階派、麻生派、岸田派と人名を冠した名で呼ばれることが多いですが、正式な名前があります」

 ちなみに、岸田現総理の属する派閥は「宏池政策研究会」。安倍元首相は「安倍派」ではなく、「清和政策研究会」(細田派)に属している。

「派閥の最も重要な役割は総裁選のための票固めです。国政選挙では同じ派閥の候補の支援・応援に入り、政治資金も調達します。選挙にまつわる人脈のつながりはあるけれど、協力にあたって政策的な方向性は関係ないようです」

 ちなみに「宏池会」は自民党内ではリベラル色の強い派閥で、岸田氏は憲法改正にも慎重姿勢だった。

「しかし今回の総裁選以降、岸田氏は憲法改正を目指す意向を示しています。いまだ自民党内で大きな影響力を持つ安倍元首相への配慮ではないかとみる動きもあるようです」

■誰が当選しても一緒でしょう?

 与党の政策も信用ならないけれど、野党は野党でなんだか頼りない。信頼できる候補が選挙区にいない! だったら、せめて白票を投じたい……。

「気持ちはわかりますが、白票には何の意味もないのでやめましょう。選挙で入れたい人がいなくても、入れたくない人はいるのですから、だったら、よりましな、よりベターな候補に投票すること。それだけでも社会は少しだけ変わるはずです」

 自分の1票なんて何の影響力もない──、そう思うのは間違いだ。選挙区によってはほんの数十票の差で当落が決まるような例もある。

「投票したい候補者がいなくても今の政治に不満があるなら、政権交代につながるような投票をしてみるのもいいのでは?」

 今回の衆院選は、これまでの政治の流れが大きく変わる節目にあるのは確かだ。この流れに、自分の1票を投じることで、選挙はきっとおもしろくなるはず!

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【岩本美砂子さんプロフィール】1957年広島県生まれ。京都大学法学部卒業。名古屋大学法学研究科博士課程満期退学。名古屋大学助手などを経て、1996年三重大学人文学部教授。近著に『百合子とたか子:女性政治リーダーの運命』

取材・文/岩崎眞美子 フリーランスライター。1966年生まれ。音楽雑誌の編集を経て現職。医療、教育、女性問題などを中心に雑誌や書籍の編集に携わる。