日本臓器製薬「コフト顆粒」CMより

 「風邪に効くゥ!!」でおなじみの日本臓器製薬『コフト顆粒』のCM。誰もが一度は目にしたことがあるのではないだろうか。

 外国人のタレントを起用、セリフはたったひとことだけ、音楽は一切なし……と数多く流れる製薬会社のCMの中でも“どシンプル”かつ、独特な雰囲気を醸し出している。他社では有名女優や一流スポーツマンを起用したりしているが、あの「風邪に効くゥ!!」で有名なあの人はいったい誰なのかーー。

キムタクのドラマにも出演していた!

「弊社の CM に起用させていただいているタレントさんは、オーストラリア出身のウォルター アントニー(Walter Antony)さんです。木村拓哉さん主演のドラマ 『HERO』にも出演されていました。弊社以外にも『日清焼きそば UFO』 や『カビキラー』といった CM に起用されたご経歴をお持ちの方です。弊社のCMには2012年よりご出演いただいています」

 そう話すのは、日本臓器製薬の広報担当者。アントニーさんは、『ザ!世界仰天ニュース』(日本テレビ系)の再現VTRでおなじみ、ドラマでは『義母と娘のブルース』(TBS系)ほか、UVERworldのPVなどにも出演したこともある。そして日本臓器製薬のCMには10年も出演しているというから驚きだ。なぜ、アントニーさんが起用されたのか? 斜め上を行くCMの秘密を聞いた。

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 CM業界全体を見渡せば、外国人のタレントが出演していることはもはや当たり前のこと。だが、製薬会社のCMに絞ってみてみると、なかなか珍しい。なぜ“あえて”の人選としたのだろうか。

「海外のタレントさんはジェスチャーなどを織り交ぜて痛みや症状改善シーンをより分かりやすく自然に表現されるからです。その中でも、ドラマやバラエティー番組でご活躍されているアントニーさんにご出演いただくことで、視聴者様の興味や関心を惹きつける狙いがありました」(同・広報担当者)

 その狙い通り、ツイッターなどでは「クセになる」「シンプルなのにインパクトすごい」「あの俳優さん誰なんだろ?」との反響がみられる。一方、放映開始当時の社内での評判はとういうと、

「社内においても、一時は“あのタレントさんはどなた?”という話題はありました。しかし、その意図が明確であったことや、インパクトがあるCMだったため、今ではみんな納得して誇らしくCMを見ています」

 と担当者。実はCM放映当初から、タレントはアントニーさんを起用しているという。だが最近、SNSでは「CMが変わってしまった!」という声がチラホラ。CM終了の声も聞こえてくるがーー。

「CMの内容は放映当初より変更しておりません。アントニーさんには『コフト顆粒』のほか、『ラックル速溶錠』『漢方ラックル顆粒』の CM にも出演していただいています。おそらく他の製品の CM をご覧になられた視聴者様が、変わったと思われたのではないかと思います」(以下、同・広報担当者)

 なんとアントニーさん、さらに2製品のCMにも出演していた……! さらに最近では、女性の外国人タレントの起用も。担当者は「症状や薬の効果をより分かりやすく伝えるための表情や、迫真の演技に注目していただければ」と話す。

 また、アントニーさんのCM撮影では、こんな微笑ましいエピソードも。

「“風邪に効く”のシーンを撮影したときのことです。アントニーさんがドアを開けて“風邪に効く”と言うのと同時に、サッカーボールを蹴るジェスチャーをされました。元気になったことをイメージされているのかと思ったのですが、やはり違和感があるので、アントニーさんにジェスチャーの意味を尋ねてみたんです。すると、アントニーさんは“効く”を“Kick”だと思われ、風邪を蹴り飛ばしておられたとのことでした(笑)」

 結局、そのジェスチャーは採用されなかったが、撮影現場はなごやかな雰囲気に包まれたという。

「BGMなし」の理由

 そしてこのCMのもう一つの特徴といえば、音楽が一切ないこと。CMといえば、BGMがつきものだが、これらCMは「無音」。字幕と音声のみだ。ある意味、かなりシンプルでわかりやすい。

「漢方ラックル顆粒」CMより

「そうおっしゃっていただけて光栄です。15 秒という限られた時間の中で、視聴者のみなさまにお伝えしたい情報に限定して表現する、という方針で CM を制作しております。

 どういった症状に効くか、製品名は何か。どのような効果が得られるかということについて、音声と文字、イメージ画像で表現しますので、BGMはあえて使用しないことにしているんです」

 さらに、CM制作にあたっては、こんな「こだわり」も。

「CM は構想の段階から、撮影・ナレーション収録・編集にわたるすべての段階で、視聴者のみなさま、そして弊社の製品を使用してくださるお客様の目線に立って、伝わりやすさやインパクトを突き詰めて、何度も調整を行いながら制作しています。

 お薬を使用される方は、少なからずお身体がつらい状況で、さまざまな不安を抱えておられます。弊社の製品を手に取っていただくからには、ご自身の不調に対して安心してご使用いただけるよう、明確に使用目的をパッケージに記載し、それが伝わるということをモットーにしているんです。CM においてもこの考えのもと、社長はじめ社員一同、制作に携わっております」

 「風邪に効くゥ!!!」のシンプルかつユニークなCM。たった15秒の映像だが、そこには製薬会社としての思いが秘められていた。流行りや目立つことにとらわれない、今後も“逆に目立つCM”を期待したい。