狭いケージに閉じ込められたままの保護犬。普段からこのサイズのケージに入れられているという(関係者提供)

 動物愛護の機運が高まる一方、自称・動物保護団体によるトラブルが相次ぐ。中でもとある自称・保護団体の代表男性に批判が集まっている。愛護センターから引き取った保護犬や猫の様子をSNSで公開し、寄付金を募ったり、預かり先をあっせんしているというが……。元ボランティアらがその実態を訴える―。

複数のボランティアとトラブルに

 環境省によると2020年度、全国の保健所で殺処分された犬猫は過去最少の2万3764匹。動物を保護する動きが広まる一方で、自称動物保護団体がトラブルを起こすケースも……。

 そのひとつが鹿児島県で保護犬のシェルターを運営する団体『S』および責任者のH氏だ。同氏は以前より、動物愛護センターから犬猫を救助する『引き出し』を行っている。だが、引き取った犬たちの動画や写真をSNSで公開、寄付金集めのために利用している、などと指摘されていた。

「私たちは支援金詐欺の疑いもあるとみています。団体はNPO法人ではないのにNPOや特定非営利“団体”と名乗るので、多くの人がこれに騙されます。そしてまじめに保護活動しているように見せかけ、関心を持った人に個別でメッセージを送って支援金を募っているようです。事情を知らない人は投稿をうのみにして寄付してしまう」

 そう憤るのは九州の動物保護団体の関係者。H氏とのトラブルをきっかけに活動方法やその姿勢に疑問を持ち、注意を呼びかけてきた。

「H氏は数年前から動物保護活動と称し、接触した複数のボランティアとトラブルになってきました。被害者の多くは女性。志を持って活動に参加したのに騙され、警察にも相談できずに泣き寝入りしてきた人ばかりです。されたことや、取られた金額は小さいかもしれませんが、被害者は全国にいるとみられ、騙されていることに気づいていない人も多く、実数はわかっていません。

 こうした悪質な団体がいるとまじめに活動をする団体も同じように見られてしまう。それに犬猫を保護したい、何かしたいという人々の善意までもつぶしてしまうんです」(九州の保護団体)

ボランティアに押し付け

病気をしても適切な医療を受けさせてもらえない犬も(関係者提供)

 特に大きな問題になっているのが動物愛護センターから犬や猫を引き出し、預かりボランティアに無理やり押しつけていたことだ。被害女性がそのときの様子を明かしてくれた。

「H氏の活動はSNSを通して知っており、ちゃんと保護活動をしている人だと信じて、応援していました」

 ある日、女性にH氏からメッセージが届いた。

「“すぐに里親を見つけるので愛護センターから引き出した犬を一時的に預かる活動をしませんか”という誘いでした。動物愛護の活動に興味があり、不幸な犬猫を助けるお手伝いができればと、参加しました」

 短期間なら、とボランティアを申し出た。小型犬の預かりを希望していたが、連れてこられたのは大型犬だった。

 だが、いつまでたっても里親は決まらず、H氏も探しているそぶりを見せなかったという。大型犬の世話に女性も家族も限界になり、引き取ってほしい、と相談したがH氏ははぐらかすばかりで話にならなかった。

 しばらくして、犬は引き取られたがH氏はSNSで女性が犬を虐待していたから引き取った、などと誹謗中傷をしたという。こうしたトラブルは後を絶たず、ケージの準備もないまま、突然、犬を引き出して預かることを要求された人や、里親が見つからず飼い続けることを決めたボランティアもいた。

 多頭飼育崩壊になりかけたケースもあったという。

「H氏に言われるがまま20頭以上、預かることになりました」(A子さん、以下同)

 リビングは犬のケージでいっぱいに。エサ代、ペットシーツ代で月4万~5万円の出費。散歩もひと苦労だったが里親は決まらなかった。金銭的にもきつく、相談すると、「甘え」だと一蹴された。

 結局、H氏やほかの支援者に引き取ってもらった。

「H氏はうちからの犬数頭だけは引き取り、“あとはおまえが処分しろ”とほかの支援者に押しつけたそう。みんな最初は信じて犬を預かったのに裏切られた」

 ボランティアらの献身的な世話や動物たちの様子は定期的にH氏自身のSNSで紹介されており、支援金の申し出も多かった。だが、その寄付金は保護犬やボランティアに使われなかったと被害者たちは明かす。

 さらに犬はお金になると言われた人もいた。

「猫はお金にならないからと、ほとんど引き出していませんでした。でも犬は例えばブリーダー崩壊で保健所に収容される場合は犬種がわかるのでペットショップで数十万円かかる犬種でもH氏のところなら数万円で譲渡してもらえる。ただし“売れなかった子は山に捨ててこい”と言われている人もいましたね」(九州の保護団体関係者、以下同)

H氏にとって動物はお金

 そして現在、状況はエスカレートしているという。

「今までは個人を対象に騙していましたが、H氏は鹿児島県内に大規模シェルターの計画を立ち上げたんです。その設立のための寄付も募っていました。シェルターがあればもっとたくさんの犬を収容できますし」

 当初は同県H市で地権者には無断でつくろうとしており、地元の保護団体関係者らも巻き込んだトラブルに発展。すると今度は隣のK市にある空き地に移転させることにしたのだという。

 空き地にはプレハブ3つと仮設トイレを設置。そこに茨城県、広島県、熊本県などの動物愛護センターより引き出した犬12匹を収容した。

犬たちはケージの中で1日を過ごす。すぐには譲渡できない状態の犬もいるが、H氏はすぐに譲ってしまうという(関係者提供)

「犬たちは移動用のケージに入れられたまま。建物は当初、電気もなく、水道は今もありません。

 スタッフは朝少しだけ来て、ケージの掃除をして1日1回エサや水を上げたら引き揚げると見られています。夜は無人、犬たちは寒いプレハブに押し込められているんです」

 ケージの大きさは犬たちの体には合わない窮屈な状態。そこから出されるのは掃除の数時間だけ。散歩に連れていかれることもなく1日の大半を狭いケージの中で過ごしているのだ。

「排泄もケージの中でし、ペットシーツもすぐには替えられないので糞尿まみれ。最近は建物の周辺のにおいがきつくなってきました」

 関係者によると犬たちは朝、世話をする人が行くと一斉に吠えだすという。

「以前、夜中に近くに立ち寄ったときに鳴いていました。寒い日でした。寒くて助けてほしくて鳴いているんです。その声が切なくて、私も思わず泣いてしまいました……」

 こうした現状に危機感を覚えた元ボランティアや全国の動物保護団体らは警察や愛護センターに再三訴えているが重い腰が上がらないという。

「行政は殺処分ゼロを掲げているので1匹でも引き出してくれるところには渡してしまう。それに余計な仕事も増やしたくないと、見て見ぬふり。ですが、引き出されても、押しつけられたり閉じ込められたり……。完全な悪循環です。ここで止めないとほかの市町村の愛護センターからも引き出されてしまう可能性はあります」

 悪質な団体であっても書類の不備がなければ実態を調べられることもなく犬猫の引き出し登録がされてしまう。

「H氏の団体に限らず愛護センターで殺処分されなくても引き取られた先でエサも満足に与えられない状態だったり、ネグレクトされたりなどの虐待も横行しているんです」

 被害者は今後、集団訴訟を起こすことも検討している。

「私たちが願うのは犬たちの幸せです。閉じ込められた犬たちを解放してやりたい。そして引き出した犬を押しつけられる人たちが増えないようにしていきたいです。押しつけられる頭数が増えれば多頭飼育崩壊にもつながる恐れがあります。里親は見つからないけど、愛護センターに戻したら殺されてしまう……と病んでしまう人もいます。H氏にとって動物はお金なんです」

 関係者らは「H氏にはもう動物には携わらないでほしい」と訴える。この状況についてH氏にメールで質問を送ったが期日までに回答はなかった。

「危惧しているのは閉じ込められている犬たちの健康状態です。元気なまま里親の元に行けるのでしょうか……」