左上から時計回りに山田孝之と勝新太郎、鈴木亮平とアントニオ猪木、瀬戸内寂聴と大竹しのぶ、ダンプ松本と加藤諒

 年号が令和に変わって約4年。最近では“昭和の怪物”の半生をモデルにしたドラマが増産されている。特に動画配信サービスのNetflixでは、オリジナルコンテンツとして実在の人物をモデルにしたドラマ・映画の制作に力を入れているようだ。

 そのひとつが、昨年末に配信された『浅草キッド』。下積み時代のビートたけし(75)を俳優の柳楽優弥(31)が演じ、彼の高い演技力が絶賛されたのは記憶に新しい。その一方で「なぜこんな配役に……?」と、視聴者が首を傾げざるをえないケースも少なくない。

 例えば、女子プロレス全盛期を支えたヒールレスラー、ダンプ松本(61)をモデルにしたNetflixで配信予定のオリジナルシリーズ『極悪女王』。全プロレスファンがキャスティングに注目するなか、『女性自身』2月15日号は、女芸人のゆりやんレトリィバァ(31)がダンプ役に内定したと報じた。だがこの配役に異議を唱える人は多い。

ゆりやんを指名したのは企画・脚本を務める鈴木おさむ(49)とのことですが、演技力でなく話題性だけでキャスティングした印象です。せっかく頑張ってダイエットをしたゆりやんへの敬意も感じられません。演技力と話題性を考えるなら、女性である必要はないので、加藤諒(32)あたりがいいのでは?」(ベテランスポーツ紙記者)

 プロレスつながりで、前出の記者はこう続ける。

「新日本プロレスと全日本プロレスが創立50周年なので『アントニオ猪木物語』も制作してほしい。主演の猪木さん役は、シャープな顔立ちで、肉体改造にも真剣に取り組んでくれる鈴木亮平(38)。故・ジャイアント馬場さんは柔道の篠原信一(49)に演じてもらうのはどうでしょう?」

情念の作家・瀬戸内寂聴さんを演じられるのは

 大河ドラマのように歴史上の人物ならば、理想も含めた存在でもよいだろう。しかし、本物の記憶が脳に焼きついている“現代の大物ドラマ”となると、ある程度はその面影を生かしてほしいもの。そこで今回は、有識者や一般の人々に“ドラマ化してほしい現代の大物”と“理想の配役”を存分に語ってもらった。

 やはり、ドラマになるのは劇的な人生を歩んだ人物。そこで名前が挙がったのは、2021年11月9日に99歳で亡くなった、尼僧で作家の故・瀬戸内寂聴さんだ。過激な性描写によって“子宮作家”と揶揄され、その後も浮名を流した後、電撃出家。ちなみに、彼女の自伝小説『夏の終り』が映像化された際は宮沢りえ(48)が演じている。

 作家で歴史エッセイストの堀江宏樹さんは「大竹しのぶ(64)に演じてほしい」と話す。

「瀬戸内さんが出家したのは51歳のとき。自分の女としての“業の深さ”に疲れ果て、創作に専念するために“女”の部分に死んでもらおうと、出家しました。大竹さんなら、成熟した女性の苦悩を濃厚な演技で表現できるはず。何より、出家したときの丸刈り姿も見たいですよね」

 燃える女優魂を持つ大竹しのぶなら、本当に剃髪して臨みそうだ。

向田邦子さんと宮沢りえ

 そして同じく、文筆家の故・向田邦子さんの一生もドラマチック。『時間ですよ』(TBS系)などのホームドラマをはじめ、さまざまな人間模様を脚本に描いたが、51歳で航空機事故により急逝した。

「向田さんの魅力は“愛の悲しみ”にあります。彼女のエッセイには愛人男性が自分の家から去ったあと、彼がいなくなった空間で、彼が切った爪を拾い集めたり、場合によっては食べてしまったりという記述がある。そんな異様なシーンを演じられるのは、明るく振る舞っていてもうつむいたときの顔に色っぽさがある人です。美人としても知られていたので、宮沢りえさんが適役ではないでしょうか」(堀江さん)

カメレオン俳優・山田孝之に期待

「多くの人の記憶に残っている有名人を演じる場合は、視聴者の要求も高まります。そうなると、演技経験が浅い若手のイケメン俳優では、プレッシャーが大きいのも事実です」

 そう話すのは、斎藤工(40)や城田優(36)など、数多くのイケメン枠俳優を早い段階から見いだしてきたイケメン評論家の沖直実さん。

「例えば、世間を騒がせたことでも知られる俳優の故・勝新太郎さんを演じるとなれば、線が細い今どきのイケメンでは厳しい。もちろん、若手の中にはパワーを持った人もいます。眼力と狂気的な演技で織田信長を怪演した染谷将太くん(29)なら、若いころの勝新も演じきれるはず。もしくは、破滅型の人生が重なる市川海老蔵さん(44)もいいのでは。勝新の兄である故・若山富三郎さんは、どんな役もこなす実力派の山田孝之さん(38)がいいですね」

 そして勝新の伴侶・中村玉緒(82)役には近年バイプレーヤーとして活躍する、岸井ゆきの(30)を指名した。週刊女性が行ったアンケートでは「おっとりした演技が玉緒さんに重なる黒木華(31)」(30代・女性)「伊藤沙莉(27)なら表情豊かに演じてくれそう」(30代・男性)などの声も寄せられた。

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 そして、前出の堀江さん、沖さんの両名から「昭和の有名人のドラマ化には、お笑い芸人を起用してほしい」という意見が挙がっている。

「大河ドラマで吉沢亮くん(28)が演じていた渋沢栄一は、明治・大正がメインの偉人ですが、錦鯉のツッコミ・渡辺隆さん(43)が、本人にソックリでありかなと思いました(笑)。特に渋沢のように写真が多く残っている偉人は、ふとした瞬間に本物の顔が浮かんで『いやいや、吉沢亮さんは美しすぎるかも!』と思ってしまうんですよね。その点、お笑い芸人さんは親近感がありつつ、華もあるので、実物のイメージに近い印象があります」(沖さん)

芸達者な阿佐谷姉妹にピッタリな役

 一方の堀江さんは、女性芸人・阿佐ヶ谷姉妹のふたりに演じてほしい役があるとか。

「以前、姉の江里子さん(49)がちあきなおみ(74)がカバーしていた『朝日のあたる家』をコントで歌っているのを拝見しました。ネタでも高い歌唱力を披露しているので、“本当に歌える人”が演じるちあきなおみが見てみたいです。

 また、妹の美穂さん(48)もとても魅力的。過去にファッション誌の表紙を飾ったお写真を拝見したのですが、とてもお美しかった。美穂さんには、自分の中の愛に生きた故・テレサ・テンさんがピッタリだと思います。彼女の歌唱力と演技力で、“女の情念”を体当たりで演じてほしい!」(堀江さん)

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 視聴者が本当に見たい作品は、ドラマのテーマになった人物に対する“リスペクト”が感じられる作品だ。話題性だけが先行しているキャスティングには、萎えてしまうのが視聴者心。登場人物、演者、視聴者……全方面に愛がある良作を作ってほしい!

堀江宏樹(ほりえ・ひろき) 作家・歴史エッセイスト。日本、世界、古代、近代を問わず、歴史の持つ面白さを現代的な視点、軽妙な筆致で取り上げている。著書多数。最新刊は『偉人の年収』(イースト・プレス)
沖直実(おき・なおみ) イケメン評論家。ラジオパーソナリティーをしながら、2004年から「沖直実のいい男祭り」を開催。斎藤工、城田優や瀬戸康史などにいち早くイベント出演依頼をしたことでも知られている

取材・文/大貫未来(清談社)