※写真はイメージです

 口コミ評価は3つ星が並ぶ整体院で事件は起こった。施術を受けた2人の女性がわいせつ被害を訴え、逮捕・起訴された自称・整体師。「パニック障害が治る!」をウリにした整体はセクハラ治療だった。3月に判決が下ったわいせつ裁判の全貌に迫る。

「人の人生を壊しておいてこんな判決で……。私より苦しんでほしい」

 3月3日、東京・板橋区の整体院で起きたわいせつ事件の判決が東京地裁で行われた。

「懲役3年、執行猶予5年」

 下された判決に被害者の加納みゆきさん(30代・仮名)は「納得できない」と悔しさをにじませ、週刊女性の取材に答えた。

1人目の被害者

 事件の現場となったのは、東京・板橋区にあった整体院『T』(現在は閉店)。パニック障害や不定愁訴に効果がある、と宣伝し、口コミサイトでは高評価ばかり。“パニック障害が治った(中略)親切な先生のおかげです”などという書き込みが目立っていた。

 最初の被害者・加納さんが同店を訪れたのは'19年11月27日。

 加納さんはかねて、パニック障害に悩まされていた。(《》内は公判での証言)

《夫が『T』をインターネットで見つけてくれました。“脳幹療術”という,パニック障害の根本治療をしてくれるとのことだったので、一縷の望みをかけて予約をしました》

 以前にも整体院でセクハラ被害に遭ったことがある加納さんは、事前に夫に施術を体験してもらい、問題がなかったことから自分も予約した。証言台に立った夫は、

《妻が以前(別の)わいせつ行為を受けたこと、持病のことなどを被告に話しました。理解してもらったという感覚があり、妻に紹介しました。施術中私が同伴することも構わないということだったので来店したのですが》

 そこで事件は起きた。被害者の加納さんが証言する。

《その日は院長しか店にいなくて、夫も隣の喫茶店で待ってるように指示されました。“電磁波が悪い影響を与える”という理由でした。よくわからなかったけど、そういうものなのかな、と思って従ったんです。

 夫が退出してOと2人きりになり、写真を撮られたあと、アイマスクをされました。施術中にレギンスの中に手が入ってきて、“ずらしますね”と言いながら恥骨まで下着とレギンスを下ろされました。

 子宮周辺を指圧されて、Tシャツを鎖骨までまくられ胸が露わになった状態で片方ずつ胸をなでられました。そのとき被告の性器が着衣の上から当たって……。そもそも私は尻や胸の不調は訴えていないのになぜ執拗にそこばかり揉む必要があったのか》


 別室から音声で出廷証言している加納さんは当時を思い出し、苦しそうに言葉を絞り出す。

 怖くて声が出せなかったという加納さんだが、施術が終わり夫が迎えに来た途端、店外へ飛び出し店の前で泣き崩れた。そこで夫が、警察に通報。しかしこのときは客と店の単なるトラブルとして処理されたのか、Oはすぐに釈放されている。

2人目の被害者

 加納さんとのトラブルから3か月もたたない'20年1月9日、ネイリストの瀬川直子さん(30代・仮名)は持病の肩こりを改善するため同店を予約。

《2人きりの施術室で、裸になる状態まで服を上げられ、院長特製の『生姜ジェル』というものを胸の横や下につけられ揉まれました。そのとき胸が見えないようにする配慮はなかった。乳房を直接触られ、下着とチノパンをひざ下まで下ろされ直に尻を揉まれました。そのとき私の陰部に被告の指が触れました》

 瀬川さんは恐怖から何も言えなかったという。さらに、

《施術中に被告が国会議員や弁護士の知り合いが多いなどという話をしてきました。脅されているのかなと思い怖くなった》

 と、脅しともとれる言動。

 瀬川さんは帰宅後に相談した友人や家族のすすめで被害届を警察に提出。Oは在宅起訴される運びとなった。

 2人の女性にセクハラ治療をしたOとはどんな人物なのか。

 '75年に生まれたOは、大学卒業後、金融や人材サービスなどの仕事を経て問題の店舗『T』を'18年にオープンする。母親が倒れ、介護に専念するようになったことから自律神経や脳幹療術に興味を持ったというが、熊本の整体院で半年修業をしたのみ。整体師としての免許や資格は持っていない。

 当事者のOは、昨年9月の初公判で、

《Aさん、Bさんに対してわいせつな行為は考えていなかった。両乳房を揉んだというのは、施術で片方ずつリンパを流しただけで、ズボンを下ろしたのも治療の一環》

 と、容疑を否認したものの、6回目の公判では、

《私の施術中の行為で2人には謝罪をしたいと思っている》

 と、誤解を招く行為だったことは認めたものの、終始一貫して故意ではないと主張。

 Oの弁護側の主張はこうだ。

《従業員がいつでも入れる状況でわいせつ行為をするわけがない》《肌感覚は錯覚しやすいので勘違いではないか》。1人目の被害者の加納さんに至っては、《過去にわいせつ行為を受けたので思い込みをしたのではないか》

 とセカンドレイプともとれる証言をしている。

 2人目の被害者の瀬川さんは、《私はもともと看護師だったので、施術とわいせつ行為の違いはわかります。嘘ばかり言っていてやるせない。100万円で示談の話があったが、お金はいらない。心と真心と誠意で対応してもらいたい》と求刑の際に結んだ。

判決は妥当?

 3日、東京地裁で行われた判決公判で遠藤圭一郎裁判長は、《被害女性2人の証言には信用性がある。わいせつ行為をしている時に従業員が入ってきても、施術と言い訳ができる》と、弁護側の主張を一蹴した。それでも、《本件を機に仕事をやめていること、前科がないことから執行猶予をつけることとする》とした。

 わいせつ事件において、この判決は「妥当だと思います」とアディーレ法律事務所の長井健一弁護士。

「初犯であっても、被害者が複数で、否認しており示談等が成立していないことを考慮すると量刑は妥当でしょう。判決が執行猶予がつけられる上限の懲役3年かつ執行猶予の上限である5年となっていることから、執行猶予にするか実刑にするかのギリギリの事件だったと思います」

 強制わいせつの量刑は2年以下が多く、そのうち90%近くが執行猶予となるという。

「記録映像などがなく、そもそも“わいせつな行為をしたかどうか”について客観的な証拠がないことが多いため、立証が難しいです」

 被害者が嫌な思いをすることが多いというのが現実だ。

 加納さんは判決後、週刊女性の取材に、

「甘いと思います。自分の受けた肉体的、精神的な苦痛と判決が見合っていない。つらいのは事件だけではなく、取り調べや写真撮影、現場検証、マネキンを使ったDNA鑑定、すごく精神的にきつい時間でした。

 自分は嘘をついていないのに、被告が無罪を主張する限りずっとこのつらい事件当日のことを思い出させられて。

 犯人は私の事件の捜査中にもかかわらず同じことをしました。性犯罪は繰り返されることが多い。この判決はほかの被害者を生み出しかねないと危惧しています」