テレビ朝日の看板ドラマ『科捜研の女』と『相棒』

  2021年の年間世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)において、テレビ朝日がゴールデンタイム(19~22時)で10.2%と首位を獲得。日本テレビも同率首位ではあるものの、テレ朝の首位は8年ぶり。“振り返ればテレ東”と言われていたのは、もはや過去のことだ。

 同志社女子大学学芸学部メディア創造学科の影山貴彦教授によると、テレ朝の躍進にはドラマの好調が寄与しているという。

「テレ朝のゴールデンのドラマといえば、何といっても『相棒』(主演・水谷豊)に代表される水曜21時枠、そして『科捜研の女』(主演・沢口靖子)に代表される木曜20時枠が2大看板。ともに、放送されるすべての作品が東映との合作です」(影山教授、以下同)

 2021年、テレ朝の水曜21時枠で放送されたのは『相棒(season19、20)』、『特捜9(season4)』(主演・井ノ原快彦)、『刑事7人(season7)』(主演・東山紀之)。一方、木曜20時枠で放送されたのは『遺留捜査(season6)』(主演・上川隆也)、『警視庁・捜査一課長(season5)』(主演・内藤剛志)、『IP~サイバー捜査班』(主演・佐々木蔵之介)、『科捜研の女(season21)』というラインナップ。完全なる新作は『IP~サイバー捜査班』のみ。そのほかはすべてシリーズ化されて長寿ドラマとなっている。

 そもそも東映は、テレビ朝日ホールディングスの大株主。同時にテレビ朝日ホールディングスは、東映の筆頭株主。株式持ち合いの関係にあるが、

「2021年12月、テレビ朝日ホールディングスは、東映の株式をさらに追加取得し、19.68%の保有となりました。古くからテレ朝と東映は、『仮面ライダー』などのヒーローものやアニメーションなど深いつながりがありますが、ここに来て株式面から見ても、さらにその関係性を深めていることがわかります」

 絆を深める理由は、もちろんお互いにメリットがあってこそ。

手堅い“スルメドラマ”の量産

「テレ朝にとってのメリットは、ドラマが1作ヒットすればそれをシリーズ化できる。何度も、何年にも渡って支持され続ける、そんな“おいしい”作品群を放送し続けられます。言うなれば“スルメドラマ”。噛めば噛むほど味が出るというのかな。派手派手しさはないけど、食べるとおいしい。そして、止められなくなってまた手が伸びる。中には“パターンが決まっている”という人もいるかもしれませんが、いわゆる“待ってました”的な流れをきっちりと提供してくれながら、必ずひとさじ、ふたさじのスパイスを入れてくれている。その絶妙な味付けがすばらしいなと思います」

 東映との合作ドラマの特徴として、主演を張るのは今をときめく俳優ではなく、説得力のある名優。

「これもシリーズ化を視野に入れた人選でしょう」

 若い俳優の場合、その役のイメージが付きすぎることへの懸念も。せっかく続編が作れる良作であっても、その制作が滞る可能性があるという。

「僕はテレビには新陳代謝が必要で、世代交代は当然と唱えていますが、シニアの視聴者も絶対大事にしなきゃいけないと思うんですね。ドラマにおいても中高年層が“ああ、やっぱり見ていて食い足りるドラマだな”“見ごたえがあるな”という作品を、テレ朝は東映とタッグを組むことによって多く生み出していると思います」

 また『報道ステーション』の存在も大きい、と影山教授。

「22時には必ずニュースをやっているという安心感がありますよね。“あれ? 先週はこの時間にあの番組をやっていたのに、今週はやっていない”というのは、テレビとしてはダメなんです。そして、『報道ステーション』の前には熟練のドラマを楽しむというスタイルを定着させたわけです。逆を言えば、22時スタートのドラマをテレ朝は作れないわけですが、それを逆手に取って、見事なドラマ枠を作り上げてきたわけですよね」

ヤクザ映画ばかりだった東映

 では東映にとって、テレ朝とタッグを組むメリットは? そもそも東映は、東宝、松竹とともに日本3大映画会社のひとつ。

「年間売り上げでいうと、東宝は1919億円。東映は1076億円とダブルスコアです。所有スクリーン数も、東宝系の『TOHOシネマズ』が約660スクリーン(共同経営含む)に対し、東映は218スクリーン(会社概要より)。また『TOHOシネマズ』は交通の便の良い場所にあることが多いですよね。阪急阪神東宝グループに属する東宝は、優良な不動産を持つことでも知られています。そのあたりも売り上げの差に反映されていると思います」

 若い男女の恋愛モノなど派手な作品の多い東宝、『男はつらいよ』などに代表される人情味あふれる作品に強い松竹に対し、東映はヤクザ作品に定評が。

「昨年は『孤狼の血 LEVEL2』(主演・松坂桃李)がヒットしましたが、まさしく東映の真骨頂。しかしながら、時代と社会性の面からヤクザ映画ばかりを作っているわけにはいかない。そして、映画ビジネスはどうしてもギャンブル性が高く、リスクの多くを映画会社が抱えている側面があります。そんな東映にとってテレビというメディアの安定性が何よりも魅力なんです。毎週、必ず流すことができる。そしてテレ朝との長い歴史において水曜21時、木曜20時というしっかりとした枠があり、そこにスポンサーがつくわけですから。会社として日銭がちゃんと稼げるわけです」

 その中でヒットドラマが生まれれば、劇場版の配給も当然できる。

「『相棒』はこれまでに劇場版が4作公開されていますよね。そして昨年は『科捜研の女』も初の劇場版がヒットしました。もちろん配給はすべて東映です」

各局はシニア層へと舵きり

 まさにWIN-WIN。そして盤石とも言えるテレ朝と東映の関係性。

「株式上でも大きな繋がりのあるため、“一度限りのお付き合い”ではなく、じっくりと腰を据えて番組制作に臨むことができている。たとえ華々しいスタートでなかったとしても、時間をかけて作品とファンをじっくりと育てていく。その結果、多くのヒット作を生み出しているように見えます」

また他局にとっては、東映のような歴史と伝統、制作能力に長けたパートナーを持つテレ朝は、羨ましい環境に見えるだろう、と影山教授。

「そして“続編、また続編でいい商売をしてますよね”では決してないんです。好調の裏できっちりと種をまき、芽を育て続けている。攻めの姿勢を崩していません

 1月6日には『管理官キング』(主演・沢村一樹)が放送されたばかり。昨秋には『欠点だらけの刑事』(主演・小日向文世)の第2弾も放送されている。あの『相棒』も、もともとは2時間のスペシャルドラマからスタートしているのは有名な話。

 一方で、片岡鶴太郎主演の終着駅シリーズ(1990年~)はすでに37作。伊東四朗主演の『おかしな刑事』(2003年~)はシリーズ通算25作目を数えるなど、長寿スペシャルドラマも多数抱えている。

「今、若者という同じ魚ばかりを追い求めるテレビ局が複数ある中で、テレ朝はテレビ東京同様に独自の道をしっかりと突き進んでいると思います。今後、テレ朝がゴールデンだけではなく“3冠獲得”なんてことになれば、他局の目の色も変わるんじゃないですか? “F1(20歳~34歳の女性)やF2(35歳~49歳の女性)ばかりを追いかけていてはいけない”と考えるテレビ局が出てきても不思議ではないと思います。そして他局がシニア層に見てもらう番組作りへと舵を切ったとしても、テレ朝を追いかける後発。アドバンテージがないわけですから、その差を埋めるのは容易ではないでしょう」

影山貴彦 同志社女子大学学芸学部メディア創造学科教授、コラムニスト。'86年4月に毎日放送(MBS)に入社し、テレビやラジオ番組の制作、編成業務をへて現職。代表プロデュース番組に『MBSヤングタウン』。近著に『テレビドラマでわかる平成社会風俗史』(実業之日本社)