行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は、定年を前に年下女性と再婚しようとする男性のケースを紹介します。

※写真はイメージです

コロナ禍で“おひとり様”の危険度が急上昇

 100年に一度のパンデミックといわれる新型コロナウイルス。10月、11月と感染者数が減少に転じたので、一度は安堵していたものの、今度は新しい変異株、オミクロン株に戦々恐々としています。筆者は行政書士・ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、「いつまでもひとりでいたくない! もしコロナにかかったら……」と、コロナショックでアラ還の“おひとり様”危険度が急上昇している印象です。

 まもなく2年が経過する新型コロナウイルスとの戦い。万が一、感染しても現在は自宅療養が基本ですが、最悪、そのまま治療を受けられずに亡くなるケースもあります。

 人生100年時代の到来でパートナーの重要性は高まっていますが、コロナ禍でその傾向は顕著になっていると思います。例えば、感染時の看病はもちろん、自宅内の家事、そして老齢時の介護まで頼める人がいたら安心ですし、さらに若くて健気な「妻」が理想という中高年男性も多いでしょう。

 筆者が見てきた限りでは、老夫が20歳~30歳も年が離れた若妻を金銭的に養うことで成立する「超」年の差夫婦は存在します。具体的には非正規で生活を安定させたい30代~40代女性と、前妻を失った寂しさを埋めたい60代~70代男性の組み合わせが多いです。

 こうした超年の差夫婦に「金はあるが愛はない」という印象が強いのは映画・ドラマ化された小説『後妻業』(文藝春秋刊・黒川博行作)の影響もあるかもしれません。「後妻」を求めて男が娘より若い女と再婚するなんて……眉をひそめる風潮があるのも事実です。しかし、本当に財産目当ての「妻」ばかりでしょうか?

 もちろん、夫婦としてうまくいっているケースもあります。例えば、ドリフターズの加藤茶さん(68歳で再婚、妻は45歳下)、仲本工事さん(71歳で再婚、妻は27歳下)は今でも結婚生活を継続中。現在、売り出し中の実力派俳優・新田真剣佑さんは千葉真一さん(8月にコロナで逝去)が57歳で再婚した28歳下の妻との長男です。

 しかし、すでに夫が終活を視野に入れている場合、注意すべきケースもあります。しかも、初婚ではなく再婚だと、何もしなければ遺産「相続」が「争続」に化ける危険が高いです。例えば、俳優・宇津井健さん、作曲家・平尾昌晃さん、タレントの愛川欣也さんは後妻と前妻の子が揉めていると報じられました。

 2019年の再婚は11万組と婚姻全体の2割を占めている現状です。この10年間で244万組が離婚しているので再婚率が上がるのは当然でしょう。若妻を泣かせないため、老夫は何に気をつければいいのでしょうか? 今回紹介するのは筆者の相談事例のうち、「再婚に対する子どもの同意」の問題を取り上げたいと思います。

「金はあるが愛が欲しい」相談者

「1人では何もできないと悟ったのは彼女のおかげです。『前』と比べて自分にも他人にも寛容になりました」と笑みを浮かべるのは正幸さん(仮名・58歳)。「前」とは離婚前のこと。「前妻はまるでロボット。僕と心は通じませんでした。しかし、彼女は違います!」と言い切ります。12年前に前妻と死別した正幸さんは同じく離婚歴のある29歳で無職の沙也加さん(仮名)と同棲中。二人は神社仏閣や登山や滝、湖などのパワースポットを巡るサークルで知り合ったそうです。

 正幸さんは市議会議員を経験したほどの名士で地元では知らぬ人がいぬほど。本業は三代続く不動産業で、駅前の再開発で多額の収益を上げただろうことは誰の目にも明らかでした。金はあるが愛が欲しい正幸さんと、金はないが愛を与えたい沙也加さんが結びつくのは偶然のようで必然の結果かもしれません。

 正幸さんにとって悩みの種は前妻との間の息子(34歳)と娘(32歳)の関係。「彼女の籍を入れたいという頼みをのらりくらりと交わし、今の今までずるずるとしてしまいました……」と懺悔しますが、もし沙也加さんと籍を入れた場合、息子と娘の相続分は半分に減りますし、母(前妻)を裏切ったと感じるでしょう。さらに正幸さんは孫との交流が途絶えることを心配していたのです。

 一方、沙也加さんは正幸さんをどう思っているのでしょうか?「うつ病で苦しむ私を救ってくれたのが彼です。悩みや迷いを癒やしてくれます!」とぞっこんの様子。

 バツイチの沙也加さんは、前夫との結婚生活、そして離婚交渉で負った傷が大きく、心身のバランスを崩し、十分な収入を稼げずにいたのです。そんな沙也加さんにとって正幸さんの煮え切らない言動は不安を煽っていました。沙也加さんもかわいいが、お孫さんもかわいい。そんなふうに八方美人な態度をとり続け、今に至ったのです。

離婚のタイミングは「今しかない」

 籍を入れない事実婚と、入れる法律婚は大きく異なります。法律婚の場合、戸籍上の妻は2分の1の法定相続分(法律で決められた相続分)を有しており、生命保険の受取人になることは問題なく、遺族年金も受け取ることができます。

 一方、事実婚の場合、未入籍の彼女に法定相続権はありません。さらに無条件で受取人になったり、遺族年金を受給したりすることはできず、煩雑な書類を揃え、戸籍上の妻と同等だと証明しなければなりません。

 正幸さんから再婚のタイミングについて相談を受けた筆者は「今しかありませんよ」と助言しました。もし正幸さんが退職済みなら話は別です。すでに退職金や厚生年金の受取額が確定しています。息子たちが年金を管理する場合、相続が発生した場合の具体的な金額を計算できます。

 しかし、正幸さんはまだ現役です。受け取り額が確定していないので再婚にともなう減少額を計算できません。もちろん、子が親の世話をするかどうかは遺産の大小に左右されるところは大きいです。非情な言い方ですが、まとまった遺産があるなら介護してもいい、たいした遺産がないなら介護したくないということです。現在、正幸さんは58歳で子どもたちは正幸さんの財産を計算しにくい状況ですから、定年後ではなく定年前のいまのうちに離婚するほうが適切でしょう。

 さらに正幸さんは昨年、小脳梗塞で倒れたそう。命に別状はないものの、現在も血圧が高いので医者からは「いつ何があってもおかしくはない」と言われているそうですが、それだけではありません。3年前、糖尿病と診断され、現在も治療中。現在、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は7.4%、随時血糖値は161mg/dlと極めて悪い数値で、動脈硬化による脳卒中や心臓病で突然、命を落とす危険が常にあります。糖尿病の合併症は脳卒中や心臓病だけではありません。例えば、網膜症により失明したり、神経障害や血管障害で足を切断したり、肝臓の機能低下による人工透析が必要になる可能性があるそう。

息子たちが父の再婚を承諾した理由

 そんな矢先、正幸さんが泥酔状態で駅のホームから転落するという事故が発生。たまたま電車が通過せず、車両にひかれずにすんだのは不幸中の幸いでしたが、病院に搬送されて「粉砕骨折」と診断され、手術を受け、今でも両足にはボルトが入ったまま。

 そこで筆者は息子さんたちに結婚話をする際に「介護を沙也加さんに任せると強調しましょう」と提案しました。元妻が正幸さんと縁を切ったのは離婚ではなく死別。もちろん、父親として、孫にとっての祖父として最低限の関係は保っているものの、子にとって父親への思い入れは母親より薄いでしょう。しかも正幸さんはまだ60歳手前。お子さんたちが介護を担うと、父親に対して「身体が元気ではないのに頭だけ元気だ」と嫌味を言われるケースは多々あります。

 つまり、いまの段階で子どもたちは正幸さんの世話や看病、介護を押し付けられたくないのではないか。筆者はそう思ったのです。実際のところ、正幸さんは子どもたちではなく、沙也加さんに介護されることを望んでいるのです。

 筆者のアドバイスを聞いた正幸さんはようやく重い腰を上げ、「一緒になりたい人がいる」と息子さんと娘さんにカミングアウト。そうすると息子さんたちは「親父の面倒をみたくない」と正幸さんを引き取りたくない様子だったそうで、「(沙也加さんが)責任をもって将来の介護をやってくれるなら」と再婚を渋々、承諾してくれたそう。こうして正幸さんは親族と揉めることなく、万が一の場合、沙也加さんを金銭的に守る準備ができたのです。とはいえ息子さんたちに堂々と「面倒をみたくない」と言い切られたのはショックのようでしたが。

 本来、婚姻は個人の自由です。確かに証人の欄はありますが、これは必ずしも親戚ではなく、友人でも同僚でも構いません。親族の賛成は不要とはいえ、角を立てないほうが望ましいですから、最低限の根回しが必要です。沙也加さんにとっての再婚のメリットは、正幸さんが元気なうちは生活保証、亡くなった後は遺産相続です。一方、デメリットは正幸さんの世話や介護、看病等をする「義務」が発生することです。親族が再婚に反対するのは自分たちのメリットにしか目がいかないからです。メリット、デメリットの両方を説明することが肝要です。

 会社員の場合、55歳~58歳で役職定年を迎えることが多く、年収が下がる代わりに仕事が減り、時間に余裕が生まれます。そのため、老後の生活を誰と過ごすのかを検討するようになります。バツイチ男性の場合、交際中の彼女と一緒になるか、新しい彼女を探すか、ひとりで自由に暮らすかなど、選択肢はさまざま。人生100年時代において定年後でも残りは40年もありますから、悔いのない人生を送るために再婚を考えている男性も多いのです。

 ところで今年5月、「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助氏(享年77)の55歳年下の元妻が殺害容疑で起訴されたのは、まだ記憶に新しいところ。一般人の場合、事件に発展することは稀有なので、心配しすぎることはありません。しかし、家族間でトラブルが起こる可能性を秘めているので、後妻を守るために十分な準備をし、幸せな老後を迎えてください。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/