実際に「天皇」と書き込むと…

 『2ちゃんねる』(現『5ちゃんねる』)――キャッチフレーズである、“「ハッキング」から「今晩のおかず」まで”の言葉のとおり、幅広い分野の話題が投稿される掲示板だ。

 “ニュース速報”、“社会・世評”、“ラーメン”、“ファッション”、“既婚女性”、“ジャニーズ”、“ハゲ・ズラ”などなど、数百を数えるそれぞれの掲示板には、日々様々な内容が書き込まれるが、昨年末より一部の掲示板で、“特定のワード”が書き込めない仕様となっている。そのワードとは何やら“思惑”を感じさせるもので……。

“何でもあり”では、ない

 『2ちゃんねる』は'99年に、ここ最近は“論破王”として露出の多い西村博之氏によって開設された。当初はメジャーとは言えず、ネットに詳しい一部の人たちが利用するような、いわゆる“アングラ”な掲示板であった。

 2000年代に入り、2ちゃんねるに犯人による犯行予告の書き込みが残されていた『西鉄バスジャック事件』のような事件・トラブル、また2ちゃんねるへの書き込みが元となり多くのメディアミックスを生んだラブストーリー『電車男』などで広く一般にも知られるようになった。

 開設者の西村博之氏は'09年に運営を離れ、その後いくつかの運営者を挟み、'17年よりフィリピンの『Loki Technology』社に運営権が譲渡され、その際2ちゃんねるから『5ちゃんねる』に名称が変更されている。

 2ちゃんねる時代から、同掲示板では『西鉄バスジャック事件』のような死者を出す凶悪な犯罪だけでなく、有名人・一般人を問わない誹謗中傷、殺害予告、暴言や身勝手な批判、中傷、罵詈雑言などが日々書き込まれており、世間的なイメージは現在に至るまで良いものではないだろう。それらが撲滅されることはなく現在まで至るが、運営側はそういった危険な書き込みに対する規制する対応を少なからず行ってきている。

 現在は掲示板に書き込む際、次のようなメッセージが書き込みが反映する前に表示される。

《投稿確認 この書き込みで本当にいいですか?

 犯罪予告や犯罪示唆、誹謗中傷、性的な出会いを目的とした書き込みでないか今一度確認してくださいね。》

 また、“何でもあり”なイメージのある掲示板ではあるが、古くから“規制”もある。主に“荒らし”と呼ばれる行為を阻止するために設けられている。規制対象となる荒らし行為の代表例は以下。

・プログラムを利用した大量投稿
・スレッドを乱立させる
・長文や意味を持たない文字列、アスキーアートなどをコピー&ペーストする
・誹謗中傷
・差別発言
・特定個人への執拗な煽りや叩き……など。

 このような書き込みや行為をすると荒らしと認定され、その投稿者は書き込みができなくなる。しかし、一方で上記のような行為をしなくても書き込みができなくなることも。それは“荒らし行為をした者と同じプロバイダを利用している”などで巻き添えを食う形で規制の対象になってしまうケースだ。

明らかにされていない“NGワード”

 しかし、この年末に5ちゃんねるで起こったことは……。5ちゃんねる利用者が語る。

「年末に5ちゃんで“天皇”と“安倍”が書き込めなくなりました。一部の板で急に“書き込み禁止”のワードとなったようです。

 私が見ていたのは『実況板』というテレビなどを見ながら、その番組の感想を書き込みし合う掲示板です。試しに“天皇”と書き込もうとしたら、《ERROR:しばらくお断りしております》の画面が表示され、書き込むことができませんでした。私自身はいわゆる荒らしとなるような行為はしていません。

 荒らしに認定されたら、一切の書き込みができなくなるわけですが、ネット環境を変えずにこれらのワード以外は普通に書き込めていたので、“このワードがNG”とわかり、不思議に思いました。書き込めなかったのは私が見ていた実況板などの一部の掲示板で、変わらず書き込めるところもありました。

 何か“政治的”な意味合いを感じさせるワードが書き込めなかったわけですが、自分はこのような政治方面の話題に興味がないので、彼らの誹謗中傷、叩きなどをおこなうようなことは一切していません。興味がないので……(苦笑)。これらのワードが書き込めなくなったということを知り、実験的にこのとき“天皇”と書き込もうとはしましたが」

 なぜ天皇や元首相を表するワードが書き込めなくなったのか。

「5ちゃんねるは規制の対象となる行為のすべてを明らかにしているわけではありません。書き込みNGワードは個別の板ごとに設定されていると予想されます」

 そう話すのはITジャーナリストの三上洋さん。

「5ちゃんねるのNGワード設定のほとんどは荒らし対策です。それらのNGワードは“コレ”と明らかにされていません」(三上さん、以下同)

 NGワードを明らかにすれば、それを使おうとする者がいなくなるのではないか。

「おそらくNGワードを明らかにしてしまえば、例えばNGとなる単語の間にスペースを入れる、一部をアルファベットにするなどで、実質“その言葉”を書き込める対策をとられる。そのため荒らしを行う者に対し、NGワードを明らかにするというのは良いことにならないのです。荒らしを増やさないためですね」

 今回、天皇などが書き込めなくなったのはなぜか。その“意図”は――。

「規制を明らかにしていないのであくまで予測になりますが、いちばん濃厚なのは、5ちゃんねる側が何か政治的な意図をもってNGにしているわけではないことです。荒らしをする人が、“天皇”もしくは“安倍”という言葉を使って荒らしをすることが多く、その荒らしをさせないためにNGワードにしているのではないかと考えます。

 荒らし行為への対応としましては、このようなNGワードを設定する規制ではなく、IPアドレスによっておこなうことが一般的です。特定のIPアドレスからそのプロバイダごと書き込みNGにするというのが、2ちゃんねる時代からとられている規制の方法。それをしない理由は例えばIPアドレスを変更できるような荒らしがいて、その対策としてNGワードを設ける必要性ができてしまっているのかもしれません」

 何はともあれ、天皇陛下に対してでも、政治家に対してでも、もちろん一般人に対してでも、誹謗中傷などの荒らし行為は、ダメ。ゼッタイ。