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 2021年の流行語トップ10に“親ガチャ”が入賞するなど、コロナ禍で家族の在り方や親子関係への関心は高まっている。なかでも親の老いを感じ始める50代では、介護に向けて親との関係に不安を抱える人が少なくない。

 介護を機に関係悪化の泥沼にハマる心配だけでなく、過去につらく当たったことを負い目に感じたまま、悔いなく介護、看取りができるのか。

親が死んだらラクになれるわけではない

「親子関係にしこりがあり、介護に漠然とした不安があるという相談は、40代以降増えてきます。“死んでほしい”と思っていた親を苦しみながら介護をしたけれど、親が死んでも気持ちがラクにならなかったと相談に来られた60代の方もいらっしゃいました」

 そう話すのは、親子関係の相談を専門に行う心理カウンセラーの加藤なほさん。

 昨今、芸能人が母娘関係の確執を書いたエッセイが増えているが、自身も“毒親育ち”で悩んだ経験を公表しているひとりだ。

「50代で親子関係に悩む方は、何十年も心のモヤモヤを抱えているケースが多い。母親を毒親だと思っていたが、連鎖反応でわが子にとっても自身が毒親となってしまい、親と子の両方の関係に悩む人もいます」(加藤さん、以下同)

 自分では気づいていなくても、親に会う予定があると憂鬱になる、会うと疲れるという人は親子関係に黄色信号だ。

まずは自分の傷と向き合う

 では、関係がよいとはいえない老親とどのように向き合っていけばよいのか。

「まず、“関係を修復しなきゃ”という義務感のうちは、無理をしないこと。大切なのは、会いたい、謝りたいと思ってから行動することです」

 心の準備がないまま、親に謝る、逆に親から謝られるということが起きると、さらに嫌悪感が増す場合も。“こう言われてつらかった”など、親へのネガティブな思いを人に話したり、ノートや匿名のブログに書くなどで吐き出すことから始めるといい。

親子関係に悩む人は、自分をないがしろにして生きてきた方が多いので、まずは自分の傷に向き合って、自分がどうしたいのかを問う必要があります。

 親に満たしてもらえなかった思いを受け入れることで、初めて親を客観的に見られて、感謝や謝罪ができる。単に距離をとったり、親が他界すればラクになるものではないのです」

 ただし、感謝や謝罪を伝えても、親が同じ気持ちを返してくれるとは限らない。自分の言動で親が変わるわけではないと肝に銘じておくこと。

「親子関係が修復できれば、親に愛されていたという気持ちから自己肯定感を得られる。ですが亡くなった後でも、仏壇に手を合わせ、自分の傷と向き合うという方法もあります。自然な気持ちで親との距離を縮めたいと思ってからが修復のスタートです」

実際にあった親子問題

 親子関係は三者三様。加藤なほさんから、実際にあった親子問題のストーリーを聞いた。

【母からの電話に動悸拒絶して幸せを得た】

 実家の近くに住む50代の女性は、何かにつけて母に呼びつけられ、子どもの進路から自分のパート先まで、何でも母の思いどおりになるよう口を出されてきた。

 母からの電話に動悸が激しくなる日々。

 そんな生活に終止符を打つべく、母に「口を出さないでほしい」と告げ、呼び出しにも応じないと決めた。

 少し心が痛んだが、母の言葉に苦しむ日々から解放され、自分を大切に生きる喜びを感じ始めている。

【幼少期を振り返り過干渉連鎖を止めた】

 自分の過干渉が20代の息子を苦しめているかもと悩む50代女性。

 でも、どうすればよいか自分ではわからない。

 そこで自分の幼少期を振り返ると、自分も母から同じような過干渉を受けていたこと、どんな思いをしてきたかを思い出した。

 そのことが自分の傷を癒す契機となって、息子へ何か言いたくなることが減り、信じて見守れるように。

 自分もやりたいことを楽しめるようになった。

教えてくれたのは……加藤なほさん●心理カウンセラー・メンタルコーチ。HahaCo Labo 母娘関係研究所」代表。自らも“毒親育ち”の経験を持つ。『あさイチ』、『クローズアップ現代+』などで親子関係や生きづらさについてメディアで発信する。

(取材・文/河端直子)