左から時計回りに羽生結弦(JMPA代表撮影)、宇野昌磨、鍵山優真

 北京五輪の感動が冷めやらぬ中、フィギュアスケートの世界選手権が行われた。

「フランスのモンペリエで開催され、男子シングルには、宇野昌磨選手、鍵山優真選手と、友野一希選手(23)が出場しました」(スポーツ紙記者、以下同)

 宇野昌磨は世界選手権で初優勝し、世界歴代3位という高得点で自己最高を更新した。友野一希は6位に終わったが、北京五輪で銀メダルを獲得した鍵山優真は前回大会に続き2位になり、日本勢がワンツーを果たした。

 しかし、ケガによる欠場も相次いだ大会でもあった。

「代表に内定していた羽生結弦選手は、北京五輪の公式練習で4回転半に挑んだ際に負傷した右足が完治していないため、3月1日に欠場を発表しました。北京五輪金メダリストのネイサン・チェン選手も慢性的なケガをこれ以上悪化させないために欠場。羽生選手の代わりに補欠から繰り上がって出場することになっていた三浦佳生選手(16)も、左足の肉離れにより出場できなくなりました」

 それでも日本の男子選手は、活躍が期待されていた。

「北京五輪銀メダリストの鍵山選手、銅メダリストの宇野選手は、海外メディアからも優勝候補として注目を集めていました。そして、羽生選手の“代打の代打”の友野選手は、1月の『四大陸選手権』で2位、3月20日まで行われていた『プランタン杯』では優勝しており、好調そのものでした」

躍進を見せた友野一希選手

 そして、前評判どおりの結果に。

「ショートプログラムで日本男子が1位から3位を独占すると、フリーでも会心の演技を見せ、宇野選手が金メダルを獲得。今シーズンの締めくくりとして、素晴らしい結果になりました。羽生選手が不在でも、日本男子の存在感を世界にしっかりアピールできましたね」

 今回の躍進で、友野の名前を初めて知った人も多いはず。スポーツジャーナリストの折山淑美さんによると、突発的な事態に強いという。

「平昌五輪が行われた2018年の世界選手権では5位になった選手です。そのときも、羽生選手が欠場することになり、補欠の一番手だった無良崇人選手が辞退したことによる“代打の代打”としての出場でした。

 2016年の世界ジュニアにも、出場予定だった山本草太選手がケガをしてしまったため、代打で出場しています。“表現力もジャンプも”と、複数の要素で上を目指そうとするため、演技が安定しない時期もありましたが、こういった場面できちんと結果を出せる選手です」

 2度目の世界選手権出場となった鍵山は、北京五輪を終えて帰国してから、お世話になった人への挨拶や大学入試、高校の卒業式と、とにかく大忙し。

帰国したら会いに来てくれるとは聞いていましたが、いきなりお土産のビンドゥンドゥンのTシャツを持って歌いながら現れて(笑)」

 と、一昨年から鍵山の靴の調整をしている『小杉スケート横浜店』の鷹取吾一さんが明かす。

春から新生活を始める鍵山優真選手

フィギュアスケート男子シングルで銀メダルを獲得した鍵山優真(JMPA代表撮影・2022年北京五輪)

「普段は、ゲームやアニメの話をよくしますが、最近は会える機会も減ってしまったので、近況報告が多いですね。そのときは、世界選手権に佳生くんが出場する予定だったので“佳生くんから電話かかってきたよ、めっちゃ緊張してた(笑)”という話をしていました。佳生くんとは、仲がいいみたいです。

 春から中京大に進学するので、なかなか会えなくなるのが寂しいです。ただ、靴の調整のときは横浜に帰ってくるみたいなので、定期的には会えると思います」

 鍵山は“教科書のような滑り”とも評されるが、鷹取さんもその一翼を担っている。

「以前までは、靴に合わせた滑り方をしていたようですが、今は優真くんの滑りに合わせて調整しています。無理せず自分のタイミングで跳べて、無駄な動きをせずに身体が使えるようになってきたのではないでしょうか」(鷹取さん)

『星槎国際高校横浜』の卒業式では、同級生たちと久々に再会。その様子を教えてくれたのは、スケート部監督の松下清喜先生。

同級生で体操選手の岡(慎之助)ともスノーボードの吉沢(光璃)とも、楽しそうに話したり写真を撮ったりしていましたよ。卒業式の挨拶では“無事に卒業できたのはみなさんのおかげです。新しい目標に向かって頑張ります”と話していました。ひとまず、卒業できたことに安心した様子でした」

 一方、宇野は愛犬や家族とのつかの間の休息を過ごし、最終調整はスイスで行った。

行きつけの焼き肉店を家族で貸し切りにして、北京五輪での活躍を労ったそうです。コーチのステファン・ランビエール氏には、お土産として米をプレゼント。また、スイスでは自炊をする機会もあったようです」(宇野の知人)

若手に乗しかかる“王者の呪縛”

 それぞれがリフレッシュして挑み“羽生だけじゃない”ことを見せた世界選手権。新たな4年が始まる来シーズン、さらに勢いを見せていくには、何が必要か。

左上から時計回りに宇野昌磨、羽生結弦、鍵山優真(JMPA代表撮影)

「宇野選手、鍵山選手の更なる飛躍は、ここからの伸びにかかっています。今までは、勝利へのプレッシャーを羽生選手が背負ってくれたおかげで、無心で試合に挑めた部分がありました。しかし、これからはそれを自分たちで背負いながら、戦っていかなければなりません。なので、技術の向上だけでなく、どう精神的に成長していくかがいちばんのポイントとなるでしょう。宇野選手は“勝ちたい、世界一になりたい”と意識しすぎて苦労した時期もありましたから……」(折山さん)

 長年“絶対王者”といわれ続けた羽生にとって、それは“王者の呪縛”でもあっただろう。

 3月15日に95歳となった宇野の祖父、宇野藤雄さんは「昌磨は練習や試合で忙しいのでなかなか会えていませんが、世界のトップで戦うプレッシャーをかわすことのできる子です」と太鼓判を押す。

「鍵山選手や佐藤駿選手(18)や三浦選手など、同世代が競り合っている中で、少し上の世代にいる宇野選手、そこにしぶとく割り込む友野選手と今の日本男子は層が厚いです。特に宇野選手と鍵山選手には、羽生選手が一身に受けていたプレッシャーを背負っても高いレベルで戦えるようになってもらわないといけないですし、それだけの素質はある選手だと思います」(折山さん)

 日本男子フィギュアの未来は明るい!

折山淑美 '90年代初頭からフィギュアスケートを取材し、'10年代からは羽生結弦を丹念に追っている。'21年には羽生との共著『羽生結弦 未来をつくる』(集英社)を刊行