「先月、バングラディシュに避難していた父親が病気で亡くなりました。病気と知っていたけれど、何もしてあげられなかった。仮放免だから」と涙ながらに訴えたミャンマーを追われたロヒンギャのミョーチョーチョーさん(撮影/畔柳ユキ)

 約9割の人が「生活が苦しい」と答え、病気やけがをしても経済的に医療機関を受診できないと答えた人は約8割にものぼる。また約6割以上の人が食事も満足に取れていないと生活苦を訴える。就労も医療保険の加入も生活保護も認められず、日本で苦しんでいる仮放免の外国人がたくさんいることをご存知だろうか。生活困窮者の支援活動を行う『つくろい東京ファンド』の小林美穂子氏によるレポート「追い詰められる、仮放免者たちの悲鳴」。

「仮放免」という言葉を耳にしたことがあるだろうか?

 出入国管理法(入管法)に基づいて収容令書または退去強制令書により収容されているものについて、病気やその他やむを得ない事情がある場合、一時的に収容を停止し、例外的に身柄の拘束を解くための措置である。

 自国の政治、宗教、民族対立などで迫害され、命からがら日本に逃げてきた人たちが難民申請をしたとする。しかし、日本での難民認定率は他国に比べ突出して低い。2020年の認定実績は、ドイツの認定率が41.7%に対し、日本はわずか0.5%という有り様だ(難民支援協会のHPより)。認定されずに何年もの月日が経過し、そして入管施設に収容される。

 また難民ではなくとも、すでに滞在が長期化して、生活のベースが日本になってしまった人たちだっている。例え母国に帰ったところで生活していく術はなく、帰ろうにも帰れない人たちが在留許可を得られず、また入管に収容される。

 このように、日本にはさまざまな理由があり、自国に帰れない外国人が数多く暮らしており、仮放免者の数は2021年12月末現在5,781人。苦しい暮らしを余儀なくされている。

 仮放免者を支援し、医療費の寄付活動を行っている北関東医療相談会(通称:アミーゴス)の大澤優真氏は怒っていた。

 3月8日、NPO法人「北関東医療相談会」が開いた記者会見で、「仮放免者」の生活実態に関する調査結果を厚生労働省記者クラブで行ったときのこと。穏やかな表情と、感情を排した口調の裏には、おさえても、おさえても溢れる悲しみと焦燥感、怒りが見れ隠れする。

「周知のように、仮放免者は働くことを認められていない。収入を得ることができない。では社会保障はあるのか? 国民健康保険、一切ない。医療費が全額負担になるから我慢を重ねて重症になって緊急搬送になる。生活保護も対象外。食糧がない、病院にいけない、家賃払えない。しかし、支える支援策はなにもない。『大げさではないか』『そんなこといっても、結局どうにかなるのでしょ?』と言われるが、ならない。どうにもならないんです」

 北関東医療相談会の事務局長・長澤正氏と大澤氏には、忘れられない人がいる。

 カメルーン出身のマイさんだ。

 難民申請が下りず、入管施設に収容された。収容中に体調を崩したが、一年間治療もされずに放置された。その後、症状の悪化に伴い仮放免されたが、お金がない。健康保険の加入もできないため、満足に病院にかかることもできず、末期がんの状態でホームレス状態に。家賃が払えなくなって友人宅やホテルを転々とした挙句、42年の生涯を閉じた。

 治療を受けていれば、まだまだ続いた命だった。太陽のように明るい彼女の笑顔は、関わる日本の人たちを温めただろうに、もうその笑顔を見ることはできない。

仮放免者たちの深刻な状況

 マイさんのような例を挙げると、「極端な例でしょ?」という意見がしばしば聞かれた。そこで大澤氏は、昨年10月~12月の間に仮放免者の生活実態調査を始めた。仮放免者に向けアンケートを450件発送し、141件の回答を得た。

 想像はできていたとはいえ、その結果は過酷極まるもので、数字はそのまま悲鳴となって筆者の耳に届いた。瞬きもせずにデータを見つめた。

【報告書】「生きていけない」外国人仮放免者の過酷な生活実態「仮放免者生活実態調査」報告

【報告書】「生きていけない」外国人仮放免者の過酷な生活実態「仮放免者生活実態調査」報告(https://npo-amigos.org/post-1399/)

 生活状況を「とても苦しい」「苦しい」と答えた人は約9割にのぼり、経済的問題により医療機関を受診できないことがあると答えた人は8割を超えた。

 日本の家賃の高さも彼らに大きな打撃を与えている。

 家賃の負担を「とても苦しい」「苦しい」と答えた人は8割越え。すでに家賃を滞納している人は4割にのぼる。中には、部屋を貸してくれる代わりに性的関係を強いられる女性の例も複数あり、まるで奴隷のような日々を強いられていることがわかる。同じ仮放免者の中でも、女性はさらに弱い立場に置かれていることがわかり、言葉を失った。

「なら国に帰れ」と言う前に読んでほしい

 そんな苦境に喘ぐくらいなら、国に帰ればいいじゃないかと言うだろう。おそらく、この記事に対しても、日本に住む外国籍の人々を快く思わない人たちがワラワラと集まってくるはずだ。そんな人たちには特に、タイトルや見出しだけに反応するのではなく、最後まで読んでほしい。排斥(はいせき)は自分たちにとって損だということを知ってほしい。

 仮放免者たちは、そんな苦境にあっても、自国に帰れないさまざまな事情を抱えた人たちだ。そもそも、考えればわかるのではないだろうか。昨年3月、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんのように入管施設で亡くなる人はあとを絶たず、仮放免になっても暮らせないようにされている。そんな拷問のようなことをされながらも、なぜ帰らないのかを。

 帰れないからでしょうが!

 日本に残っても施設収容や仮放免も地獄、帰国したら速攻で殺されるかもしれない更なる地獄が待っている。殺害されるほどの危険はなくても、自国で生きていけないことがわかっている場合、やはり帰れないのだ。

 前述のように、日本の難民認定率は1%未満。難民条約に加盟していてこの有様では、条約に加盟しているのはポーズに過ぎないということになる。やっているアピールはしていても、実際は追い返すための嫌がらせにあの手この手を尽くす挙句に、目の前で死なせたりする。とても恥じることであって、あってはならないことだ。

「外国人に俺たちの仕事が奪われる」は本当か?

 筆者は普段、生活困窮者支援の活動をしている。その関係で国籍問わず、生活に困ってしまった方々に出会い、そこで思わず顔を曇らせてしまう主張を聞くことがある。

「仕事を探しているが全然ない。外国人が俺たちの仕事を奪っているんだ!」

 聞けばその人が探していたのは駅前の自転車管理の仕事だった。筆者は駅前の自転車管理の仕事に外国籍の方が就いているのを見たことがない。

「その仕事を外国人が取ったんですか?」と聞くと、男性は口ごもる。

「あなたのお仕事のライバルは外国人ではなく、低年金でアルバイトをしないと生計が成り立たない日本人の高齢者ではないでしょうか」と諭さずにはいられなかった。

 男性の後ろには、病を抱えながら医療にかかれず、家賃も払えず、食費にも事欠く外国籍の男性がうなだれて生活相談の順番を待っていた。

 生存を椅子取りゲームにせず、ともに生きる道を模索することはできないのだろうか?

仮放免者の生活と命を存続させるために必要なこと

 北関東医療相談会の長澤正氏と大澤優真氏ら支援者が国に求めるのは以下である。

・就労を認めてください
・国民健康保険など医療保険の加入を認めてください
・無料定額診療事業を行う医療機関への支援をしてください
・生活保護法を適用してください

 仮放免者に向けたアンケート調査の結果、回答者の87%が20~50代の働ける年齢層だということがわかったため、まずは就労許可と医療保険への加入が特に急務だ。筆者が所属する「つくろい東京ファンド」のシェルターにも5名の仮放免者が滞在しているが、彼らは異口同音に「働きたい」という。

 記者会見にはアフリカ出身で難民申請中の男性B氏とミャンマーのロヒンギャ難民のミョーチョーチョ氏が参加していた。

記者会見をした北関東医療相談会の事務局長・長澤正氏と大澤氏、ミョーチョーチョーさんら(撮影/畔柳ユキ)

 B氏は難民申請を却下され続けていて、現在、三度目の申請をし「アフリカ、戦争のところばかり。一週間で50人とか死んじゃう。ほんとに帰れない」と語った。

 ミョーチョーチョー氏は2月6日にバングラディシュに避難していた父親を病気で亡くしたばかり。自分が仮放免で働けず、父親に治療費も送ることができずに死なせてしまったことを悔いて、涙ながらに訴えた。

 そして二人とも、仕事をしたいと訴える。人に頼って生きるのは心苦しい。仕事をして、自分の力で生活したい、家族の面倒をみたい。誰かの役にも立ちたい、そして病気になったら病院にも行きたいと。

 これは、わがままだろうか?

私たちの便利は外国人技能実習生に支えられている

 働かせてほしいと懇願する仮放免の外国人たちがいる一方で、日本は深刻な労働力不足の問題を抱えている。農業、水産、畜産分野で後継者不足が顕在化しており、今やベトナムや中国からやってくる技能実習生たちによって、日本の産業が支えられているということを、どれだけの日本人が知っているのだろうか。

 和牛も牡蠣も小松菜もメロンもみかんも、技能実習生がいなかったら、これまでどおりにスーパーに並ばなくなる。オリンピックなどの一大プロジェクトを労働力で支えているのも外国人だ。少子高齢化の日本で、私たちはもはや日本人だけで自立などできない現状がある。

 日本はまだ豊かだと思いたいのは筆者も一緒だが、つらくても現実を直視した方がいい。「外国人が日本の富をかすめ取りにくる」は幻想だ。日本はバブルのころの力をとっくの昔に失っている。あまり外国人差別をしていると、コロナ禍でなくても技能実習生が来てくれなくなると考えないのだろうか。そうでなくても、一部の良心的な雇い主を除き、劣悪な環境で働かせたり、実習生たちに暴力、差別を繰り返す日本企業や雇用主の情報はアジアの国々に伝わっていて、日本人気はダダ下がりになってきている。

労働力を補い、少子化対策としての移民政策

 深刻な人手不足は農業だけではない。コンビニや外食チェーンも同様で、私たちが日ごろよく利用しているチェーン店でも外国人がいなければ営業できない。そのくらい、私たちの生活は外国人に依存している。

 人手不足の深刻化は就労の現場にとどまらない。日本の少子高齢化は地方の過疎化を促進している。

 北海道東川町は2015年に全国で初めて自治体が運営する日本語学校を設立し、町独自の奨学金を設けて学費を助成、留学生の受け入れを進めている。留学生の増加によって人口が増加すれば、国の地方交付税が増える。外国人の流入によって増えた地方交付税を、町の高齢者福祉や子育て支援の財源にしている。

 島根県出雲市も同様で、少子化と人口減に強い危機感を持っている。出雲市の長岡秀人市長の言葉が重い。

「人が住まないと街は衰退する。人口減少がもたらす弊害は惨憺たるものがある。外国人だろうと日本人だろうと住みやすさをもっと極めていけば、なんとか人口減社会に逆らうことができるのではないだろうか。ぜひこの地で永住してもらいたいという思いがある。それにしっかりと取り組んでいくことが元気な地方として生き残る手段だと思っている」(光文社新書『データでよみとく 外国人”依存”ニッポン』より抜粋)

日本が生き残るための手段としての共存

 おわかりいただけただろうか。

 人道的観点から仮放免者(や技能実習生)の対応を改善しろというよりも、筆者はこの国が生き残るための手段として、外国人の受け入れを積極的にしてほしいと考えている。

 受け入れるからには、相手を「労働力」としてではなく、自分と同じ「人間」として受け入れてほしい。

 せめて、働きたい仮放免者に就労許可と医療保険を。それだけで、自立できる人はたくさんいることはデータを見れば明らかだ。

 筆者が身を置く「つくろい東京ファンド」のシェルターでも外国籍の仮放免者を受け入れていると書いた。しかし、過去には渡航先でホームレス化して帰れなくなった日本人の支援をしたことも何度かある。

 アメリカで、アジアで、路上生活をしていた日本人を助けたのは、日本大使館ではなく、地元の地域住民たちだった。地域住民で支援ネットワークを作り、交代で部屋に住まわせたり、食べ物を持って行ったりした。帰国を希望していた彼らのために、クラウドファンディングで帰国費用を集め、その傍らで日本での生活が保障されるよう、私たちの団体に連絡をしてくれた。

 日本に帰国し、地域で暮らして既に数年になる彼らを、海の向こうの市民たちは今も暖かく見守ってくれている。

 日本も、自国に帰れない外国人を差別せず、敵視せず、ともによき隣人として暮らせるようになってほしいと切に、切に望む。

 どうか、仮放免の人たちに就労許可を!医療保険加入を!

 彼らの「生きる」を応援してほしい。同じ命なのだから。

NPO法人「北関東医療相談会」(通称:アミーゴス)では、支援している仮放免者の治療費への寄付を募っています。通信欄に必ず「仮放免者への寄付」とご記入ください。民間ができる限界はとうに超える中、仮放免者の命をつなぐために奔走しています。ご協力、お願いいたします。
銀行名:ゆうちょ銀行
当座預金:アミーゴ・北関東医療相談会
記号:00150-9-374623
※NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)が事務局となっている下記の署名活動も現在行われています。

【お金のない人から、高額な医療費をとらないで!】 コロナ禍で苦しむ移民・難民の命を守る制度を整えてください。https://chng.it/68CrKkZhcP)

※記事参考文献 光文社新書 データでよみとく外国人“依存”ニッポン NHK取材班


小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を出版。