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 もう「愛」はない、でも“まだ”離婚できない……。夫に頼ることなく生活するため、妻が下した決断とは?  昭和、平成とは違う“令和流”妻の生き方はーー。 

 どの時代でも存在する「仮面夫婦」。だが令和に入ると、夫婦関係の落としどころが昭和や平成に比べて変化しているようだ。夫に従うだけではなく、女性が自ら主導権を握る傾向が強いのも、令和の特徴だ。

 これまで「子はかすがい」という理由で「我慢」を決め込んできた女性たちが、人生100年時代を見据えて「自分の人生は自分のもの」と新しいステージへと切り替えようとしている。令和の仮面夫婦の実態を追ってみた。

セレブ婚のはずが……
自立まで別れないことを決めた妻の戦略

愛美さん(仮名・34歳)

 愛美さん(仮名・34歳)は合コンで知り合った外科医と6年前に結婚した。19歳違いの“年の差婚”だったが、高収入男性との結婚は周囲の友人たちから「玉の輿婚」と称され、羨望の目を向けられた。

「フリーランスの外科医の夫の年収は結婚当時7000万円でした。リスペクトできる夫に、尽くしたいと思ったんです」

 結婚した翌年に長男が誕生。生活費も月に100万円ほど使え、愛美さんは妻として母として幸せな日々を過ごす、つもりだった。

「子どもが2歳ぐらいのころから、時々夫が厳しい口調で私をなじるようになりました。でもそのころは、仕事で疲れているのだろうと思ってスルーしていたんです」

 今思えばそれはモラハラだった。夫の言動がヒートアップしたのは令和2年から。コロナ禍の影響で手術が激減し、年収は3000万円に減っていたという。

「まず束縛が激しくなりました。夫が帰宅するときは必ず家にいることを強いられます。モラハラ発言も頻繁に起こりました」

 夫は帰宅すると愛美さんに罵声を浴びせる。「このバカ」と呼びつけ、「おまえなんか何にもできない」「バカなんだから家事ぐらいはしっかりやれ」、「掃除をもっときちんとやれ、このバカ」と繰り返す。そして最後に「出ていけー!」と大声で叫び、リビングから追い出されるのだという。

「そのたびに幼い子どもを抱きかかえて、クローゼットがある部屋に逃げ込みました。このままだと子どもに悪影響が及ぶと思い、近所に小さなマンションを借りたんです。夫が怒鳴るたびに“友達のところに行く”と嘘をついて、子どもと一緒にそのマンションに避難しています」

 家政婦以下の扱いをする夫から生活費もどんどん下げられ、子どもの育児費も含めて月に渡される家事育児代が30万円になった。

「今はカツカツの生活。コロナで夫の外食も少なくなり、夕食を用意する機会が増えました。そのたびに“バカ”と罵倒されるんです」

 モラハラ夫と別れたくなった愛美さんは、弁護士の無料相談を活用した。相談しているうちに納得できなかったり、別の意見を聞きたいと思い、結果、8人の弁護士に相談。すると全員が離婚を強くすすめた。

「でも弁護士からは、多額の報酬の話ばかりでうんざり。そのうちに、すぐに離婚をしないという選択肢もありと考え始めたころでした。たまたまネットでライブ配信をしているライバーの友人のマネジメントの仕事を手伝い始めると、とても面白くて。起業しようと真剣に考えるようになり、経営関係の専門学校に入学しました。もちろん夫にはナイショです」

 愛美さんは卒業後に起業することを計画中だ。幸いにもコロナの影響で補助金制度が増えたため、大いに利用しようと考えている。

「2億円のキャッシュが貯まるまでは別れずに仮面夫婦で関係をつないでおくつもりです」

 モラハラ夫に対する恨みが起業の原動力になっている愛美さん。目標が定まると、子どもに対しても笑顔が増えたという。

 モラハラ夫の悩みは昭和、平成も多かった。だが仮面夫婦のまま、子どもが成長するまで我慢するというかつての選択はない。あくまでも自分が自立するまでのことだ。2億円という目標金額は、モラハラ夫と訣別するための切り札的な存在なのだろう。

浮気とモラハラに耐えてーー
仮面夫婦を続ける理由は“会社は子ども”だったが……

麻由美さん(仮名・49歳)

 20年前、6歳年上の男性と合コンで知り合って結婚した麻由美さん(仮名・49歳)。有名私立大学を卒業後、外資系企業に勤務していたときに出会い、結婚後は退職して夫の会社の経理を担うようになる。夫の会社は年商が1億円ほどの中小企業だった。

「結婚2年後に子どもが生まれてから、夫の浮気が激しくなったんです」

 麻由美さんの妊娠中から浮気の兆候があったが、麻由美さんは見て見ぬふりをしていた。浮気は一時的なもの。子どもの父親なのだから、必ず自分のところに戻ってくると信じていた。だが出産後の子育て中も、夫の会社を必死で支えていた麻由美さんを夫は平気で裏切り、同時に束縛も始まりスマホのGPSで居場所を探された。

「子どもが3歳ぐらいになってから、夕食は必ず家族で食卓を囲むというルールを作ったのは夫でした。夫は夕食時の外出を禁じたんです」

 そこで麻由美さんはママ友らに聞いてみた。すると夫と夕食を毎日、ともにするママはほとんどいなくて、夫の帰宅が遅いから夫の分を作らないこともあるという。うらやましくて思わずため息が出そうになった。

「夫はおかずが8品以上ないと不機嫌になるので、夕食の支度も大変。しかも夕食が終わると夫は必ず飲みに出かけ、浮気相手と会っていました」

 小さい子どもがいるから、ほかの女性の香水を家に持ち帰らないでと苦言を呈すると、気分を害したのか夫はますます束縛するようになったという。門限を決められ、そんな生活のストレスから眠れなくなり、彼女は睡眠導入剤を服用するようになった。

「精神科医やカウンセラーに相談しました。でもある有名な離婚カウンセラーから“離婚するケースではない”と言われたんです。理由は夫の会社が、私にとってわが子のような存在だからというのです。言われてみると、確かにそのとおりでした」

 夫の会社に情が移ってしまったことで離婚に踏み切れなくなったことに気づいたが、さらにショッキングなことが起こる。

「子どもが'19年に海外留学してから、夫の浮気がさらにヒートアップ。複数のパパ活サイトに登録して、若い女性と毎晩のように遊んでいました。しかも夕食時に浮気相手から連絡がくると堂々と電話に出るため、目の前にいる私に内容の一部始終が筒抜けなんです」

 あまりにもひどいモラハラに、麻由美さんはストレスで嘔吐を繰り返すようになると、医師から夫との距離を置くようにアドバイスされた。そのため寝室を別々にして、夕食時に女性から電話がかかってくると、食事を中断して自室にこもるようになったという。

「GPSで探せるように設定されたスマホ以外に、自分のスマホも用意しました。夫に対するささやかな抵抗です」

 そんな中、コロナ禍のため1年半も会えなかった、留学中の子どもが帰国した。久しぶりの子どもとの生活。そこで麻由美さんは、子どもが独立して家を出てしまったら……、と考え始めたという。

 夫と2人きりの生活は、もう耐えられないだろうとはっきりわかったという。女友達に相談すると共感してくれた。

「今年に入ってから、同窓会で再会した女友達と話が弾んで飲食店でワインを飲んでいるうちに、つい門限の夜8時を過ぎてしまったんです。夫に電話をするとかなり不機嫌。その気配を感じた女友達が夫に直接話すと申し出てくれたので、スマホを渡しました」

 夫に謝罪している女友達に申し訳ないという気持ちと、一方でなぜ友達と自由に話すことを禁止されるのかと悶々となった。次第に「子どもでもあるまいし」という猛烈な怒りが湧いてきたという。

「友人からスマホを渡され、電話を替わると“すぐに帰ること”と夫から命じられたんです。“はい”と返事をしながら、やっぱりこれはおかしいのではと」

 さらにタクシーで麻由美さんを送ってくれた女友達が、インターホン越しに夫に謝罪しているのを見て恥ずかしくなったという。

「もう限界」

 会社に注いでいた愛情よりも、夫と離れたい気持ちが上回った瞬間だった。コロナ禍でヨガやセミナーなどのオンラインで、さまざまな人たちと交流を持てたことも離婚を前向きにさせてくれたという。

「今はまだ仮面夫婦のままですが、50歳を機に自立のための準備をしています」

 モラハラ夫と別れて、自立すると決めたら未来が明るく見えるのはいつの時代も同じだ。

 離婚のチャンスを逃してきたのではなく、機が熟したといえるだろう。

職場の従業員らと浮気する夫
反発した妻は「まず経済力。そして離婚」

理恵さん(仮名・39歳)

 パート社員で、中学2年生と小学4年生の2人の子どもの母親の理恵さん(仮名・39歳)は、3年前から離婚を考えている。大手機器メーカーの課長兼工場長の夫(44歳)の浮気が原因だ。

「1人ではなく複数でした。相手は夫が働いている工場の従業員の女性たち。夫の帰宅が遅いことが続いたり、休日出勤が多くなったので、おかしいと思ってスマホを覗くと、女性たちとのラインのやりとりにショックを受けました」

 理恵さんは夫の、人としての下品さに嫌気がさした。触られるのも嫌になったという。

「離婚を視野に入れた話し合いをするつもりでした。でも私はパート社員なので、離婚すると経済的にきつくなります。慰謝料をはじめとして、養育費もできるだけ多く出させようとしました」

 夫の年収は1000万円に近い。子ども2人の養育費を月額最低20万円以上もらい、高校や大学進学のときには教育費を別途上乗せしてもらうつもりだった。

「ところがコロナ禍で工場が縮小してしまい、夫の収入が減少しました。しかも浮気相手の従業員たちが次々と故郷に帰ってしまったんです」

 離婚のタイミングを逃してしまったと嘆く理恵さん。さらに追い打ちをかけるように一昨年はリモート勤務で夫が自宅にいることが多く、うっとうしくなった。

「ひとつ屋根の下に一緒にいるのも嫌になったので、理由を見つけて子どもとともに近くの実家に帰りました。実家にいる間中、このままではいけない、何とかしなくてはと焦って、副業のオンラインセミナーに参加するなど、離婚後の生活のことを模索しています」

 さらに気がかりなのは、義母が孫たちを可愛がっていること。離婚となると猛反対は当たり前、ひょっとしたら理恵さんの収入が少ないことを理由に親権を夫に取られるのではと危惧しているうちに、去年の秋に夫のリモートも終わった。今は元の家に戻っている。

「離婚は必ずしたいです。でも夫の会社の今後の業績が読めないので、養育費もあまり取れないかもしれません。子どもたちは夫婦仲が悪いと気づいています。しばらくは仮面夫婦で過ごすつもりです」

 コロナ禍により経済的な先行きが不透明になった。その懸念から、離婚を踏みとどまって仮面夫婦を続けるケースも、一定数存在しているのだ。

取材・文/夏目かをる 取材協力/澁川良幸