イラスト/やまだやすこ

 会社員におなじみの年末調整。今年も去年と同じように会社に書類を提出し、すっかり終わった気分になっているかもしれないが、実はまだ油断禁物。

 というのも、書類を提出しているつもりでも、見落としや制度の変更などで提出に漏れがある人が結構いるのだ。勤務先によっては、1月の中旬ごろまで年末調整を受け付けてくれるので、ぜひ漏れがないか、確認してほしい。正しくできていないと、本来なら戻ってくる税金を取り戻せず、大損している可能性もある。

書類を1つ出し忘れるだけで数万円の損!

 例えば、家族構成が夫(年収600万円)、妻(扶養内)、大学に通う子ども2人(17歳、21歳)で、離れて暮らす夫の母親(73歳)がいるとする。年末調整時に、加入している生命保険やiDeCo、子どもの代わりに支払った国民年金や親への仕送りなどの申告が漏れていると、約22万円も税金を余分に支払わなければならないケースもある。たった1つの書類を忘れただけでも、数万円の税金を余分に支払うハメになることは珍しくないのだ。

 もし、年末調整が間に合わなかったときは「確定申告」をすると税金の払いすぎを防げる。医療費控除などは確定申告が必要なので、一緒に手続きするといいだろう。

 年末調整時に見落としがちな6つのポイントをまとめた。必要以上に税金を納めていることほどもったいないことはない。ぜひこの機会に手続きを見直して、払いすぎた税金をしっかり取り戻そう

保険料の控除、意外と多い「提出モレ」

●最大約1.3万円の節税!

 生命保険や医療保険などに加入している人は、税金が軽減される。そのために必要なのは、年末調整時に「生命保険料控除証明書」を提出することだ。控除証明書を提出しないと、その分の税金が戻らなくなる。

 特に複数の保険会社と契約をしている人は要注意だ。というのも、提出漏れの原因として多いと思われるのが「控除証明書のフォーマットの違い」だからだ。控除証明書は、生命保険会社からさまざまな形で届く。封筒に入っているものもあればハガキの形をしているものもある。

 ハガキ1枚で届くものは意外と気づかずに捨ててしまうことがあるので気をつけたい。死亡保険はA社、医療保険はB社といくつもバラバラに加入していると、違った形の控除証明書が何枚も送られてくることになるため、勤務先への提出漏れが起こりやすくなる。

 また、家族名義の保険契約であっても、控除の対象となる場合がある。例えば、妻名義の医療保険の保険料を夫が払っているのであれば、夫の年末調整時に申告が可能だ。家族の分の書類提出に漏れがないか、いま一度確認してみよう。

 提出できていない控除証明書が見つかった場合や、申告していない保険契約がある場合は、勤務先での年末調整のやり直しが必要。なお、控除証明書をなくしてしまっても、生命保険会社に申請をすることで再発行してもらえる。

イラスト/やまだやすこ

親に仕送りをしているなら節税のチャンス!

●最大約6.2万円の節税!

 離れて暮らしている親に生活費などを仕送りしている人もいるだろう。実は、所得が一定以下の親に仕送りをしていれば「扶養控除」の対象になり、税金を安くできる可能性がある。夫と妻どちらの親に仕送りをしていてもよく、祖父母であっても問題ない。

 仕送りの額に明確な決まりはなく、年末調整時に添付する書類もない。ただし、送金を証明する書類の提示を勤務先から求められることがあるため、預金通帳のコピーや、送金依頼書などは残しておこう

 控除額は、仕送りを受ける親が70歳未満である場合は38万円、70歳以上である場合は48万円だ。見落としやすいが控除額も大きいため、忘れずに申請しよう。

iDeCoもふるさと納税も手続きしないと節税の意味なし!

●最大約6.8万円の節税!

 多くの会社員が節税のためにiDeCo(イデコ)やふるさと納税を利用しているが、いくら節税効果が大きくても、手続きしなければ節税メリットは得られない。ただ、手続きは意外なほど簡単だ。面倒がらずにサクッとすませてしっかり節税したい。

 iDeCoは、年末調整時に「小規模企業共済等掛金控除証明書」を提出し、支払った額を申告するだけ。ただ、この控除証明書はiDeCoに関係する書類だとわかりにくいデザインなので注意が必要。紛失したり捨ててしまったりする人も少なくない。万一提出した記憶がない場合は、iDeCoの口座を開いている金融機関に証明書を再発行してもらおう。

イラスト/やまだやすこ

 ふるさと納税は、これまでは年末調整ではなく確定申告が必要だったが、寄付した自治体が5つ以内であれば「ワンストップ特例制度」を利用して確定申告なしで控除を受けられるようになった。また、確定申告する場合も今年度から「ふるなび」や「楽天ふるさと納税」などが発行する「寄附金控除に関する証明書」を添付するだけですむように。せっかくの税金対策なのだから、忘れずに手続きを。

大病や住宅購入時は確定申告をしないと大損!

●最大約40万円の節税!

 会社員や公務員であっても、年末調整だけですべての節税効果が得られるとは限らない。確定申告をしないと税金が戻ってこないケースもある。

 病院や歯科医院の医療費や、治療のために購入した医薬品代などの合計額が、ひと世帯で年間10万円を超えていると「医療費控除」を利用できる。ただし、医療費控除は年末調整で申告できないため、確定申告が必須だ。

「住宅ローン控除」を受ける場合は、初年度のみ確定申告が必要。購入住宅の種類によっても控除の上限額は異なるが、年末時点におけるローン残高の1%分の減税が受けられる。仮にローン残高が2千万円だとすると、確定申告をしないと最大で20万円分もの減税が受けられなくなってしまうので必ず申告しよう。なお、初年度さえ確定申告をすれば、2年目以降は年末調整での申告が可能だ。

昨年から始まった「ひとり親控除」で未婚でもOKに

●最大約4.8万円の節税

 これまでひとり親が受けられる控除は「寡婦控除」のみで、夫と離婚したり死別したりした妻に限られていた。ところが、昨年から「ひとり親控除」という新しい制度が始まり、未婚のシングルマザーやシングルファーザーも35万円の所得控除が受けられるように。

 この控除は「本人の合計所得が500万円以下」などの要件を満たすと受けられる。ただし、事実婚をしていると受けられないので要注意。

 ひとり親控除を受けるためには、年末調整で提出する書類のひとり親の欄にチェックすればOKだ。対象者は忘れずにチェックしたい。

親が要介護になったら税金を取り戻せる可能性が!

●最大約9万円の節税!

 親に介護が必要になったとき、かさむ介護費用や、介護のための退職で家計が苦しくなるケースは少なくない。実は、介護による経済的な負担を軽くしてくれるのは、公的な介護保険だけではない。同居している場合に限らず、親が要介護認定を受けている人は、自治体の認定を受ければ「障害者控除」の対象になり、5万~10万ほど税金を安くしてもらえる

 障害者控除の対象は、精神障害や身体障害などで身体障害者手帳や療育手帳などの交付を受けている人だが、65歳以上の人なら手帳を持っていなくても各自治体から認定を受けて「障害者控除対象者認定書」を発行してもらえれば、障害者控除の対象となる。

 すでに親が要介護や要支援の認定を受けているのであれば、自治体の「高齢者福祉課」や「高齢者支援課」などの担当窓口に相談してみよう。

イラスト/やまだやすこ

「夫は本当に年末調整している?」
していない場合はスマホから確定申告を!

 年末調整に必要な書類を夫に渡していても実は出し忘れているかもしれない。夫がきちんと年末調整をしたかどうかは、毎年1月ごろに会社からもらう「源泉徴収票」を確認すればよい

 例えば、生命保険や医療保険などさまざまな保険に加入しているにもかかわらず、「生命保険料の金額の内訳」が、支払っている保険料の合計と異なっていると、申告漏れかもしれない。また、16歳以上の子どもや、仕送りをしている親の名前が「控除対象扶養親族」に記載されていないときも、申告できていないおそれが。

 その場合でも心配は無用。「確定申告」をすると払いすぎた税金を還付してもらえる。確定申告は税務署に書類を提出しなければならず、面倒くさいイメージがあるが、マイナンバーカードを持っていて収入が給与のみなら、スマートフォンだけで確定申告できる。夫がしっかり年末調整できているか来月の書類をチェックして、払いすぎている税金をしっかり取り戻そう!

※本記事は本文中の家族をモデルケースとし、所得税を5%、住民税を10%と仮定して節税額などを記載しています。

執筆者は……品木彰さん
フリーライター。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。大手生命保険会社にて7年半勤務し、人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。保険や不動産、投資、税金など幅広いジャンルの記事を執筆・監修している。