市川海老蔵

「古典の魅力を尊重して“これが見たかったんだよ!”という期待に応えたい」

 2月14日、市川海老蔵は18日から始まる『六本木歌舞伎2022 ハナゾチル』への抱負をこのように語った。

「六本木歌舞伎は“新しい歌舞伎”をテーマに'15年から始まった海老蔵さん主催の歌舞伎興行。伝統にとらわれない斬新な舞台作りが話題を呼んでいます」(演劇ライター)

 今年初めにも、キングコングの西野亮廣が手がけた絵本『えんとつ町のプペル』を歌舞伎化するなど、新作の上演に積極的な海老蔵。しかし、彼の最近の動きに苦言を呈する声も聞こえてくる。

海老蔵さんは新作ばかりに力を入れて、伝統芸を磨いていこうという姿勢が見受けられません。先代の名跡を受け継ぐ以上、より自覚を持ってほしいです」(梨園関係者)

襲名披露公演は“30億円興行”

 手厳しい意見だが、海老蔵に求められる責任はそれほどまでに大きい。

海老蔵さんが率いる『成田屋』は現在の歌舞伎の基礎を成立させた初代・市川團十郎の名を受け継ぐ名門中の名門。その格式の高さから “宗家”と称されるほどです。本来であれば、彼はすでに團十郎の名を襲名しているはずなのに……」(同・梨園関係者)

 彼が息子の堀越勸玄くんと“市川團十郎・市川新之助ダブル襲名”を発表したのが、'19年1月のことだった。

『十三代目市川團十郎白猿襲名披露狂言八代目市川新之助舞台狂言』発表会見('20年2月) 挙手をした報道陣に、質問を促す海老蔵&勸玄くんが思わずシンクロ。そんな仕草まで一緒とはびっくり!

「予定では、'20年5月に“十三代目市川團十郎白猿襲名披露”を行うはずでしたが、'20年に入って流行した新型コロナウイルスにより開催の1か月前に延期を発表。現在に至るまで再開のめどは立っていません」(スポーツ紙記者)

 想定外の出来事に予定を狂わされたのは、歌舞伎興行を取り仕切る松竹も同様だ。

「松竹にとって襲名披露公演は社運を賭けた一大行事。'85年に行われた十二代目の公演は日本中が注目し、松竹は大盛況。“30億円興行”と言われるほどでした」(前出・演劇ライター)

 当然、海老蔵の襲名披露にも力が入っていた。

襲名には昨年亡くなった中村吉右衛門さんをはじめ、名だたる大御所が、海老蔵さんを立てるため脇に回るという豪華な舞台を予定していました。興行収益は先代の30億円は優に超えたでしょう」(前出・スポーツ紙記者)

松竹の姿勢に不信感

 これまでの慣例では、團十郎の襲名披露公演は5月に開催。共演者の手配や準備を考慮すれば、すでに今年の開催は絶望的ともいえる。

コロナによる人数制限などを受け入れれば、公演自体は今年でも開催できるでしょう。しかし松竹としては、当初見込んでいていたような莫大な興行収益を逃すのはあまりにも惜しいので、いまだ踏み切れていません。海老蔵さんは、そんなどっちつかずな松竹の姿勢に不信感を募らせているんです」(成田屋に近しい人)

 彼には悠長に待てない理由もある。

「娘の市川ぼたんちゃんの年齢ですよ。海老蔵さんは襲名披露の場に親子3人そろうのが夢ですからね。'20年に行うはずだった襲名披露公演でも共演する予定でしたが、当時8歳だった彼女が今では10歳。まもなく“女人禁制”という慣習に触れるおそれがあります」(松竹関係者)

近年はドラマに出演し、役者としての活躍が期待されているぼたん

 習わしとして歌舞伎の舞台に立てるのは男性のみ。女性は思春期を迎える前までなら出演が認められているという。

'93年に、松本白鸚さんの娘である松たか子さんが『人情噺文七元結』という演目で歌舞伎座に立ちましたが、女優デビュー目前だった16歳の彼女を売り出すにあたっての1回きりの特例。それでも、白鸚さんは周囲の説得に尽力したそうです。ほかにもいくつか前例はありますが、女性が歌舞伎の舞台に立つのは難しいのです」(同・松竹関係者)

 歌舞伎評論家の中村達史さんは、女人禁制にまつわる歴史と実情を語ってくれた。

「歌舞伎は江戸幕府が女性を舞台に立たせることを禁止したことで“男性が女性を演じるにはどうすればいいのか。相手を務める男性は、どう演じればいいのか”と模索したことから発展したといえます。女性が自由に歌舞伎の舞台に立てるようになれば、歌舞伎の表現を根本的に見直さなければならないでしょう」

海老蔵が最も大切にしている“家族”

 歌舞伎の根底に流れている “女人禁制”という慣習。しかし海老蔵にとっては、単なるしがらみでしかないのかもしれない。

'17年に最愛の妻である小林麻央さんを亡くした海老蔵さんにとって、最も大切なのは家族。その一心で'20年4月には、これまで存在しなかった公演中の休演日を設けるなど“梨園の改革”を進めてきました。歌舞伎の舞台に女性が自由に立てるようにして、襲名以降もぼたんちゃんと共演を続けられる環境を整えたいと考えているようです」(前出・松竹関係者)

 松竹側も戸惑う大改革。襲名に関する思惑も相まって両者の溝は深まるばかりだ。

「海老蔵さんが歌舞伎の聖地である歌舞伎座での出演が極端に少ないことが報道されましたが、ぼたんちゃんと共演するためですよ。歌舞伎座以外ならルールも比較的緩いですからね」(前出・成田屋に近しい人)

 実際、'18年以降の毎年1月は家族そろって新橋演舞場に出演し続けている。

ぼたんちゃんが成長するにつれ、歌舞伎座に立つことは難しくなります。海老蔵さんとしては、歌舞伎座以外での襲名披露公演も視野に入れているのかもしれません。とはいえ、松竹としては女人禁制を解いたり、歌舞伎座以外で襲名公演を行うことは会社のメンツに関わりますからね。それぞれの希望に沿うような折衷案も作りづらいので、根深い問題ですよ」(同・成田屋に近しい人)

 海老蔵が歌舞伎座を避ける理由や、今後の襲名披露公演について松竹に問い合わせてみると、

歌舞伎座への出演は特段の事情や他意があるものではございません。機会が整えば歌舞伎座公演にも出演していただきたいと考えております。襲名の時期などは、当事者の意向はもちろん、各方面への調整や諸情勢を踏まえ多角的に検討をしております。発表できることがあれば、然るべき時期に公表させていただく所存です」とのことだった。

 海老蔵の“晴れの舞台”は、どこへ向かうのか─。