映画『麻雀放浪記2020』初日舞台挨拶での岡崎体育('19年4月)

 日曜劇場『DCU Deep Crime Unit 〜手錠を持ったダイバー〜』(TBS系)の視聴率が好調に推移している。第3話までの平均視聴率(世帯)がいずれも15%超(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と、2022年冬ドラマでは視聴率1位をキープしている。

実力派揃いの中、異彩放つ岡崎体育

 主演の阿部寛(57)を筆頭に横浜流星(25)、中村アン(34)、山崎育三郎(36)、高橋光臣(39)、趣里(31)、市川実日子(43)といった実力派俳優が名を連ねるなかで、存在感たっぷりの演技を披露しているのが森田七雄役の岡崎体育(32)だ。

 岡崎が演じる森田はDCUことDeep Crime Unit(潜水特殊捜査隊)のムードメーカー的存在。

 緊張感あるムードを和ませるシーンから衝撃の展開に涙するシーンまで、ネット上では岡崎の演技力に対して高い評価が集まっている。

 だが、そのなかには「森田役の俳優って誰?」との声もちらほら。また、岡崎を前から知っていた人からも「森田を演じているのって、岡崎体育だったの!?」との驚きの声が上がっている。

ピエール瀧、浜野謙太に続く存在に?

 岡崎体育は、2016年5月にメジャーデビューを果たしたミュージシャンだ。2017年のセカンドアルバムは音楽チャートで2位を記録し、2019年のさいたまスーパーアリーナ公演では1万8000人を集客するなど高い人気を誇っている。

 俳優業と二足のわらじを履くミュージシャンは、大きく2種類に分けることができる。

 目立つのは、知名度の高いミュージシャンが俳優業でも主演クラスを務めて成功を収めるケース。古くは1960年代のグループサウンズ出身である堺正章沢田研二といった面々から、最近では福山雅治やジャニーズアイドルなど列挙にいとまがない。

 もうひとつは、音楽ファンの間では高い知名度を誇るものの、脇役として俳優業での経験を重ね、一般層にまで広く知られる存在となるケースだ。

 2000年代以降では、電気グルーヴのピエール瀧、銀杏BOYZの峯田和伸、在日ファンクの浜野謙太らがその代表的存在といえるだろう。

 岡崎体育は、この路線に続く筆頭株。2018年下期放送のNHK連続テレビ小説『まんぷく』にて本格的な演技に初挑戦すると、翌2019年には早くも映画やドラマへの出演が殺到。

 4月には映画『麻雀放浪記2020』が公開され、8月にNHKドラマ10 『これは経費で落ちません!』に出演。11月にはスペシャルドラマ『磯野家の人々〜20年後のサザエさん〜』(フジテレビ系)にてカツオの親友である大人になった中島役を務めるなど、演技初挑戦からわずかの期間で、俳優としての才能を開花させた。

ミュージシャンとしての評判が演技の道へ

 当初、彼を俳優として起用した監督やプロデューサーには、独自の世界観を持つ、ミュージシャン・岡崎体育に関心を持ったというケースが多い

 岡崎は、自ら作詞・作曲・編曲をこなすシンガーソングライターで、独特な着眼点や発想から生まれた楽曲が話題を集めてきた。

 例えば、2017年発表の『MUSIC VIDEO』という楽曲では、《カメラ目線で歩きながら歌う》《2分割で男女を歩かせて 最終的に出会わせる》など、ミュージックビデオにまつわる“あるあるネタ”について歌ったもの。

 同曲のミュージックビデオでは、その歌詞を映像化して大きな評判となり、YouTubeの再生回数は2020年2月10日現在で4500万回を超えている。

『まんぷく』では、カリフォルニア生まれながら大阪なまりの日本語を話す日系人、チャーリー・タナカ役を演じたが、岡崎は『anan』(マガジンハウス)での連載にて、「勘違いで起用された」と明かしている。

《僕の楽曲には『Natural Lips』という英語風の曲があったりするので、普段から僕は英語のええ発音を心がけています。それがなにをどう間違って伝わったのか、岡崎体育は英語できるやつ、いわゆる“英ぺキャラ”として選ばれてしまったんです》(anan NEWSにて2018年11月25日掲載の「朝ドラ出演決定はスタッフの“勘違い”から? 岡崎体育がぶっちゃける」より)

『麻雀放浪記2020』の監督である白石和彌氏も、映画公開時に次のようなコメントを寄せている。

岡崎体育さんの独自の世界観が好きでお願いしたのですが大正解でした。これからお芝居の仕事が増えるんだろうなと思います》

狂気あふれる犯人役まで振り幅の広さを発揮

 2019年までの出演作品は、ややコミカルさをまとう彼のキャラクターを生かした役が多いように見える。

 自身も、『麻雀放浪記2020』での演技について、「自分でも演じている感じがしなかったというか、普段どおりのを出してたらそれがいい感じにハマりました」と語っている。

 だが、2020年に入ると演技の幅が格段に広がる。1月放送のドラマ『僕はどこから』(テレビ東京系)で無邪気かつ残酷なヤクザの舎弟役、7月放送のドラマ『機動捜査隊 MIU404』(TBS系)では女子高生を監禁しようとする強制わいせつ犯役を演じ、それぞれ「狂気を感じさせる怪演」と視聴者から高い評価を集めたのだ。

ライバルがいない独自のポジションを確立

 このように俳優として順調な歩みを続けながら、今年3月には全国5か所のZeppをめぐるツアーの開催を予定するなど、本業であるミュージシャンとしても相変わらずの活躍を見せている。

 さらには、『おはスタ』(テレビ東京系)の火曜日レギュラー、『ヒャダ×体育のワンルーム☆ミュージック』(NHK Eテレ)ではヒャダインとともにMCを務めるなど、バラエティー番組でも大活躍。まさにマルチな活動を続ける存在と言っていい。

 このような自身の活動について、文春オンラインにて次のように語っている。

《同世代の中では、自分の理想とするポジションはとれているのかな、と思っています。僕がやってる活動の代えがきく人を探して、パッと出てこなかったらそれは勝ちだと思うんですけど、同世代で見ると、今僕がいる位置は僕にしかできないなという自負はあります》(文春オンライン2021年5月29日掲載「「あんたら、俺と何が違うんだ!」岡崎体育31歳が明かす“地元で味わった劣等感」より)

 先に挙げたピエール瀧は54歳、峯田和伸は44歳、浜野謙太は40歳とひと世代上。

 同世代のミュージシャン出身俳優では、ロックバンド・黒猫チェルシーのボーカル渡辺大知が近い存在ともいえるが、演じる役柄やバラエティー番組での活躍などで違っており、岡崎体育のライバルとなりそうな存在が見当たらない状況だ。

 俳優・岡崎体育の魅力はコミカルさと狂気の演技までふり幅の広さを備える点。さらにバラエティー番組では印象が全く異なるため、岡崎体育としての認識できていなかったという視聴者も多いかもしれない。

 今回の『DCU』は高い視聴率を誇る枠での放送ということもあり、岡崎体育にとっては、名バイプレーヤーとして、タレントとして知名度を高める絶好の機会となりそうだ。

(文/千歳康一)