写真はイメージ

 13歳になったら「性行為に同意する能力がある」と見なされる。それなのに日本の学校では性教育がほとんど行われておらず、必然的に親が伝えることになる。子どもに性の知識を伝えるときに絶対はずせないポイントを専門医に聞いた。

◎教えてくれた先生:高橋怜奈さん
2009年東邦大学医学部卒業。産婦人科専門医、医学博士。東邦大学医療センター大橋病院産婦人科勤務、四ツ谷レディスクリニック非常勤医師スタッフ。「産婦人科医YouTuber」としても活躍。監修に『小学生だから知ってほしい SEX・避妊・ジェンダー・性暴力』(主婦と生活社)がある。

親が性をタブー視すると

 毎日のように流れてくる性暴力や性差別のニュース。妊娠していることを誰にも相談できぬまま人知れず出産して置き去りにしたり、殺してしまったりといった悲しい事件。

「こういった事件は、性に関する正しい知識を得られていなかったことが大きく影響しています」

 そう話すのは、産婦人科医の高橋怜奈さん。子どもに性に関する質問をされたとき、親がどんな態度をとるか、どんな言葉を発するかは子どもの価値観に強く影響する。

「セックスなどの性の話題について、親が『恥ずかしい』『汚らわしい』『そんなこと言うものではない』などといった言葉でタブー視してしまうと、子どもは好きな人と身体を触れ合ったり、性行為をしたりすることを“いけないこと”と思ってしまうようになります。

 ひどい場合は、性行為に嫌悪感、恐怖心を持ってしまうことも。マスターベーションすら、悪いことと考えてしまう子もいます」(高橋さん、以下同)

 親が性に否定的なことで、もうひとつ問題となるのが、身体のことを親に相談できなくなってしまうこと。

「相談したくても、親に嫌な顔をされる、あるいはどう話していいかわからない状態になり、逆に親に隠すようになってしまう可能性があります。親に話せず、SNSで相談してくる子もたくさんいます。なかには、『生理が始まったけど親に言えない』という子さえいます

愛とは切り分ける必要がある

 だからといって、性に肯定的ならOK、というわけでもないのが、難しいところ。

例えば、セックスを『愛し合う2人がする行為よ』と伝えるのは、一見正しいようで誤解を与えることも。なぜなら、愛がなくてもセックスをする現実があるからです。

 そこに“愛”を持ってきてしまうと、極端な例でいえば『愛していないセックスなら子どもはできないよね』と思ってしまう子もいるかもしれません。愛とは切り分けて性教育をする必要があります

喜ぶことでも隠すことでもない

 性教育というと、伝える親のほうも身構えてしまいがち。どうすれば、子どもにしっかりと伝えることができるのか。

「性は“特別”なことではありません。心臓や肝臓と同じように性器も身体の一部です。例えば“初潮(初めての生理)”のときに『これでもう大人の仲間入りだね』『おめでとう』など大げさに伝えると、子どもは恥ずかしくなってしまいます。

 女の子の生理も、男の子の精通も、人間の身体が成長していく過程で起こるごく当たり前のこと。大げさに喜ぶことでもなければ、こそこそ隠すことでもありません。淡々と受け止め、人間の身体の仕組みを教えてあげればいいのではないでしょうか

 一方で、性の話は人前でべらべらと話すものではないのも確か。性の話がプライベートなことだということも、同時に伝える必要があります。

性は恥ずかしいことではないけれど、大声で話したり、いろいろな人に話したりするものではありません。家族であっても知られたくないこともあります。例えば娘が生理が来たことを、異性の兄弟に知られたくない場合もあるでしょう。

 本来なら、男女区別なく小さいうちから一緒に性の話ができていればそれほど意識することはないのですが、子どもによってもとらえ方は違います。少なくとも親と1対1ならなんでも相談できる関係性を築いておくことがとても大切です

 性の話をするとき、親は常に堂々としていることも重要。例えば突然、子どもに性にまつわる質問をされたとき、なんの心づもりもしていないと、びっくりしてはぐらかしてしまうことも。

「子どもは、親の一瞬の表情をとてもよく見ています。どんなに言葉で取りつくろっても、『えっ』と驚いた顔をすると、『これは聞いちゃいけないことなんだ』と理解します。すると、もう2度と親に同じ質問をしようとは思わなくなるでしょう。また、『そんなこと知らない』『まだ早い』などとはぐらかしたりすると、大きくなって本当のことを知ったとき、親に嘘をつかれた、ごまかされたと、子どもは傷ついてしまいます

『どうして赤ちゃんができるの?』

 子どもに性にまつわる質問をされたとき、どう対処すればいいのか。具体的な例をいくつか挙げてみよう。まずは定番の質問から。

「『どうして赤ちゃんができるの?』と聞かれた場合、子どもはエッチな話を聞きたいわけではありません。コウノトリが運んでくるなどとごまかさず、正しい知識を伝えましょう。子どもの年齢にもよりますが、男性器と女性器があること、精子と卵子が出会って受精し、受精卵が着床して妊娠が成立することを説明するといいでしょう(イラスト参照)。女の子には3つの穴があって、真ん中の穴から赤ちゃんが出ると知って、驚く子も少なくありません」

高橋さんの監修書『小学生だから知ってほしい SEX・避妊・ジェンダー・性暴力』では、小学生の男女を主人公に、マンガでわかりやすくセックスや妊娠の仕組みなどを解説

『お父さんとお母さんもしたの?』

 セックスのことを知った子どもから、「お父さんとお母さんもそういうことをしたの?」と聞かれたら、どうすればいいのか。

いちばんしてはいけないのは、『そんなことしてないわよ』と嘘をつくこと。子どもに間違った知識と誤解を与えてしまいます。さらりと『そうよ』と認めるか、難しい場合は、『プライベートなことだから、そういうことは人に言うものでも、聞くものでもないのよ』『家族にもプライバシーというものがあるの』と言いましょう。

 どうしても気恥ずかしい場合は、子ども向けの性教育の本を渡すのもおすすめです。親から性の生々しい話を聞きたくない子もいるからです

『セックスはいつからしていいの?』

 一方で父親など男性に多いのが、「そのうち自然にわかるようになるから、性教育はする必要がない」というもの。でも、“自然にわかった”ものが、正しいとは限らない。だからこそ、本やマンガなどで正しい知識を与えておく必要がある。

 では、ズバリ「セックスはいつからしていいの?」など、セックスに興味がある質問をされたときはどうすれば?

セックスには必ず“妊娠”と“性感染症”というリスクが伴います。性感染症になったらパートナーとともに治療をする必要があり、妊娠したら子どもを産み育てることができるのかまで考えなければなりません。セックスはこれらのリスクを相手とともに理解したうえで、責任のある行動がとれるようになってから考えるもの、としっかり伝えてあげてください

(取材・文/樋口由夏)

初出:週刊女性2021年11月30日・12月7日合併号/Web版は「fumufumu news」掲載