成人が18歳に引き下げられることで変わるのは

 民法改正に伴い、4月1日から成人となる年齢が20歳から18歳に引き下げられる。明治9年に定められて以来、約140年ぶりの大改正だ。たとえ高校生であっても、4月1日時点で18歳以上なら、「大人」として扱われることになる。

 法的に大人扱いをされることは、どういった意味を持つのだろうか? 生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさんは、こう話す。

「18歳になると、保護者の同意がなくても単独で契約を結べるようになります。また、親の親権がおよばなくなるため、住む場所や職業なども自分の意思で決めることができます」

生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさん

 具体的に何がどう変わるのか。クレジットカードを作ったり、ローンを組んだりできるようになるほか、公認会計士や司法書士など国家資格の取得も可能に。女性が結婚できる年齢も変わり、これまでの16歳から男性と同じ18歳に引き上げられる。

 一方、変わらないこともある。飲酒や喫煙が可能になる年齢はこれまでどおり、20歳から。競馬や競輪などの公営ギャンブルも同様だ。国民年金の加入や納付義務が生じる年齢も20歳に据え置かれた。

親の承諾なしに携帯電話を契約できるようになると

 そもそも、なぜ「18歳成人」にする必要があったのだろうか? その背景について、ジャーナリストの渋井哲也さんは次のように指摘する。

OECD(経済協力開発機構)加盟国では、ほとんどが成人年齢は18歳。20歳というのは日本や韓国など少数派です。そのため、国際基準に合わせようという狙いがあります」(渋井さん、以下同)

 2015年には公職選挙法が改正され、翌年から選挙の投票権が18歳以上になった。「18歳成人」も、その流れをくむものだという。

若者の保守化がいわれる中、“18歳選挙権”に変えると保守層を基盤とする政権与党に有利になるため、選挙権を持つ年齢を引き下げたとみられています

ジャーナリストの渋井哲也さん

 18歳成人によって、自分で物事を決められ、選択肢が広がる反面、大人として責任を負うことになる。

4月からは親の承諾なしに携帯電話の契約をすることが可能に。すると、親がわが子の携帯番号を知らないケースも出てくるでしょう。閲覧させたくないサイトへのアクセスや有料コンテンツの購入を防ぐ『ペアレントコントロール』もきかなくなり、課金などのトラブルに遭うリスクが高まります

 今までは親の同意を得ないで契約した場合、民法で定められた「未成年者取消権」によって無効にすることができた。しかし、「18歳成人」になると、法律の保護からはずれるため簡単に解約できない。これはアダルトビデオの出演契約でも同様だ。政府がこのほど閣議決定した答弁書で明らかになっている。

タレントやモデルに勧誘しながら、実際はAVで、強制的に出演させられたとするケースが問題になっています。AV出演の契約でも、これまでは18歳未満であれば未成年者取消権により契約を無効にできましたが、4月以降、それが使えなくなります。出演強要やトラブルがさらに増えるでしょうね

 特に渋井さんが懸念するのは、自立をせかされ、追いつめられる若者が増えることだ。

「未成年者取消権」が使えなくなる

例えば児童養護施設の場合、支援を受けられる期間は原則18歳まで。ただ、施設を退所するときは職員が賃貸アパートなどの保証人になることが多く、住まいや暮らしについて一緒に考え、サポートすることもできました。ところが18歳成人になると、自分でアパートの契約ができてしまう。職員に相談する機会が減り、困窮したり、違法スレスレの仕事に手を出してしまうかもしれない。無理な自立を迫られるおそれがあります

2022年4月1日から成人の年齢が18歳に引き下げ。これまでと変わることは…?

 成人となる年齢の引き下げに伴い、少年法も改正される。18歳・19歳は「特定少年」という位置付けに。引き続き少年法で保護されるが、殺人や傷害致死といった一定の重さの罪を犯した場合は、原則として刑事裁判を受けることに。有罪になると、少年院ではなく刑務所で服役しなければならない。

特定少年が起訴された場合、4月から実名報道が可能になります。ただ、禁じられていたとはいえ罰則がなかったので、これまでにも少年の凶悪犯罪を実名で報じるメディアはありました。今回の法改正は厳罰化の動きといえますが、重い刑罰を科したり実名で報じたからといって、犯罪の抑止にはならないでしょう

「18歳成人」によって、とりわけ懸念されているのが、お金にまつわるトラブルだ。

「20歳の誕生日を迎えた途端、さまざまな手口で悪質業者が群がってきます。4月からは、そのターゲットが18歳に変わるわけです」

 と、前出・あんびるさん。先述したように、親がわが子の結んだ契約を取り消す未成年者取消権が使えなくなることから、トラブルの増加が懸念されている。国民生活センターでは、新成人が狙われやすいトラブルとして「副業・情報商材やマルチなどのもうけ話」、「エステや美容医療などの美容関連」、「出会い系サイトやマッチングアプリ」などの事例をホームページで紹介、注意を呼びかけている。

 あんびるさんは最近、知人のお子さんから実際に相談を受けたという。

投資に関する商材を買わされたというんです。契約を無効にして支払った代金を取り返したいというので、被害者に私が付き添って、一緒に待ち合わせ場所へ向かいました。現れたのは、30手前くらいのスーツ姿の男性。イケメンで、まじめそうな雰囲気でした」(あんびるさん、以下同)

気づかぬうちに加害者になる

 被害者が購入させられたのは、商材とは名ばかりの、ちゃちなDVD。長時間連れまわされ、契約するまで帰してもらえなかったというから悪質だ。

「私が付き添っていることがわかると、まるで事態を見越していたかのようにバッグから現金を取り出したんです。“お金は返しますから”とまくしたて、現金を手渡し、受領書のサインを受け取った途端、脱兎のごとく逃げ出して人混みに消えてしまいました」

 その加害者であるイケメンとは、マッチングアプリを介して出会ったという。いまやアプリやLINEなどのSNSを利用し、犯行におよぶケースは珍しくない。

ネット上のつながりは想定外の人間関係が築かれるのがポイント。トラブルが起きても親が把握するのは難しい。加えて、学校の先輩などの上下関係も利用されます。先輩が尊敬するという第三者まで登場し、言葉巧みに契約させるわけです。18歳成人になると、クレジットカードや消費者金融のカードもすぐ作れますから、その場で大きなお金が引き出されてしまう

 問題なのは、被害者になるだけでなく、気づかぬ間に加害者になってしまう可能性も増していること。その背景には、若者の収入減がある。

20代や30代で、年収200万円台の割合が増えています。非正規雇用で生活が苦しい若者も少なくない。そのため一獲千金を狙って、あやしいビジネスに手を出してしまう若者が後を絶ちません。マルチ商法や投資詐欺に関わるようになり、友人や知人を巻き込んでしまったりする

 法律上は成人になるとはいえ、18歳は知識や社会経験に乏しく、未熟な場合が多い。悪質業者から守るには、どうしたらいいのか。

「まずは契約を急がないこと。それから何かを決めるときには、相手を徹底的に調べることです。また日ごろから、親に話しやすい環境を整えておくことも大切です」