行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は、コロナ禍で「夫婦の距離」が変化し、離婚に至った夫婦のケースを紹介します。

※写真はイメージです

長谷川京子&篠原涼子の離婚から見えるもの

 長谷川京子さんとポルノグラフィティ・新藤晴一さんの離婚が発表されたのは10月29日。少し前から長谷川さんが子どもを置いて家を出て、夫婦が「別居状態」だと報じられていたので世間の反応は驚愕というより納得という感じでした。

 一部報道によるとポルノグラフィティは2019年の20周年ツアーの終了とともにソロの制作活動に入っていましたが、2020年2月からの新型コロナウイルスの蔓延で、新藤さんは自宅で作業をするようになったといいます。新藤さんが家事や育児に奔走する長谷川さんに干渉しはじめ、長谷川さんが不満を溜め込み、我慢の限界に達したのかもしれません。これまで蓄積されてきたものがあるかもしれませんが、コロナをきっかけに夫婦の距離が近くなった結果、離婚に至ってしまった可能性は高いのではないでしょうか。

 一方、対照的なのは7月に離婚した市村正親さん、篠原涼子さんです。2人ともドラマや映画、舞台などで活躍していますが、家庭内感染を防ぐために篠原さんが別宅を借り、そこで寝泊まりをするようになったそう。もともと感染対策として始めた別々の生活ですが、いつの間にか離れて暮らすのが当たり前に。そして夫婦の距離が遠くなった結果、篠原さんが子どもの親権を手放し、市村さんが子どもを引き取る形で離婚が成立したのです。

 筆者は行政書士・ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、ここ2年間でコロナをきっかけに夫婦の距離が変化し、関係がこじれ、離婚を避けられなくなったケースを見てきました。なぜ、近くてもダメ、遠くてもダメなのか。今回はちょうどいい「夫婦の距離」……2人の関係がこじれないためのソーシャルディスタンスについて、相談事例をもとに解説します。

ステイホームで夫への不満が山積

 まず1人目はコロナ禍を境に夫婦の距離が近くなった美乃梨さん(仮名・32歳)。

「コロナで大変なときなのに……夫には幻滅しました。あれがあの人の本性なんです!」

 ため息まじりに語る美乃梨さんが最初に筆者に相談したは2020年4月。美乃梨さんは感染リスクの高い職業でしたので、事務所での面談ではなく、やむをえずLINE電話で相談に対応しました。

「結婚当初から夫は非協力的でした。平日はともかく週末は家にいるんだから家事をやってほしいですよ。くたくたで帰ってきたのに、昨日の洗濯物の山積みを見ると殺意が湧きます!」

 結婚3年目の美乃梨さんはドラッグストアで働く薬剤師で平日休み。一方の夫(41歳)は税理士事務所の事務職で土日休み。共働きなのに夫は美乃梨さんに家事を丸投げ。美乃梨さんは座り仕事が多く、坐骨神経痛という職業病に長年、苦しんでいるにもかかわらずです。コロナの前から夫婦の関係は良好とは言えませんでしたし、お互いに休みが合わず、毎日会うのは夜と朝のわずかな時間だけ。程よい距離をとることで一触即発を免れたとも言えます。そんな矢先に襲ってきたのが新型コロナウイルスの騒ぎでした。

 美乃梨さんの勤務先エリアでは外出全般の自粛が要請され、特に地元クリニックではコロナ感染者以外が受診を控えるようになったので、処方せんの持ち込みが減少しました。そのため3月中旬から残業も減少。出勤日も減らされ、自宅で待機する日が増えたそうです。一方の夫はどうでしょうか? 3月上旬にはテレワークへ移行。事務所へ出勤せず、最低限の仕事を自宅のパソコンで行うだけに。

 こうしてコロナにより夫婦は週に2~3日、終日同じ空気を吸う『新しい生活様式』に移行。それまで家にいなかった夫が「夕飯はまた手抜きか」「部屋が散らかっている」「夕立の予報なのに洗濯物を干すなんて」と小言を連発したのです。美乃梨さんはテレビゲームに興じる夫を横目に2人分の食事を作り、洗濯や掃除を終わらせなければならない有様で、日に日に不満を溜め込んでいきました。

「みんな大変なのに、なんであんただけこうなの! って思います」と美乃梨さんは訴えかけますが、筆者は「旦那さんはまだ甘えているのでは? 過去に災害が起こったとき、心を入れ替えて、やり直した夫婦もいますよ」と美乃梨さんを諭しました。しかし追い打ちをかけたのは夫の無神経な一言でした。発せられたのは美乃梨さんへの感謝ではなく、金銭の心配。

夫の家賃負担をめぐって対立

「残業できないから今月は給料が2万円も減りそうなんだ。緊急事態宣言が出たら、事務所が営業できなくなるのも時間の問題。休業手当だけじゃ元の6割だよ。だからコロナが終わるまでの間、家賃はそっちで払ってよ」

 そんなふうに自己中心的な夫の発言に悩んだ美乃梨さんは、2020年5月に再び筆者を頼ってきました。夫婦は家賃が月12万円の賃貸に住んでおり、美乃梨さんの手取りは毎月26万円、夫は毎月22万円。今まで家賃は折半、それ以外の生活費は美乃梨さんが負担、食費はその都度、決める。それが夫婦のルールでした。

 現在、夫は週末しか乗らない車のローン(毎月5万円)を返済中。そんなに苦しいなら車を手放すことを考えるべきですが、「お前のほうが稼いでいるんだからいいだろ?」と妻任せ。美乃梨さんは夫の守銭奴ぶりに怒りを覚えつつも、「6月から(家賃ぶんの)6万円を渡さなくていいから」と伝えたそう。なぜなら、大事なのはお金より気持ち。金銭的に大変な夫を助ければ、夫は美乃梨さんに頭が上がらなくなり、無神経な態度をあらためるはず。そう期待したのです。筆者も「コロナが収束し、旦那さんの収入が元に戻るまでの辛抱ですから」と勇気づけました。

 実際のところ、2021年3月からワクチンの接種が始まると解熱剤等を求める客が増え、勤務先は大忙し。美乃梨さんの収入はコロナ前より月2万円も増えたので、夫が押しつけてきた家賃全額をかろうじて支払っていたのですが、一方の夫はどうでしょうか? あろうことか美乃梨さんに追い打ちをかけてきたのです。

 政府のコロナ対策として2020年に持続化給付金や雇用調整助成金、2021年に一時支援金、月次支援金が新設されたのですが、夫が勤務する税理士事務所には取引先の事業所から「代わりに申請してほしい」という要望が殺到。夫は相変わらずテレワークを続けていたものの、勤務先は通常どおりに営業しており、明らかに忙しそうな様子。少なくとも他の業種のように緊急事態宣言の影響で「仕事がない」という状況ではありませんでした。

 そこで美乃梨さんは「忙しくしているんじゃないの? そろそろ家賃の支払いは元に戻してよ」と投げかけたところ、「うるせぇな。お前に何がわかるんだよ!? 面倒なことは後にしてくれよ」と逃げてばかり。同じ押し問答を半年間、続けても夫が家賃の負担割合を元に戻すことはなかったそうです。

「もう終わりだと思いました。コロナが落ち着いたら離婚しようと思っています」

 2021年11月、緊急事態宣言解除後に美乃梨さんは筆者の事務所を訪れたとき、そう涙声で訴えかけてきました。筆者は「旦那さんは美乃梨さんを都合のいい存在としか思っていなかったのでは?」と気持ちに寄り添いました。食費以外の生活費を出してくれ、家事を全部やってくれる妻。夫にとって美乃梨さんはパトロンと家政婦を兼ねる最高の相手ですが、美乃梨さんにとって夫は最悪の相手です。前から美乃梨さんは薄々、勘づいていたのでしょうが、コロナ危機で確信に変わったのです。「こんな夫ならいないほうがいい」と悟り、夫がいない人生……つまり、離婚を選択したのです。

海外赴任の夫が帰国したが

 そして2人目の相談者は結婚2年目の美鈴さん(仮名・38歳)です。彼女から相談を受けたのは2020年12月。

「コロナで彼の本性がわかりました! 私よりずっとあの女が好きなんでしょう? 彼に捨てられる前に、こっちから離婚してやろうって思っています」と言い、すでに吹っ切れた表情で離婚を覚悟した様子でした。Zoomのアプリを使って話を聞いたのですが、彼女と結婚2年の夫(49歳)との間に何があったのでしょうか?

 2020年2月、新型コロナウイルスの蔓延が始まったころ、美鈴さんの夫はちょうど単身で海外赴任中。当時、感染対策として遠距離の移動は自粛の対象に含まれており、夫は5か月間、赴任先にとどまるしかなかったそう。そして夫が自宅へ戻れることが決まったのは7月のこと。美鈴さんはようやく夫に会えるかと思いきや、夫は意に反して「落ち着くまで実家に帰ってくれ」と冷たい態度。しかし、美鈴さんは「ぜんそく持ちの私を心配してくれたんだ」と解釈し、素直に実家へ帰ったそう。

 こうして夫は誰もいない自宅に戻り、夫婦の別居生活が再びスタートしました。それからしばらくして、美鈴さんのスマホに夫から《家内を帰らせたから、もう大丈夫だよ》と意味深なLINEが届いたのです。美鈴さんは「誰かに送るLINEを間違えて送ったの? もしかすると不倫……?」と女の勘が働いたそう。

夫のSNS投稿に怪しいコメントを発見

 相談を受けた筆者は「自宅の防犯カメラに何かが映っているのでは?」と助言し、美鈴さんは夫の不在を見計い、防犯カメラからSDカードを抜き取ったのです。データを再生すると夕方に入り、翌朝に出る女の姿が……女を自宅に招き入れるために美鈴さんを追い出したことが明らかになったのです。しかもその女が美鈴さんの見覚えのある風貌だったのも引っかかりました。むやみに人と接触するべきでない期間なのに女と濃厚接触していた夫ですが、さらに美鈴さんを奈落の底に突き落とす事実が判明します。

 筆者は「旦那さんはSNSをやっていますか? 何か残っているかもしれませんよ」と聞くと、美鈴さんは「フェイスブックをやっています」と返します。美鈴さんと夫はフェイスブック上では友達同士。美鈴さんは基本的に夫の投稿を自由に見ることができるのですが、よく読むと不自然なコメントを発見したのです。

《昨晩は泣いてないよ。寝不足だったかな》《昨日は幸せな時間をありがとう》《愛してるって言ってくれたから、すぐに眠れたよ》と。美鈴さんは最初、これらのコメントはスパムだろう、夫も迷惑しているはずと軽んじていたのですが、コメント投稿者のページを見たところ、あ然。その女性は美鈴さんの大学の後輩であり、彼女のストーリーには旅館で浴衣を着た夫と一緒に映っている写真、公園でお互いの手をハートマークに合わせる写真、そして夜景を背に夫が彼女の肩を抱いている写真……そんなツーショットの数々が24時間限定で公開されていたのです。夫が妻の知人と不倫していたとは、特に悪質です。

 もともと美鈴さんと夫は夫婦でありながら、一つ屋根の下で暮らしたことはほとんどありませんでした。医師の夫は15年来、クリニックの雇われ院長として汗を流し、ようやく念願だった海外長期研修を実現したのですが、これは美鈴さんと結婚した年。最先端の医療を学ぶべく現職を辞し、2年間の予定でアメリカへ渡ったそう。美鈴さんは末期がんを患う母親の近くにいたいという理由で帯同せず、単身赴任という道を選んだのです。

 筆者が「研修中では、旦那さんの収入も少なかったのでは?」と尋ねると、やはりスズメの涙程度。美鈴さんは「生活費を送ってこないので独身時代の貯金を使い、底をつきました」と言い、健気に夫の帰りを待ち続けたのに恩を仇で返された格好でした。

 美鈴さんは「向こうにとっても離婚が時間の問題なら、こっちから言ってやりますよ!」と息巻きます。美鈴さんは医師免許を持っており、独身時の年収は900万円。仕事に復帰すれば経済的に不安はありません。コロナが収束し、病院への就職が決まり次第、離婚を切り出すつもりだそうです。

夫婦関係が悪くなったら「距離」を見直して

 ここまでコロナによる夫婦関係の変化により、思わぬトラブルに巻き込まれ、離婚が決定的になった2組の夫婦を見てきました。

 まず美乃梨さん夫婦の場合、あえて休日を合わせて一緒に過ごさないのがちょうどいい距離感でした。しかし、コロナ禍で夫は在宅勤務、妻は出勤減少。そのことで距離が縮まりすぎた結果、起こった不幸です。適切な距離を保っていれば、夫の目に妻が家事をする様子は入らず、小姑のような小言を浴びせることもなかったでしょう。そして夫婦がほどよくすれ違っていれば、夫が生活費の負担見直しを言い出すタイミングを逸していたかもしれません。もし、夫婦がコロナショックに巻き込まれず、お互いのペースを守っていれば、離婚しない現実があったかと思うと筆者も口惜しい限りです。

 次に美鈴さん夫婦の場合、夫の女癖の悪さを考えると海外の赴任先でも別の女に手をつけていた可能性を否定できません。もし日本国内なら現地の興信所に依頼したり、近くに住む友達に探りを入れてもらったり、SNSを確認したりすることが可能ですが、海外で実行して不倫を特定するのは難易度が高いでしょう。そのため、美鈴さんと夫が別の国に暮らし続けていれば、不倫という不都合な現実を見ることなく、結婚生活を続けていたかもしれません。しかし、コロナ禍で近くに戻って来た夫の「本当の姿」を目の当りにし、見なくてもいいものを見てしまったため、結婚生活は終わりを迎えたのです。

 つまり、夫婦の距離が変化したときに問題が発生するのですが、感染対策により、変化の確率が高まり、夫婦に亀裂が生じやすくなったのがコロナ禍の傾向です。もし、コロナ以降に夫婦の関係が悪くなった場合は「夫婦の距離」を見直すのがいいでしょう。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/