れいわ新選組大石晃子衆院議員

「大阪のジャンヌ・ダルク」の異名を持ち、新人でありながら注目を集める大石晃子衆院議員。歯に衣着せぬ発言によりツイッターでトレンド入り、元大阪府知事の橋下徹氏から提訴されるなど、話題は尽きない。コネ・つて・カネなしで議員になり、子育てママでもある大石議員が闘う「おっさん政治」とは?

橋下徹氏に噛み付いた!

 「維新キラー」「大阪のジャンヌ・ダルク」の異名を持つ女性議員が、新人とは思えないほどの存在感を発揮している。れいわ新選組の大石晃子衆院議員だ。

 昨年10月の衆議院選挙で初当選。その直後に国会議員へ月額100万円が支給される文書通信交通滞在費(文通費)をめぐって、日本維新の会で副代表を務める吉村洋文・大阪府知事が、かつて在職1日だったにもかかわらず満額を受け取っていたことを暴露。

 文通費制度を批判していた吉村知事に“特大ブーメラン”を直撃させた。NHK『日曜討論』でも「維新の賃上げはうそ」と一刀両断した。

 そんな今、最も注目を集める1年生議員が元大阪府知事の橋下徹氏から名誉毀損で訴えられた。問題となったのは、昨年12月17日の『日刊ゲンダイDIGITAL』のインタビュー記事。渦中の大石議員に、橋下氏との裁判から女性の活躍を阻む“おっさん政治”のからくりまで、じっくり話を聞いた。

「橋下さんがやり玉に挙げたのは、私がインタビューに答えた記事の“橋下元知事は気にいらないマスコミをしばき、気に入らない記者は袋叩きにする” “飴と鞭でマスコミをDVして服従させていた”などという部分でした」

 と、大石議員。訴状で橋下氏は、自らには“社会一般から肯定的な評価を得るイメージが備わっており、それが大石氏の発言によって傷つけられた”と主張している。

「今回の裁判は、橋下さんが抑圧したのがメディアではなく、元部下の大石だったという構図。社会的影響力が大きいものが、小さいものに対して行う『スラップ訴訟』の要素が大いにあると私は思っています。

 自らに盾突く弱小政党の新人国会議員の発言をやり玉に挙げることによって、被告・大石だけでなく社会一般に対して、自分を批判することがどのような結果を生むことになるのか、見せつける意味合いを持った訴訟であると思う。だからこそ、私の口を封じても無駄ですよ、と言わなければなりません」

 橋下氏との因縁は14年前、大石議員が大阪府の職員だった時代にさかのぼる。大阪府知事に当選した橋下氏は、就任直後の朝礼で公務員批判を繰り広げた。そこへ「ちょっと待ってくださいよ!」と噛みついたのが、当時、環境分野の技術職員として働いていた大石議員だった。

「橋下知事が就任最初の朝礼で“始業前に朝礼をしたかったが、超過勤務になると言われてできなかった” “民間では始業前に準備や朝礼をするのが普通。

 そんな(超過勤務になるという)ことを言うなら勤務中のたばこや私語も一切認めない。給料カット!”と声を荒らげました。それで私は“どんだけサービス残業をやっていると思ってるんですか!”と反論したんです」


 以来、「大阪のジャンヌ・ダルク」と呼ばれ、名をはせることになる。大石議員はこう振り返る。

「当時は非正規雇用が増えて、ドラマ『ハケンの品格』が話題になっていたころ。今まで正社員としてバリバリ働いていた人たちも派遣に切り替えられていき、その多くが女性でした。そんな中で橋下さんが登場し、“民間はこんなによく働いているのに、公務員はぬるま湯体質”などと批判していました」

 しかし実際には、公務員の生活は過酷なほど忙しい。

「国家公務員でいうと、深夜まで働きタクシーに乗り、コンビニでおでんを買って帰る毎日。そこを通過してこそエリートになれる。育児をしている人や子どもが欲しいと思っている女性には、とうてい無理な話です。働く人にも家庭生活はあるということが考えられていません。これは公務員だけでなく、民間にも通じる問題だと思います」

女性が不利になる政治のカラクリ

 2018年に公務員を辞め、政治の世界に身を投じた。国会議員となった現在は地元・大阪と東京を往復する。子育てと政治活動を両立させるには、1人では難しい。

「国会会期中は東京に張りついているので、平日は子どもに会えません。子育ては旦那に任せている状態。ただ、私は恵まれていて、実家の母が週1回、子どもにごはんを食べさせに来てくれたり、旦那が結婚前から家事をやっていたので立候補できました」

 政治活動を始めてからは、通勤ラッシュの時間帯に沿道で街頭演説に立てるよう、早朝、子どもが起きる前に家を出る生活になった。

「街頭演説のときは、旦那に“(子どもを)起こしてな、学校行かせてな”と伝えてから家を出るんです。でも、実は学校に行っていなかった、ということもありましたね」

 国会議員などの候補者にとって、顔と名前を売ることは死活問題だ。

「コロナ前には“とにかく飲み会に行け” “集会に行ってこい”と、よくアドバイスをされました。選挙の世界に詳しい人から“集会にあの先生が来たら、手をギュッと握って、挨拶をしてね”と言われたりして。そんなの気持ち悪くないですか? 発言自体がセクハラというか、無理ですという感じで握手は拒否しました。

 そもそも顔と名前が売れないと選挙に通らないシステム自体が女性にとっては不利ですし、育児や介護中の人にとっても、障害がある人にも不利だと思います」


 女性特有の問題に悩まされたこともある。3年前に挑んだ府議選では選挙期間が生理と重なり、トイレへ行くのもままならない中、猛烈なかゆみに襲われた。

「薬も効かず、すごいつらくて。選挙が終わってからも1週間ぐらい治りませんでした。“疲労で粘膜の免疫が下がり、もともといる菌が悪さをしたんだろう”と婦人科で言われましたね。当時は無所属で女性ネットワークに参加していたんですが、この話をするとみんな口々に、わかる!と言っていました。女性議員のなかには1期で辞めちゃう人も結構いるらしいんですが、正直、気持ちはわかります」

 女性ならではの困難はほかにもある。日本社会では大石議員のように、はっきりとモノを言う女性ほど叩かれやすい。今回、橋下氏が大石議員を訴えたのは、彼女が「わきまえない女」で、見せしめの意図があったのではないかという声も聞こえてくる。

「橋下さんが今までに訴えた相手は、ジャーナリストの岩上安身さんや有田芳生参院議員で、おっさん、おっさんと来て、今回の裁判はおばはん(の私)やから、女性だから訴えたとまでは言えないかなと思います。男か女かというより橋下さんの場合、“弱いくせにモノを言うな”という、権利を要求する弱者への反感を強く感じますね」

 大石議員は維新批判の急先鋒。国会議員になる前の昨年秋、街頭宣伝で“大阪の成長率は全国平均以下”とのデータを示し、“大阪の成長を止めるな!”という維新のキャッチフレーズがうそであることを暴くなどしてきた。今回の裁判を通して、橋下氏は大石議員を狙い撃ちにして、維新への批判の封じ込めを狙ったようにも見える。

「大阪はコロナにより亡くなった人は全国1位なのですが、関西のメディアが維新のコロナ対策がうまくいっていると報道するので、吉村知事の人気が非常に高く、維新が大躍進をしています。

 それでも今回、やり玉に挙げられたインタビュー記事の内容のように、維新政治の問題について批判を続け、橋下さんの元知事・元市長としての責任を問うていきたいと思っています。裁判にも絶対に勝ちますので、ぜひご注目ください。

 私の口を封じても無駄です。私は黙りません!」

〈取材・文/横田一と週刊女性編集部〉

 横田 一 ●フリージャーナリスト。多くの雑誌やネットニュースで記事を執筆、『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)ほか著書多数。インターネット動画ニュース「デモクラシータイムス」で「横田一の現場直撃」を公開中。