麻木久仁子さん

 手足などの冷えがつらい季節。暖房を強くしたり厚着をしたりしても冷えがとれない、夜眠れない……。

 そんなときは身体をじっくり温める「温活」を試してみてはいかがでしょうか。

 今回は、薬膳食材を使った温活レシピで冷え知らずの身体づくりをしている、知性派タレントの麻木久仁子さん(59)にお話を伺いました。

大病きっかけで薬膳に出会う

 麻木さんが実践している温活は、食事によって内側から身体を温めるというもの。

 温活の大切さを実感したのは、10年ほど前に経験した2つの大きな病気がきっかけだったという。

「48歳のときに脳梗塞、その2年後に乳がんを発症。それまでは、体力に自信があって元気がとりえだったのですが……。何がいけなかったんだろうと健康を見直す中で出会ったのが、薬膳による温活でした」(麻木さん、以下同)

麻木さんはタレント以外にも、薬膳師や温活士の資格を活かして活動している

 その後も温活を続け、すっかり健康を取り戻したという。

「病気になって最初に見直したのが食事でした。というのも、若いころは子育てと仕事の両立にてんてこまい。

 台所で立ったまま食事をすることもあれば、時間が不規則な仕事の合間や早朝とか深夜に揚げ物メインのお弁当を食べることも……。

 子どもの食事には気を使っても、自分の食事の栄養バランスまでは配慮しきれませんでした。

 また、私がちょうど病気をしたころ、娘も高校を卒業して食べ盛りを過ぎたので、家での食事について『量より質』を考えるいいタイミングでもあったんです」

 そんな中で興味を持ったのが薬膳だった。

「薬膳は『食べてはいけないものがない』というのがいいなと。甘いお菓子からお酒まで、あらゆる食材にそれぞれの力があるという考え方なので、食べることを楽しみながら身体を大切にすることができる、無理なく続けられる養生だと思ったんです」

健康の源は“血行のよい身体”

 薬膳について勉強していくうちに身体を温めることは、すなわち、健康な身体を手に入れることにほかならないと気づいたのだという。

 中国の伝統医学をルーツとする薬膳では、さまざまな食材を体調や体質、季節などに合わせて食べることが基本。

 病気にかかりにくい身体、治りやすい身体をつくることが目的だが、身体を冷えから守り、適切な温度に保つという考え方も含まれている。

冷えは万病のもとですし、血行のいい身体は、あらゆる健康の源。体温が低い人は体温を上げることで代謝がよくなり、免疫力もアップします。逆に体温が低いと、さまざまなウイルスや細菌への抵抗力が下がり、病気にかかりやすくなってしまうんです」

“ちょい足し”で無理せず温活

 2016年には国際薬膳師、さらに2020年には温活士・温活指導士の資格も取得。自らが温活を実践するだけではなく、薬膳と温活とを組み合わせた「薬膳温活」を提唱。

 現在はいわば温活のプロとして、食を通して身体を温めることの大切さを伝えている。

温活薬膳料理の講座も実施している

 特に力を入れているのが「温活レシピ」の紹介。薬膳の知識を活かして、身体を温める料理、身体を冷やさない料理のレシピを数多く考案・発表している。

「きっかけは薬膳教室の生徒さん。肌のトラブルやお通じの不調、片頭痛、肩こり、食欲不振に肥満といった不調に生徒さんが悩まされていたのです。一見別々の悩みのようで、実はどれも身体が冷えているせい、つまり、血行不良が不調の原因なのでは、と思ったんです」

講座では身近な食材で簡単にできておいしいレシピを紹介。「これなら私にもできる!」という声も多く聞かれたそう

 ある調査によれば、現代女性の約8割が、冷えを感じているという。

「冷えは体質によるものや加齢からくるものもありますが、運動不足や睡眠不足、ストレスなども冷えにつながります。たとえ自覚がなくても、血流の悪さから身体の中が冷えている場合も。

 血行をよくして身体を温めれば体調不良も改善するのではと考えました。そこで、毎日の暮らしに取り入れやすい温活として、簡単にできておいしい料理のレシピがあれば、みなさんのお役に立てるのではと」

 確かに、薬膳といわれるとハードルが高く感じるが、温活レシピなら親しみやすく、気軽に試してみたくなる。

「おすすめは、ふだんの料理へのちょい足し。例えば、寒いときに紅茶にシナモンシュガーを入れて飲むのだって立派な温活です。シナモンには身体を内側から温める効果があります」

 ほかにも、食欲がなくてお粥にするなら、身体を温める効果があるショウガ、風邪予防効果があるネギを薬味として加えれば、こちらも立派な温活に。

「そんなふうに、普段の食事に取り入れて、習慣にしてもらえたらと思っています」

 寒い冬に始めたい温活。まず何から実践するといいだろうか。 

「いちばん大事なのは冷たいものを食べない・飲まないようにすること。身体の中に入れるものは体温に近い温度のものがいいです。特に、朝は身体のエンジンをかけるときですから、できるだけ火の通った温かいものを食べて、そのうえで、旬のものを取り入れるなど、食材を工夫するのがおすすめです

 さらに、食事以外で寒い冬を乗り切るアドバイスももらった。

「あらゆる冷えの大本は、体幹にあります。手足などが冷たいと感じると手袋や靴下などで温めようとする人が多いですが、それだけでなく、お腹や腰、首の後ろも同時に温めてみてください。体幹を温めると血流がよくなり、手足などの末端部分も温かくなりますよ」

「薬膳温活」おすすめ食材

●旬のもの

※画像はイメージです

 いつもの料理に旬のものを取り入れるのが麻木流。冬には冬の食材を“ちょい足し”するだけで温活になる。おすすめは料理にちょい足ししやすい春菊、大根、白菜などの冬野菜。

●黒きくらげ

 薬膳的には、冬は黒豆、黒ごまなどの「黒い食材」を食べるのがよいとされている。特に、料理にちょい足ししやすい温活食材として覚えておきたいのが、黒きくらげ。血の巡りをよくする効果が。

“ちょい足し”温活薬膳レシピ

黒きくらげ入り!
鶏肉のうま煮

しいたけと黒きくらげの入った鶏肉のうま煮

 鶏肉のうま煮に黒きくらげをプラス。プリプリとした食感でおいしさもアップ。干ししいたけもおすすめの「黒い食材」として、冬に使いたい温活食材。

生命力アップ!
黒豆のお粥

黒豆とクコの実を入れた薬膳おかゆ

 冬は身体が冷えて、生命力が落ちがちな季節。いつものお粥に、滋養強壮&アンチエイジング効果のある黒豆やクコの実を加えて身体を温めて。

ほっこり温まる!
百合根のポタージュ

ほっこり温まる百合根のポタージュ

 冬が旬の百合根は、乾燥からくるせきやイライラを抑える働きがあり、コロナ禍で心身を守るのにはうってつけの食材。乾きがちな肌にもうれしい効果が。

PROFILE●麻木久仁子(あさぎ・くにこ)●1962年東京都生まれ。クイズバラエティーの回答者としてもおなじみのマルチタレント。現在は薬膳師や温活士の資格を活かした活動を中心に行っている。

(取材・文/八坂佳子)