『世界の果てまでイッテQ!』MCの内村光良と『ポツンと一軒家』MCの所ジョージ

 大河ドラマなどが放送される激戦区『日曜8時』の枠で、高視聴率を叩き出していた2番組が失速している。

「コロナ禍前は視聴率20%をマークすることも多かった日テレ系『世界の果てまでイッテQ!』とテレ朝系『ポツンと一軒家』の視聴率が、全盛期から10%近く落ちているんですよ。『イッテQ!』は今年の正月特番でも9・6%と2ケタに届かず、同時間帯で4位と惨敗してしまい、テレビ業界では衝撃が走りました」(テレビ誌編集者)

2番組の魅力とは?

 日本テレビの視聴率三冠王にも貢献してきた『イッテQ!』の失速の背景には、新型コロナウイルスの感染拡大が大きく関係している。

「同番組の売りは“世界の果てまで”行くスケール感の大きいロケ企画でした。しかし海外ロケが難しくなり、業界でも同情の声が上がっています」(テレビ局関係者)

『ポツンと一軒家』に関しては、コロナ禍前からロケは国内限定だったが……。

「『人生で大事なことは○○から学んだ』の1コーナーから派生して生まれた番組ですが、業界では“こんなニッチな企画で高視聴率を取るとは!”と絶賛されていました。ただ、辺鄙な場所に住む方はメディア出演を嫌がるケースも多く、“撮影許可が下りるだけありがたい”状態で、最近は面白い住民を探すのに苦労しているそうです」(制作会社関係者)

 テレビ事情に詳しいコラムニストのペリー荻野さんは、2番組の魅力をこう語る。

「『イッテQ!』は『電波少年』など、日テレ得意の悪ノリをよい意味で引き継いでいますよね。イモトアヤコさんをブレイクさせた『珍獣ハンター』など、面白いものを作るためには何でもやろうという勢いがあります。『ポツンと~』は、こんな不便な場所に住んでいる住民はどんな人なんだろう?という視聴者の好奇心を掻き立てるコンセプトや、作りものでは描けない人間ドラマが魅力ですね」

 お笑い評論家の江戸川大学西条昇教授は、『イッテQ!』が失速した理由を「新スターの不在」と語る。

「オセロの中島知子さんやベッキーさん、手越祐也さんがそれぞれの事情で番組から卒業。番組発のスターであるイモトアヤコさんも昨年11月に産休に入ってしまいました。コロナ禍でロケに制限が生じたこともありますが、番組を盛り上げたメンバーたちに代わるスターや人気企画が出てきていないのは痛いですよね」

コロナ禍とコンプライアンス問題が

『ポツンと~』に関しては、「安定期に入っただけ」と前出のペリーさんはこう続ける。

「ひとつひとつの人間ドラマは違いますが、“本当に人が住んでいるの?”と山道を登っていき、“本当に住んでいた!”という流れは、フォーマット化してきていますよね。テレビ朝日は『相棒』など安定して数字を取れるドラマをシリーズ化するのもうまいですし、『ポツンと~』に関しても、“よいマンネリ化”の時期に入ったということだと思います。何だかんだ言って、激戦区である日曜8時で、2ケタの視聴率をキープしているのはすごいことですから」

 前出の西条さんは、2番組の視聴率低下の背景に「裏番組や新メディアの台頭」があると分析する。

「現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、三谷幸喜さんのコメディータッチの脚本や若い世代に人気の役者陣などが、13歳から49歳の視聴者を指す“コア層”にもウケています。放送後は、SNSでも大河に関するワードが毎週トレンド入りしていますしね。またコロナ禍以降、中高齢者にもNetflixやYouTubeなどの動画配信サービスが定着したので、これまで2番組を視聴していた層が、少しずついろんなメディアに流れているのでは

初回放送ではツイッターの世界トレンド1位に輝いた大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。8話までの平均視聴率は14.8%と好調

 コロナ禍に加え、昨今のコンプライアンスの強化の影響があるとの声も。

「『イッテQ!』は宮川大輔さんが世界各国のお祭りに参加する人気企画『お祭り男』にヤラセ疑惑報道が出て、1年以上も同企画の放送を自粛していました。コンプラが緩い時代であれば、ヤラセ疑惑を逆手にとったようなパロディーなどもできたと思いますが、今の時代は無理。

『ポツンと~』も、昔であれば、エピソードを面白おかしく“演出”できましたが、過度な演出をして発覚すると、大問題になってしまうため、どうしても地味な回も出てきてしまう」(前出・制作会社関係者)

各局が力を入れる『日曜8時』枠

 視聴率急落の原因となった裏番組や新メディアの台頭、コンプラ強化などの立ちふさがる障害。しかし『イッテQ!』に関しては、コロナの収束後に復活が期待できそうだ。

「イモトさんやみやぞんさんなど、ネタ番組や賞レースではチャンスをつかめなかったようなタイプを発掘して、育てるのがうまいですからね。コロナが収束すれば、“第2のイモトオーディション”など、新展開を仕掛けてくると思いますし、同番組ならヒット企画を必ず生み出してくれると思います」(ペリーさん)

 西条さんも今後にこう期待を寄せる。

「苦戦の理由となっている、海外ロケが再開できれば復活は期待できます。『ポツンと~』に関しては番組名がコンセプトになっているので大幅なテコ入れは難しく、今後は今の安定した視聴率をいかにキープしていくかという方向になるのでは」

 在宅率の高い『日曜8時』は、テレビ業界を盛り上げる鍵になると、前出のテレビ局関係者は語る。

『世界の果てまでイッテQ!』に出演する宮川大輔とイモトアヤコ

「昭和の時代にはTBS系『8時だョ!全員集合』とフジ系の『オレたちひょうきん族』が“土曜8時”枠でしのぎを削り、ブームを巻き起こしてきました。民放では『イッテQ!』の一人勝ち状態だった“日曜8時”枠で、『ポツンと~』が逆転する健闘を見せたことで、TBSは今年の正月特番で『イッテQ!』など人気番組を抑えて、同時間帯トップに輝いた『バナナマンのせっかくグルメ!!』を放送するなど、各局とも同時間帯に力を入れた番組を放送しています」

 前出の西条さんも今後の“日曜8時”にこう期待する。

「数年前までは中高年の視聴者を意識した番組ばかりでしたが、最近は各局若い視聴者を狙った“コア視聴率”対策で、いろいろ試している印象です。フジテレビも'90年代には『ダウンタウンのごっつええ感じ』などお笑い色の強いバラエティーも放送していましたし、他局からも人気番組が出てくるかもしれません」

 日曜日の夜に起きていた異変が、テレビ業界が盛り返すきっかけになるかも?


ペリー荻野 時代劇研究家、コラムニスト、ラジオパーソナリティー、放送作家。愛知教育大学在学中に中部日本放送でラジオパーソナリティー兼放送作家として活動を開始

西条昇 江戸川大学教授。『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』(TBS系)など放送作家として活躍。お笑い雑誌監修を手がけたほか、お笑い評論家として活動