送検のため、埼玉県警東入間署を出る渡辺宏容疑者(写真/共同通信)

「今日も解除されることはありません」

 事件現場を警備する警察官はそう答えた。発生から5日目を迎えた今も、容疑者宅付近200メートル四方ほどは規制線が張られたままで、事件がどれだけ世間を震撼させたのかを表している。

 1月27日の夜9時ごろ、埼玉県ふじみ野市の郊外で猟銃を乱射し、3人を人質にとった立てこもり事件が発生した。

母親に関わった医療関係者を呼び出して…

 無職・渡辺宏容疑者(66)は前日、2人暮らしでみずからが介護をしていた母親(92)を亡くす。すると、母親のかかりつけ医だった鈴木純一医師(44)とその関係者7人を、

「線香をあげに来い」

 と自宅に呼びつけた。そして、

「まだ蘇生するかもしれないから、心臓マッサージをしろ」

 と指示。鈴木医師が拒否すると、いきなり猟銃を3発発砲。うち2発が鈴木医師と医学療法士(41)に当たる。以降は3人を人質にして籠城し、駆けつけた警察とのじりじりとした神経戦が続いた。

「猟銃を持った立てこもり事件だったため、近所の住人200人以上が最寄りの中学校に避難していました」(近所の住人)

 発生から約11時間後の翌朝8時ころ、防弾チョッキを着た埼玉県警の特殊部隊が強行突破して渡邊容疑者を確保し、殺人未遂の現行犯で逮捕した。容疑者は取り調べに対して、

「母親が死んで、1人で生きていく価値がないと思った。1人では死ねないから、医師たちを殺して、自分も死のうと思った」

 などと供述している。

 被害に遭った鈴木医師は事件後間もなく死亡が確認され、理学療法士は重体。もう1人の介護士は軽症だった。

「鈴木医師は365日昼夜を分かたずに在宅の患者さんを診察して回っている、医師の鑑のような素晴らしい人物でした。このコロナ禍の中も、自宅で療養している患者さん宅に往診していましたからね」(全国紙社会部記者)

 渡邊容疑者は、およそ3年前に、現在の自宅へ母親とともに引っ越してきた。

「町内会費は払っていますが、集会には一度も来ていないので、顔も見たことがないですね。“介護で忙しいから、近所づきあいはできない”と言っていたようですから」(近所の主婦)

生活保護で散弾銃を所持

 現在の自宅は家賃月5万円ほどの借家で、母親とともに生活保護を受けていたという。付き合いのあった別の近所の住民はこう話す。

「1人あたり10万円を切る程度もらっていて、ここへ来る前から生活保護を受けていたんじゃないかな。彼らは家財道具や何やら物が多い人たちで、アパートやマンションだと入りきらないから、一戸建てを借りたんだと思います。築50年弱で古いんですけどね」

 容疑者の性格は大人しくて、母親にとにかく優しいという。

「私と話をしていても“あっ、いま母が呼んだかな?”とか“そろそろおむつを替えないと”などと容疑者は常に母親のことを考えているんですよ。生活保護であれば、特別養護老人ホームなどへ優先的に入所できるんですが、“自分で面倒をみたい”というタイプで母親思いではありました。まさかあんな酷いことをするとは……」(同・別の近所の住民)

 犯行に使用された猟銃は、容疑者が20数年前から所持しているものだった。前出の社会部記者によると、

「銃の免許は何度も更新していた。以前は、埼玉県の西北部にある射撃場で練習していたようです」

渡辺宏容疑者が通ったと思われる射撃場

 生活保護とは、国や自治体が“健康で文化的な最低限度の生活”を保障するための公的扶助制度。銃の免許更新にも費用がかかり、散弾銃などはある程度価値があるものだ。財産とみなして、自治体などが没収しなかったのだろうか。ふじみ野市福祉課に尋ねると、

「価値があるものについては、売却して生活に当ててくださいと言います。価値がないものについては、こちらが処分してくださいとは言えません」

 結果として、その猟銃が尊い命を奪ってしまった。