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 かつて、学校で大量に配られていた「プリント」。子どものランドセル奥底からグシャグシャになって出てきた……なんて経験がある人も多いのではないでしょうか。今、学校では「脱プリント」が進んでいるそう。現場で働く「先生」の本音とは? ノンフィクションライター・大塚玲子さんが伝えます。

膨大な量の「紙爆弾」

 学校の脱プリント、ペーパーレス化が進んでいます。これまでは紙で配られていた「お手紙」がメール連絡に置き換わったり、ホームページで見られるようになったり。筆者の息子が通う高校でも、今年度はついに学校評価アンケートがGoogleフォームで行われ、やっと時代が変わってきたなとしみじみしました。

 脱プリント、保護者からしたら、それは助かります。子どもの学校のお手紙には、筆者もさんざん悩まされてきました。特に小学生のころは、毎日のお手紙の量がハンパなく、まさに「紙爆弾」。中身はメールなら数行で済むようなものが多いのですが、それを1枚1枚別の紙に印刷するから、紙はもったいないし、目を通すのも大変。

 しかも息子はよくいる「お手紙を出さないタイプの子」で、そもそもお手紙が手元に届かない。小学校のころは、近所でバッタリ会った同じクラスの保護者から聞いた情報に救われたことも何度か。こんな保護者にとって、メール連絡は、大げさでなく悲願でした。

 ペーパーレス化の進みは、これまでずいぶんノロノロでした。筆者がよく取材をするPTAの現場でも、コロナ前から徐々にデジタル化は進んでいたものの、会長や役員さんからは「校長先生が『うん』と言ってくれなくて、デジタル化を進められない」といった悩みをよく聞いたものです。「時期尚早と言われた」とか(今もゼロではないのですが)。

 6、7年前、子どものサッカークラブの保護者会でIT化を担当したとき、毎月各部員の家に役員さんが届けていた紙の「お当番表」をHP掲載&メール連絡に切り替え、脱プリントを進めて喜ばれましたが、これも導入までは、そうスムーズにはいきませんでした。コーチのなかにも保護者のなかにも、「これまで通り」を望む声はあったので。

 それがなぜ、最近になって急に脱プリントが加速したのか。これはやはりコロナ禍の影響が大きいでしょう。何しろ2020年度は一斉休校で始まり、それまで学校のスタンダードだった「お手紙」&「子ども便(びん)」という連絡手段が破綻。メールシステムやアプリなど、デジタルツールへの移行を進めざるを得なくなりました。

 同時に、以前から準備が進められていた「GIGAスクール構想」が前倒しで実施されたことも大きかったでしょう。子どもたちにパソコンやタブレットといったデジタル端末が一人一台配布されることになり、こうなるともはや校長も「デジタル化はまだちょっと早いでしょう」なんて言っていられません。

 こういったペーパーレスの動きを、多くの保護者は歓迎していますが、現場の先生たちはどうなのでしょうか。実は、困ることもあったりするのか? 何人かの先生に聞いてみました。

学校や世代で“温度差”も

 神奈川県の公立小学校教員・U先生(30代)は、「困ることは特にない」とのこと。

「うちの小学校は、『学校だより』のほか、遠足や運動会などのお手紙を、アプリでメール配信するようになり、まぁまぁ脱プリントが進んでいます。最近は、職員会議もペーパーレスです。

 正直そこまで『ラクになった!』という実感はないのですが、そういえば印刷機のところに行く回数は確実に減りました。もし『お手紙の配布に戻せ』と言われたら、『それは無理です』という感じ。最近早めに帰れるようになったのも、そういう小さな業務削減の積み重ねのおかげかもしれません」

 脱プリントも、地味ながら、先生の多忙化解消に一役買っているようです。

 なおアプリ導入後も、少数ながら「紙のお手紙」を希望する家庭もあるため、各クラス2、3枚はお手紙を配っているといいますが、「負担ではない」とのこと。スクールサポートスタッフさんが「誰と誰に配る」というメモを添えて教室まで届けてくれるので、担任の先生の手間はほぼないのだそう。

「『脱プリント以前の問題』もある」と指摘するのは、同じく神奈川県の公立小学校教員・N先生(50代)です。

「市の教育委員会から、子どもたちに配るチラシが毎日大量に送られてくるのですが、これはいくらIT化を進めても減らせません。教育委員会が後援する事業の案内も多いですが、こんなに多いと保護者も困るでしょう。どこかで止めたほうがいいと思うのですが」

 ペーパーレス化に対する教員の反応には、「世代間での温度差もある」と言います。

「若い先生は『便利だから』と言って、どんどんペーパーレスを進めていきますが、画面だけで見ているから、チェックが甘くなることがあります。それを年配の先生たちが心配する面もある。どちらの気持ちもわかりますね」

 関西の高校教員・うたこ先生(40代)も、やはり教員によって、ペーパーレス化への反応は異なるとのこと。

「年長の教員や、文系科目の教員のなかには、やはりペーパーレスについてこられない人もいます。学校種によっても違いがあるかもしれません。高校では『情報科』という科目の教員が中心になりIT・ペーパーレス化を進めることがありますが、小中学校ではITが得意な教員が、ボランティアで担うことが多く、学校によって進み具合に差が出やすいのではないでしょうか。

 うちは最近、生徒会選挙もオンラインで行いましたが、とてもラクでした。開票作業も不要だし、一瞬で終わります。私は授業も、提出物や小テストも、すべてオンライン(google classroom)でやっていますが、管理は圧倒的にしやすいと感じます」

 脱プリントが苦手な先生もいないわけではないものの、実際に進めて慣れてくると、やはり「便利」「ラクになる」という声が多いようです。保護者も多くが待ち望んでいますから、脱プリントやペーパーレス化、これからもどんどん進めてほしいものです。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。ノンフィクションライターとして活動し、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。著書は『さよなら、理不尽PTA! ~強制をやめる!PTA改革の手引き』(辰巳出版)、『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス)など多数。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。

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