(左上から時計回りに)ラーメンショップ、くるまやラーメン、スガキヤ、どさん子ラーメン

 高度成長期に生まれて、平成、令和を生き抜いてきたラーメンチェーン店。外食産業が大打撃を受けたコロナ禍でも、その人気は衰えることなく今も続いている。逆境にも負けない強さの秘密を探る。

 長引くコロナ禍の影響で、大きな痛手を受けてきた外食産業。ラーメン業界も例外ではなく、帝国データバンクの調査では2020年のラーメン店の倒産は46件と過去最多となった。そんな中、昭和から令和へ連綿と営業を続けてきた「昭和のラーメンチェーン店」が再注目を浴びている。

思い出の味『スガキヤ』

 今年3月で創業75周年を迎えた『スガキヤ』は、名古屋発祥のラーメンチェーン店。東海エリアを中心に、現在は254店舗を展開しているが、意外なことにその前身は甘味処だったという。スガキヤを運営するスガキコシステムズ株式会社の高岡勇雄さんは次のように語る。

「1946年に“甘党の店”という甘味処が、名古屋市の栄に誕生しました。創業から2年後、お客様の要望もあってラーメンがメニューに加わり、店名も『寿がきや』になりました」

 現在でも、すべてのスガキヤ店舗ではラーメンとソフトクリームなどの甘味が同時に楽しめる。一見奇妙にも感じる取り合わせだが、小倉トーストや味噌カツなど、甘さと塩味の掛け合いを愛する名古屋らしい文化かもしれない。なお、1958年に誕生したマスコットキャラクター「スーちゃん」は右手にラーメン、左手にソフトクリームを持ち、そのスガキヤイズムを体現する存在だ。

スガキヤを60年以上にわたり見守ってきたスーちゃん

 その後も順調に出店を進めたが、特に拡大の契機となったのが1970年代以降。

「大型ショッピングセンターの興隆とともに、スガキヤはフードコートへの出店を加速させ、1983年には直営300店舗を達成しました。フードコートへの展開は今も変わらず、今年の10月27日には、新店舗のイオンモール名古屋ノリタケガーデン店もオープンしました」(高岡さん)

 さっそくそのプレオープンに向かうと、昼前の時間帯にはすでに家族連れの列ができていた。人気メニューはやはり『ラーメン』(330円)と『ソフトクリーム』(160円)だ。

人気の組み合わせはなんとワンコインでお釣りがくる価格設定

「豚骨と魚介出汁をかけあわせた和風豚骨は、今ではメジャーになっていますが、スガキヤでは創業当時からこの組み合わせです。魚介出汁は各店舗でイチからとっています」(高岡さん)

 また、“ラーメンフォーク”もスガキヤ名物のひとつ。1978年の登場以降、改良を重ねて現在ではユニバーサルデザインにも対応している。さらには、料理ができたことを知らせるフードコートの「呼び出しベル」も、スガキヤが初めて導入したそうだ。

そのデザイン性の高さから、MoMA(ニューヨーク近代美術館)でも販売されたラーメンフォーク

 ショッピングセンターを歩き回ったあとにラーメンで腹を満たし、甘いものを食べながらゆっくり休憩をする──そういったファミリー層のニーズをうまくとらえたスガキヤは、現在でも東海圏のフードコートになくてはならない存在だ。

古きよき時代の温かさ『くるまやラーメン』

 フードコート出店とは対照的に、ロードサイド店舗の拡大で差別化を図ってきたラーメンチェーン店も多い。東日本を中心に152店舗を展開する『くるまやラーメン』はその代表格だ。

「1968年に東京都足立区で前身となる“うどん・そば店”を開業後、1970年に足立区の国道4号沿いで観光バスを改造したラーメン屋を始めたのが、現在のくるまやラーメンのルーツです」

 こう教えてくれたのは、株式会社くるまやラーメンの青山愛さん。広い駐車場を持ち、いつでも気軽に車で来店できる郊外型のラーメン店は、モータリゼーションが進んでいった時代背景にマッチし、人気を集めた。

『くるまやラーメン 奥戸店』へ足を運んでみると、車で訪れたファミリー層やカップル客も多く、昼食時は入店待ちのお客さんが並んでいるほどの人気ぶり。たっぷりのもやしが乗った『味噌ラーメン』(680円)は、コクがありながらもまろやかなスープが特徴で、やさしい味わいがクセになる。

家族連れでも各自が食べやすいように、くるまやラーメンは1一人前用のトレーで商品を提供される

 奥戸店では、小さなお子さんを連れた家族を案内する際に「お子さま用のイスをお持ちしますね」とやさしく語りかける店員さんの姿が印象的だった。

 また、熱々のラーメンが転倒して事故が起こらないよう、2007年からは丼の下に敷く独自のノンスリップマットを採用するなど、安心して食事ができる配慮を欠かさない。

お客さんだけでなく従業員にも配慮した事故防止用ノンスリップマット

「基本的にはラーメンの持ち帰り販売は行っておらず、Uber Eatsや出前館などの宅配サービスも採用しておりません。家とは違う店内の雰囲気を含め、外食の本来の楽しさを感じることのできる、大切な時間を提供したいと考えています」(青山さん)

 コロナ禍で外食の機会が減っているなか、味のこだわりはもちろん、接客を含めた居心地のよさを追求する思いこそ、くるまやラーメンが現在も色あせない理由のひとつだろう。

伝統と変革の両翼で羽ばたく『どさん子』

 昭和から変わらない味を提供し続けるチェーンもあれば、時代に合わせて変化を続けるラーメンチェーンもある。日本中に札幌味噌ラーメンを定着させた立役者『どさん子』だ。創業は1961年で、元は餃子飯店「つたや」という墨田区の中華料理屋だった。

「創業者の青池保が北海道物産展で味噌ラーメンに衝撃を受けたことがきっかけで、1967年に『札幌ラーメン どさん子』の1号店が墨田区の両国に誕生しました」

 そう教えてくれたのは、どさん子チェーンを運営する株式会社アスラポートの仲本悠太さん。フランチャイズというチェーン展開も当時は珍しく、日本の経済成長とともに加盟店も増え続け、1979年には1150店舗まで一気に拡大。

「当時はラーメン専門店という形態はほとんどなく、ライバルも少なかったので、これだけ急成長できたのだと思います。当時から現在まで残っている店舗では、立地ごとの需要に合わせてオーナーさんがメニューのアレンジをするなどの工夫をし、より地域に根差した経営を続けているところもありますね」(仲本さん)

 2014年からはこれまでの『どさん子』をより進化させるリブランディングにも着手し、東京・大手町をはじめとした『リブランド進化版 どさん子』の店舗を出店。次の50年を見すえ、どさん子を知らない世代にもより愛される味を追求している。

「主力商品の味も改良を重ね、新しいスタンダードとなる味噌ラーメンを生み出せたと思います。お店自体もきれいで入りやすい、現代風のレイアウトにこだわって設計しています」(仲本さん)

“元祖”と“赤練”は器も変えて提供。“元祖”の器には昔の屋号の“つたや中華”の文字も隠れている

 さっそく、リブランド進化版の「どさん子ラーメン 下前津店」で、新定番の『赤練 味噌ラーメン』(750円)と『元祖 味噌ラーメン』(690円)を食べ比べた。『赤練』は山椒の香りが立ち、より濃厚でコクの深い味わい。『元祖』よりも味噌の力強さを感じられ、舌の肥えたラーメン好きにより好まれる1杯だと感じた。

「味噌ラーメンという本質は変わりませんが、どさん子を昔から知っている方の期待を裏切らないようにしつつ、新しい層にも届くよう、伝統と変革を大切にしていきたいですね」(仲本さん)

ミステリアスな個性派『ラーメンショップ』

「どこの店舗でも安定して同じ味が楽しめる」というチェーン店の常識とは真逆の発展が話題のラーメンチェーンもある。「うまい ラーメンショップ うまい」と書かれた赤看板が目印の、東京都大田区の椿食堂管理有限会社が運営する『ラーメンショップ』だ。その独特のチェーン体系は、現代のSNS社会と相まって今大きなブームを起こしている。

「昭和のラーメンといって思い浮かぶのは、あっさりした醤油(しょうゆ)ベースの中華そばかもしれませんが、ラーメンショップのラーメンはそれとは対極。店によって濃淡はさまざまですが、豚骨を煮出したスープと醤油ダレを合わせた東京豚骨と呼ばれるスタイルです」

 そう教えてくれたのは、『ラーメン系譜学』(辰巳出版)の著書もある、大衆食ライターの刈部山本さん。しっかりとした東京豚骨の味はタクシードライバーや現場作業員などの間で支持を得て、1970年代から90年代にかけてラーメンショップの店舗は爆発的に増加していったという。ところが、ラーメンショップのチェーン展開にはミステリアスな部分が多い。

「基本的に本部は取材を受け付けておらず、チェーンの全貌は謎に包まれています。ラーメンショップ加盟店は本部を通して麺やスープなどの具材や調味料などを仕入れることもできますが、逆を言えば、本部を通さずに独自で材料を仕入れてもいい。そのため、同じ看板を掲げていても、その味はお店によって千差万別なんです」(刈部さん)

 その真相を確かめるべく、『ラーメンショップ 堀切店』へ向かったところ、店主の清水良之さんがお話を聞かせてくれた。

現在は店主の清水良之さんと奥様のふたりで店を盛り立てている

「たしかに、ラーメンショップは店舗ごとに味もメニューもかなり違って、“この味こそラーメンショップの王道”というもの自体がわかりにくいですよね。これだけは仕入れてくださいといったリストもなく、かなり縛りは緩いです」(清水さん)

 堀切店では、ラーメンショップの味の基本となる醤油ダレ、味噌ダレ、らあじゃんやクマノテと呼ばれる代わりのきかない調味料は本部から取り寄せ、特製の麺やそのほかの食材は個人で仕入れているそうだ。

清水さんが「謎の調味料」だと話す、ネギラーメンの味の決め手「クマノテ」

 さっそく人気の『ネギラーメン』(並・850円)をいただいた。思ったよりこってりしすぎない豚骨醤油のスープに、太めでもちもちの麺がよく絡む。トッピングの大ぶりなワカメも、どことなく懐かしい味わいだ。また、半熟卵は他のラーメンショップでは別料金がかかるところも多いが、堀切店では無料でトッピングされている。

しゃきしゃきのネギがたっぷり乗った『ネギラーメン』はファンも多い

「卓上に置いているらあじゃんやラー油で味を変えながら、お客さんに自由に食べてほしいので、全体の味は若干あっさりめに仕上げています。昔に比べると、背油は少し多めに、麺はやや固めに仕上げるようになりましたね」(清水さん)

 この2年ほどは、ネットで口コミを見た「ラーメンショップ」愛好家の来店も増えているそうだ。実際、Facebookのファンコミュニティー「ラーメンショップ同好会」はメンバー数1・8万人を超え、SNSにも「#ラーメンショップ」のタグがついた投稿が日々あふれている。

「たしかにここ数年の盛り上がりはすごく感じます。わざわざ遠方から来てくれている人も多くて、恐縮しちゃいますね。前にお客さんに聞かれて、全店舗のリストがないか本部にたずねたことがあるんだけど、“リストはないので、ざっくり300店舗ぐらいって答えてください”って(笑)。そういう謎の部分も含めて、情報を持ち寄って楽しむ文化ができたんでしょうね」(清水さん)

 各店舗を取材してまわり、「子どものころに食べたことのある、懐かしさ」という思い出こそ、昭和ラーメンチェーンのいちばんの強みかもしれないと感じた。実際に、各店舗のラーメンを食べて楽しい思い出をつくった子どもたちが、今は大人になり、今度は自分の子どもと一緒に各チェーンを訪れるといった好循環も生まれている。

 ラーメンブームは激化し、こだわりの個人店も乱立する百家争鳴(ひゃっかそうめい)の時代。肩肘張らずに気軽に入ることができて、ホッとひと息つけるような味わいの昭和ラーメンチェーンが、いまあらためて求められている。人は故郷を離れても、故郷は人を離さない──ラーメンファンにとって、昭和ラーメンチェーンは懐かしの故郷のような存在なのかもしれない。

登場した店舗情報
スガキヤ イオンモール名古屋ノリタケガーデン店
愛知県名古屋市西区則武新町3丁目1番17号
イオンモール名古屋ノリタケガーデン3F
080-6993-9678
10:00〜21:00(LO20:30)

くるまやラーメン 奥戸店
東京都葛飾区奥戸6-5-4
03-3696-6158
11:00~翌2:00(L.O. 翌1:45)
定休日 毎週火曜日

どさん子ラーメン 下前津店
愛知県名古屋市中区橘1-11-4
052-324-6061
11:00~22:00(L.O. 21:50)

ラーメンショップ 堀切店
東京都葛飾区堀切7丁目3-1
03-3604-1556
7:00~15:00
定休日 毎週日曜・木曜/祝日

(取材・文/吉信 武)

初出:週刊女性2021年11月16日号/Web版は「fumufumu news」に掲載
※本誌記事に加筆しています。