若かりし頃のいしだ壱成

 離婚騒動や植毛告白など、いしだ壱成が何かと話題だ。そんな彼を“残念なおじさん”と見ている若い人も多いかもしれないが、40代以上の人はみな、心の奥底で思っている。「昔の壱成は間違いなく大スターだった」とーー。コラムニスト・吉田潮さんが綴る。

「若手実力派」「フェミ男」として一世を風靡

 3月16日放送の『バイキングMORE』(フジテレビ系)にサプライズ出演したのは、いしだ壱成。翌17日にインタビューで植毛、離婚、そして今後の展望を語った。「トルコで植毛2350株」「渡航費含めて80万円」「今は軽井沢のホテルで客室清掃」「アジア進出、まずはタイで音楽、それから俳優でバイプレイヤーを目指したい」。見出しとして最高というか、ぐっとくるワード(胸やけするという意味で)がてんこもりである。

 お若い方はいしだ壱成をほぼ知らないだろう。主に、何度か繰り返した婚姻関係や芸能一家という親族関係くらいで、残念なおじさんくらいにしか見ていない。失礼ながら、私も「昔の壱成はどこへ?」と思ったよ。

 ちょっと前だが、ドラマで久しぶりに姿を観たときも衝撃を受けた。『アルジャーノンに花束を』(TBS系・2015年)で、主人公(山下智久)の亡くなった父親役だったが、思わず息を呑んだ。「え、これが、あの隆盛を極めた、いしだ壱成……?!」と目を疑った。

 いしだ壱成、本名・星川一星は1990年代、間違いなく大スターで、時代の寵児でもあった。ちょっとあのころを振り返ってみる。

 壱成は綺羅星のごとく現れ、大人気ドラマ『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)に出演以降、演技力や独特の佇まいが評価され、主演作が一気に増えた。あのころ、いろいろな意味で話題を呼んだ野島伸司シリーズが代表作として語られることも多い。

『未成年』(TBS系)では、優秀な兄(谷原章介)と比較され続けて、無気力でやや自暴自棄になった高校生を演じた。喫煙、飲酒、性交、いじめ、売春、妊娠、そして逃亡劇の末のたてこもり……高校生の生々しい体験と恋愛、そして熱い友情を描いた意欲作で、壱成の瑞々しさや青さが際立つ作品でもあった。

 兄の病弱な恋人(桜井幸子)に恋をしたものの、劣等感やコンプレックスを持て余している壱成。知的障がいのある青年(香取慎吾)に妙に懐かれるも、無下にできない優しさが根っこにある。親友(北原雅樹)やヤクザの元同級生(反町隆史)、差別意識の高い優等生(河相我聞)とつるみ、思いもよらぬ方向へ暴走していくのだが、'90年代の若者の有り余るエネルギーと大人たちや社会への不満をリアルに体現していた。

 同じく野島作品の『聖者の行進』(TBS系)では、知的障がい者の主人公を演じた。あまり光を当てられない障がい者の厳しい現実を描いた作品だったが、とにかくひどい仕打ちを受ける。搾取と虐待があまりに生々しく描かれたため、問題作とされた。純粋な心の持ち主をキラキラと輝いた目の壱成が熱演したし、当時大人気の広末涼子や、のちにいろいろとアレな酒井法子も共演した作品で、話題を呼んだことは間違いない。

 話題作に問題作、ややクセの強い作品(三上博史主演の『リップスティック』(フジテレビ系)など)にも出ていたせいか、「若手の実力派俳優」という印象が強いのだが、そのルックスも今までにないタイプとして人気を博した。

'98年、ドラマ『ボーイハント』記者会見。中性的な“フェミ男”ファッションがブームになったいしだ壱成

 当時、武田真治とならんで「フェミ男」ともてはやされたんだよね。男くさくない細身の男の子、レディース服すらオサレに着こなす男子として、『MEN'S NON-NO』(集英社)、『smart』(宝島社)、『Boon』(祥伝社)などのファッション誌に引っ張りだこ。幾度となく表紙を飾り、若い男女の間でカリスマ的な存在だったのだ。令和の今でいうと誰かな。演技もうまくて、音楽もやって、ファッションリーダーで……菅田将暉とか北村匠海とかかな。

 とはいえ、私自身は壱成の音楽をほぼ知らない。デビューシングル『WARNING』しか聴いたことがない。そこで、当時の壱成のファンだった友人Sに話を聞いてみることに。彼女は壱成のバンド「THE BIG BAND!!」のファンクラブにも入っていた筋金入りのグルーピー(死語)で、今でも会報誌や切り抜きを持っているので見せてもらった。

恋人が撮影した写真集には…

「小学生のときからとにかく壱成が載っている雑誌は切り抜いていましたね。ネットがない時代なので、ファンクラブに入って情報を入手。会報誌には壱成直筆のメッセージもライブの情報も載っていましたから」

 壱成は可愛らしいクセ字で、なにやら星座やピラミッドについて書いている。雑誌のインタビュー記事では「三鷹に住んでたんですけど、まだ家よりは木が多くて。当時でいうヒッピーコミューンみたいなところで共同生活してたんですよ。『ミルキーウェイ』っていう名前だったんですけど(略)」と語っている。

ファンクラブの会報には、壱成直筆のメッセージが。クセ字もまた、ファンの心をくすぐった(Sさんの私物より)

 そもそも枠にとらわれない、自由な育ち方をしたのだと想像させる文言でもある。一問一答コーナーには、「好きなタイプの女の子 メーテル」「不思議な体験 チャネリングでバッカスに会った」「許せないこと バーター」などと書いてあったりもして。天然なのか、何かの副作用なのか……。

 また、雑誌のインタビュー撮影中に何かを感じた壱成のために、スタッフは盛り塩を買いに走ったとの記述もある。記事の中で壱成は「昨年は久しぶりにひとつのキーワードが浮かんできた。山、山、マウンテンって。それで実は、とうとう浅間山で遭遇しちゃったんです。宇宙人に(!)」と話しているのだ。

 壱成が奇天烈というよりは、'90年代はそんな時代だったんだよなと。この手の話をする人に対して、世の中が寛容だった。ましてやスターだもの、ファンも大喜びである。
友人Sは青山や六本木のクラブにも足しげく通い、ライブ終わりの壱成と2ショット写真を撮ってもらったこともあるとか。バンドメンバーや関係者にデニーズに連れて行ってもらったこともあると話す。

「当時はゆるくて、ファンの子たちをよく青デニ(デニーズ南青山店)に連れて行ってくれたんですよ。さすがに壱成は来なかったけれど、壱成の情報とか嬉々として聞いてました。そういえば、ライブに行ったその日にバンドメンバーのひとりが逮捕されたんですよ! 帰宅後にニュースを聞いてびっくり(笑)」

 それでも壱成を応援する気持ちに変わりはなかったそう。たとえちょっとおかしな写真集を出したとしても……。

「女優のとよた真帆さんと付き合っていた1999年に、写真集を出したんですよ、『使者』っていう。撮影はとよたさんで、もうふたりのラブラブっぷりが赤裸々すぎて。でも、そういう無邪気というか開放的な部分も、壱成の魅力のひとつでしたから」

 ふたりの往復書簡(壱成はポエム、とよたはエッセイ)といい、ベッドの上で全裸の壱成がタバコを吸い、その両足の間からとよたが撮影した旅先の写真といい、さながら「公開同衾」。令和の今からは想像できない自由があった。芸能人同士の恋愛やプライベート(なんなら陰毛も)丸出しがアート作品になる時代だったのだ。

 そして2001年、壱成は劇団☆新感線の舞台『大江戸ロケット』に出演中、大麻取締法違反で逮捕される。途中降板となり、芸能活動は停止。

「驚きましたが、'90年代の壱成をずっと追いかけてきて、あのとき壱成が可愛かったのは事実であり、その思い出を捨てる必要はないと思いました。その後、結婚と離婚を繰り返したあたりで熱は冷めましたけどね。男としての格下げ感がハンパなかったから」

 友人Sはトルコ植毛などで話題になっている壱成を見ても、今は何も感じないという。ただ、'90年代の輝いていた壱成を一生忘れない、と話す。若者の心を掴み、一世を風靡しただけに、あの頃の壱成は多くの人の目に、心に、焼きついている。

 その後、芸能活動を再開したものの、女性がらみのスキャンダルで事務所から解雇された壱成。華やかなスポットライトを浴びることもないまま、「石田純一の息子」「谷原章介の嫁の元夫」「東尾理子の親戚」「すみれの異母兄」と、誰かの属性でしか語られなくなった。テレビ的な露出も激減し、騒動を起こさない限り注目されなくなった。

 で、現在。「スターの見事なまでの凋落」と感じているのは40代以上だ。前科に醜聞の多さ、令和では使いにくい人材となった壱成。そこは芸能界の不文律や世間が許さず、突破できないのだろうと察する。

 ただ、バイプレイヤーを目指すならば、植毛しなくても素のままの壱成で勝負すればいいのではないか? 若さや可愛らしさではない勝負の仕方もあるのでは? 壱成ならどんな役でもこなせるのでは? とも思う。

 一度味わった華やかなポジションと自分の絶頂期に、うっすら未練や執着があるのだとしたら、方向転換も必要ではないかと。老婆心ながら。配信映画の主演作も予定しているようだし、今後の彼の俳優業をひそかに見守っていこうと思っている、元グルーピーの友人Sとともに。

吉田 潮(よしだ・うしお)
 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、くさらないイケメン図鑑(河出書房新社)、産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)などがある。