情報公開請求で入手した資料をもとに告発する東恩納市議。市議会が設置の調査委でも追及が続く

 米軍基地の新設予定地・辺野古を抱え、政府による埋め立て工事が続く沖縄県名護市。1月23日に迫った市長選は新基地建設を進める自民党の支援を受けた現職・渡具知武豊市長と、中止を求める新人・岸本洋平前市議が激突する与野党対決の構図だ。

沖縄版モリカケ事件

 そんな中、「沖縄版モリカケ事件」と呼ぶのがぴったりな重大疑惑が浮上した。森友学園問題では安倍晋三元首相の「お友達」だった籠池夫妻への優遇ぶりが国会で追及されたが、名護市でも市有地売却をめぐって、渡具知市長の親族の関係会社が特別扱いをされたのではないかという問題が持ち上がったのだ。これを受けて、市議会には調査特別委員会が設置され真相解明中。渡具知市政の是非を問う、もう1つの選挙争点になりつつある。

 疑惑の舞台は、市の一等地にある旧消防庁舎跡地。議会でこの問題を追及する東恩納琢磨市議が説明する。

「2019年4月に公募型プロポーザル(提案入札)で、大和ハウス工業沖縄支店とアベストコーポレーションの共同企業体(JV)が選定されました。ところが地元業者・X社は、JVより1億3000万円も高い5億5000万円の買い取り価格を掲示していたんです。その後、JVから契約上の地位を継承(転売)されたのが市長の義兄が執行役員を務める『株式会社丸政工務店』の子会社、『有限会社サーバント』でした。

 現場はこのとおり、いまだに草がぼうぼうとはえている状態。予定されていたホテル建設着工の見通しは立っていません。何らかの政治的圧力が働いた可能性があります」

 確かに市長の後援会「とぐち武豊後援会」の会計責任者が市長の姉で、その夫(市長の義兄)が建設会社「丸政工務店」の執行役員だった。そして「丸政工務店」の代表取締役と「サーバント」の代表取締役は同一人物であると登記簿に記されてもいた。

 しかも子会社である「サーバント」は丸政工務店社員の自宅の一部を賃借した民家が所在地で、常勤者不在であることも市議会での追及で判明。

なぜ市有地売却が市議会で承認されたのか

「実態の乏しいぺーパーカンパニーではないか」と東恩納市議は疑っている。実際、筆者が現地を訪れると、民家にサーバントの看板が立てかけられているだけ。こんな会社に優良市有地が1億円以上も安値で売却されていたのだ。

転売されたサーバントの所在地を訪れると、民家に看板が立てかけられているだけだった

 地方自治法は2000万円以上の不動産売買は議会の議決に付さなければならないと定めている。なぜ疑問噴出の市有地売却が市議会で承認されてしまったのか。

 跡地売却で採用された公募型プロポーザルは、買い取り価格だけでなく、跡地に建てるホテル計画や地域貢献度などの提案内容にも点数をつける総合的評価方式。比重は価格が2割、提案内容が8割で、選考委員は市役所幹部や商工会会長ら8名が占める。

 しかし、落選した「X社」は名護市を含め県内で10軒ものホテル営業の実績がある。今回のホテル計画も温泉施設併設の独創的なもので、40~50名程度の従業員の雇用を予定するなど地域貢献にも配慮する内容だった。

 それでも選ばれなかったのは、安値をつけた大和ハウス・アベストJVの提案内容がさらに高評価だったためだが、その評価点数一覧表は非公開。各選考委員がどの項目で高い点数をつけたのか具体的に知ることはできない。「市長に忖度した市幹部が恣意的にX社を低評価、JV側を高評価にした」という疑惑を払拭するのは困難だ。

 森友事件との共通点はほかにもあった。東恩納市議は、こう暴露したのだ。

「情報公開によって、市有地売却の説明資料『事業スキーム説明書』が2種類存在していることがわかりました。1つが入札のプレゼンで実際に使用されたもので、もう1つが議会説明用に偽造した疑いのある文書です」

 この文書が決定的な役割を果たした。議会提出文書には、名護市と大和ハウスJVが契約する事業計画図が示され、土地・建物を所有するのは「名護市を所在とする新規法人」としか書かれていなかった。市議たちは当然、JVが地元に新規法人を設立すると理解して承認をしたが、実際には新規法人は設立されず、市長の親族関連会社「丸政工務店」の子会社「サーバント」が金武町から名護市に移転、市有地の所有権を取得した。

 一方のプレゼン資料には、「丸政工務店」の別の子会社である「ホクセイ」の名前が明記され、そこに名護市が土地を売却する事業計画図になっていた。いずれにせよ、市長の親族関連会社の子会社が土地・建物の所有者になることは同じ。この“不都合な真実”を市は隠蔽していた。議会に虚偽の説明をした可能性は極めて高い。

 騙しの手法はこうだ。「市と売買契約を結んだ大企業が地元新規企業を立ち上げ、地域住民を雇用するなどして地元にお金を落としてくれる」という幻想を市議たちに抱かせて議会承認を得た後、当初の予定(プレゼン内容)どおりに丸政工務店の子会社が所有者となるようにするため、サーバントの所在地を名護市に移転させ、民家に看板がかかっただけの会社に土地を買い受けさせることにしたのだ。

市長の落選運動がスタート

 東恩納市議はこう怒る。

「市議会の承認を得た説明内容と、実際の事業計画が食い違っているわけですから、地方自治法上、『サーバント』が所有権を取得したことについて改めて議会にはかる必要があります。ところが市は拒み続けているのです」

 一方、市の担当者に文書改ざんについて聞くと、「プレゼン内容に問題があり議会承認前に修正してもらった」と2種類の文書の存在は認めたものの、偽造は否定した。これに対し東恩納市議は「2つの文書の日付は同じで、議会承認のために意図的に内容を変更したのではないか」と指摘する。

 一連の疑惑を受けて、地元では市民有志による落選運動がスタート。1月8日には弁護士・郷原信郎氏を講師にオンライン学習会が開かれた。昨年の衆議院議員総選挙で郷原氏は「あっせん利得疑惑の説明責任を果たしていない」と訴え、甘利明幹事長(当時)の落選運動に成功している。

 今回の名護市長選について郷原氏は「渡具知市長の義兄が執行役員を務める会社の子会社に優良市有地を売っていた」と問題視、落選運動への参加理由に挙げている。「市有地売却で新疑惑急浮上」などと銘打ったチラシも作成、辺野古問題とともに「全国国民が注目を」と呼びかけた。

 県民の度重なる反対にもかかわらず新基地建設が進む辺野古では、海底に軟弱な地層が見つかり、地盤改良のため工事計画の大幅な変更を余儀なくされる事態に。工事の長期化は避けられない見通しで、2兆円以上の巨費をかけても欠陥基地にしかならないおそれが指摘されている。

 12月に新基地予定地周辺の貴重なサンゴ群落をグラスボートで見た郷原氏は「市長選では辺野古問題の議論が不可欠。争点はずしを続ける渡具知市長は落選させるしかない」と断言、環境破壊を伴う無駄な税金投入になりかねないとして、全国民にも関係する重大な問題と訴えているのだ。

 8日の学習会で郷原氏は市民からの疑問点に答えた後、次のように締めくくった。

市有地売却で渡具知市長は説明責任を果たしていない。どう考えても米軍基地が原因の感染爆発にも、辺野古新基地建設にも異を唱えようとしない。渡具知市政では市民の命・暮らし・財産は守れない。名護市の未来は破壊されようとしているのではないか」

 落選運動がどこまで広がるのか。1月16日告示の名護市長選の結果が注目される。

取材・文/横田一 フリージャーナリスト。多くの雑誌やネットニュースで記事を執筆、『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)ほか著書多数。インターネット動画ニュース「デモクラシータイムス」で「横田一の現場直撃」を公開中