ビッグボスこと、北海道日本ハムファイターズ新庄剛志監督の意外な一面とは?

 2021年10月、北海道日本ハムファイターズ次期監督への就任が発表され、一躍時の人となった新庄剛志さん。発表直後に行われた就任会見では「優勝は目指しません」などと発言し、その後も常識破りの言動で世間の注目を一身に浴びています。 

 しかし、新庄さん本人は「僕ほど空気を読む人は見たことがない」と語ります。監督就任後初の書籍となる『スリルライフ天才ではないが、天然でもない』を上梓した新庄さんが、自身の意外な一面と、その裏にある思考を明かしてくれました。

空気を読んだうえで“新庄色”にもっていく

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 僕は自分の都合だけで発言し動く、予測不能の変人、宇宙人みたいに思われがちなようですが、そんなことはありません。ちゃんと熟考して策を練り、人知れず準備を重ねて人前で披露しています。だから、おかしなことをやっているのではなく、そうするしかないことをやっているんです。

 例えば思いつきでトライアウトに参加し、それで注目されたから運よく監督になれたわけではありません。監督になる道筋を考え、そのために必死に練習してトライアウトに挑戦し、僕の野球に対する真剣な思いをアピールした。ここまでのストーリーを描いたうえで、自分のほうに流れを引き寄せてきたんです。

 2006年に引退宣言をしたら優勝して日本一になれました。これも運がよかったから現役の最後に優勝できたわけではないんです。優勝したかったから、チームをひとつにするために引退宣言をしたんです。そしてその結果、ファンが球場に押し寄せ、選手たちのやる気が高まって優勝という結果につながったわけです。

 こうした計画の裏で僕は空気はめちゃめちゃ読みます。空気を読むことからアイデアが生まれます。ただ、空気を読んだからといって、その空気に従うわけでもない。空気をしっかり読んだうえで、それをどう壊すか。どういう方向に変えるか、“新庄色”の空気に持っていくかということも考えます。

 今の若い世代って、空気を読むのがうまいというか、うますぎて、自分だけが目立ってはいけないと思っているような気がするんです。でも僕がド派手なことをやっているのを見て、目立つことでモチベーションが上がると気づいた選手も多いと思うんですよ。そういう選手たちが、ファッションを変え、髪型を変え、メディアやSNSで自分をアピールするようになった。すごいいい傾向だと思っています。

 そして次に感じてほしいのが、目立てば目立つほど、それが自分にとってのプレッシャーになるということ。そのプレッシャーを跳ね返すだけの実力をつけなければ、ただの目立ちたがりで終わりですからね。

 恐らく今シーズンは、ファイターズの選手たちは、これまでにないくらい多くのメディアに囲まれて練習や試合をすることになるでしょう。

 僕はそうなることを望んで、テレビに出まくり、話題を振りまき続けました。ここからは選手の仕事です。そのたくさんの目があるなかで、それをモチベーションに変えて、どれだけの結果を残せるか。もしかしたら大化けする選手もいるかもしれない。自分が欲しいもの、望むものがあるなら、自分からどうすればそれが手に入るかを必死で考え、動いて取りにいかないと何も始まらないと思います。

赤のスーツに込めた「殻を破る」というメッセージ

 今のプロ野球は昔と比べたらメディアの露出も少ないし、選手の知名度も低い。CMに出てくるようなスター選手が育っていないなと思います。

 今の日本のプロ野球にスーパースターやスター選手はどのくらいいるのか。何人かの候補は思いつくけど、まだまだ「ファンの間で人気がある選手」という枠を超えられていないような気がします。

 監督就任記者会見のときの高い襟のシャツとワインレッドのスーツに込めた意図は、殻を破るぞというメッセージです。いちばん最初に注目される記者会見という舞台で、今のプロ野球に対して世間が抱いているイメージをぶち破ろうと。

 監督に就任してから、プロ野球界の先輩方に会う機会も増えました。ちょっと怒られるかなとも思っていたんですが、みんなが「よく帰ってきた」「期待しているよ」と言ってくれます。裏を返せば、プロ野球に関わる誰もがいまの状況に危機感を持っているということ。僕はその期待に応えたいし、それこそが僕が監督になった大きな意味だと思っています。

 新庄なら何かやってくれるという期待感。これは他の人にはないものだと思います。選手時代も、トライアウトのときも、そしてこうして監督としても、「新庄なら何かおもしろいことをやってくれるんじゃないか」とたくさんの人が思ってくれている。それは、僕がいつもみんなの期待にちゃんと応えてきたからなんです。今もきっと、僕がどんなパフォーマンスをするか、どんな作戦を立ててくるか、ワクワクした気持ちで待っている人がたくさんいるんでしょうね。

 僕はこれから監督としていろいろな形で“これまでの常識”に立ち向かいたいと思っています。そのなかには批判を浴びるようなことも、失敗することもあるでしょう。でもそんなことを恐れるなら、僕が監督をやる意味がない。

 常識は、どんどん変わっている。いちばんいいバッターを二番に置く打順が最近の流行だし、先発投手は100球を目処に交代させ、あとをリリーフピッチャーでつなぐのが最近の野球のセオリーです。最近では、リリーフピッチャーを先発させ、打者が一巡するごとに変えるショートスターターという戦術も注目されました。

 ファイターズがこれから目指すのは、ファンが見て、ワクワクするような野球なんです。これまでの野球セオリーになかったような作戦をしたり、新しい取り組みにチャレンジしたり、ファイターズの試合を観に行けば何かおもしろいことがあると思ってもらえるようになれば、スタジアムが満員になる日も遠くないでしょう。

 もちろんやってみたらうまくいかないこと、間違えていることもたくさんあるだろうと思います。それならもとに戻せばいいだけのこと。でも新しいことにどんどんチャレンジしなければ、チームもプロ野球も変わっていかないと思います。「また新庄が馬鹿なことをやっている」と思われるのは構いません。100のチャレンジのうち、ひとつでも成功すれば、そこから何かが生まれるはずです。

過去も今も本質的なことは変わっていない

 新しい取り組みをやめてしまえばチームも、組織も革新や進歩はなくなります。うまくいって、せいぜいが現状維持どまり。いまの日本の社会に停滞感、閉塞感が漂っているのは、そのせいではないでしょうか。

 僕はプロ野球がかつてのような人気を取り戻すためにも、批判を恐れず、新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。

 新しいことにどんどん取り組んでいくというのは、過去に行われてきたメソッドやシステムを全否定する、ということではありません。

 そもそも僕自身が完全に昭和の人間です。しかも日本にいない時間も長かったですからアップデートされていません。ただそんなに時代の変化を気にする必要あるのかなとも思っています。

「時代が違う」とか「そんな時代じゃない」みたいな世代論を言う人も多いですが、僕からすると本質的な部分は、何も変わっていない。暴力的な指導とか、ハラスメント的な発言とか、時代に関係なくNGだと思っているし、もともとそういうことをする人は好きではありません。

 ただ、挨拶をちゃんとすることとか、目上の人を敬うとかいう気持ちは、僕自身大事にしているし、選手たちにも持ってほしいなと思っています。

 なんでもかんでも昭和的だからダメというわけじゃないんです。昭和的だからおもしろい、昭和的だから若者にも伝わりやすいこともあると思います。

 だから僕は、自分のなかの昭和を大事にしています。無理やり時代に合わせようとは思っていません。

 野球だけでなく、あらゆるスポーツ、そしてそれ以外のことも同じだと思います。例えば、今の世の中は、効率的ないいやり方が求められていて、理不尽にも思える昭和的なハードトレーニングは避けられる傾向があります。しかし、何かの道で突出した存在になるためには、やはり猛烈な努力が必要だと思うんです。本当は努力という言葉すら使いたくありません。なぜかというと、僕はそういった自分の積み重ねを努力だと思っていないから。努力ではなく日常。がんばっているつもりはなかったんです。

夜中まで練習したタイガースの若手時代

 タイガースの若手時代、球団の練習施設には、ほかの選手が来る2、3時間前に行って施設の担当の方に鍵を借り、自主練習をしていました。ほかの選手が来る時間になったら、いったん外に出て、今来ましたという顔で合流していたんです。チーム練習が終わったあとも、着替えて施設を出て、みんながいなくなってからまた戻って練習です。若くて金もないから遊びにも行けないし。そのぶん夜中まで練習していました。

『スリルライフ 天才ではないが、天然でもない』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

 ちなみにタイガース時代、僕と同じくらい練習していたのは、後輩の藤川球児くんだけでした。いずれすごいピッチャーになるだろうなという予感があったけど、そのとおりになりました。彼もきっと自分は努力したとは思っていないはずです。当たり前のことを当たり前にやっただけだと。自分の“当たり前”をどのレベルまで上げられるか。そこが一流になるかどうかのひとつの分岐点だと思います。

 自分はがんばっていると思っているなら、まだ足りない。努力を努力と思わないくらいのところまでやって、ようやくスタートラインに立てたと言えるんです。

 もちろん、今の若い子たちに僕がやっていた昭和的なやり方をすべて強制するつもりはありません。ただ、そのなかには結果を出すために必要な要素もたくさんあると思うんです。昭和的なやり方と新たなチャレンジをうまく融合していくことで、“新庄流”の指導スタイルを作り上げていく。これが僕の理想です。


新庄 剛志(しんじょう つよし)Tuyoshi Shinjyo
◎北海道日本ハムファイターズ監督
1972年1月28日生まれ、福岡県出身。A型。西日本短期大学附属高等学校在学中の1990年、ドラフト5位で阪神タイガースに入団。2001年からはメジャーリーグのニューヨーク・メッツ、サンフランシスコ・ジャイアンツでプレーした。2004年北海道日本ハムファイターズに加入し国内復帰。2006年の日本シリーズを最後に引退。2021年11月、北海道日本ハムファイターズの監督就任。