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《もう限界かもしれません》

極限状態の飲食店の嘆き

 赤字でそう綴られた悲痛な叫び。それは東京・杉並区のラーメン店の店頭に貼られたメッセージだ。以下が続く。

《3月からの国からの協力金ももらえず お店も1ヶ月もちません》

 店に貼り紙がなされたのは5月のこと。“協力金”とは、『営業時間短縮協力金』。各自治体による営業時間短縮要請に応じた飲食店に支払われたものだ。

ラーメン店の店主が貼り出した悲痛な叫び(写真、一部編集部で加工)

「東京都の場合は、3月分の協力金は、8日から21日が1日あたり6万円、22日から31日が1日あたり4万円でした。支給時期は店によってマチマチでしたよ。初期は申請から振り込みまで、1か月以上だったり、時間がかかった記憶です」

 そう話すのは、このラーメン店のある杉並区に店を構える飲食店店主。店はいわゆる居酒屋だ。

「いくら協力金があるとはいえ、やらないわけにはいかなかったので店は開けていました。その期間はお客さんの入りが読めなかったので、仕入れが難しかった。仕入れイコールお金ですから……。

 基本的にお酒は腐らないですから、バーなどのお酒メインの店はいいなぁなんて思っていました。そういう人は“店は閉めて休んで、旅行に行きまくってるよ。金入ってくるし、別に商品腐らないし”なんて笑ってました。

 まぁ営業時間の制限を設けても、違反する店はあったわけですが」(同・飲食店店主)

 ラーメン店に貼り紙がなされたタイミングとほぼ同時期に同じ杉並区の飲食店に、店の悲痛な叫びとはまったく趣の異なる貼り紙がなされていた。

《カーテンで目隠ししてまで営業して協力金請求しようと思ってませんよね?(中略)これで請求したら詐欺罪か偽証罪になりますよ?》

“自粛警察”と思われる者による貼り紙(写真、一部編集部で加工)

働き手が“帰って来ない”

 いわゆる“自粛警察”と呼ばれ、一時期問題となっていた人たちによると思われる行為だ。飲食店店主は、

「そのお店が実際にカーテンで目隠しをして、“闇営業”をしていたかはわかりません。しかし、19時までに入店してもらって、20時以降はシャッターを閉めて営業する店はいくらでもありました。当然お酒も出す」

 10月25日、東京都などの飲食店に対する営業時間の短縮要請が解除。営業時間の短縮要請解除は協力金の終了を意味する。前出とは別の飲食店関係者は、解除後の飲食店について次のように話す。

「今現在の状況としては求人が急回復していますね。宣言が明ける発表後は、ほぼコロナ禍前の水準に。11月に入ってからは“働き手がいなくてヤバい”という声も。

 コロナ前は居酒屋勤務だったけど、コロナによって店が休業になったために、ラーメン店など昼の飲食の仕事をしていた人も多かった。そういう人たちが“古巣”に戻り、今度はそのラーメン店が困るという状況。

 逆にすでに飲食ではない“ほかの人生”を送っているため戻れない人もいます。人が集まらないため時給を上げざるをえず、人件費は爆上がりしています

協力金、悲喜こもごも

 飲食店はこのコロナでいちばん打撃を受けたと言われているが、実際その立場の人はどのように感じるのか。

「打撃が他業種と比べて大きかったという感覚はあります。家賃が高い場所に店を構えているチェーン店や、従業員が多かったりするお店は、コロナによって失われた売上金は莫大だった。

 ただ、これが“個人店”となると事情は変わる。従業員がいなかったら雇用について悩むことはないし、都心などに店を構えていなかったら家賃もそれほどではない。

 もちろん店ごとに事情はまったく異なりますが、“働かずしてお金がもらえていた”状況にいた飲食店店主は数多くいました」(前出・飲食店関係者、以下同)

 東京都であれば、最初期から協力金を得ていた場合は、1店あたり、合計1500万円ほどとなる。

「協力金で設備投資をしたり、支店をオープンさせた店は少なくないです。支店をオープンし、営業許可をもらえば、その店でも協力金の申請ができる。

 店はまだ完全にできていない状態や、開店する人員も確保できていない状況なのに、協力金を毎月もらってきた人はざらにいますよ」

個人店を中心に、一部では“潤って”いたようだ。

自粛で“潤った”店も ※画像はイメージです

「協力金給付が終わったから、つぶす選択をする店も増えてきましたね。一方でお金が入ったことで設備投資しすぎたり、手を広げすぎて困っている人もいる。

 もともとルーズな人が少なくないのが飲食店業界です。今どれくらいの金が使えて、どれくらいの金を残さなくてはいけないということを店主なのに把握していない人も多い。協力金といったって税金はかかるのに」

飲食店の未来

 感染者の数が落ち着き、繁華街には活気が出始め、飲食店にも客が戻りつつある。ひと足先に“アフターコロナ”が始まったともいえる飲食業界の未来は……。

「今、渋谷のある地域の開発が始まっています。ビル内に飲食店街のようなものができるのですが、これまであるような1店1店しっかりとした作りの店ではなく、キッチンカーのような、それより簡素で小さい店を並べる計画です。テナント側も運営側も初期費用が抑えられるのがメリットです。金銭的にも物理的にも店を入れ替える際も楽。

 飲食店はちゃんとやるとなると金がかかりすぎる。から揚げ店は簡単に始められて場所も狭くていいとブームになっていますが、今後そういった店が増えていくでしょうね」

 “変化”はほかにも……。

「今、肉の値段が高騰していますね。お酒と魚は長い付き合いで金額は変わらなかったりするけど、値上がりしているところをよく聞きますねぇ……」

 コロナで潤ったのははたして“誰”か……。