※写真はイメージです

 多くの人が受けている健康診断やがん検診、人間ドック。これらを受けても長生きできる保証はなくそれどころか、被ばくや余計な手術などで寿命を縮めてしまうことも。ある調査では「過剰な医療」が死因の第3位なのだ。健康診断や人間ドックのリスクを医師が解説する。

死亡原因3位は「過剰な医療」!

 新型コロナウイルス感染症への懸念から健康診断などの受診控えが起きていることに対して、危機感を訴える声がある。日本対がん協会は、2020年のがん検診の受診者は前年から30%減ったとする調査結果を発表。受診を見送っているうちにがんが進行しかねないとして、定期的な検診を呼びかけている。

 ところが、その一方で「健診や検診は、必要以上に受けなくていい。むしろ、受けたほうが多くのデメリットがある」と警告するのは、新潟大学名誉教授の岡田正彦先生だ。ちなみに、「健診」は血圧や尿など全身の状態を点検して病気を予防するもので、「検診」はがん検診など、特定の病気の早期発見を目的とするものだ。

「多くの人が、がんは早期発見・早期治療が大事だと思い込んでいますが、実は医療を施す必要がないのに、過剰に治療している場合があります。精密検査によって、放置しておいてもいい初期のがんまで見つけてしまうからです。必要のない治療は、結果として死を招きかねません」

 という岡田先生は、米国の大学が発表した衝撃的な調査結果を教えてくれた。

「米国における死亡原因は、心疾患とがんに続いて、第3位が『過剰な医療による犠牲』でした。肺気腫など呼吸器系の疾患を上回っていたのです」(岡田先生、以下同)

 過剰な医療による犠牲とは、薬の投薬ミスや不要な薬剤投与、副作用による体調不良、必要のない手術による免疫力の低下や院内感染などのこと。

「つまり、しなくてもいい治療をすることによって、寿命が延びるどころか、縮まる危険があるということです」

「過剰な医療」が多くの命を奪っている!
アメリカ人の死因トップ3


第1位 心筋梗塞などの心疾患
第2位 がん
第3位 過剰な医療

 米国のジョンズ・ホプキンス大学が2016年に発表した調査結果。第3位の「過剰な医療」は医療ミスや不要な治療などのことで「医原病」とも呼ばれる。検診の結果、精密検査を受けて必要以上に心配したり、しなくてもいい手術を受けて感染症にかかったりすることも。

健診を受けても寿命は延びない!メタボ健診

※写真はイメージです

 厚生労働省の旗振りで、2008年からスタートした「特定健康診査」。健康保険に加入している40~74歳の人は、義務として受けなければならない。俗に「メタボ健診」といわれているのは、メタボリック・シンドロームに着目したものだからだ。

 女性でいえば、腹囲90cm以上、BMI25以上が基準値オーバーとされ、保健指導を受けることになる。逆にいうと、超えていなければ、健康が維持され、長生きできると思いがちだ。しかし、実はその根拠はあまりないという。

「欧米でボランティアを募って腹囲を測り、5年後と10年後の死亡率を調べたところ、腹囲と寿命には、ほぼ関係がないという結果が出ました。また英国と米国の専門機関では、定期的に健康診断を受けている人と受けていない人を調査すると、定期的に健診を受けている人のほうが、総死亡率(すべての死因による統計)が高いという結果も出ています。いくら健診を受けても寿命は延びないということです」

 岡田先生によると、欧州などでは健診の制度はあるものの、国として推奨はしていないところもあるという。米国も、ビジネス化されているので受ける人は多いが、国は推奨していないそうだ。その意味では、国が健診を推奨している日本は特殊といえるという。

 日本が特殊なのは、原則すべての国民が何らかの健康保険に加入するという国民皆保険制度があるからだ。そのため、基本的に全国民に職場や自治体から定期的に健康診断の案内が届く。その結果、健診も検診も当然受けるものだと、思い込んでしまうのだ。

「国民皆保険制度そのものはいいとしても、国が『健診を受けなさい』というのは間違い。いちばん問題なのは、法律で強制していることです」

 岡田先生が指摘する法律とは労働安全衛生法のことで、雇い主は従業員に年1回以上の健診を受けさせなければ罰せられてしまうのである。

「その健診の中には被ばくのリスクが高い胸部エックス線検査なども含まれています。これは『すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』という憲法第二五条に違反しているとさえいえると思います」

「余計な手術」の温床!人間ドック

 こうした義務である健診に対して、任意なのが人間ドックだ。

 これらはCTやMRIなど高度な医療機器を使うので、平均費用は4万~6万円と高額だ。にもかかわらず、受けている人は多い。

「CT検査はほかの検査よりエックス線量が多いため懸念も大きいです。1度の検査ですぐに深刻な状態になることはありませんが、エックス線は放射線の中でもエネルギーが強く、体内に入り込むと遺伝子を傷つける危険があります。毎年検査を受け続ければ、正常な細胞ががんに変化する可能性があります

 英国で調べたがんの原因に関する調査によると、検査として行われたエックス線の照射ががん発症の直接の原因となっていた割合は0・6~1・8%だったという。その中で大きなウエートを占めていたのがCT検査だったそうだ。

 一方、MRIは磁力を用いた検査でエックス線を使わないので被ばくの心配はない。

「しかしMRIを使うと、CT検査ではわかりにくかった小さな異変までわかり、いろんな病気が見つかります。見つけた以上は、病院としては治療しないわけにはいきません」

 そういった治療こそ、岡田先生によると不要なものであることが多いという。

「初期のがんの場合、小さいままだったり、消えてしまったりすることも少なくありません。そのままでも大丈夫なのに、人間ドックで見つけてしまって余計な手術をした結果、身体の抵抗力が落ちて別の病気になってしまうケースもあるのです」

乳がん・肺がん・胃がん検診

 女性なら気になる乳がんは、遺伝や生活習慣などによって発症することがわかっており、40歳以上を対象に、2年に1回、触診とマンモグラフィの受診をすることになっている。

 マンモグラフィは乳房を薄く広げてエックス線撮影するが、20回に1回の割合で誤診が起こり、異常がないのに乳がんと診断されることがあるという。そうなると、乳房に針を刺して細胞を取り出す検査を受けさせられたり、手術や放射線治療、抗がん剤などを施されたりすることも。精神的なダメージも大きそうだ。

「乳がん検診によって総死亡率が下がったという複数のデータがありますが、調査対象のグループの分け方が明記されていなかったり、対象者に偏りがあったりと、いずれも信用性に欠けています。

 信用できる調査に限って見てみると、『検診を受けたグループと受けなかったグループを比べたところ、検診に有効性は認められなかった』と結論づけられています」

 岡田先生が受けなくていいがん検診の筆頭に挙げるのが、肺がん検診だ。

「チェコスロバキア(当時)では、肺がん検診を半年ごとに受けていた人のほうが、受けていない人よりも総死亡数が多いという、驚くべき結果が出ました。これも検診で被ばくを重ねた結果ではないかと考えられています」

 もちろん検診で重篤な肺がんが見つかることもあるだろうが、それはレアケース。被ばくのリスクは全員に関わるので要注意なのだ。その肺がん検査よりも被ばく量が多いのが胃がん検診だ。

「胃は複雑な形をしているため、さまざまな方向から7~8枚撮影します。被ばくする放射線量は、胸部エックス線検査の実に6倍です」

 胃がん患者は欧米では少なく、日本などのアジア諸国に目立つという。理由は塩分の多い食生活が影響しているとされ、岡田先生は、検診に頼るよりも食生活の改善をすすめる。

「過剰検査」でダメージも!大腸がん検診

 では、エックス線撮影をしない大腸がん検診は、リスクが低い検診といえるのだろうか。

「大腸がん検診は、検診でがんによる死亡率は低下させることはできても、総死亡率を減らすほどの効果はないとされています」

 つまり、がんそのもので死亡する人を減らすことはできても、がん以外の原因で死亡する人は減っていないということだ。岡田先生は、そのがん以外の原因が、過剰検査や過剰治療によって、引き起こされている可能性があることを問題視する。

 大腸がんの検査では、検便により、目に見えない血液の成分が便に混じっていないか確認し、そこで異常が出ると、内視鏡検査となる。ところが英国の調査によると、この内視鏡検査を受けている最中に、腸に穴があいてしまうトラブルが少なくないことがわかった。検査により、脳出血や心筋梗塞などの発作を起こす人も、一定の割合で出てきているという。

「内視鏡の消毒が不十分で病気が感染してしまうこともあります。また、針を刺して検査をした場合、もしがん細胞があれば、針を刺したことでほかの部位に散らばってしまうリスクもあるのです」

デメリットも考えて自分で判断すべし

 とはいえ1年に1回、義務として受けるなら極力活用したいもの。岡田先生は、血圧、血糖値、コレステロール値に留意することをすすめる。

「特に血圧は健康寿命に直結します。高血圧と言われたらぜひ運動や減塩で上手にコントロールしてください」

 では、任意のがん検診や人間ドックは、本当に受けなくていいのだろうか。

「基本的には必要ないと私は思います。ただし、喫煙者は肺がん検診は定期的に受診したほうがいいです。リスクがとても高いですから。でもその前に禁煙をおすすめしますが」と岡田先生は、健診や検診を熱心に受けるより生活習慣の見直しを、と強調する。

「私も勤労者なので、年1回の健診を仕方なく受けていますが、それ以外は一切受けていませんし、家族にも受けさせていません。自分が受けようとしている健診や検診は本当に必要か、受診するメリットとデメリットは何か、しっかりと考えることが大事だと思います」

エックス線を使った検査と被ばく量

検査法 放射線被ばく量(mSv)

胸部エックス線検査(1枚) 0.1
乳がん検診(マンモグラフィ) 0.1~1.8
日常生活で受ける年間放射線量 2
内臓脂肪測定CT 3~10
心臓(冠動脈)CT 12~42
頭部CT 2~106
食道と胃のバリウム検査 0.6~100
大腸のバリウム検査 8~300

※岡田正彦『医者の私が、がん検診を受けない9つの理由』(三五館)をもとに作成

 教えてくれた人……岡田正彦先生 ●新潟大学名誉教授。医学博士。専門は予防医療学で、遺伝子や細胞を対象とした基礎実験からビッグデータの統計解析まで幅広い研究を行っている。『がん検診の大罪』ほか著書多数。

〈取材・文/江頭紀子〉