07年、映画『昼顔』舞台挨拶に登壇した上戸彩と斎藤工

 テレビドラマのジャンルの中でも高い人気を誇る不倫ドラマ。最近も篠原涼子と岩田剛典が演じたネットフリックス『金魚妻』が話題になったばかり。夫からDVを受けているタワマン主婦と下町の好青年カップルの禁断の恋を中心に描き、人気ランキングで世界トップ10入りも果たした。地上波でも、夫の浮気相手の息子との恋を描いた『シジュウカラ』(テレビ東京系)が放送され話題に。

 物語の中で描かれる不貞行為は世間では批判される反面、禁断の関係は、いつの時代も世間の興味を惹きつける魅力を持つ。

 そこで、20歳以上の女性1000人を対象に「あなたがハマった不倫ドラマ」をアンケート。はたしてみんなはどの不倫ドラマにハマってしまったのか、気になるランキングは? 

『金妻』の圧倒的リアル感

 年代により選ばれる作品は変わるが、全体で1位をとり、特に50〜60代から圧倒的に支持されたのは、‘83年放送の『金妻』こと『金曜日の妻たちへ』(TBS系)。

『金曜日の妻たちへ』(BSチャンネルWebサイトより)

 東京郊外のニュータウンを舞台に、古谷一行といしだあゆみが演じる中原夫妻を軸として、村越夫妻(竜雷太・小川知子)、田村夫妻(泉谷しげる・佐藤友美)の3組の夫婦が不倫によって家族の絆も、仲の良かったお互いの家族同士の関係もバラバラに崩壊していく様子を描いた。人気を集めた本作はシリーズ化され、‘85年に放送されたパート3ではシリーズ最高視聴率23.8%を記録した。

「友達の旦那という狭い環境での不倫にドキドキした」(42歳・大阪府)

「近所の住人同士の不倫と言うのがショッキングだった」(59歳・京都府)

「当時の住宅事情や家族、友人の関係が身近に感じられた」(66歳・千葉県)

 ドラマ解説者の木村隆志さんは「“不倫もの”が市民権を得ていく過程の1作目」と評した上で、ヒットのきっかけをこう分析する。

『金妻』は当時、圧倒的なリアル感を持った作品でした。“自分にも起こるかもしれない”と思わせるドキドキ感で展開を期待させた。大きなインパクトがあったので印象に残っている人が少なくないのでしょう

 続いて2位は‘97年の『失楽園』(日本テレビ系)。

ドラマ版『失楽園』で共演した川島なお美と古谷一行

 禁断の恋に溺れていく様子を古谷一行と川島なお美が情熱的に演じた。主人公・久木(古谷)と凜子(川島)が京都で初めて結ばれてから、日光での密通、鎌倉での情事、密かに都内にマンションを借りての同棲生活、お互いの家族に絶縁されての離婚、不倫が会社にバレた末の退職……などなど、これでもかというほどのドロドロぶりに視聴者はテレビに釘付け。

「死ぬほど愛してるという驚き」(46歳・北海道)

「不倫という言葉を考えさせられた」(58歳・岐阜県)

「際どい場面が多く印象に残った」(62歳・北海道)

 第4話で通夜の後、川島が「今日は許して……」と抵抗しながらも喪服姿で逢引をする場面など、地上波でありながらハードな濡れ場が多く話題に。日本テレビの月曜22時台のドラマとしては唯一平均視聴率20%を越えた作品で、心中で終わるというショッキングな最終回は、視聴率27.3%を記録した。

 タイトルが「不倫」の代名詞にもなったことで、記憶に残っている人も多い。ちなみに石田純一が「不倫は文化」発言をしたのもこのころ。

この作品は“男のロマン”的な要素がかなり入っています。『金妻』は女性の心情を丁寧に描いている面も多いのですが、『失楽園』は“都合のいい女性と晩年に恋愛をしてみたい”という男性の願望が強く描かれた作品です。それが女性のみのアンケートで上位に入るということは、世間の衝撃は大きかったと言えます。ドラマもですが、役所広司さんと黒木瞳さんが演じた映画の印象が強い人も多い。小説、映画、ドラマと長期間注目され続けた作品です」(木村さん)

上戸彩が不倫をするという衝撃

 3位の『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)は20代から60代まで全世代にわたって評価された‘14年に放送の作品。その年の流行語に「昼顔」がノミネートされるなど、社会現象を巻き起こした。

「映像美と悲しさが印象に残った」(26歳・東京都)

「一般人に近い感じの主人公に親近感が湧いた」(37歳・千葉県)

「不倫ながら、純愛を感じさせたのが印象的だった」(43歳・神奈川県)

 スーパーのレジ打ちをするどこにでもいるような主婦・紗和(上戸彩)が知り合いの人妻・利佳子(吉瀬美智子)の不倫のアリバイ作りの協力を頼まれることから始まり、日常のささいな事件をきっかけに出会った男性と自分も不倫を始めてしまう……という、2人の出会いから結ばれるまでを丁寧に描くことで“自分にもあり得そう”と思わせるリアルさが視聴者に響いた。

上戸彩

「上戸彩が不倫だなんて斬新!」(52歳・大阪府)

 と主演の上戸のキャスティングをあげる人も。濡れ場は多くなかったが、上戸彩から不倫相手となる高校教師(斎藤工)に雨の中、キスを迫るシーンや、第5話で初めて結ばれるシーンに“あの上戸彩がここまでやるのか……”という衝撃を受け、強く印象に残っている人も少なくないだろう。同作品は映画化もされ、濡れ場にさらに濃厚さが増したことも話題になった。

不倫とイメージが遠く、国民的美少女として10代からみんなテレビで見てきた女優が不倫ドラマをやるという話題性は大きかった」(木村さん)

 紗和が利佳子の《本当の恋愛なんて結婚してからじゃなきゃできないわ》《ご主人にあなたはまだときめける?》などの言葉に影響され、だんだんと不倫相手に惹かれていくさまも、

「不倫は肯定できないが肯定したくなる」(愛媛県・45歳)

「上戸彩の気持ちがわかる」(42歳・静岡県)

 と視聴者から共感を得た。

 20〜30代から高い評価を受け4位にランクインしたのは、‘18年放送の『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)。

『ホリデイラブ』(テレ朝動画Webサイトより)

 不倫をする側ではなく、不倫をされた妻、「サレ妻」を主人公にしたことで注目された作品。

「浮気を考える発端になった」(28歳・神奈川県)

「登場人物にインパクトがあった」(31歳・徳島県)

「狂気が凄かった」(30歳・石川県)

『ホリデイラブ』は今までのいわゆる“ザ・不倫もの”のドラマとは作り方が違うと木村さん。

「深夜ドラマ枠だったので、21時、22時台の作品よりも、表現が過激になりました」  

 かつて放送されていた“昼ドラ”をほうふつとさせるという。

この前後で、昼ドラで放送されていた『牡丹と薔薇』(フジテレビ系)のようなドロドロ作品が深夜枠に増えていきます。『週刊女性』の読者は昼ドラを見ていた方も多いと思いますが、そのDNAを受け継いだ作品がランクインするのは納得ですね」(木村さん)

 仲里依紗と塚本高史が演じる杏寿と純平夫婦の関係を崩壊させるため、純平の浮気相手の人妻(松本まりか)がとる行動が狂気的だ。“(杏寿は)ゲス不倫をしている”と杏寿の営むネイルサロンの顧客へメールを送って営業妨害したり、バーテンダー(山田裕貴)に杏寿を誘惑するよう命令したり、その密会写真を純平にわざと見せたり……と毎回のように恐ろしい行動をしまくる。

「浮気相手の執拗な行動と演技が印象的だった」(54歳・東京都)

「浮気相手の勘違い女が怖かった」(37歳・広島県)

 と強烈なインパクトを残した。

水野美紀の「ここにいるよ〜」

 5位の『奪い愛、冬』も役者の演技が話題になった作品のひとつだ。

『奪い愛、冬』(テレ朝動画Webサイトより)

 婚約している光(倉科カナ)と康太(三浦翔平)カップルの前に光の元彼・信(大谷亮平)が現れ、心が揺らぎ始める光だったが、信にはすでに、妻・蘭(水野美紀)がいて……。とあらすじだけでもドロドロの展開が予想できる本作。

 夫の不倫現場で「ここにいるよ~」とクローゼットから出てくる水野のホラー作品ばりの怪演や、康太の母(榊原郁恵)が息子可愛さに光に浴びせる嫌がらせなど、各話ごとに繰り広げられる登場人物たちの狂気に、

「女優さんの演技力が半端じゃなくて、見入った」(28歳・鹿児島県)

「演技がオーバーで面白かった」(31歳・神奈川県)

「行動やセリフがもはやコント並み」(38歳・東京都)

「ぶっ飛んでて笑えた」(43歳・東京都)

 などと、およそ不倫ドラマの感想とは思えないコメントも。しかし、まさにそこに秘密があると木村さん。

脚本はバラエティの構成作家が本業の鈴木おさむさん。80年代に『大映ドラマ』と呼ばれた作品の独特な演出や、昼ドラの過剰なセリフを参考にしながら、独自の世界観を作り上げたんです。特に『奪い愛』は笑える方向に舵を切っていました

 登場する役者と、演技・セリフのアンバランスさも面白さを加速させた。

俳優さんからすると“本当に言うんですか?”というぐらい、オーバーで過激なセリフや表現が多かった。主演の三浦翔平さんで遊んでるのかと思うほど。しかも、視聴者も三浦くんに“何をやらせるんだ”“何を言わせるんだ”と楽しみにしている。SNSでバズらせるということを意識して作品を展開していましたね」(木村さん)

 不倫ドラマも昭和から平成、令和にかけてトレンドが変化してきているようだ。

「どちらかと言えば視聴者が求めていることが変わってきた。どういう体験をドラマを通じて感じたいか。

『金妻』や『失楽園』、『昼顔』のような、ストーリーや人物の境遇を“自分に重ねて見る”ということがなくなり、『ホリデイラブ』や『奪い愛』のように純粋にエンタメとして消費している。面白ければ内容がリアルかどうかはどうでもいい、という変化もあったのでは」(木村さん)

 拒否を示されやすい不倫ドラマだが、今後も変わらず作られ続けていくという。

受け入れられ方は変わっていっても、途絶えることはないでしょう。定期的に話題に挙がるということは、一定のニーズが常にあるということ。今は憧れやドキドキ感よりも、面白かった内容をSNSで個人が気軽に情報発信したり、不倫した人を成敗したい、懲罰感情を満たしたい、というニーズに沿って作られる作品が多い印象ですね」(木村さん)

7位の『ギルティ〜この恋は罪ですか?〜』(日本テレビ系)で小池徹平が演じた不倫しても平然と嘘をつく夫や、8位『偽装不倫』(日本テレビ系)で谷原章介の演じた、視聴者に“妻が不倫しても仕方ない”と思わせるモラハラ夫のように、非難されて当然と言えるようなキャラを登場させるのは定番に。

「漫画の世界でも不倫もののニーズは非常に高い。WEBマンガを中心に、ドラマの原作となり得る漫画がすごく多いんです。小説なども含めそういった作品は世の中にゴロゴロしています。それらがドラマ化される、という流れはますます活発になっていくでしょう」(木村さん)

 定期的にブームが訪れる不倫ドラマ。道ならぬ恋、現実では許されない背徳的な恋に憧れる女性たちをこれかも魅了していくだろう。

不倫をテーマに特集を組み紹介する電子書籍サイトも(ebookjapanのWebサイトより)