心斎橋のシンデレラ姫こと松本明子さん

 うず高くそびえるポンパドールにたくさんの髪飾り、フランス人形のような優雅なドレス、眉も目尻も口角も、全体的に“アゲアゲ”なド派手メイク……。

「これから中世のベルサイユ宮殿にでも?」と聞きたくなるようないでたちで、大阪・心斎橋筋商店街を闊歩するのが、この街でブライダルドレスサロン「ルアージュ」を経営する松本明子さん(72)だ。

“ハッピーまゆまゆちゃん”と名付けた眉毛

 “心斎橋のシンデレラ姫”を名乗り、この地に城、もとい店を構えて今年で35年。地元の人たちにはすっかりおなじみの存在で、歩けば皆が気軽に声をかけてくる。子どもたちは笑顔で「姫がいるよ〜」と指差し、親御さんも思わず苦笑い。

 ツーショットを頼まれると、「待ち受けにするとハッピーになれるわよ。宝くじが当たるわよ。素敵なパートナーができるわよ♪」と気軽に応じる。地元では「姫を見かけるといいことがある」といわれているとか。まさに“歩くパワースポット”だ。

 こんな“楽しい存在”に、メディアはもちろん黙っていない。これまで取材に来た媒体は、テレビ番組だけでも500以上。関西ローカルは枚挙にいとまがないほどで、あの『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)にも出演。2021年12月にはゴールデン枠のドキュメントバラエティー『ノブナカなんなん?』(テレビ朝日系)に登場した。

 ドレスに巻き髪、ド派手メイクに“覚醒”したのは、お店をオープンしたころ、大阪のテレビ番組の「厚化粧美人コンテスト」で入賞したのがきっかけだとか。

「きれいなドレスを着て、しっかりお化粧をして接客をすると、みんながハッピーになってくれる。コンテストに入賞したことでそれが証明されたと確信しました。それからみんなをもっともっとハッピーにしようと、このスタイルになったんです」

 メイクとヘアセットには、毎日4時間かかるという。特徴的な眉毛についても「“ハッピーまゆまゆちゃん”と呼んでいるんです。年々進化させているんですよ。とってもお気に入り♪」

「毎日ドレスを着る、ヒールは15センチ以上」をモットーにしているため、食生活やオリジナルの体操など努力の甲斐あって、20代から全く変わらないスリーサイズを誇る松本さん。

 そんなストイックな日々が功を奏し、2021年はなんと世界4大ビューティーコンテストの一つである「ミス・アース・ジャパン」のミセスバージョンである「ミセス・グローバル・アース・ジャパン」への出場が決定。

「ブライダル業界を活性化したい」

 多忙の合間を縫ってウオーキングやスピーチなどのセミナーをこなした。その結果、見事ファイナリストに選ばれ、特別賞の「SDGs賞」を受賞したのだ。その模様は前出の『ノブなかなんなん?』内でも大々的に取り上げられた。

 コロナ禍ながら華やかに活躍した1年だったように思えるが、実際は「心斎橋でお店を始めて以来といっていいくらい、本当に大変な1年でした」と振り返る。

「姫はもともとアパレル会社やドレスメーカーでデザインの企画開発をしていたんですね。一念発起してこのレンタルサロンを起業した頃はバブル真っ盛り。ブライダルブームで、とにかく派手婚の時代でした。

 そんななか、レンタルでも当時50万から80万円くらいしたドレスを、姫は自分でデザインしたものを業者さんに作成してもらうという完全オリジナルだったので、10万から30万円くらいでレンタルできたんです。だからお客さんがじゃんじゃん来て、とっても儲かりました

 思った以上に事業は好調で、3人の子どもを抱え多忙を極めた。離婚も経験した。

1990年代の松本明子さん

「子どもたちには寂しい思いをさせたと思うけど、おかげさまでみんな独立して、今でも応援してくれています。孫もいますよ。姫の“お城”を継いでくれるかどうかはまだわからないけど」

 その後バブルは崩壊。少子化や地味婚、そもそも結婚しない人たちが増え、ブライダル業界は先細りするいっぽうとなる。

 一時は結婚記念日などの写真撮影やインバウンド需要に活路を見出したこともあったが、コロナの波は松本さんの店も直撃した。今ではドレスを着て記念の写真を撮る人たちも激減してしまったという。「ミセス・グローバル・アース」に出場を決めたのも、ブライダル業界全体の活性化を願ってのこともあった。

「先が見えなくて、本当に大変。SNSをがんばって、いろいろ発信したり、何かしらのコラボなんかをして生き残っていきたいと思っています」

「200歳まで生きる」

 店の内装から始まり、交渉事やSNSの配信など、すべて自分でやらないと気がすまないという松本さん。21世紀からのお姫様はdo-it-yourselfが当たり前なのだ。

でも、姫はいつだってハッピーよ。だって、みんなをハッピーにすることが姫の役割なんですもの。人生は、うまくいったからハッピーになるんじゃなくて、ハッピーな気分になると、人生がうまくいくの。ハッピーな自分だから、何があってもハッピーなんだと思ったほうがいいです。『自分はハッピーじゃない』なんて決めつけちゃ絶対ダメ。

 一番簡単にハッピーになれる方法をお伝えしますね。みんなをハッピーにさせること。それって最高にハッピーな気分になれるでしょ? だから姫はドレスを着て、シンデレラ姫であり続けるんです

 つまり松本さんは、どこかからやってきた魔法使いや王子様にシンデレラにしてもらったのではなく、人々をハッピーにするために自分からシンデレラ姫になり、ついには「生きるパワースポット」にまで成り上がったのだ――。

 ところで、ド派手なご当地有名人といえば、2021年にジャガー星に帰っていった千葉のジャガーさんを思い出すが……。

「ジャガーさん、一度お会いしたかったわ。絶対気が合ったと思うんですよね。でも、私は200歳まで生きると決めているんです。そしていつか心斎橋と、東京にも“シンデレラ城”を建てるの。そのために1000億円くらい稼がないと。だからまだまだ地球に残り続けてみんなをアゲアゲハッピーにし続けるわよ♪」

【プロフィール】

心斎橋のシンデレラ姫こと松本明子さん

松本明子さん

1949年3月12日生まれ、熊本県出身。短大卒業後、大阪で就職。アパレル会社やドレスメーカーでデザインの企画開発などを経て、心斎橋でブライダルドレスサロン「ルアージュ」を開業設立。そのデコ盛りヘアメイクとドレス姿で「心斎橋のシンデレラ姫」として知られ、近年ではSNSでも話題に。テレビ出演多数。2013年には自身が作詞した曲「心斎橋のシンデレラ姫/超熟 美魔女」で歌手デビューも果たす。最近のお気に入りの王子様は「Snow Manのラウールくん♪」とのこと。
衝撃のHPはこちら
https://www.rouage.jp/
(1人で経営しているため、来店の際は要予約)


取材・文/木原みぎわ 撮影/山田智絵