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 外食機会も減って三度三度のごはん作り、勘弁して! 私たちも仕事や子育て、介護に趣味と忙しいのだから……。そんな女性たちがこぞって参考にするのがSNSの「バズり系レシピ」。“早くてウマい”それを支えるのが顆粒だしやチューブ調味料の多用だ。小さじ1加えるだけで味に深みと安定感。でも、手軽さと引き換えにしているリスクもウワサされている――。

時短レシピを支えるお手軽調味料

 コロナ禍での自炊機会が増えている。レシピ本で売れているのは早い・簡単・おいしいの三拍子がそろった「時短料理本」。中でも料理ユーチューバーやインスタグラマーの「爆速」レシピが好評だ。

 中をチラチラ見ると、ある共通点に気づく。だしの素(和風だし、鶏ガラスープの素、コンソメスープの素)やチューブ香辛料(にんにく、しょうが、わさび)などがベースの味つけとして多用されているのだ。便利だからキッチンや冷蔵庫に常備している人も多いだろう。

「チューブにんにくなども、生のにんにくに負けない風味があり、使いたい量だけがぱっと出せて便利。生のにんにくを買ってきて皮をむき、ひとつひとつすりおろして、手が臭くなり……なんて手間のすべてが不要なのは本当に助かります」

 共働きで2人の子どもを育てる都内在住の主婦は、だしの素&チューブ香辛料がなければ「わが家の味は成り立たない」と話す。

  「時短レシピ」の本を出したこともある人気料理ユーチューバーはこう話す。

「SNSの料理で求められているのは、凝ってないことなんです。特別な材料を使わずめんどくさい味つけがないこと、それでいてちゃんとおいしいこと。だから『だし』はすごく大事です。

 和風だしと鶏ガラ、両方混ぜたり、複数使うこともよくありますね。味に深みが出るんです。私の母の世代だと市販のだしの素を使うことに罪悪感があるみたいですが、時代が違いますから。私たちは仕事や子育てで料理にかける時間すら惜しい。どうしても便利で早いことに惹かれます。それに自分の手で作っているほうが安心じゃないですか」

 今どき主婦の悩みは「時間がない」ほかにも、「せっかく手間暇かけて作った料理を家族に残される」こと、ともいう。

「料理しても“おいしくない”と言われることほど、ツラいことはないです。しかもコロナ禍で料理回数が増えて、レシピがマンネリになってきています。多少味つけが濃くても、残さず食べてもらえるレシピのほうがいいんです。だから、あれこれ考えなくてもピタッと味が決まる時短調味料には助けられています」

 しかし食品添加物に詳しい科学ジャーナリストの渡辺雄二さんは、こう警鐘を鳴らす。

「調味料だけで簡単に味を調え、うま味も加えることができる秘密は、実は調味料に含まれる添加物。むやみに使うのは要注意」

 パッケージの裏を見れば、添加物の羅列。ほとんどすべてに「調味料(アミノ酸等)」という表示がある。これはうま味を加えるための添加物で、その内容は「L-グルタミン酸ナトリウム」という成分であることが多い。

「この『調味料(アミノ酸等)』は、含まれていないものを探すのが難しいほど、いろいろな時短調味料に含まれています。ただL-グルタミン酸ナトリウムは一度にたくさん摂取すると、人によっては顔から肩にかけての灼熱感やしびれ、動悸などの症状が出る可能性がある。とり方に注意が必要です」(渡辺さん、以下同)

 あるメーカーのうま味調味料では、このL-グルタミン酸ナトリウムが原材料の97・5%を占める。残りの2・5%はリボヌクレオタイドナトリウムという別の添加物。つまり2種類の添加物のみで作られた、文字どおりの“化学調味料”だ。

 人工的に作られたうま味に舌が慣れてしまうと、「物足りない」「おいしくない」と感じるようになってしまうのも問題だ。

「小さいころからL-グルタミン酸ナトリウムのうま味で育つと、食材から出た、本来のうま味がわからなくなる。大人になってもそれがないとおいしいと感じられなくなってしまう人が多いんです」

 子どもは大人より味覚が繊細だといわれている。その年ごろの子どもがいる家庭は特に、調味料(アミノ酸)には注意したほうがいい。

 それなら、かつお節や昆布などのいわゆる本物からだしをとった調味料であれば大丈夫だろう─。しかしその考え方も危険だ。

便利さの裏側のリスクを知って「適度に使う」

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「昔ながらの製法」と銘打って、いかにも高級感を醸す「つゆ」に、発がん性物質が含まれる可能性がある。

 原材料を見てみると、確かにかつお節やにぼしを使っているのだが、添加物に先ほどの「調味料(アミノ酸)」に加えて「カラメル色素」が使われている。

「カラメル色素は特に注意したい添加物のひとつ。カラメル色素にはI~IVの4種類がありますが、そのうちのIIIとIVには発がん性物質が含まれています。しかし表示には『カラメル色素』とだけ書けばいいので、4つのうちのどれが使われているかはわからない」

 健康に気を使ったつもりで高級な製品を使っていたものの、発がん性物質を摂取していた……なんてことになっては本末転倒だ。

「注意したい調味料はまだまだある」

 と渡辺さんは言う。例えばチューブのわさび。

「あるメーカーのチューブわさびにはミョウバンが使われています。これは多量に摂取すると嘔吐や下痢などを引き起こすことがある。また、ミョウバンに含まれるアルミニウムは、動物実験で神経系に悪影響を与えることがわかっていて、肝臓や腎臓への悪影響も懸念されています」

 この添加物の動物実験、検証されるのは動物への影響のみ。人間への影響は定かではない。

「添加物の安全性は、動物実験だけでは確認できません。なにしろ人間が感じる体内の不快感などは動物実験ではわからない。しかも実験で確かめられている添加物はほとんどが1品ずつのみ。複数の添加物を同時に摂取したときの影響については不明」

 チューブ香辛料に含まれている香料には天然香料と合成香料があるが、合成香料の中には毒性の強いものもある。でも香料は具体名が書かれないため、何が入っているかわからず、刺激性の強い合成香料が使われている場合、身体に不調をきたす場合もある。

 だしの素とチューブ香辛料で味つけし、最後にうま味調味料を振りかけるといったおかず、早くてウマいは確かにそうだろうが、これでは愛情と安心の手作りごはんが、知らず知らずのうちに家族の健康を蝕みかねない。

「できる範囲で生の素材を使うことが大切です」

 と渡辺さん。

「しょうがはすりおろしたものを冷凍して保存して使う。和風顆粒だしを使う頻度を減らし、昆布などでだしをとってみる、といった工夫だ。もしそれも難しいなら、せめて無添加のものや、添加物が少ないものを選ぶといいですね」

 お金で得られる便利さや、快適さに潜む「リスク」に気づかないまま時短という言葉につられて「命という時間まで短く」しては、元も子もない。

お話を伺ったのは
渡辺雄二さん


 フリーの科学ジャーナリスト。食品・環境・医療・バイオテクノロジーなどの諸問題を消費者の視点で提起し続けている。今年1月に『令和版 食べるなら、どっち!?』(サンクチュアリ出版)を刊行。

取材/オフィス三銃士