エイプリルフール、バズりと炎上の境界線は?

 今年ももうすぐやってくる『エイプリルフール』。企業や有名人がSNSなどでこぞってウソを投下することで、衆目を集めるのはおなじみの光景になりつつある。

 昨年も、自動車メーカー・ダイハツ工業が、自社の公式ツイッターに、軽自動車『ミラ モルモット』を発売すると投稿。「低燃費」、「経済性」といった謳い文句とともに、人気アニメ『PUI PUI モルカー』を意識したかのようなモルモットそのままのカワイイ車体が話題を呼び、7万を超えるリツイート数を記録した。

“モフッと乗ってトコトコ走る”姿がカワイイ!(公式ツイッターより)

 また、ホンダは、「スーパーカブの製造方法初公開」と題し、畑にまいたカブの鍵からスーパーカブが育っていく過程を投稿し、こちらも2万を超えるリツイート数を弾き出した。ユーザーに愛着心や好感を抱いてもらえるよう、マーケティングの一環としてエイプリルフールを利用する─。そんな企業の思惑も働いて、エイプリルフールは春の風物詩になった。

海外ではエイプリルフールネタで炎上も

 このような“ネタ合戦”は、国外でも変わらない。ドイツの自動車メーカー大手フォルクスワーゲンは、新型電気自動車の発売に合わせ、アメリカ法人の社名を電圧単位であるボルトに由来する『ボルツワーゲン』に名義を変更すると発表。もちろん、エイプリルフールのネタだったのだが、その発表を受けてフォルクスワーゲンの株価は5%近く上昇(!!)。すぐさま、「エイプリルフールのネタで、社名もフォルクスワーゲンのまま」と釈明したが、SNS上で大顰蹙を買い、謝罪する事態にまで追い込まれた。

 まさしく「蹴る馬も乗り手次第」ならぬ、エイプリルフールも使い手次第。バズるネタもあれば、炎上に発展するネタもあるわけだが、ネットの炎上事情に明るいライターで、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、「フォルクスワーゲンしかり、ウソかホントかわからないような中途半端なウソは炎上しやすい」と指摘する。

「'17年にフィギュアスケート選手の安藤美姫さんが、自身のツイッターで“みなさん今まで応援ありがとうございました。スケートから離れようと思います。本当にありがとうございました”と引退を発表し、炎上した。後日、“ウソでした”と弁明されても、心配したり、労ったりしたファンからすると許せないでしょう」(中川さん、以下同)

 実は、同じ年に俳優の野村周平も、「芸能界を引退する」といったツイートを投下し、炎上している。

「“実はウソ”ですまないようなエイプリルフールのネタは、フェイクニュースになってしまう」

 と中川さんが語るように、笑えないウソともなれば当然アレルギー反応を起こす人は増え、炎上に発展する可能性は高くなる。

企業と芸能人のエイプリルフールの違い

「企業のエイプリルフールは、デザインを含め手の込んだものが多く、ひと目見てウソとわかるものが多い。一方、芸能人に顕著ですが、ブログやツイッターなどテキストだけの投稿はウソだとわかりづらく、混乱を招きやすいため炎上しがち」

 '12年には、NHK広報の公式ツイッターが、「本日、NHKと全ての民放が合併して国営放送になった」とつぶやき炎上。'13年には、福岡県古賀市の高原伸二市議(当時)が、「宝くじが当たったので、1000万円とバス2台を市に寄付した」というウソをブログに書き込み、厳重注意されている。また、'20年には元東方神起のキム・ジェジュンが、「コロナウイルスに感染しました」とインスタに投稿。「エイプリルフールの冗談」として削除したが、韓国で国民が国政に直接要望を出す国民請願にまで非難が発展する事態になった。

 反面、サブウェイは『猫サンド』と題し、観賞用として猫を挟んだサンドイッチを販売('21年)、ブラックサンダーを製造する有楽製菓は、『ブラックサンダーEats』と題し、1本(30円)から自宅へお届けするサービスを開始するといったネタを発表('20年)。いずれも見た目にも楽しく好評を得た。

サブウェイの“ウソ”でバズった「子猫サンド」と「ダブル猫サンド」

「仮にテキストだけでウソをつくなら、不安にさせたり、モヤモヤさせたりしないこと。ほっこりさせるとかクスッとさせないといけない。ウイットに富んだセンスがない人はやらないほうが賢明」

 ここ日本において、エイプリルフールネタの先駆けは東京新聞だといわれている。'01年4月1日に東京新聞の『こちら特報部』がエイプリルフール連動広告を組み、以後、話題を集めるようになった。

「'00年代中期になると、WEBメディアを中心にくだらないエイプリルフールネタが流行り、ネット民だけで盛り上がるといった時代になります。その後、'09~'10年くらいから、企業がネットでの情報発信を重要視するようになったため、エイプリルフールに参入する企業も続出し、現在の土台を形成するようになる」

 東日本大震災が発生した'11年は自粛するケースが目立ったが、'12年以降はツイッターをはじめSNSが浸透することで、エイプリルフールネタは一般化。先述したようにSNSを介したテキストのみのネタも増え、炎上に発展するケースが散見されるようになる。また、

「企業のエイプリルフールネタを、ネットニュースが取り上げるといった風潮ができあがった。多額の宣伝費をかけずに、自社PRができるエイプリルフールは、企業としてもメリットがあります。有名人も、ブログのPV数が伸びる、ツイッターのリアクションが増えるわけですから、注目を集める絶好の機会としてとらえる。結果、ハロウィンのようなお祭り感が生まれ、現在に至っている

エイプリルフールで免罪符を得たYoutuber

 お祭り感覚で参入する人が増えれば、炎上する人が増えるのも納得だろう。こうした流れができあがっているだけに、中川さんは、

「今年、来年はYouTube発の炎上が増えるのでは」

 と予測する。

「岡江久美子さんがコロナウイルスによる肺炎で亡くなった際、“岡江久美子の息子”を名乗る悪質動画が多数アップされました。迷惑ユーチューバーのように、手段を選ばずに動画再生数を稼ぐ人もいる。彼らからすれば、エイプリルフールは免罪符を与えられたようなもの」

 実際、昨年はゲーム系ユーチューバーが、自身を有利にさせるゲーム改造行為(チート行為)をしたとされる動画を投稿し、局地的に話題になった。粗製乱造も珍しくないYouTubeから新たな爆弾が投下される可能性は否めない。

「リターンが少ない」禁止を通達する企業も

「東京新聞のエイプリルフール企画から'20年も経過していることを考えると、そろそろ曲がり角を迎えているのではないか」

 とは中川さんの弁だ。

「わいわいと盛り上がるというより、シビアな目でエイプリルフールネタを見る─そんな雰囲気すら感じます。企業のエイプリルフール担当者が胃痛にならないか心配です(苦笑)。4月1日に業種関係なく、競合他社がひしめく中で、一斉にネタを投下する。そして、ツイッターでどれくらいリツイートされ、“いいね”を押されたのか見える化してしまう。場合によってはスベることもある」

 言われてみれば、エイプリルフールは“超”がつくほどのプレゼン大会の様相を呈している。昨今では、話題になるエイプリルフールネタはせいぜい10個ほど。ほかよりも目立たなければ埋もれてしまう─、そんな心理が働けば、多分に“燃料”を含んだネタが投稿されても不思議ではない。

「かつては費用対効果に優れたエイプリルフールでしたが、今では非効率的な宣伝機会の場だと感じます。その手間や労力を、ほかの部分に注いだほうがリターンも大きいのでは。例えば、自社の商品にゆかりのある日を狙えば、競合他社とかぶらないように仕掛けることだってできますよね」

 '19年、アメリカのマイクロソフトは、従業員に「エイプリルフール禁止」を通達した。同社は、それまで毎年ネタを公開していたが、'16年にはグーグルがGmailのネタでやらかし、謝罪に発展。それらに鑑みて、マイクロソフトは「得るものより失うもののほうが多いことを示している」という理由からエイプリルフール撤退を決めた。

「エイプリルフールだったら何をやってもいいのか、ということを見直すタイミングにある」

 そう中川さんが語るように、もし今年、度が過ぎるネタが話題を呼べば、エイプリルフールそのものがなくなるかも……。そんな杞憂が、「ウソでした」で終わることを願うばかりだ。

なかがわ・じゅんいちろう 博報堂を退社後『TV Bros.』編集者を経て、2006年からネットニュース編集者に。近著に『炎上するバカさせるバカ』(小学館)がある。

<取材・文/我妻アヅ子>