杉田雷麟 撮影/山田智絵

「杉田雷麟(すぎたらいる)」は芸名ではなく本名。初見で読める人はいない。

「学校の先生も最初は読めませんでした。名前を聞かれて“すぎたらいる”と言っても“?”という反応でした。

 親からは“雷のように厳しく育つように、麟は漢字が難しいから頭がよくなるように”。あと名字と名前に(語感や表記の)ギャップがあって印象が強いからつけたと聞かされました。

 テストのときは(画数が多くて)ちょっと面倒くさかったし、習字は名前がふたつの黒い丸になってしまいました。でもいい名前だと思っています。メンタルが強いのは厳しく育てられたからかなと思うけど、頭はそんなによくならなかったです」

 幼少期からボールを蹴り、中学生まではサッカー選手を目指していた。

「高校進学のときに自分のレベルでサッカーを続けていけるのか考えて、役者なら、警察官やほかにもなりたいものになれると思って14歳のとき今の事務所のオーディションを受けました」

 2017年から芸能活動を始め、翌年スペシャルドラマ『Aではない君と』で殺人容疑者の少年役で注目される。映画『半世界』では主演の稲垣吾郎の息子役を演じてヨコハマ映画祭最優秀新人賞、高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。NHK連続テレビ小説『エール』や映画『罪の声』『孤狼の血LEVEL2』など話題作に出演し、4月22日公開の初主演映画『山歌(サンカ)』を含めて多くの役をオーディションでつかんだ。

「主演と聞いたときは不安もあったし、頑張らなくちゃと力んでいました。でも本読みやリハーサルを繰り返して則夫という役をつかめてきたときに主演の重荷が下りて、意識せずにいつもどおりに自分がやれることをやるだけと思えるようになりました」

悔しい思い含めて芝居は楽しい

 主人公の則夫は、受験勉強のために都会から山奥の田舎にやってくる。そこで山で生きる流浪の民、山窩(サンカ)と出会い、ある事件が起きる。

杉田雷麟 撮影/山田智絵

  '19年夏に群馬県中之条町の山中で撮影したが、雨に見舞われることが多かった。

「1日1回は雨が降っていました。川が増水してセットが壊れたり、車のタイヤがパンクしたり、溝にハマったりしました。

 気づかないうちにヒルに足の血を吸われていて血だらけになったりもして大変でした。でも巨木の生命力にパワーをもらえて、映画ポスターの“共に、生きろ。”というキャッチコピーを実感できる撮影現場でした」

 役者の世界に入って5年だが、発見や楽しさは?

「思っていたのと違ったのはカメラの後ろに大勢の人がいたこと。テレビや映画を見ていたときには3人くらいで撮っているのかと思っていました。いまは(作品が)大勢のスタッフや関係者に支えられて作り上げられているのがわかって感謝しています。

 難しかったのは感情を表に出すこと。初仕事のCM撮影のときに紙で指を切って“痛っ”というだけのセリフが、いろんな人に見られていることで気恥ずかしくて言えなかったことをいまでも覚えています。何度もテイク(撮り直し)を重ねて乗り越えるしかありませんでした。

 その後もいろんな作品でそういう悔しい思いをしたことがあったけど、そういったことも含めて(芝居は)楽しいです。いまでも緊張はするけど自分の殻を破って振り切って演じるしかないなと思います」

役者は死ぬまで、いずれは監督も

 目指す俳優像には亡き大杉漣さん(享年67)の言葉が影響している。

「映画『教誨師』( '18年公開)に主演した大杉漣さんと試写会でお会いして“またやろうな”と声をかけてくれて握手をしてくれました。でも、その半年後に亡くなられて。

 新聞の訃報記事に大杉さんの“脇でも主役でもどっちでも大丈夫って気概がないといけない。そのなかでどうやって『大杉漣』ってものを残すかが大事”という言葉を読んで考え方がガラリと変わりました。

 中学生の僕は当時、大きな役をやりたいという思いが強かったけど、その記事を読んでからは大小問わずにどんな役でも印象に残る役者になりたいと思うようになりました。

 大杉さんの記事はいつも持ち歩いて、僕の原点でバイブルです。(『教誨師』で)共演シーンがなかったのが残念です。

 役者は死ぬまでできる仕事。いずれは監督もやってみたいです。監督をしながら演者もやりたい。この世界にはずっとい続けたいです」

 印象的な目力が一層際立った。

ガンダムと準備期間

 親の影響でガンダムと洋画好きに。

「子どものころから大好きなガンダムの世界観を、鉄道模型のNゲージに取り入れてジオラマを作るのが夢です。『グリーンマイル』や『羊たちの沈黙』が好きでレクター博士みたいな役を演じてみたいです」

 12月に20歳になる。

「大きな節目だと思っていて、いろいろな役を幅広く演じられるようになると思う。ひとり暮らしも考えていて、19歳はいろんなことの準備期間になると思っています」

『山歌(サンカ)』

 高度成長期の昭和40年。受験勉強のため東京から祖母の家がある山奥の田舎にやってきた則夫は、一方的な価値観を押し付けられ生きづらさを抱えていた。そんなとき既成概念にとらわれず自然と共生する流浪の民サンカの家族と出会い魅せられていく。
/杉田雷麟、小向なる、渋川清彦ほか出演/4月22日(金)よりテアトル新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開/(c)六字映画機構

『山歌(サンカ)』(c)六字映画機構