(左から)有吉弘行、タモリ、マツコ・デラックス、アンミカ

 誰しも、生きる道に迷うことがあるだろう。しかし「身近な人には相談できない」という、もうひとつの悩みを抱えるケースも少なくない。そんな迷える人々が集まるのが、ラジオ、雑誌、ウェブサイトで展開される“人生相談”だ。

芸能人の個性豊かな人生相談

 メディアを通して連日見ている芸能人たちは、視聴者にとって“知った顔”でありながら、知人ではない。芸能人が回答者を務める人生相談の場は、特殊な関係性で成り立っている“芸能人と視聴者が交わる場所”でもある。そこで本稿では、あらゆる角度から人生相談というコンテンツを分析していく。

 人生相談に寄せられる悩みは、時代を映す鏡。まずは令和の今、どんな芸能人たちが、どのようなお悩みに回答しているのか、実例とともに見てみよう。

 2021年に音楽ストリーミングサービス・Spotifyでスタートしたオリジナルポッドキャスト番組『叶姉妹のファビュラスワールド』は、叶姉妹(年齢非公開)のふたりが、リスナーからの相談や質問に答えるトーク番組。同サービスのポッドキャストランキングで常に上位を記録する、今もっとも勢いのある人生相談コンテンツのひとつといえる。

 一般的な人生相談は、回答者が相談者に寄り添って答えを導き出すケースが多いが、同番組は浮世から遠く離れた場所にいるおふたり(特に恭子さん)の“らしさ”が全面に出ているのが特徴だ。2022年2月15日の配信では、40代女性から「子育てが一段落したので何か趣味を見つけたい。おふたりの趣味は何ですか?」という相談と質問が寄せられた。

 そして恭子さんは「わたくしの趣味はわたくし自身」と回答。

 その真意は、自身を作品と捉え、自分自身を楽しんでいるからだとか。この回答が、悩みに対する答えになっているのか否か、そんなことを気にするのは野暮だ。

『ファビュラスワールド』は、聴いているだけでまさに“ファビュラス”な別世界に行けるのが、最大の魅力なのだから。

 そしてまた別の回には「9年間交際し、最近籍を入れた夫と離婚したい。価値観がズレていくのを感じて、一緒にいるのがツラいが、結婚早々離婚するのは悪いことでしょうか?」という悩みに対し、恭子さんは「10年以上も関係を続けているだけですごいこと。でも、今すぐ離婚していいと思う。結婚してから男性の性格が変わったということは、今後、さらに知らない面が出てくるはず。早く処理されたほうがいい」と答えた。

叶姉妹

 彼女独自の視点がありつつも、共感したリスナーも多かったのではないだろうか。他人に流されず、確固たる自分を持つことが求められる現代。叶姉妹が貫く“生き方”は、見習うべき部分があるのかも?

それぞれの解釈の仕方で寄り添う

 SDGsが掲げる17の目標のなかに「ジェンダー平等の実現」がある。仕事はもちろん、家庭内における家事や子育ても“シェア”していく社会を目指す、という目標だ。

 そんな世相を反映しているのが、ファッション誌『VERY』で連載中の『ryuchellの「パパの子育て悩み相談室」』。

 奇天烈なキャラクターと積極的に家庭に関わる姿が人気を集めるryuchell(26)が、世のパパたちの悩みに答える連載企画だ。

『VERY』(2021年10月号)は41歳の男性から「平日は朝食、週末は洗濯、風呂掃除、夕食を担当し、妻がひとりの時間をとれるように子どもたちを連れて外出している。家事・育児をサポートしているのに専業主婦の妻に感謝されない」という悩みが寄せられた。

 すると、ryuchellは「感謝されたいって甘えすぎじゃない? パパとしての心構えが足りないのでは」と回答。

「あなたのおうちではママが家庭を回してくれているおかげで仕事ができている」「自分はこんなにやってあげてるのにっていう気持ちが全部ママにバレてる」など、清々しいほど相談者を一刀両断した。

 そして最後に「自分が感謝されたいなら、もっと自分から『ありがとう』を言えばいい」という解決策も提示。相談者は、自分の大変さを共感してもらいたかったのかもしれないが、ryuchellのパパレベルには到底及ばず、返り討ちにあってしまったようだ。

りゅうちぇる(Instagramより)

 芸能界の姉御ことモデルでタレントのアンミカ(49)も、ウェブサイト『mi-mollet』で読者の悩みに答えている。この「アンミカ流セカンドステージ学」は、夫婦関係や婚活、高身長女性が抱える悩みなど、多種多様な相談が送られてくるのが特徴だ。

 2021年10月21日公開の記事には、39歳で2児の母から寄せられた「不倫をしている夫から『お互いにセカンドパートナーを持とう』と言われ、どうするべきかわからない……」という悩みに、アンミカ節で答えている。

 まず、アンミカ姐さんは不倫夫の勝手すぎる発言に大激怒。

自分が不貞行為をはたらいておきながら『お互いにセカンドパートナーを認め合おう』なんて、旦那様は自分に都合がよさそうな言葉を引っ張り出して自己保身に走っているだけでは」と、核心を突くひと言も。

 そして最後には、子どものことを第一に考えた慎重な話し合いを促した。解決案はとっぴなものではないが、相談者と一緒に怒れるアンミカの関西弁が脳内再生されそうな企画だ。

アンミカ

 叶姉妹の異次元型、ryuchellの一刀両断型、アンミカの寄り添い型など、ひと口に人生相談といっても、回答者のキャラクターによってその性質は大きく異なっている。回答者を担う彼らは、自らの強みを発揮して人々を導いているようだ。

 このように、さまざまな不安や悩みが尽きない現代も、芸能人の人生相談需要は衰えそうにない。そこで週刊女性では20〜70代の男女1000人にアンケートを実施し「人生相談をしたい有名人」を挙げてもらった。

人生相談をしたい有名人ランキング

 もっとも多い147票を獲得したのは、タレントのタモリ(76)だ。相談したい理由は「人生経験が豊富そうだから」という声が多く、長年第一線で司会業をこなしてきた姿に、信頼を寄せる意見が多くみられた。

 そのほかにも「悩みをラクにしてくれそう」(42歳・男性)「意外な答えをくれそう」(62歳・男性)など、メディアを通してうかがえる“アイデアマン”な一面も、回答者としてのタモリの魅力につながっている。

 続いて多かったのが、コラムニストでタレントのマツコ・デラックス(49)。理由を聞くと「いろいろな人の悩みを聞いていそうだから」(50歳・男性)という期待のほかに、親近感の湧くキャラクターからか「愚痴を言ってスッキリしたい」(56歳・女性)「辛口でも愛のあるコメントをくれそう」(29歳・女性)などの意見も多数。マツコの鋭いアドバイスに斬られたい人続出!?

 3位にランクインしたのはお笑い怪獣こと明石家さんま(65)。数多の番組で頭の回転の速さを披露しているため「回答に興味がある」(42歳・女性)「どんなアドバイスが出るのかわからないから」(61歳・男性)など、彼の“回答力”に期待する声が多くあがった。

 コメディアンや映画監督など、さまざまな顔を持つビートたけし(75)も上位にランクイン。「悩みを吹き飛ばしてくれそう」(51歳・男性)などの破天荒なイメージがある一方で「弟子が多いから親身になってくれそう」(65歳・男性)「最後まで面倒をみてくれそう」(58歳・男性)といった声もあり、たけし軍団を率いる彼の親分気質に惚れ込んだ男性も多いようす。

 そして5位に入ったのは、シンガー・ソングライターの所ジョージ。多趣味で自由人、遊びの達人として知られる彼には「自分が思いもしない答えを出してくれそう」(51歳・男性)「人生を楽しんでいそうだから話を聞きたい」(60歳・女性)など、自分の想像を超えたアドバイスを求める意見が寄せられた。

 今回くしくも、一時代を築いた“お笑いBIG3”が理想の相談相手として上位に選出された。マツコや所ジョージも含め、彼らに共通しているのは豊富な人生経験とユーモアだろう。たしかに、波瀾万丈な人生をユーモアで歩んできた歴戦の猛者たちの言葉は心に響きそうだ。

 そのほか「ダメ出ししてもそのあとにフォローしてくれそう」(59歳・女性)という理由でトークが得意な歌手のさだまさし(69)を指名した人もいれば「のん(28)。好きだから」(45歳・男性)という回答も。ただのファンでは……? というツッコミを入れたくなるが、人生の相談相手に求める要素の多様さもうかがえる。

人生相談をしてみたい芸能人ランキング

解決策よりも気持ちを理解

 そもそも、なぜ人は見ず知らずの芸能人に悩みを相談したくなるのだろうか。

相談者は『この回答者なら、自分の気持ちを理解してくれるに違いない』という考えを持っているためです

 そう解説するのは、精神科専門医の山下悠毅先生。相談者たちが求めているのは、具体的な“解決策”ではない可能性が高いという。

仕事や健康、お金や人間関係など、人は生きる過程で多くの悩みを抱えています。しかし、その悩みを身近な人に話をするのをためらう人は少なくありません。なぜなら、多くの人が『自分の悩みは複雑であり、人に相談したところで意味がない』と考えてしまいます

 また、過去に「困ったことがあったら何でも相談して」と言われて悩みを打ち明けたのに「考えすぎ」や「それは甘えだ」などと返されてしまい、相談するのを諦めるケースもあるという。

相談者の方は、頭の中では『解決してほしい』と考えつつも、心では『まずは誰かに自分の悩みを理解してほしい』と思っている。

 そんななか、ラジオなどの相談コーナーで“聞く力”に長けている芸能人のコメントを耳にしたリスナーは『自分も相談したい』という心の動きにつながります。

 そのため、まずは相手のツラさや悲しさを丁寧に受け止めたうえで、相手の悩みを事実に沿って整理するのが、優秀な回答者といえます。また、必ずしも回答者から解決策が提示されるわけではありませんが、自分に理解を示してくれた回答者が、具体的な行動目標を提示すれば『はじめの一歩』を踏み出せる相談者もいるでしょう」

 聞く力と、背中を押すコメント力。人気を博している人生相談の回答者には、それらのスキルが備わっているのだ。人のいるところに悩みあり─。今後もさまざまな芸能人が、迷える人々の悩みに応えつづけていくのだろう。

【現在人生相談を行っているおもな芸能人】
・有吉弘行(47) 「くらやみ説法」(『EX大衆』)
・上沼恵美子(66) 『上沼恵美子のこころ晴天』(朝日放送ラジオ)
・田村淳(48) 「深夜の電話相談室」(YouTube『ロンブーch』)
・バービー(38) 「開けチャクラ! バービーのモヤモヤ相談室」(『Numero TOKYO』)
・山田ルイ53世(46) 「なやみのとびら」(日本経済新聞)
・渡辺えり(67) 「人生相談」(毎日新聞)
※掲載時に終了している可能性もあります

PROFILE●山下悠毅(やました・ゆうき)精神科専門医/指導医。専門は、うつ病のカウンセリングと依存症の認知行動療法(アルコール依存や窃盗癖、性の問題など)。代表著書に『いい子をやめれば幸せになれる』(弘文堂)

[取材・文/大貫未来(清談社)]